2016/08/26(金) - 03:26
急峻な渓谷「リベイラサクラ」を駆ける難易度の高いアップダウンコースで、ツールでヤングライダー賞に輝いたアダムの双子の兄弟サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)がアタック。残り3kmを独走したイェーツがグランツール初勝利を飾った。
ブエルタ第6ステージに登場するカテゴリー山岳は一つだけ。しかし163.2kmのコースは起伏に富んでいる。特に後半は2級山岳アレンサ峠(10.9km/平均5.1%)を含むアップダウンの繰り返しで、残り45kmからフィニッシュまではシル川に沿った急峻な渓谷「リベイラサクラ(ワインの産地として知られる)」の細くて曲がりくねった田舎道が続く。
夜にかけて降り続いた雷や雹を伴う雨は上がり、晴れ渡ったモンフォルテ・デ・レモスを190名がスタート(前日に落車したキセロフスキーとミナールがDNS)。幹線道路に入って正式なスタートが切られるとすぐにアタック合戦が始まった。
決してスプリンター向きではない中級山岳コースで、新城幸也(ランプレ・メリダ)や別府史之(トレック・セガフレード)も加わるアタック合戦は熾烈を極めた。登りを含むコースにもかかわらず、平均48.6km/hというハイスピードで最初の1時間を駆け抜けたプロトン。11名が先行を開始した一方で、第3ステージの落車で歯を2本折ったツール・ド・スイスの総合優勝者ミゲルアンヘル・ロペスモレーノ(コロンビア、アスタナ)は再度落車し、リタイアを決めた。
ようやく決まった11名の逃げグループの中で、ダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング)のマイヨロホを脅かしたのは総合で2分51秒遅れのホセ・メンデス(ポルトガル、ボーラ・アルゴン18)の存在。そのためBMCレーシングはメイン集団を率い、逃げグループとのタイム差を2分台に抑え込む。
ワインのブドウ畑に覆われた崖を抜け、2級山岳アレンサ峠に差し掛かったところでメイン集団ではオリカ・バイクエクスチェンジがペースアップを開始。すぐに1分のリードを失った逃げグループからは、2015年の山岳賞受賞者オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)がアタックを仕掛けた。
2年連続山岳賞を狙うフライレはそのまま2級山岳アレンサ峠を登りきって6ポイントを獲得する。一旦ペースが緩んだメイン集団は続いてティンコフの支配下に。やがて「リベイラサクラ」の狭路区間に入るとモビスターがメイン集団のペースを上げ始めた。
砂利が浮いた凸凹のアップダウンを先頭でこなしたフライレは、アンドレイ・ゼイツ(カザフスタン、アスタナ)、ローラン・ディディエ(ルクセンブルク、トレック・セガフレード)、マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)、ヤン・バケランツ(ベルギー、AG2Rラモンディアール)の追走グループを1分、モビスターが率いるメイン集団を2分引き離して残り30km。
残り19km地点でフライレに追走グループが追いつくと間髪入れずにフランクがカウンターアタック。ゼイツとバケランツから30秒、メイン集団から1分先行した状態でフランクが残り10kmアーチをくぐった。
バルト・デクレルク(ベルギー、ロット・ソウダル)やフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)らがコーナーの犠牲になる中、先頭フランクを視界にとらえたメイン集団からは残り5km地点でダニエル・モレーノ(スペイン、モビスター)がアタックを仕掛ける。するとこの動きにイェーツがすかさず反応。モレーノを置き去りにしたイェーツが先頭フランクを追い抜き、残り3.5kmから独走を開始した。
牽制とアタックを繰り返す集団を一気に引き離し、20秒リードで登りを突き進んだイェーツ。タイミングよく飛び出した24歳がリードを維持したまま平坦路を駆け抜け、メイン集団からロングスパートを仕掛けて飛び出したルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)を20秒振り切って勝利した。
「今日はチームがハードな展開に持ち込んで、この勝利をお膳立てしてくれた。レースは後半はとにかくコーナーの連続でテクニカルだった。アタックのタイミングは完璧だったと思う」とイェーツは振り返る。
ツール・ド・フランスでマイヨブランを獲得したアダム・イェーツと双子の兄弟(チームスタッフも間違うほどうり二つ)のサイモン・イェーツ。イギリス期待の次世代オールラウンダーだが、今年のパリ〜ニース期間中に行われたドーピング検査でWADAの禁止薬物に指定されている喘息の治療薬テルブタリンの陽性が発覚した。UCIはTUE(治療目的使用に係る除外措置)の申請に不備があったというチーム側の主張を認め、「意図しないドーピング」としてイェーツに4ヶ月の出場停止処分(3月12〜7月11日)を与えている。
出場予定だったツールを欠場したイェーツは7月11日開幕のツール・ド・ポローニュで復帰。その後スペインのオルディシアコ・クラシカ(UCI1.1)で勝利し、クラシカ・サンセバスティアンで7位に入っていた。「(出場停止処分中は)厳しいトレーニングに打ち込んだ。こうしてレースに復帰して勝つことができて本当に嬉しい」とイェーツは語っている。
総合上位陣はトラブルなくテクニカルコースを乗り切り、総合7位のルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター)を除いて集団内でフィニッシュ。アタプマがマイヨロホを守り、ステージ優勝を飾ったイェーツが総合トップ10入りしている。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第6ステージ結果
1位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) 4h05’00”
2位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ) +20”
3位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード) +22”
4位 ベン・ヘルマンス(ベルギー、BMCレーシング)
5位 ケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)
6位 ダニエル・モレーノ(スペイン、モビスター)
7位 マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +29”
9位 ロメン・アルディ(フランス、コフィディス)
10位 サイモン・クラーク(オーストラリア、キャノンデール・ドラパック)
125位 別府史之(日本、トレック・セガフレード) +23’01”
147位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)
マイヨロホ(個人総合成績)
1位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング) 21h45’21”
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +28”
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +32”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) +38”
5位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)
6位 サムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング) +1’07”
7位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、チームスカイ) +1’12”
8位 ピーター・ケノー(イギリス、チームスカイ) +1’14”
9位 ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、エティックス・クイックステップ) +1’22”
10位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) +1’28”
マイヨプントス(ポイント賞)
1位 ジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ) 51pts
2位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード) 36pts
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 34pts
マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 アレクサンドル・ジェニエ(フランス、FDJ) 10pts
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル) 8pts
3位 オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ) 6pts
マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング) 21pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 26pts
3位 ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター) 53pts
チーム総合成績
1位 モビスター 64h16’35”
2位 BMCレーシング +53”
3位 キャノンデール・ドラパック +1’09”
敢闘賞
オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)
text&photo:Kei Tsuji in Ourense, Spain
ブエルタ第6ステージに登場するカテゴリー山岳は一つだけ。しかし163.2kmのコースは起伏に富んでいる。特に後半は2級山岳アレンサ峠(10.9km/平均5.1%)を含むアップダウンの繰り返しで、残り45kmからフィニッシュまではシル川に沿った急峻な渓谷「リベイラサクラ(ワインの産地として知られる)」の細くて曲がりくねった田舎道が続く。
夜にかけて降り続いた雷や雹を伴う雨は上がり、晴れ渡ったモンフォルテ・デ・レモスを190名がスタート(前日に落車したキセロフスキーとミナールがDNS)。幹線道路に入って正式なスタートが切られるとすぐにアタック合戦が始まった。
決してスプリンター向きではない中級山岳コースで、新城幸也(ランプレ・メリダ)や別府史之(トレック・セガフレード)も加わるアタック合戦は熾烈を極めた。登りを含むコースにもかかわらず、平均48.6km/hというハイスピードで最初の1時間を駆け抜けたプロトン。11名が先行を開始した一方で、第3ステージの落車で歯を2本折ったツール・ド・スイスの総合優勝者ミゲルアンヘル・ロペスモレーノ(コロンビア、アスタナ)は再度落車し、リタイアを決めた。
ようやく決まった11名の逃げグループの中で、ダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング)のマイヨロホを脅かしたのは総合で2分51秒遅れのホセ・メンデス(ポルトガル、ボーラ・アルゴン18)の存在。そのためBMCレーシングはメイン集団を率い、逃げグループとのタイム差を2分台に抑え込む。
ワインのブドウ畑に覆われた崖を抜け、2級山岳アレンサ峠に差し掛かったところでメイン集団ではオリカ・バイクエクスチェンジがペースアップを開始。すぐに1分のリードを失った逃げグループからは、2015年の山岳賞受賞者オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)がアタックを仕掛けた。
2年連続山岳賞を狙うフライレはそのまま2級山岳アレンサ峠を登りきって6ポイントを獲得する。一旦ペースが緩んだメイン集団は続いてティンコフの支配下に。やがて「リベイラサクラ」の狭路区間に入るとモビスターがメイン集団のペースを上げ始めた。
砂利が浮いた凸凹のアップダウンを先頭でこなしたフライレは、アンドレイ・ゼイツ(カザフスタン、アスタナ)、ローラン・ディディエ(ルクセンブルク、トレック・セガフレード)、マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)、ヤン・バケランツ(ベルギー、AG2Rラモンディアール)の追走グループを1分、モビスターが率いるメイン集団を2分引き離して残り30km。
残り19km地点でフライレに追走グループが追いつくと間髪入れずにフランクがカウンターアタック。ゼイツとバケランツから30秒、メイン集団から1分先行した状態でフランクが残り10kmアーチをくぐった。
バルト・デクレルク(ベルギー、ロット・ソウダル)やフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)らがコーナーの犠牲になる中、先頭フランクを視界にとらえたメイン集団からは残り5km地点でダニエル・モレーノ(スペイン、モビスター)がアタックを仕掛ける。するとこの動きにイェーツがすかさず反応。モレーノを置き去りにしたイェーツが先頭フランクを追い抜き、残り3.5kmから独走を開始した。
牽制とアタックを繰り返す集団を一気に引き離し、20秒リードで登りを突き進んだイェーツ。タイミングよく飛び出した24歳がリードを維持したまま平坦路を駆け抜け、メイン集団からロングスパートを仕掛けて飛び出したルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)を20秒振り切って勝利した。
「今日はチームがハードな展開に持ち込んで、この勝利をお膳立てしてくれた。レースは後半はとにかくコーナーの連続でテクニカルだった。アタックのタイミングは完璧だったと思う」とイェーツは振り返る。
ツール・ド・フランスでマイヨブランを獲得したアダム・イェーツと双子の兄弟(チームスタッフも間違うほどうり二つ)のサイモン・イェーツ。イギリス期待の次世代オールラウンダーだが、今年のパリ〜ニース期間中に行われたドーピング検査でWADAの禁止薬物に指定されている喘息の治療薬テルブタリンの陽性が発覚した。UCIはTUE(治療目的使用に係る除外措置)の申請に不備があったというチーム側の主張を認め、「意図しないドーピング」としてイェーツに4ヶ月の出場停止処分(3月12〜7月11日)を与えている。
出場予定だったツールを欠場したイェーツは7月11日開幕のツール・ド・ポローニュで復帰。その後スペインのオルディシアコ・クラシカ(UCI1.1)で勝利し、クラシカ・サンセバスティアンで7位に入っていた。「(出場停止処分中は)厳しいトレーニングに打ち込んだ。こうしてレースに復帰して勝つことができて本当に嬉しい」とイェーツは語っている。
総合上位陣はトラブルなくテクニカルコースを乗り切り、総合7位のルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター)を除いて集団内でフィニッシュ。アタプマがマイヨロホを守り、ステージ優勝を飾ったイェーツが総合トップ10入りしている。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第6ステージ結果
1位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) 4h05’00”
2位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ) +20”
3位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード) +22”
4位 ベン・ヘルマンス(ベルギー、BMCレーシング)
5位 ケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)
6位 ダニエル・モレーノ(スペイン、モビスター)
7位 マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +29”
9位 ロメン・アルディ(フランス、コフィディス)
10位 サイモン・クラーク(オーストラリア、キャノンデール・ドラパック)
125位 別府史之(日本、トレック・セガフレード) +23’01”
147位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)
マイヨロホ(個人総合成績)
1位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング) 21h45’21”
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) +28”
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +32”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) +38”
5位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)
6位 サムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング) +1’07”
7位 レオポルド・ケーニッヒ(チェコ、チームスカイ) +1’12”
8位 ピーター・ケノー(イギリス、チームスカイ) +1’14”
9位 ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、エティックス・クイックステップ) +1’22”
10位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) +1’28”
マイヨプントス(ポイント賞)
1位 ジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ) 51pts
2位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード) 36pts
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 34pts
マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 アレクサンドル・ジェニエ(フランス、FDJ) 10pts
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル) 8pts
3位 オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ) 6pts
マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング) 21pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) 26pts
3位 ルーベン・フェルナンデス(スペイン、モビスター) 53pts
チーム総合成績
1位 モビスター 64h16’35”
2位 BMCレーシング +53”
3位 キャノンデール・ドラパック +1’09”
敢闘賞
オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)
text&photo:Kei Tsuji in Ourense, Spain
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