2016/07/11(月) - 21:27
スペインはビエルハに滞在したツールの一行はスペインの峠道を経て一路アンドラ公国へ。ブエルタ風の味付けがされた第9ステージは酷暑から一点、雨とヒョウの降る寒さに転じる荒れた一日となった。
お揃いのジャージでコースを走り峠へと向かうサイクリストたち photo:Makoto.AYANO
カタルーニャ地方はスペインでも自転車競技の盛んな地域。昨夜のスペインのTV放送は少し離れたナバーラ州の州都パンプローナで開催されているサン・フェルミン祭の様子を伝えていた。祭りは14日まで続き、エンシエロ(牛追い)が有名で「牛追い祭り」の異名がある。ツールで追いかけるべきは黄色いジャージをまとった「サイ」ことフルームだ。
連なる険しい山と丘陵地帯。石灰質のゴツゴツとした岩肌、乾いた土地と深い緑のコントラスト。アンドラへと抜ける国際ルートはレースコースの一本のみという道を使ったステージだ。チームバスや関係車両はキャラバン隊よりも早く出発し、先にアンドラへと向かう。
ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)を含む20名の逃げ集団のリードは最大10分30秒まで広がった photo:Makoto.AYANO
ツールを描いた絵で応援するお嬢さん photo:Makoto.AYANO
ペンキで応援メッセージを書いてプロトンの到着を待ちます photo:Makoto.AYANO
手作りのバナーでツールの通過を応援する観客たち photo:Makoto.AYANO直線的に延々と続く幹線道路にはツールと思えないほどに観客が少なかった。しかしブエルタ・ア・エスパーニャやボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで自転車レースにはお馴染みの土地。自転車に乗ってコースを走り、目的の峠へと向かうサイクリストたち。沿道にはツールを歓迎するメッセージや絵で応援する人達の姿も。
フランスよりずいぶん陽気なお国柄。Endavant(いってみよう)! の声とともに走りだしたプロトンから、逃げ切りでステージ優勝を狙う者たちに混じって、山岳賞候補が3人、マイヨヴェール候補がひとり、そしてまさかのビッグネーム2人が飛び出した。アルベルト・コンタドール(ティンコフ)にアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)。
スペイン入りしてすぐのスパニッシュスター2人による共同戦線。しかし起死回生のアタックに思えたコンタドールの攻撃は、戦略的な攻撃というよりは無鉄砲なものだった。やがて乗った逃げ集団のペースにコンタドール自身が苦しみ、そしてメイン集団に下がるという結末に。そしてバルベルデもコンタドールが攻撃をやめたことで自らもメイン集団に戻った。そしてアンドラ・アルカリスまで90kmを残し、コンタドールがバイクを降りた。この日の朝、スタート前にコンタドールはバルベルデに熱があり苦しんでいることを打ち明けていたという。
しばし相談してからチームカーに乗り込み、TVカメラに向けてバイバイと手を振ったコンタドール。7つのグランツールを制覇(+2つの成績剥奪)した経験を持つ偉大なチャンピオンの、自身2度めのグランツール途中離脱だ。2014年は脚の骨折。今回は第1ステージの落車の影響での不調。前回よりも怪我の影響は深刻では無いが、連日遅れを喫し、勝つことを諦めざる得なくなったツールに早めに見切りをつけた。シーズン内の次の目標への仕切り直しだ。
リタイアを選択したアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) photo:bettini
フルームもレース後、コンタドールの離脱を惜しむコメントを出した。「アルベルトのリタイアには驚いた。アタックしていたし、決して調子が悪いわけではないと思っていた。でも怪我の影響が残っていたのだと思う。彼がレースを去ったことは残念でならない。彼がいればもっとエキサイティングなツールになっていたと思う。大会にとっても残念だけど、すでに彼は次なる目標に向かっていると思う。心配事がひとつ減ったものの、やはりリタイアは残念だ」。
コンタドールの今後のレーススケジュールは、リオ五輪ロードへのスペイン代表としての出場、そしてもちろんブエルタでのカムバックが予想される。また、翌日の休息日に来季に移籍するチームと契約書にサインするという話が出回っている。噂ではトレック・セガフレード。もちろん8月の解禁日まで発表は無いはずだが、今季限りの引退説は撤回して、あるチームと2年契約を結ぶことは本人も認めている。
手作りのバナーでツールの通過を応援する観客たち photo:Makoto.AYANO
フランス/アンドラ王国の国境を越える photo:Makoto.AYANOボネギュア峠の下りではペーター・サガン(ティンコフ)がアタックし、逃げ集団に追いつく。もうひとつの1級山岳を越え、138km地点の中間ポイント賞を取ることが目的。脚質的に遅れるはずのマーク・カヴェンデュッシュ(ディメンションデータ)に対し、ポイント差を詰めることができるチャンス。コンタドールを失ったティンコフにとっても、次の目標としてサガンのマイヨヴェールは外せないものになる。
国境を越えホアキン・ロドリゲスやダニエル・マーティンが住むアンドラ公国への道は、道路沿いに免税店や大型ショッピングセンターが並ぶ不思議な光景が続く。フランスやスペインからの買い物客が足を止めてツールの通過を見守る。都会的でリッチな匂いのする市街をかすめ、再びコースは山岳地帯へ。
バルベルデがメイン集団に戻ったことで逃げ切りを許された逃げ集団と、フルームらが先頭を固めるメイン集団のふたつのレースが同時進行する。逃げ集団からは独走に持ち込みたいトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)がアタックを成功させた。
いったん標高1297mまで下ってからの約20kmの登り。アンドラ公国のアルカリス・スキーリゾートはフィニッシュ地点としては今大会最も標高が高い2,240m。ツール史上でも3番めに数えられる標高の厳しさだ。登坂距離の長さと標高の高さからくる空気の希薄さが選手を苦しめる。それにまして条件を厳しくしたのは天候の急変だった。
40℃に近い気温を記録した酷暑の夏日から、アンドラ・アルカリスは選手たちを迎える頃になると徐々に雨の気配が漂ってきた。山岳の奥から湧いたように広がる薄黒い雲。標高の高さを感じさせない暑さと山岳美の広がるラスト数キロの登坂路に、ポツポツと、疎雨が落ちだす。それがやがて白い粒の雹となり、ドゥムランがラスト6kmに差し掛かるころには大粒の、滝のような本降りの雨に変わった。
アルカリスのつづら折れに詰めかけた観客たちもゴミ袋や看板、とにかく近くにあるもので身を護る。選手たちは前も見れないほどの状況だ。そして独走状態のドゥムランが近づくと濡れることを厭わず路上で絶叫した。
豪雨の中アンドラ・アルカリスを駆け上がるトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン) photo:Makoto.AYANO
アンドラ・アルカリスを駆け上がるルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)とラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:Makoto.AYANO
アンドラアルカリスに到達したマイヨジョーヌグループを大粒の雹と雨が襲う photo:Makoto.AYANO
TTスタイルでスピードを保ち、冷たい雨の中、薄手の半袖ジャージのまま登坂を続けたドゥムラン。タイミング的には登り坂にかかっていたため適度なクールダウンになったようだ。「山頂フィニッシュだったので雨が降っても問題なかった。ただ苦しみに耐えながら走るモードに入り、自分の走りに集中していたので天候は気にならなかった」(ドゥムラン)。
オランダ人としては2014年にパヴェの第4ステージで勝利したラルス・ボームに続く勝利。冬場のマヨルカ島での自動車事故による痛手によって勝利から遠ざかっていたジャイアント・アルペシンへのこのうえないプレゼントになった。
ドゥムランは言う。「夢が叶った。ツールのクイーンステージで優勝したんだ。今日はスタート直後から調子が良く、逃げに乗るチャンスがあったから迷わず行った。今は疲れ切って言葉が出てこない。信じられないような1日だった。自分の持ち味がタイムトライアルだけじゃないことを証明できたよ。ツール1週目は思うような走りができていなかった。でもチームは自分の士気を高めてくれた。ツールで最も厳しいステージの一つで優勝したんだ。自分を誇りに思うし、同時にチームにとっても素晴らしい結果になった」。
ドゥムランは、2015年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝を2つ挙げ、マイヨロホを6日間着た。今年のジロ・デ・イタリアでもステージ優勝を挙げ、マリアローザを6日間着用。そしてこのツールでステージ初優勝を飾った。ドゥムランはブエルタ、ジロ、そしてツールの3つ連続するグランツールでステージ優勝を飾った初の選手として記録に名前を残すことになった。ただし今回はブエルタ、ジロと違いマイヨジョーヌはついてこなかった。
ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)がクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)らをリードして登る photo:Makoto.AYANO
ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ) が脱落したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) とともにアンドラアルカリスを登る photo:Makoto.AYANO
27位でアンドラ・アルカリスを登ってきたファビオ・アル(イタリア、アスタナ) photo:Makoto.AYANO
アンドラ・アルカリスを登るペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) photo:Makoto.AYANO
ドゥムランはマイヨジョーヌを着ることを急いでいない。「今ツールには総合争いに来たわけじゃない。僕がフルームやキンタナと同等に闘えるレベルになるにはステップをいくつか踏む必要がある。もちろん将来的には総合トップ10を争えるような選手になりたい」と話す。グランツールを制する日は近いと期待されるが、今年はリオ五輪の個人タイムトライアルでの金メダル獲得を目標にしている。そのためにツールで力を使い過ぎないことも考えてレーススケジュールを組んでいる。
マイヨ・ジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)をナイロ・キンタナ(モビスター)がピッタリとマーク photo:Makoto.AYANO
マイヨジョーヌグループで続いたラスト6kmを切ってのチームスカイとフルームの攻撃により、多くの有力選手が振り落とされた。バルベルデ、ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)、ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)、ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)、ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)が脱落。しかしフルームとナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)のテール・トゥ・ノーズの膠着状態は、最後まで崩壊しなかった。キンタナは攻撃を仕掛けなかった。
マイヨヴェールのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)を含むグルペット photo:Makoto.AYANO
危なげなくマイヨジョーヌを守ったクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto.AYANOフルームは振り返る「今日はキンタナが自分の後ろで力を貯めて飛び出すタイミングを伺っているんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたよ。結果的に彼はアタックしなかった。おそらく彼もリミットぎりぎりだったのだと思う。今日の彼は接着剤で取り付けたように自分の後輪にくっついていた」。
フィニッシュ地点への最終盤について、フルーム集団で闘ったダニエル・マーティン曰く「アンドラ・アルカリスのラストは向かい風がきつく、思いきった動きはできなかった」。
この2年を例に見ると、第3週に向けて調子を上げるキンタナ。今日はキンタナのアシストに徹し、アタックに出たバルベルデは言う。「フルームが無敵かって? 僕から見ればナイロだって無敵だよ。ツールはまだ長く、アタックするにはタイミングを見極める必要がある。それがいつかは誰にも分からない」。
逃げたドゥムランらとマイヨジョーヌグループにとっては、クールダウンになる雨と雹だった。しかしより長い時間さらされたメイン集団およびグルペット集団にとっては、オーバーヒート気味に過ごした一日の締めくくりに体温をすっかり奪ってしまう厳しいものになったようだ。
豪雨のなか傘をさして走るヤルリンソン・パンタノ(コロンビア) photo:Makoto.AYANO
降り続く冷たい雨のなか、おそらくは観客から差し出された傘をさしてラスト2kmを走ったのはヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)。そのユニークな姿に沿道の観客たちの笑いを誘った。審判次第では危険行為としてペナルティー対象になる行いだが、片手に傘を刺したままのユニークな姿でフィニッシュまで走ったパンタノにお咎めは無し。すぐ後ろには、雨に凍えながらもその姿をいたずらっぽく笑う新城幸也(ランプレ・メリダ)が居た。
この日のフィニッシュエリアでは雨にもかかわらずUCIによりメカニカルドーピング対策のX線チェックが本格的に行われていた。検査に忙しいUCIコミッセールたちには、パンタノの傘はパフォーマンスを増す機材としては認識されなかったようだ。
photo&text:Makoto.AYANO in Andorra
photo:Kei.TSUJI, TimDeWaele
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連なる険しい山と丘陵地帯。石灰質のゴツゴツとした岩肌、乾いた土地と深い緑のコントラスト。アンドラへと抜ける国際ルートはレースコースの一本のみという道を使ったステージだ。チームバスや関係車両はキャラバン隊よりも早く出発し、先にアンドラへと向かう。
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スペイン入りしてすぐのスパニッシュスター2人による共同戦線。しかし起死回生のアタックに思えたコンタドールの攻撃は、戦略的な攻撃というよりは無鉄砲なものだった。やがて乗った逃げ集団のペースにコンタドール自身が苦しみ、そしてメイン集団に下がるという結末に。そしてバルベルデもコンタドールが攻撃をやめたことで自らもメイン集団に戻った。そしてアンドラ・アルカリスまで90kmを残し、コンタドールがバイクを降りた。この日の朝、スタート前にコンタドールはバルベルデに熱があり苦しんでいることを打ち明けていたという。
しばし相談してからチームカーに乗り込み、TVカメラに向けてバイバイと手を振ったコンタドール。7つのグランツールを制覇(+2つの成績剥奪)した経験を持つ偉大なチャンピオンの、自身2度めのグランツール途中離脱だ。2014年は脚の骨折。今回は第1ステージの落車の影響での不調。前回よりも怪我の影響は深刻では無いが、連日遅れを喫し、勝つことを諦めざる得なくなったツールに早めに見切りをつけた。シーズン内の次の目標への仕切り直しだ。
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フルームもレース後、コンタドールの離脱を惜しむコメントを出した。「アルベルトのリタイアには驚いた。アタックしていたし、決して調子が悪いわけではないと思っていた。でも怪我の影響が残っていたのだと思う。彼がレースを去ったことは残念でならない。彼がいればもっとエキサイティングなツールになっていたと思う。大会にとっても残念だけど、すでに彼は次なる目標に向かっていると思う。心配事がひとつ減ったものの、やはりリタイアは残念だ」。
コンタドールの今後のレーススケジュールは、リオ五輪ロードへのスペイン代表としての出場、そしてもちろんブエルタでのカムバックが予想される。また、翌日の休息日に来季に移籍するチームと契約書にサインするという話が出回っている。噂ではトレック・セガフレード。もちろん8月の解禁日まで発表は無いはずだが、今季限りの引退説は撤回して、あるチームと2年契約を結ぶことは本人も認めている。
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バルベルデがメイン集団に戻ったことで逃げ切りを許された逃げ集団と、フルームらが先頭を固めるメイン集団のふたつのレースが同時進行する。逃げ集団からは独走に持ち込みたいトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)がアタックを成功させた。
いったん標高1297mまで下ってからの約20kmの登り。アンドラ公国のアルカリス・スキーリゾートはフィニッシュ地点としては今大会最も標高が高い2,240m。ツール史上でも3番めに数えられる標高の厳しさだ。登坂距離の長さと標高の高さからくる空気の希薄さが選手を苦しめる。それにまして条件を厳しくしたのは天候の急変だった。
40℃に近い気温を記録した酷暑の夏日から、アンドラ・アルカリスは選手たちを迎える頃になると徐々に雨の気配が漂ってきた。山岳の奥から湧いたように広がる薄黒い雲。標高の高さを感じさせない暑さと山岳美の広がるラスト数キロの登坂路に、ポツポツと、疎雨が落ちだす。それがやがて白い粒の雹となり、ドゥムランがラスト6kmに差し掛かるころには大粒の、滝のような本降りの雨に変わった。
アルカリスのつづら折れに詰めかけた観客たちもゴミ袋や看板、とにかく近くにあるもので身を護る。選手たちは前も見れないほどの状況だ。そして独走状態のドゥムランが近づくと濡れることを厭わず路上で絶叫した。
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オランダ人としては2014年にパヴェの第4ステージで勝利したラルス・ボームに続く勝利。冬場のマヨルカ島での自動車事故による痛手によって勝利から遠ざかっていたジャイアント・アルペシンへのこのうえないプレゼントになった。
ドゥムランは言う。「夢が叶った。ツールのクイーンステージで優勝したんだ。今日はスタート直後から調子が良く、逃げに乗るチャンスがあったから迷わず行った。今は疲れ切って言葉が出てこない。信じられないような1日だった。自分の持ち味がタイムトライアルだけじゃないことを証明できたよ。ツール1週目は思うような走りができていなかった。でもチームは自分の士気を高めてくれた。ツールで最も厳しいステージの一つで優勝したんだ。自分を誇りに思うし、同時にチームにとっても素晴らしい結果になった」。
ドゥムランは、2015年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝を2つ挙げ、マイヨロホを6日間着た。今年のジロ・デ・イタリアでもステージ優勝を挙げ、マリアローザを6日間着用。そしてこのツールでステージ初優勝を飾った。ドゥムランはブエルタ、ジロ、そしてツールの3つ連続するグランツールでステージ優勝を飾った初の選手として記録に名前を残すことになった。ただし今回はブエルタ、ジロと違いマイヨジョーヌはついてこなかった。
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ドゥムランはマイヨジョーヌを着ることを急いでいない。「今ツールには総合争いに来たわけじゃない。僕がフルームやキンタナと同等に闘えるレベルになるにはステップをいくつか踏む必要がある。もちろん将来的には総合トップ10を争えるような選手になりたい」と話す。グランツールを制する日は近いと期待されるが、今年はリオ五輪の個人タイムトライアルでの金メダル獲得を目標にしている。そのためにツールで力を使い過ぎないことも考えてレーススケジュールを組んでいる。
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フィニッシュ地点への最終盤について、フルーム集団で闘ったダニエル・マーティン曰く「アンドラ・アルカリスのラストは向かい風がきつく、思いきった動きはできなかった」。
この2年を例に見ると、第3週に向けて調子を上げるキンタナ。今日はキンタナのアシストに徹し、アタックに出たバルベルデは言う。「フルームが無敵かって? 僕から見ればナイロだって無敵だよ。ツールはまだ長く、アタックするにはタイミングを見極める必要がある。それがいつかは誰にも分からない」。
逃げたドゥムランらとマイヨジョーヌグループにとっては、クールダウンになる雨と雹だった。しかしより長い時間さらされたメイン集団およびグルペット集団にとっては、オーバーヒート気味に過ごした一日の締めくくりに体温をすっかり奪ってしまう厳しいものになったようだ。
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この日のフィニッシュエリアでは雨にもかかわらずUCIによりメカニカルドーピング対策のX線チェックが本格的に行われていた。検査に忙しいUCIコミッセールたちには、パンタノの傘はパフォーマンスを増す機材としては認識されなかったようだ。
photo&text:Makoto.AYANO in Andorra
photo:Kei.TSUJI, TimDeWaele
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