2016/07/03(日) - 15:53
西洋の驚異モンサンミッシェルを発ったプロトンはノルマンディー上陸作戦の舞台ユタビーチへ。優勝候補コンタドールの激しいクラッシュ。ナーバスな展開とカオスが続く第1ステージは今年も例外なく荒れたものに。
3日前に現地入りしてからずっと天気は優れず、フランスの7月の夏とは思えないほどの肌寒い日々が続いていた。週間天気予報も晴れマークは無く曇りと雨のみ。しかしこの日は朝から太陽が雲の切れ目から顔をのぞかせた。
グランデパールを待つ午後にかけても、風は冷たくとも晴れ。「西洋の驚異」モンサンミッシェルは海の上に厳かにそびえる。2年前のツールではタイムトライアルを迎えた。その時は島にかかる橋が工事中だったが、すっきりと完成した新しい橋が出来上がっていた。かつて対岸との間に地続きの道路が作られたが、結果として干潟の砂が堆積してしまい、陸地と繋がりはじめた。かつての海に浮かぶ姿を取り戻すためにつくられたのがこの新しい橋だ。
陸側で仮スタートを切った選手たちは島の手前でUターン。セレモニーに備える。ラ・マルセイエーズの演奏が終わるとパトルイユ・ド・フランスの航空隊がフレンチトリコロールの煙幕を引いた。ユネスコ世界遺産を舞台にしたこの壮大なスポーツイベントの映像で、その美しさは改めて世界中に発信されたことだろう。
プレス陣たちもスペースが無いことで橋への交通手段は片道のみのナヴェット(乗り合いバス)。帰路は仮スタートの地まで巡礼者のように延々と歩くことに。
6度目のツールに出発する新城幸也(ランプレ・メリダ)も、こちらが構えたカメラをみつけると手を振って合図。気負う様子無く走りだした。落車の頻発する近年のツールの序盤戦。果たしてこの日も危険はいっぱいだった。
コタンタン半島の海岸線では英仏海峡から吹きつける海風が強い。モノトーンの荒涼とした風景。風の冷たさにアームカバーをしている選手も多い。ただでさえ危険な第1ステージが晴れで始まったのは幸運? しかし落車の災難はよりによって優勝候補のアルベルト・コンタドールの身に降りかかった。
広い道路から複合コーナーを経た先には中央分離帯のある細い道。自身は「中央分離帯に前輪をぶつけてしまった」とコメントしていたコンタドールだが、観客の撮ったスマホ動画によれば、どうやらコーナーで前輪タイヤを滑らせての落車のようだ(落車のときは記憶はあいまいになるもの)。EXCLU(独占)を謳うフランスのメディアが趣味の悪いBGMをつけてYoutubeにアップしている動画は以下。
マイカ、トザットらチームメイトたちの助けを受けながら、負傷したコンタドールは再びバイクに乗って走りだした。最初はキセロフスキーのバイクを借りて。プロトンではカンチェラーラがペースダウンの声を掛けるリスペクトを見せた。そしてバイクもシューズも、インソールまで交換し、2分ほど遅れていた集団に追いついた。メディカルカーから手当を受け、包帯だらけになった痛々しい姿。
沿道の観客たちもコンタドールの痛々しい姿を追う。困難に陥った痛々しいツールの立役者の姿を見つけると、応援の声も悲痛な叫びに変わる。幸い骨折はないという情報だが、中央分離帯に打ち付けた半身と、上からスカイの選手にバイクごと乗り上げられた肩は相当な傷めつけられようだ。分離帯のコンクリートブロックに打ち付けた身体は擦過傷だけで済んでいるとは思えない。
荒涼としたノルマンディーの地を逃げ続ける5人から、フィニッシュまで57kmを残した地点で果敢に飛び出したのは地元マンシュ県出身のアントニー・ドゥラプラス(フランス、フォルトゥネオ・ヴァイタルコンセプト)。ラスト5kmまで強い風の中を攻め続けた走りにはもちろん敢闘賞が贈られた。
ドゥラプラスがこの地域一帯で逃げるのはお決まり。2012年ツールの第4ステージ、2013年ツールの第5ステージ、そして昨2015年ツールの第7ステージでも敢闘賞を獲得している。地元ノルマンディーのアタッカーはその前述の2回はユキヤと逃げをともにしている(2013年の記事はこちら)。
サンマリードゥモンの街から大きく下り、D-Dayの舞台となったユタビーチに近いフィニッシュへ。コース幅は狭く、ライン取りは風を読みながら。追い風という情報だったが風向きは変わり、結果として判断を誤ったのはマルセル・キッテルだった。先行するチームカーからの情報を頼りに左のラインをとったが、結果として向かい風の中早めのスプリントを掛けざるを得ない状況になってしまった。
タイミングを冷静に待ち、先行したレインボージャージのペーター・サガンをリードアウト役に利用したのがカヴェンディッシュだった。キッテルが失速するのを確認するとサガンの右脇から一気に飛び出した。拳を前に突き出す独特のポーズを炸裂させるカヴ。
今年の目標をツールでのマイヨ・ジョーヌ獲得と、リオ・オリンピックのトラック競技での金メダル獲得、そしてカタールでの世界選手権ロード優勝の3つを挙げていたカヴが、そのひとつを獲得した。
落車はフィニッシュ前も起こった。コース脇のバリアに引っかかったと言われるミカエル・モルコフだが、乗り出した観客とぶつかったとも話している。カヴをリードアウトしたエドヴァルド・ボアッソンハーゲン、明日第2ステージを狙いたいマイケル・マシューズも巻き込まれている。カヴの勝利に沸き、落車した選手たち、そして痛々しい姿でフィニッシュしたコンタドール……。今年も第1ステージは例外なく混沌としたものになった。落車によって分断、長く長く伸びたプロトンだったが、コミッセールの判断でタイム差無しとされた。
「序盤戦は温存しながら動かず、とくに危険な第1ステージは集団内で安全に走り切ること」と話していた新城幸也(ランプレ・メリダ)も、残り27km地点で他のペダルを外した選手と絡んで落車してしまう。しかしドクターカーで応急処置を受け、集団内でフィニッシュしている。「やってしまった」という憮然とした表情でフィニッシュラインを切ったユキヤ。右肩に打撲を負い、左親指と人差し指の突き指。幸いなことに深刻なものではなさそうだ。
バスに駆け込んだコンタドールは、コメントを要求するメディアに対しバス入り口で取材に対応した。
「ロードレースというものの洗礼を、膝から肩まで全身で受けた。でもこれが自転車レースだ。厳しい練習を重ねてきたのに、初日にクラッシュする。でも家には帰らない。山岳ステージまでにすべて回復することを願うよ。」
今夜からは中野喜文マッサーらの出番だ。ユキヤも超回復させた高周波温熱機器インディバ・アクティブによる施術に頼ることをコンタドール自身もレース後に話している。
photo&text:Makoto.AYANO in France.
3日前に現地入りしてからずっと天気は優れず、フランスの7月の夏とは思えないほどの肌寒い日々が続いていた。週間天気予報も晴れマークは無く曇りと雨のみ。しかしこの日は朝から太陽が雲の切れ目から顔をのぞかせた。
グランデパールを待つ午後にかけても、風は冷たくとも晴れ。「西洋の驚異」モンサンミッシェルは海の上に厳かにそびえる。2年前のツールではタイムトライアルを迎えた。その時は島にかかる橋が工事中だったが、すっきりと完成した新しい橋が出来上がっていた。かつて対岸との間に地続きの道路が作られたが、結果として干潟の砂が堆積してしまい、陸地と繋がりはじめた。かつての海に浮かぶ姿を取り戻すためにつくられたのがこの新しい橋だ。
陸側で仮スタートを切った選手たちは島の手前でUターン。セレモニーに備える。ラ・マルセイエーズの演奏が終わるとパトルイユ・ド・フランスの航空隊がフレンチトリコロールの煙幕を引いた。ユネスコ世界遺産を舞台にしたこの壮大なスポーツイベントの映像で、その美しさは改めて世界中に発信されたことだろう。
プレス陣たちもスペースが無いことで橋への交通手段は片道のみのナヴェット(乗り合いバス)。帰路は仮スタートの地まで巡礼者のように延々と歩くことに。
6度目のツールに出発する新城幸也(ランプレ・メリダ)も、こちらが構えたカメラをみつけると手を振って合図。気負う様子無く走りだした。落車の頻発する近年のツールの序盤戦。果たしてこの日も危険はいっぱいだった。
コタンタン半島の海岸線では英仏海峡から吹きつける海風が強い。モノトーンの荒涼とした風景。風の冷たさにアームカバーをしている選手も多い。ただでさえ危険な第1ステージが晴れで始まったのは幸運? しかし落車の災難はよりによって優勝候補のアルベルト・コンタドールの身に降りかかった。
広い道路から複合コーナーを経た先には中央分離帯のある細い道。自身は「中央分離帯に前輪をぶつけてしまった」とコメントしていたコンタドールだが、観客の撮ったスマホ動画によれば、どうやらコーナーで前輪タイヤを滑らせての落車のようだ(落車のときは記憶はあいまいになるもの)。EXCLU(独占)を謳うフランスのメディアが趣味の悪いBGMをつけてYoutubeにアップしている動画は以下。
マイカ、トザットらチームメイトたちの助けを受けながら、負傷したコンタドールは再びバイクに乗って走りだした。最初はキセロフスキーのバイクを借りて。プロトンではカンチェラーラがペースダウンの声を掛けるリスペクトを見せた。そしてバイクもシューズも、インソールまで交換し、2分ほど遅れていた集団に追いついた。メディカルカーから手当を受け、包帯だらけになった痛々しい姿。
沿道の観客たちもコンタドールの痛々しい姿を追う。困難に陥った痛々しいツールの立役者の姿を見つけると、応援の声も悲痛な叫びに変わる。幸い骨折はないという情報だが、中央分離帯に打ち付けた半身と、上からスカイの選手にバイクごと乗り上げられた肩は相当な傷めつけられようだ。分離帯のコンクリートブロックに打ち付けた身体は擦過傷だけで済んでいるとは思えない。
荒涼としたノルマンディーの地を逃げ続ける5人から、フィニッシュまで57kmを残した地点で果敢に飛び出したのは地元マンシュ県出身のアントニー・ドゥラプラス(フランス、フォルトゥネオ・ヴァイタルコンセプト)。ラスト5kmまで強い風の中を攻め続けた走りにはもちろん敢闘賞が贈られた。
ドゥラプラスがこの地域一帯で逃げるのはお決まり。2012年ツールの第4ステージ、2013年ツールの第5ステージ、そして昨2015年ツールの第7ステージでも敢闘賞を獲得している。地元ノルマンディーのアタッカーはその前述の2回はユキヤと逃げをともにしている(2013年の記事はこちら)。
サンマリードゥモンの街から大きく下り、D-Dayの舞台となったユタビーチに近いフィニッシュへ。コース幅は狭く、ライン取りは風を読みながら。追い風という情報だったが風向きは変わり、結果として判断を誤ったのはマルセル・キッテルだった。先行するチームカーからの情報を頼りに左のラインをとったが、結果として向かい風の中早めのスプリントを掛けざるを得ない状況になってしまった。
タイミングを冷静に待ち、先行したレインボージャージのペーター・サガンをリードアウト役に利用したのがカヴェンディッシュだった。キッテルが失速するのを確認するとサガンの右脇から一気に飛び出した。拳を前に突き出す独特のポーズを炸裂させるカヴ。
今年の目標をツールでのマイヨ・ジョーヌ獲得と、リオ・オリンピックのトラック競技での金メダル獲得、そしてカタールでの世界選手権ロード優勝の3つを挙げていたカヴが、そのひとつを獲得した。
落車はフィニッシュ前も起こった。コース脇のバリアに引っかかったと言われるミカエル・モルコフだが、乗り出した観客とぶつかったとも話している。カヴをリードアウトしたエドヴァルド・ボアッソンハーゲン、明日第2ステージを狙いたいマイケル・マシューズも巻き込まれている。カヴの勝利に沸き、落車した選手たち、そして痛々しい姿でフィニッシュしたコンタドール……。今年も第1ステージは例外なく混沌としたものになった。落車によって分断、長く長く伸びたプロトンだったが、コミッセールの判断でタイム差無しとされた。
「序盤戦は温存しながら動かず、とくに危険な第1ステージは集団内で安全に走り切ること」と話していた新城幸也(ランプレ・メリダ)も、残り27km地点で他のペダルを外した選手と絡んで落車してしまう。しかしドクターカーで応急処置を受け、集団内でフィニッシュしている。「やってしまった」という憮然とした表情でフィニッシュラインを切ったユキヤ。右肩に打撲を負い、左親指と人差し指の突き指。幸いなことに深刻なものではなさそうだ。
バスに駆け込んだコンタドールは、コメントを要求するメディアに対しバス入り口で取材に対応した。
「ロードレースというものの洗礼を、膝から肩まで全身で受けた。でもこれが自転車レースだ。厳しい練習を重ねてきたのに、初日にクラッシュする。でも家には帰らない。山岳ステージまでにすべて回復することを願うよ。」
今夜からは中野喜文マッサーらの出番だ。ユキヤも超回復させた高周波温熱機器インディバ・アクティブによる施術に頼ることをコンタドール自身もレース後に話している。
photo&text:Makoto.AYANO in France.
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