UCIヨーロッパツアー2.2クラスのステージレース「ツール・ド・ロワール=エ=シェール」が、4月13日から17日の5日間に渡り開催された。キナンサイクリングチームが出場したレースを、ダイジェストでレポートする。



UCIヨーロッパツアー2.2クラスのステージレース「ツール・ド・ロワールUCIヨーロッパツアー2.2クラスのステージレース「ツール・ド・ロワール photo:Satoru KATO
サインに応じる阿曽圭佑サインに応じる阿曽圭佑 photo:Satoru KATOスタート前、選手にコースを確認する石田監督スタート前、選手にコースを確認する石田監督 photo:Satoru KATO「ツール・ド・ロワール=エ=シェール」は、今年57回目の開催となるフランスのステージレース。パリの南、車で約2時間の距離にあるロワール=エ=シェール県を舞台に、5日間5ステージのレースが行われる。

コースは県庁所在地であるブロワ市周辺に設定される総距離865㎞。1級山岳のような厳しいアップダウンは無い代わりに、1日あたりの走行距離は長め。2日目と3日目は200㎞超のレースとなる。今回を含め、このレースに3回出場している伊丹健治は、「長い登りのような勝負どころが無い代わりに、距離を長くして細く曲がりくねった道をコースにしている感じ」と、このレースの印象を話す。

今年の大会には23チームがエントリー。アンダー23、又はエリートに上がったばかりの若い選手で構成されるチームが多い。エントリーリストには、アスタナのサテライトチームや、ロット・ソウダルのU23チーム、過去にトップチームに所属していた選手の名前も見られる。一方で、開催地フランスから参加するのはたった1チーム。フランス人選手は6人しかいない。代わりに、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどの北欧のチームと、オランダ、ベルギーのチームが目立つ。

キナンサイクリングチーム(以下キナンチーム)は、オーストラリアからジャイ・クロフォード、ウェズリー・サルツバーガーの2人と、スペインからリカルド・ガルシア、マルコス・ガルシアの2人、そして日本から伊丹健治、阿曽圭佑の6人がフランスに集結した。特に、このレースに高いモチベーションで臨んでいるというサルツバーガーと、シーズン序盤から好調を維持している伊丹健治の活躍が期待された。



第1ステージ 172.5㎞ 平坦&直線基調の高速レース

第1ステージ ブロワの街中をスタート第1ステージ ブロワの街中をスタート photo:Satoru KATO第1ステージ 唯一の山岳賞ポイントに向かうメイン集団第1ステージ 唯一の山岳賞ポイントに向かうメイン集団 photo:Satoru KATO

第1ステージ 集団内で走る阿曽圭佑とマルコス・ガルシア第1ステージ 集団内で走る阿曽圭佑とマルコス・ガルシア photo:Satoru KATO第1ステージ 優勝したミハエル・グラーツ(Michael Goolaerts ドイツ、ロット・ソウダルU23)第1ステージ 優勝したミハエル・グラーツ(Michael Goolaerts ドイツ、ロット・ソウダルU23) photo:Satoru KATO


初日はブロワ市をスタートして東に進み、ヌーアン=ルー=フュズリエにゴールする172.5km。コース中盤に山岳賞が設定されているが、丘越え程度。コース全体の標高差が約10mという完全フラットに近いコースだ。

お昼過ぎ、快晴のブロワ市内をパレードスタート。郊外に出たところでリアルスタートが切られる。平均速度47㎞/hという超高速な時間が長く続き、60㎞を過ぎて3人の逃げが容認されるとようやくペースが落ちる。逃げ集団とメイン集団との差は5分まで開くが、ゴール地点の周回コースに入ると一気に2分まで縮まる。この後逃げは吸収され、最後は集団でのスプリント勝負に。ロット・ソウダルU23のドイツ人選手、ミハエル・グラーツ(Michael Goolaerts)が優勝した。

第1ステージ メイン集団内でゴールするリカルド・ガルシア第1ステージ メイン集団内でゴールするリカルド・ガルシア photo:Satoru KATO第1ステージ メイン集団内でゴールする伊丹健治第1ステージ メイン集団内でゴールする伊丹健治 photo:Satoru KATO


キナンチームは、最後の周回コースで落車に巻き込まれたマルコス・ガルシアが2分以上遅れてゴール。大きな怪我は無かったが、ハンドルに膝を打ち付けてしまい痛みを訴える。他の5人はメイン集団内でゴール。初日を無難にクリアした。



第2ステージ 202.5㎞ リカルド・ガルシアがリタイア

第2ステージ 車の中でスタート準備中第2ステージ 車の中でスタート準備中 photo:Satoru KATO第2ステージ スタートを待つ阿曽圭佑第2ステージ スタートを待つ阿曽圭佑 photo:Satoru KATO

第2ステージ 序盤に設定された山岳賞ポイントに向けてつづら折りの登りを行く集団第2ステージ 序盤に設定された山岳賞ポイントに向けてつづら折りの登りを行く集団 photo:Satoru KATO
2日目はブロワの西隣にあるオルシェーズをスタートし、ぐるっと回り込むようにしてブロワ南隣のシェールズにゴールする202.5㎞。コース序盤と終盤に計2か所の山岳賞が設定されているが、いずれも5%ないし6%程度の勾配。それよりも、小さな集落の中の曲がりくねった細い道や、車1台がやっと通れるくらいの農道のような道などが選手を消耗させる。

この日はレース序盤に5人の逃げが決まり、途中から降りだした雨の影響もあってか、メイン集団との差が7分から10分にまで開く。レース終盤に逃げ集団のペースが鈍り、ゴールのシェールズの周回コースに入った時点で3人に減る。メイン集団との差も一気に縮まって吸収され、初日に続いて集団スプリントのゴール勝負。元チームスカイのラッセル・ダウニング(イギリス、JLTコンドール)が優勝した。

第2ステージ 膝の痛みからレース序盤で降りたマルコス・ガルシア第2ステージ 膝の痛みからレース序盤で降りたマルコス・ガルシア photo:Satoru KATO第2ステージ ぶどう畑の中をいく集団第2ステージ ぶどう畑の中をいく集団 photo:Satoru KATO

第2ステージ 優勝したラッセル・ダウニング(イギリス、JLTコンドール)第2ステージ 優勝したラッセル・ダウニング(イギリス、JLTコンドール) photo:Satoru KATO第2ステージ ゴールしたリカルド・ガルシア第2ステージ ゴールしたリカルド・ガルシア photo:Satoru KATO


キナンチームは、マルコス・ガルシアがレース序盤にリタイア。前日に痛めた膝が治らず、降りる事を選択した。残り30㎞付近で阿曽が、ゴール直前で伊丹も遅れてしまったが、2人共ゴールにたどり着いて翌日に繋げた。



第3ステージ 203㎞ 消耗戦となった最長ステージ

第3ステージ菜の花畑の横をいく逃げ集団。この中にウェズリー・サルツバーガーが入った第3ステージ菜の花畑の横をいく逃げ集団。この中にウェズリー・サルツバーガーが入った photo:Satoru KATO
第3ステージ キャラバン隊から色々もらって喜ぶ子供達第3ステージ キャラバン隊から色々もらって喜ぶ子供達 photo:Satoru KATO第3ステージ 集団後方に位置取るキナンサイクリングチームのメンバー第3ステージ 集団後方に位置取るキナンサイクリングチームのメンバー photo:Satoru KATO3日目はブロワの北に位置するフレテヴァルからバンドームまでの203㎞。コース終盤には短いながらも未舗装区間や石畳区間がある、変化に富んだ今大会の最長ステージだ。

「少人数の逃げ集団に乗れるようなレース展開にしたい」と、2日目のレース後に話していたサルツバーガーが、レース序盤に形成された9人の逃げに乗った。メイン集団との差は2分から3分。個人総合優勝争いが数秒差になっている事から、この日の逃げはこれ以上タイム差が開かいまま進行する。この逃げは140km付近で吸収されるが、サルツバーガーは途中のスプリントポイントで2位通過するなどして存在感を示した。

一方、阿曽がこの日は序盤から遅れてしまい、レース中盤にリタイア。「平地も登りも踏んでいけるようにならないと勝負にならない。力不足を実感させられた」。と、レース後に語った。

レースは集団のままゴールのバンドーム市内の周回コースに入り、最後に抜け出したフリチョフ・ルイナス(Fridtjof Roinas ノルウェー、Team Sparebanken Sor)が後続に8秒差をつけて優勝。リーダージャージも獲得した。

第3ステージ 補給地点に差し掛かったウェズリー・サルツバーガーを含む逃げ集団第3ステージ 補給地点に差し掛かったウェズリー・サルツバーガーを含む逃げ集団 photo:Satoru KATO第3ステージ 補給のサコッシュを選手に渡す藤間マッサー第3ステージ 補給のサコッシュを選手に渡す藤間マッサー photo:Satoru KATO

第3ステージ レース終盤に降り始めた豪雨の中ゴールするウェズリー・サルツバーガー第3ステージ レース終盤に降り始めた豪雨の中ゴールするウェズリー・サルツバーガー photo:Satoru KATO第3ステージ 落車が頻発したこの日、ゴールしたバイクは前後いずれかのホイールが交換された状態だった。第3ステージ 落車が頻発したこの日、ゴールしたバイクは前後いずれかのホイールが交換された状態だった。 photo:Satoru KATO


逃げに乗ったサルツバーガーはメイン集団内36位でゴール。総合順位はトップから16秒差の12位につけた。クロフォード、リカルド・ガルシア、伊丹は終盤に遅れてしまい、グルペットでゴール。しかし、タイムオーバーによる未完走扱いとなってしまった。キナンチームは主催者に救済を求めるアピールをしたものの、受け入れられなかった。



第4ステージ 189.5㎞ サルツバーガーが1人気を吐く

第4ステージ スタート前、地元メディアの取材を受けるウェズリー・サルツバーガー第4ステージ スタート前、地元メディアの取材を受けるウェズリー・サルツバーガー photo:Satoru KATO第4ステージ アンジェのスタート・ゴール地点第4ステージ アンジェのスタート・ゴール地点 photo:Satoru KATO


第4ステージ 逃げが吸収された後もメイン集団で走るウェズリー・サルツバーガー第4ステージ 逃げが吸収された後もメイン集団で走るウェズリー・サルツバーガー photo:Satoru KATO第4ステージ パトリック・シェリング(スイス、チームボラ-ルベルグ Team Vorarlberg)が優勝第4ステージ パトリック・シェリング(スイス、チームボラ-ルベルグ Team Vorarlberg)が優勝 photo:Satoru KATO4日目はブロワから車で南へ30分行った所にあるアンジェをスタート・ゴールとする189.5㎞。最終日がブロワ市内でのクリテリウムとなるため、総合優勝争いは実質今日が最後のチャンスとなる。

前日にタイムオーバーで失格となっていたクロフォード、リカルド・ガルシア、伊丹の3人だが、他の選手に対するタイムオーバーの扱いに混乱が生じた事から、一転して出走出来る事になっていた。しかし、それが知らされたのはキナンチームがスタート地点に到着した時。スタートまで2時間を切っていた。3選手は朝から別行動で練習に出ており、チームスタッフが慌てて迎えに行くも間に合わず。結局サルツバーガー1人でスタートする事になってしまった。

そんな中、この日も序盤に形成された15人の逃げにサルツバーガーが乗った。スプリントポイントで3位通過するなどして見せたが、この日はメイン集団が1分以上の差を容認せず、レース中盤を前にして吸収されてしまう。その後も逃げと吸収が何度か繰り返され、2人が1分先行した状態でレースはアンジェに戻ってくる。最後の周回コースに入り、メイン集団は先行する2人との差を20秒まで詰めるが捕まえられず。先行する2人のスプリント勝負をパトリック・シェリング(スイス、チームボラ-ルベルグ Team Vorarlberg)が制して優勝。リーダージャージを獲得した。

サルツバーガーは吸収された後もメイン集団でレースを進め、40位でゴール。総合13位で最終日を迎える事になった。



第5ステージ 97.5㎞ 最終ステージは集団スプリントで決着

第5ステージ ロワール川沿いにあるブロワ市が舞台となる第5ステージ ロワール川沿いにあるブロワ市が舞台となる photo:Satoru KATO
最終日はブロワ市内に設定された周回コースでのレース。市内を流れるロワール川を挟んで両岸を行き来するように設定されたコースは1周7.5km。約30mの高低差があり、ブロワの中心街をハイスピードで抜ける下りや、つづら折れの登りを含む。

この日のスタートは午後2時50分とかなり遅め。パレードなしでスタートしたレースは1周目からハイペースで進行し、平均速度は44㎞/hを記録。その中から2周目に3人が先行。5周目までに10人に増えた逃げ集団が、メイン集団に最大で1分の差をつける。

第5ステージ ロワール川にかかる橋を渡る逃げ集団とメイン集団第5ステージ ロワール川にかかる橋を渡る逃げ集団とメイン集団 photo:Satoru KATO第5ステージ レース中盤に形成された10人の逃げ集団。第5ステージ レース中盤に形成された10人の逃げ集団。 photo:Satoru KATO

第5ステージ メイン集団内で走るリーダージャージのパトリック・シェリング(スイス、チームボラ-ルベルグ Team Vorarlberg)第5ステージ メイン集団内で走るリーダージャージのパトリック・シェリング(スイス、チームボラ-ルベルグ Team Vorarlberg) photo:Satoru KATO第5ステージ メイン集団内でレースを進めるウェズリー・サルツバーガー第5ステージ メイン集団内でレースを進めるウェズリー・サルツバーガー photo:Satoru KATO


しかし、残り3周あたりから逃げ集団が崩壊し始め、最終周回までに逃げていた全員が吸収される。最後は集団でのスプリント勝負となり、ジェフ・フェルメーレン(オランダ、サイクリングチーム・ジョー・ピールス)が優勝。リーダージャージのシュリングも集団内でゴールし、総合優勝を決めた。

第5ステージ 集団スプリントを制したジェフ・フェルメーレン(オランダ、サイクリングチーム・ジョー・ピールス)第5ステージ 集団スプリントを制したジェフ・フェルメーレン(オランダ、サイクリングチーム・ジョー・ピールス) photo:Satoru KATO第5ステージ ゴール後、自ら用意するドリンクで一息つくウェズリー・サルツバーガー第5ステージ ゴール後、自ら用意するドリンクで一息つくウェズリー・サルツバーガー photo:Satoru KATOキナンサイクリングチームで1人残ったサルツバーガーは、終始メイン集団でレースを進めて30位でゴール。トップから29秒差の総合13位でツール・ド・ロワール=エ=シェールを終えた。サルツバーガーは「1人になってしまったのは残念だが、チームのためにも完走出来て良かった。この後もインドネシアのレースと日本のレース(ツアー・オブ・ジャパン、ツール・ド・熊野)と続くので、しっかり準備をしてレースに臨みたい」と語った。

石田哲也監督は「昨年よりも選手がレースに集中できる環境を作る事ができ、良い状態でレースに臨めた。しかし、最終的に1人になってしまったのはとても残念な結果だ。マルコスが初日に膝を痛めてしまったが、大きな怪我や体調不良で脱落する事が無かったのは幸いだった」と、5日間を振り返る。

そして、「我々のチームは登りに強い選手が多いので、今回のように平坦基調のレースは得意ではないのは確か。だが、いろんなレースに対応出来るようになってチームの総合力を上げていかなければならない。今回見つかった弱点を、今後のアジアツアーや国内レース、そして最大の目標としているツール・ド・熊野に向けての課題としていきたい」と、2回目のツール・ド・ロワール=エ=シェールを総括した。



text&photo:Satoru KATO