2016/04/18(月) - 10:21
晴れ時々大雨の気まぐれな天候に見舞われた第51回アムステルゴールドレース(UCIワールドツアー)。残り2kmに位置するカウベルグの登りでアタックしたエンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト)が3週間前に亡くなったチームメイトに捧げる勝利を飾った。
快晴のマーストリヒトをスタートした第51回アムステルゴールドレース。ベルギーのフレーシュ・ワロンヌとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを含むいわゆる「アルデンヌクラシック」の開幕戦であり、オランダ南部リンブルフ州の丘陵地帯を賭ける同国最大のワンデーレースが始まった。
ニュートラル走行中にファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)が前輪に指を挟んで顔面から落車。鼻骨の骨折を負ったフェリーネがこの日のリタイア第一号となる。
マーストリヒトから郊外に向かう幹線道路でアタックが繰り返された結果、アレックス・ハウズ(アメリカ、キャノンデール)やマッテオ・モンタグーティ(イタリア、AG2Rラモンディアール)、ローラン・ディディエ(ルクセンブルク、トレック・セガフレード)ら11名が最大5分差で逃げる展開に。
大会連覇が懸かったミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド)擁するチームスカイがメイン集団を率い、リンブルフ特有の曲がりくねったコース(「1000のカーブ」とも呼ばれる)を進む。4度目の出場となった別府史之(トレック・セガフレード)は集団前方でバウク・モレマ(オランダ)のために位置取りした。
2回目のカウベルグ(合計4回通過)を越え、レース後半に差し掛かった頃、一帯はたっぷりと水分を含んだ黒い雨雲に覆われる。叩きつけるような雨が降って気温は一桁台に急降下。ただでさえテクニカルでナーバスなコースだが、路面はフィニッシュまでほぼウェットな危険な状態となる。次戦フレーシュの優勝候補ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)は地面に叩きつけられた。
チームスカイとオリカ・グリーンエッジが指揮するメイン集団からトッシュ・ファンデルサンド(ベルギー、ロット・ソウダル)やジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)、ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、トレック・セガフレード)、ビョルン・トゥラウ(ドイツ、ワンティ・グループグベルト)が飛び出したものの、先頭グループに追いつくことができないまま孤島に取り残された状態に。
急勾配の登りとテクニカルな下り、そして風が吹く農道を進むうちに逃げグループ、メイン集団ともに人数を減らす。登りの渋滞も影響してメイン集団は割れ、3度の優勝経験者フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)が集団から脱落した。
10日前に左手中指の骨折を負ったジルベール。バイクポジションを調整してレースに挑んだものの、レース開始から4時間が経過した時点で背中に痛みが出たため失速し、大きく遅れて81位でフィニッシュしている。地元マーストリヒト出身のトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)もパンクで大きく遅れた。
さらに最終周回突入を前にした3回目のカウベルグでクヴィアトコウスキーが力なく脱落し、その後フィニッシュラインでリタイア。チームスカイのクルト・アルヴェセン監督は「クヴィアトコウスキーは単純に脚が残っていなかった。ただそれだけだ」と説明する。クヴィアトコウスキーはフレーシュ・ワロンヌをパスし、スペイン合宿に参加してからリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに参戦する予定だ。
優勝候補ジルベールやクヴィアトコウスキーのいないメイン集団は、スプリント勝負に持ち込みたいオリカ・グリーンエッジが牽引し、残り14km地点で逃げを全て吸収。前週のパリ〜ルーベで優勝を争ったマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)やセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)が集団先頭でパワフルに走る。
すると残り10km地点のベメレルベルグを越えたところでロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)がアタック。2013年に独走でアムステル制覇を果たしているクロイツィゲルの動きに反応する形でティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)が残り8km地点から独走する。ウェレンスは13秒リードで残り3kmを切り、4回目のカウベルグに突入した。
フィニッシュラインの2km手前で頂上を迎えるこのカウベルグが大会最大の勝負ポイント。過去には登りアタックを成功させた選手が勝利を飾っているが、この日はフィニッシュまでの平坦路が向かい風にさらされたため、例年よりもアタックが活発にかからないままメイン集団は登りを進む。
やがて先頭ウェレンスが視界に入った登りの中腹でガスパロットが動く。下ハンドルを握り、軽いダンシングで加速したガスパロットがウェレンスをパス。頂上手前でミカエル・ヴァルグレン(デンマーク、ティンコフ)が追いつき、2人でフィニッシュまでの平坦路に差し掛かる。
カウベルグで約40名に絞られ、牽制でペースダウンしたメイン集団を尻目に、ガスパロットとヴァルグレンが協力して残り1kmアーチを通過する。メイン集団は追いきれず、先頭2人によるスプリント勝負に持ち込まれた。
ヴァルグレンの後ろで息を整え、残り150mで腰を上げたガスパロットが一気に先頭に立つ。24歳のティンコフライダーも対抗したが、10歳年上のベテランが一枚上手だった。ガスパロットが両手を挙げ、天に向かってキスをした。
「雨が強く降ったおかげで、寒さにやられて一時はレースを投げ出しそうだった。でも周りの選手の表情を見て、苦しんでいるのは自分だけじゃないと思った。カウベルグの麓のコーナーで落車しかけたけど、そこからポジションを上げてアタック。誰もアタックしなかったので最初はインナーリング(39T)で踏んで、頂上手前でアウターリング(53T)に入れた。ヴァルグレンが反応して食らいついたことが勝利に繋がったと思う。頂上からフィニッシュまで強い向かい風が吹いていたので、単独だったら逃げ切れていなかった。あと、付いてきたのがロマン・クロイツィゲルじゃなくて良かったよ。もしクロイツィゲルだったらスプリント前に何か仕掛けてきたと思う。逃げ切るためにヴァルグレンは前を引いてくれた。そのおかげでスプリントに向けて息を整えてタイミングよく仕掛けることができたんだ」と、ガスパロットは振り返る。
4日前に開催されたアルデンヌ前哨戦ブラバンツペイルで2位に入った際、3週間前のヘント〜ウェヴェルヘムで事故死したアントワーヌ・デモアティエに勝利を捧げることができなかったことをガスパロットは心底悔いていた。
デモアティエの死後、ガスパロットは予定通りテネリフェでトレーニングキャンプを実施。葬儀に出席せずにトレーニングに打ち込んだ。「葬儀に出ることも考えたけど、チームにはアルデンヌクラシックに照準を合わすためにテネリフェに残ってほしいと言われた。正しい判断だったと思う。大きな責任感を胸に、一人でトレーニングに没頭した。今朝アントワーヌの奥さんがチームホテルにやってきて『勝利を目指してほしい』と言われたんだ。それは簡単なことではない。決して簡単なことではないけど、特別なことを110%の力で果たしたかった」。
ガスパロットは2010年大会で3位に入って初めて表彰台に上ると、2012年にアムステル初優勝。その後2013年9位、2014年8位、2015年8位と、UCIプロコンチネンタルチームに移籍しながらも4年連続でトップ10フィニッシュしていた。フレーシュ・ワロンヌとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュにも出場するワンティ・グループグベルトが、特別なUCIワールドツアーレース初勝利を掴んだ。
アムステルゴールドレース2016結果
1位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト) 6h18’02”
2位 ミカエル・ヴァルグレン(デンマーク、ティンコフ)
3位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニCSF) +04”
4位 ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)
5位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
6位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)
7位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)
8位 ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)
9位 ロイック・フリーゲン(ベルギー、BMCレーシング)
10位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)
DNF 別府史之(日本、トレック・セガフレード)
DNF 小石祐馬(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
DNF 窪木一茂(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele
快晴のマーストリヒトをスタートした第51回アムステルゴールドレース。ベルギーのフレーシュ・ワロンヌとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを含むいわゆる「アルデンヌクラシック」の開幕戦であり、オランダ南部リンブルフ州の丘陵地帯を賭ける同国最大のワンデーレースが始まった。
ニュートラル走行中にファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)が前輪に指を挟んで顔面から落車。鼻骨の骨折を負ったフェリーネがこの日のリタイア第一号となる。
マーストリヒトから郊外に向かう幹線道路でアタックが繰り返された結果、アレックス・ハウズ(アメリカ、キャノンデール)やマッテオ・モンタグーティ(イタリア、AG2Rラモンディアール)、ローラン・ディディエ(ルクセンブルク、トレック・セガフレード)ら11名が最大5分差で逃げる展開に。
大会連覇が懸かったミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド)擁するチームスカイがメイン集団を率い、リンブルフ特有の曲がりくねったコース(「1000のカーブ」とも呼ばれる)を進む。4度目の出場となった別府史之(トレック・セガフレード)は集団前方でバウク・モレマ(オランダ)のために位置取りした。
2回目のカウベルグ(合計4回通過)を越え、レース後半に差し掛かった頃、一帯はたっぷりと水分を含んだ黒い雨雲に覆われる。叩きつけるような雨が降って気温は一桁台に急降下。ただでさえテクニカルでナーバスなコースだが、路面はフィニッシュまでほぼウェットな危険な状態となる。次戦フレーシュの優勝候補ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)は地面に叩きつけられた。
チームスカイとオリカ・グリーンエッジが指揮するメイン集団からトッシュ・ファンデルサンド(ベルギー、ロット・ソウダル)やジャンニ・メールスマン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)、ニッコーロ・ボニファツィオ(イタリア、トレック・セガフレード)、ビョルン・トゥラウ(ドイツ、ワンティ・グループグベルト)が飛び出したものの、先頭グループに追いつくことができないまま孤島に取り残された状態に。
急勾配の登りとテクニカルな下り、そして風が吹く農道を進むうちに逃げグループ、メイン集団ともに人数を減らす。登りの渋滞も影響してメイン集団は割れ、3度の優勝経験者フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)が集団から脱落した。
10日前に左手中指の骨折を負ったジルベール。バイクポジションを調整してレースに挑んだものの、レース開始から4時間が経過した時点で背中に痛みが出たため失速し、大きく遅れて81位でフィニッシュしている。地元マーストリヒト出身のトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)もパンクで大きく遅れた。
さらに最終周回突入を前にした3回目のカウベルグでクヴィアトコウスキーが力なく脱落し、その後フィニッシュラインでリタイア。チームスカイのクルト・アルヴェセン監督は「クヴィアトコウスキーは単純に脚が残っていなかった。ただそれだけだ」と説明する。クヴィアトコウスキーはフレーシュ・ワロンヌをパスし、スペイン合宿に参加してからリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに参戦する予定だ。
優勝候補ジルベールやクヴィアトコウスキーのいないメイン集団は、スプリント勝負に持ち込みたいオリカ・グリーンエッジが牽引し、残り14km地点で逃げを全て吸収。前週のパリ〜ルーベで優勝を争ったマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)やセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)が集団先頭でパワフルに走る。
すると残り10km地点のベメレルベルグを越えたところでロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)がアタック。2013年に独走でアムステル制覇を果たしているクロイツィゲルの動きに反応する形でティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)が残り8km地点から独走する。ウェレンスは13秒リードで残り3kmを切り、4回目のカウベルグに突入した。
フィニッシュラインの2km手前で頂上を迎えるこのカウベルグが大会最大の勝負ポイント。過去には登りアタックを成功させた選手が勝利を飾っているが、この日はフィニッシュまでの平坦路が向かい風にさらされたため、例年よりもアタックが活発にかからないままメイン集団は登りを進む。
やがて先頭ウェレンスが視界に入った登りの中腹でガスパロットが動く。下ハンドルを握り、軽いダンシングで加速したガスパロットがウェレンスをパス。頂上手前でミカエル・ヴァルグレン(デンマーク、ティンコフ)が追いつき、2人でフィニッシュまでの平坦路に差し掛かる。
カウベルグで約40名に絞られ、牽制でペースダウンしたメイン集団を尻目に、ガスパロットとヴァルグレンが協力して残り1kmアーチを通過する。メイン集団は追いきれず、先頭2人によるスプリント勝負に持ち込まれた。
ヴァルグレンの後ろで息を整え、残り150mで腰を上げたガスパロットが一気に先頭に立つ。24歳のティンコフライダーも対抗したが、10歳年上のベテランが一枚上手だった。ガスパロットが両手を挙げ、天に向かってキスをした。
「雨が強く降ったおかげで、寒さにやられて一時はレースを投げ出しそうだった。でも周りの選手の表情を見て、苦しんでいるのは自分だけじゃないと思った。カウベルグの麓のコーナーで落車しかけたけど、そこからポジションを上げてアタック。誰もアタックしなかったので最初はインナーリング(39T)で踏んで、頂上手前でアウターリング(53T)に入れた。ヴァルグレンが反応して食らいついたことが勝利に繋がったと思う。頂上からフィニッシュまで強い向かい風が吹いていたので、単独だったら逃げ切れていなかった。あと、付いてきたのがロマン・クロイツィゲルじゃなくて良かったよ。もしクロイツィゲルだったらスプリント前に何か仕掛けてきたと思う。逃げ切るためにヴァルグレンは前を引いてくれた。そのおかげでスプリントに向けて息を整えてタイミングよく仕掛けることができたんだ」と、ガスパロットは振り返る。
4日前に開催されたアルデンヌ前哨戦ブラバンツペイルで2位に入った際、3週間前のヘント〜ウェヴェルヘムで事故死したアントワーヌ・デモアティエに勝利を捧げることができなかったことをガスパロットは心底悔いていた。
デモアティエの死後、ガスパロットは予定通りテネリフェでトレーニングキャンプを実施。葬儀に出席せずにトレーニングに打ち込んだ。「葬儀に出ることも考えたけど、チームにはアルデンヌクラシックに照準を合わすためにテネリフェに残ってほしいと言われた。正しい判断だったと思う。大きな責任感を胸に、一人でトレーニングに没頭した。今朝アントワーヌの奥さんがチームホテルにやってきて『勝利を目指してほしい』と言われたんだ。それは簡単なことではない。決して簡単なことではないけど、特別なことを110%の力で果たしたかった」。
ガスパロットは2010年大会で3位に入って初めて表彰台に上ると、2012年にアムステル初優勝。その後2013年9位、2014年8位、2015年8位と、UCIプロコンチネンタルチームに移籍しながらも4年連続でトップ10フィニッシュしていた。フレーシュ・ワロンヌとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュにも出場するワンティ・グループグベルトが、特別なUCIワールドツアーレース初勝利を掴んだ。
アムステルゴールドレース2016結果
1位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ワンティ・グループグベルト) 6h18’02”
2位 ミカエル・ヴァルグレン(デンマーク、ティンコフ)
3位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニCSF) +04”
4位 ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)
5位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
6位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)
7位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)
8位 ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、モビスター)
9位 ロイック・フリーゲン(ベルギー、BMCレーシング)
10位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)
DNF 別府史之(日本、トレック・セガフレード)
DNF 小石祐馬(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
DNF 窪木一茂(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)
text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele
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サイクルスポーツ 2016年 06月号
八重洲出版