2016/03/18(金) - 10:52
イタリアのロードシーズンに107回目の「春」がやってくる。スプリンターからクライマーまで多種多様なトップレーサーが挑むミラノ〜サンレモが3月19日に開催。291kmにおよぶ春の大一番「ラ・プリマヴェーラ」の見どころをチェックしておこう。
ミラノからサンレモまで、登りを含む291kmの旅路
イタリアに春の訪れを告げる伝統の一戦、ミラノ〜サンレモが3月19日(土)にイタリア北部で開催される。イタリア国内で「ラ・プリマヴェーラ(春)」と呼ばれるミラノ〜サンレモは今年で開催107回目。「クラッシチッシマ(クラシックの最上級)」とも呼ばれ、極めて格式の高いクラシックレースだ。
これまでピンク色が大会のイメージカラーとして使われていたが、2016年はサプリメント会社のネームドスポーツ・スーパーフード社がメインスポンサーについたため、同社のコーポレートカラーであるオレンジ色が前面に押し出されている。
コースはその名の通りミラノからサンレモまで。正真正銘ミラノの中心地をスタートし、リグーリア海岸のサンレモまでを線でつなぐ。その距離は300kmの大台目前の291km。日本で言うならば東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅だ。現存するロードレースの中で最長距離を誇っており、レース時間が7時間に達することも。
内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、ロンバルディア平原を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えてからはリグーリア海に沿ったオーシャンロードが続く。トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。勝負の鍵を握るのは、後半に登場するトレ・カーピ、チプレッサ、ポッジオの登りだ。
レースが慌ただしさを増すのが、トレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタの短い登り。さらにゴール27km手前からチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)とポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)が連続して登場する。
この最大の勝負どころであるチプレッサとポッジオでは、今年も激しいアタック合戦が繰り広げられるだろう。いずれも勾配や難易度はそれほど高くない。しかしすでにスタートから7時間近く走っている脚が本来のポテンシャルを発揮できるかどうかは分からない。ここで飛び出した選手が、スプリンターチームの追撃を振り切ってフィニッシュまでの逃げ切りを図る。
フィニッシュラインは2年連続で伝統的なローマ通りに引かれる。道路工事や周辺住民の反対によって2008年から7年間姿を消していた目抜き通りでレースはフィナーレを迎える。
ポッジオ通過後のテクニカルなダウンヒルや、ゴール直前の平坦区間で飛び出す選手も出てくるだろう。クライマーやパンチャーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この2通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトがミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
過去には降雪によってレースのニュートラライゼーション(中断)も発生しているが、2016年はその心配がなさそう。レース当日の天気予報は晴れ時々曇り。最高気温14度、最低気温8度という暖かさだ。
トップスプリンターからグランツールレーサーまで一堂に会す
スタートラインに並ぶのは18あるUCIワールドチームにアンドローニジョカトリ、バルディアーニCSF、ボーラ・アルゴン18、CCCスプランディポルコウィチェ、コフィディス、サウスイースト、ノボノルディスクをプラスした合計25チーム。それぞれ8名での出走のためプロトンは200名の大所帯だ。
昨年のローマ通り復活によってポッジオからフィニッシュまでの距離は短くなったものの、統計的にローマ通りでは大きな集団スプリントに持ち込まれていることが多い。歯を食いしばってチプレッサとポッジオを越え、チームメイトにリードアウトされるスプリンターが優勝候補の筆頭に挙げられる。
大会連覇が懸かったジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)は1月23日の交通事故からの復帰が間に合わずに欠場。昨年ミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベを制したデゲンコルブはクラシックシーズンを療養にあて、5月のレース復帰と7月のツール・ド・フランスでの活躍を目指している。なお、交通事故の影響に加えてトム・ドゥムラン(オランダ)がインフルエンザのため欠場するなどジャイアント・アルペシンは戦力ダウンに苦しんでいる。
第107回に出場する優勝経験者は4名。2014年のアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)と2009年のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)、2008年のファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)、そして2006年のフィリッポ・ポッツァート(イタリア、サウスイースト)だ。なお、過去106回の大会の中でイタリア人選手による優勝は50回。しかし地元イタリア勢は2006年のポッツァート以降「ラ・プリマヴェーラ」での勝利から遠ざかっている。
デゲンコルブの欠場によって、当然昨年の表彰台フィニッシャーが優勝候補に上がる。2年ぶりの勝利を狙う昨年2位のクリストフと、昨年3位のマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)だ。グアルニエーリやハラー、モルコフを揃えるカチューシャはクリストフのために最速トレインを走らせるだろう。クリストフは今シーズンすでに5勝しており、このミラノ〜サンレモに万全の状態で挑むためにパリ〜ニースを途中リタイアしている。
「登れるスプリンター」の代名詞マシューズはパリ〜ニースでステージ2勝を飾るなど好調。しかしマシューズの前には世界チャンピオンのペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)やティレーノ〜アドリアティコ総合優勝者グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、そしてエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)が立ちはだかる。いずれもピュアスプリンターとは呼べないが、登坂能力の高さから、他のスプリンターよりもフレッシュな状態でスプリントに挑めるはず。
世界選手権以降の勝利数がゼロ、つまりアルカンシェルでの勝利を果たしていないサガンはブライスやベンナーティ、ガットのアシストを得る。ボアッソンハーゲンは優勝経験者カヴェンディッシュやRヤンセファンレンズバーグを従えての出場だ。
エリア・ヴィヴィアーニ(チームスカイ)やダヴィデ・チモライ(ランプレ・メリダ)、ヤコブ・マレツコ(サウスイースト)、ニッコーロ・ボニファツィオ(トレック・セガフレード)といったイタリアを代表するスプリンターの他、隣国フランスからは直前のパリ〜ニースで勝っているナセル・ブアニ(コフィディス)やアルノー・デマール(FDJ)が出場する。
ダークホースではなく本命の一人として注目したいのが初出場のフェルナンド・ガビリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)だ。21歳のオムニアム世界チャンピオンはティレーノでのステージ優勝を含めて今シーズンすでに4勝。ボーネンやスティバルといった経験豊かな選手にアシストされる俊足スプリンターが初のモニュメントに挑む。
スプリンターに対してチプレッサとポッジオで攻撃を仕掛けると見られるのがグランツールで総合優勝を争うようなオールラウンダーたち。消化不良のままティレーノを終えたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)やアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が積極的に動いてくるはず。
パリ〜ニースで総合優勝を飾ったゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)はまだサンレモで主だった成績を残していないが、その登坂力とスピードは他チームの脅威となるだろう。ティレーノで好調ぶりを示したミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド)とともに、ヴィヴィアーニのスプリント以外の選択肢をチームスカイにもたらす。
キャリア最後のミラノ〜サンレモを迎えるカンチェラーラはストラーデビアンケでの勝利を含めて今シーズン4勝。カンチェラーラに代表される独走力を備えたクラシックハンターたちが登り&下り&平地で決定的な動きを生む可能性も。ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)、トニー・ギャロパン(ベルギー、ロット・ソウダル)、サイモン・クラーク(オーストラリア、キャノンデール)、ダヴィデ・レベッリン(イタリア、CCCスプランディポルコウィチェ)といったパンチャー系選手もレースを動かしてくるだろう。
レースの模様は3月19日(土)午後10:30からJSPORTS4で生中継される。
text:Kei Tsuji
ミラノからサンレモまで、登りを含む291kmの旅路
イタリアに春の訪れを告げる伝統の一戦、ミラノ〜サンレモが3月19日(土)にイタリア北部で開催される。イタリア国内で「ラ・プリマヴェーラ(春)」と呼ばれるミラノ〜サンレモは今年で開催107回目。「クラッシチッシマ(クラシックの最上級)」とも呼ばれ、極めて格式の高いクラシックレースだ。
これまでピンク色が大会のイメージカラーとして使われていたが、2016年はサプリメント会社のネームドスポーツ・スーパーフード社がメインスポンサーについたため、同社のコーポレートカラーであるオレンジ色が前面に押し出されている。
コースはその名の通りミラノからサンレモまで。正真正銘ミラノの中心地をスタートし、リグーリア海岸のサンレモまでを線でつなぐ。その距離は300kmの大台目前の291km。日本で言うならば東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅だ。現存するロードレースの中で最長距離を誇っており、レース時間が7時間に達することも。
内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、ロンバルディア平原を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えてからはリグーリア海に沿ったオーシャンロードが続く。トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。勝負の鍵を握るのは、後半に登場するトレ・カーピ、チプレッサ、ポッジオの登りだ。
レースが慌ただしさを増すのが、トレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタの短い登り。さらにゴール27km手前からチプレッサ(距離5.65km/平均4.1%/最大9%)とポッジオ(距離3.7km/平均3.7%/最大8%)が連続して登場する。
この最大の勝負どころであるチプレッサとポッジオでは、今年も激しいアタック合戦が繰り広げられるだろう。いずれも勾配や難易度はそれほど高くない。しかしすでにスタートから7時間近く走っている脚が本来のポテンシャルを発揮できるかどうかは分からない。ここで飛び出した選手が、スプリンターチームの追撃を振り切ってフィニッシュまでの逃げ切りを図る。
フィニッシュラインは2年連続で伝統的なローマ通りに引かれる。道路工事や周辺住民の反対によって2008年から7年間姿を消していた目抜き通りでレースはフィナーレを迎える。
ポッジオ通過後のテクニカルなダウンヒルや、ゴール直前の平坦区間で飛び出す選手も出てくるだろう。クライマーやパンチャーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この2通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトがミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。
過去には降雪によってレースのニュートラライゼーション(中断)も発生しているが、2016年はその心配がなさそう。レース当日の天気予報は晴れ時々曇り。最高気温14度、最低気温8度という暖かさだ。
トップスプリンターからグランツールレーサーまで一堂に会す
スタートラインに並ぶのは18あるUCIワールドチームにアンドローニジョカトリ、バルディアーニCSF、ボーラ・アルゴン18、CCCスプランディポルコウィチェ、コフィディス、サウスイースト、ノボノルディスクをプラスした合計25チーム。それぞれ8名での出走のためプロトンは200名の大所帯だ。
昨年のローマ通り復活によってポッジオからフィニッシュまでの距離は短くなったものの、統計的にローマ通りでは大きな集団スプリントに持ち込まれていることが多い。歯を食いしばってチプレッサとポッジオを越え、チームメイトにリードアウトされるスプリンターが優勝候補の筆頭に挙げられる。
大会連覇が懸かったジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)は1月23日の交通事故からの復帰が間に合わずに欠場。昨年ミラノ〜サンレモとパリ〜ルーベを制したデゲンコルブはクラシックシーズンを療養にあて、5月のレース復帰と7月のツール・ド・フランスでの活躍を目指している。なお、交通事故の影響に加えてトム・ドゥムラン(オランダ)がインフルエンザのため欠場するなどジャイアント・アルペシンは戦力ダウンに苦しんでいる。
第107回に出場する優勝経験者は4名。2014年のアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)と2009年のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)、2008年のファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)、そして2006年のフィリッポ・ポッツァート(イタリア、サウスイースト)だ。なお、過去106回の大会の中でイタリア人選手による優勝は50回。しかし地元イタリア勢は2006年のポッツァート以降「ラ・プリマヴェーラ」での勝利から遠ざかっている。
デゲンコルブの欠場によって、当然昨年の表彰台フィニッシャーが優勝候補に上がる。2年ぶりの勝利を狙う昨年2位のクリストフと、昨年3位のマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)だ。グアルニエーリやハラー、モルコフを揃えるカチューシャはクリストフのために最速トレインを走らせるだろう。クリストフは今シーズンすでに5勝しており、このミラノ〜サンレモに万全の状態で挑むためにパリ〜ニースを途中リタイアしている。
「登れるスプリンター」の代名詞マシューズはパリ〜ニースでステージ2勝を飾るなど好調。しかしマシューズの前には世界チャンピオンのペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)やティレーノ〜アドリアティコ総合優勝者グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、そしてエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)が立ちはだかる。いずれもピュアスプリンターとは呼べないが、登坂能力の高さから、他のスプリンターよりもフレッシュな状態でスプリントに挑めるはず。
世界選手権以降の勝利数がゼロ、つまりアルカンシェルでの勝利を果たしていないサガンはブライスやベンナーティ、ガットのアシストを得る。ボアッソンハーゲンは優勝経験者カヴェンディッシュやRヤンセファンレンズバーグを従えての出場だ。
エリア・ヴィヴィアーニ(チームスカイ)やダヴィデ・チモライ(ランプレ・メリダ)、ヤコブ・マレツコ(サウスイースト)、ニッコーロ・ボニファツィオ(トレック・セガフレード)といったイタリアを代表するスプリンターの他、隣国フランスからは直前のパリ〜ニースで勝っているナセル・ブアニ(コフィディス)やアルノー・デマール(FDJ)が出場する。
ダークホースではなく本命の一人として注目したいのが初出場のフェルナンド・ガビリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)だ。21歳のオムニアム世界チャンピオンはティレーノでのステージ優勝を含めて今シーズンすでに4勝。ボーネンやスティバルといった経験豊かな選手にアシストされる俊足スプリンターが初のモニュメントに挑む。
スプリンターに対してチプレッサとポッジオで攻撃を仕掛けると見られるのがグランツールで総合優勝を争うようなオールラウンダーたち。消化不良のままティレーノを終えたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)やアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が積極的に動いてくるはず。
パリ〜ニースで総合優勝を飾ったゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)はまだサンレモで主だった成績を残していないが、その登坂力とスピードは他チームの脅威となるだろう。ティレーノで好調ぶりを示したミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド)とともに、ヴィヴィアーニのスプリント以外の選択肢をチームスカイにもたらす。
キャリア最後のミラノ〜サンレモを迎えるカンチェラーラはストラーデビアンケでの勝利を含めて今シーズン4勝。カンチェラーラに代表される独走力を備えたクラシックハンターたちが登り&下り&平地で決定的な動きを生む可能性も。ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・メリダ)、トニー・ギャロパン(ベルギー、ロット・ソウダル)、サイモン・クラーク(オーストラリア、キャノンデール)、ダヴィデ・レベッリン(イタリア、CCCスプランディポルコウィチェ)といったパンチャー系選手もレースを動かしてくるだろう。
レースの模様は3月19日(土)午後10:30からJSPORTS4で生中継される。
text:Kei Tsuji
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