2016/01/08(金) - 09:01
ローターが発表した新型パワーメーター内蔵クランクINPOWER。前回は過去のローターのパワーメーター内蔵クランクとの比較を中心にプレビューを行ったが、今回はローター製品のヘビーユーザーであるライター 浅野真則が実際に使用してみてのインプレッションをお届けする。
より楕円率の高いQ-XLリングでペダリング
ROTOR POWERとの違い
僕はローターが初めて出したパワーメーター内蔵クランク、ROTOR POWERを発売直後に購入し、決戦用バイクに装着して丸2シーズン以上使ってきた。数あるパワーメーターの中から、ROTOR POWERを選んだのには理由がある。
・Q-RINGS/QXLを開発したローター製のパワーメーターなので、これらの楕円チェーンリングとの相性が良い(他のパワーメーターは楕円型チェーンリングとの組み合わせに対応しないものもある)
・クランクベースのパワーメーターである。ホイールを変えても使えるので、練習でもレースでもパワー計測ができる。また、バイクの前後の重量バランスを崩さず、低重心化にも貢献するため、バイクの操縦安定性が向上することが期待できる
・3Dクランクの肉抜き穴にひずみセンサーを収めており、温度変化による影響を受けにくい。また、クランク内側にセンサーの出っ張りがないため、対応フレームも幅広く、フレーム買い換えの際も載せ替えがしやすい
以上のようなことが主な理由だ。
今回INPOWERが発売され、幸運にもいち早く使わせていただく機会を得た。今回はローター製品のヘビーユーザーという立場から、主にこれまで使ってきたROTOR POWERとの比較を中心にINPOWERをインプレしていきたい。
なお、インプレの条件はパワーメーターそのものの違いが分かるように、これまでROTOR POWERを搭載してきたバイクにそのままINPOWERをアッセンブルし、チェーンリングはどちらも同じQXLの52/36Tを装着した。なお、ここまでのINPOWERの解説は掲載済みの前編を参照して欲しい。
ローター INPOWERクランクセット。ノーマルとの違いは左クランクの付け根部だけだ
クランクシャフトの中心部にパワーメーターの電子部品や重量物が収まっている
ローター INPOWER であることが確認できるのはこのアンテナつき防水キャップのみ
INPOWERはROTOR POWERと同様、ローターが開発したクランクベースのパワーメーターだ。したがって、僕がROTOR POWERを選んだ際の3つの条件はクリアしている。ローターの楕円チェーンリングを愛用する僕にとっては、パワーメーターの選択肢がひとつ増えたことになる。
だが、中身は大きく変わっている。これまでのローター製パワーメーターとは構造が異なり、クランクシャフトの中にひずみセンサーやバッテリーを収めているので、非常に見た目がすっきりしている。チェーンリング側のクランクを見ると、パワーメーターが付いていることが分からない。すっきりしていてカッコイイと感じるか、これまでのパワーメーターのような外観の主張がないことを寂しいと感じるかは意見が分かれそうだ。
個人的にはクランクシャフトという回転軸の中心部にパワーメーターの電子部品や重量物が収まっているという構造は、いろいろな面で非常に理にかなっていると思う。
ローター INPOWERを装着して霧島高原周辺を走る
サイクリストなら誰もが羨む霧島高原を走る クランクシャフトにひずみセンサーやバッテリーを収めることで、これまでのモデル以上に防水・防塵性能は向上しているという。バッテリー収納部のキャップもシール性が見るからに高そうだ。雨のレースでも安心して使えそうだが、シクロクロス用クランクやMTB用クランクがラインナップされているように、オフロードでも安心して使えるというメリットも大きいだろう。
テストライドには西薗良太(ブリヂストンアンカー)も飛入り参加して霧島高原周辺を案内してくれた 回転軸に重量物が収まっているので、ペダリングが重くなるなどの悪影響がほとんどない、というメリットもある。重量物がクランクの回転軸から遠い部分、例えばペダルにあると、その重量物をペダルを1回転させるたびに下ろしては持ち上げる動作を繰り返すことになるので、余分な仕事を強いられることになる。シューズを軽量化しても、パワーメーターで重くなってしまっては意味がない。
実際にINPOWERを装着して、早くも1000km近く走り込んだが、パワーメーターを付けていることを全く感じさせないレベルで違和感がない。ヘッドユニットにパワーが表示されなければ、パワーメーターを付けていることさえ忘れそうだ。
また、ハブベースやペダルベースのパワーメーターのように、上りで重さを感じたり走りに微妙に影響を与えることもない。むしろ下りやコーナーではバイクコントロールを安定させてくれる方向に作用しているようにさえ感じる。
さらに、INPOWERは転倒時にも破損のリスクも少ない。パワーメーターに関する部品で外部に出ているのがアンテナぐらいなので、転倒した場合にも壊れにくいと考えられる。これに対し、ペダルベースのパワーメーターは転倒時に地面にぶつけやすく、破損のリスクも高い。
これだけ見ても、INPOWERはレースでも練習でもパワーメーターを使うようなヘビーユーザーにおすすめできる素性のよいパワーメーターであると言える。
ヘッドユニットとのレスポンスも改善
ガーミンなどのANT+機器と接続してモニタリングする これまでROTOR POWERを使っていて唯一不満だった点がある。ごく短時間に一気にトルクをかけた際に出る1秒間のピークパワーが、他社製のパワーメーターと比べて低く表示されがちなことだった。このため、30秒ぐらいまでの短時間高強度のパワー値は全体的に低めに出て、パワートレーニングをする上でストレスになっていたのだ。
ROTOR POWERはパワーやペダリングに関するさまざまなデータを左右独立して計測し、データを毎秒500回送信するという。他社製のパワーメーターと比べて圧倒的にデータ送信量が多いことがセールスポイントのひとつだった。しかし、ANT+という通信規格の限界なのか、はたまたヘッドユニット側の性能が追いついていないのか、それを十分に反映できているとは言えなかった。つまり“宝の持ち腐れ”状態だったのである。
しかし、最新のINPOWERでは、この違和感が解消されていた。短時間の高出力の出方も、他社製のパワーメーターと変わらなくなったし、長時間の平均パワーも安定して出ている。ストレスなく使えるというのは、非常に重要なことだと思う。
ローター INPOWER にQ-XLリングを取り付けた状態
Q-RINGSを使いこなしたいサイクリストにおすすめしたい
TORQUE360では、ペダリング1周の間のトルクの変化をグラフで表してくれる もうひとつ、忘れてはいけないINPOWERの特徴がある。それはパソコンの専用ソフトウェアが大幅に変わり、新たにOCとTORQUE360°というペダリング解析に関する新たな計測項目が追加されたことだ。
TORQUE360で計測した値に応じてQ-Ringsを取り付ける OCは、上死点を0°、踏み込み側の3時の位置を90°、下死点を180°としたとき、クランク1周の間にどの角度で最大トルクを発生しているかを表示するもの。この項目はQ-RINGSやQXLの仮想最大歯数が来る位置を調整するOCPを決めるのに非常に役立つのだ。
Q-RINGSやQXLは、楕円チェーンリングでは唯一、仮想最大歯数が来るポイントを3時から5時の位置で5段階に調整できるOCPという機能を備えている。ユーザーの乗り方やペダリング方法によって位相を変えられるため、楕円チェーンリングの仮想最大歯数というおいしいポイントを自分好みに調整できるというメリットがある。
しかし、これまではOCPの調整には500kmのテストライドが必要とされるなど、時間がかかるのが難点だった。また、最初にセッティングしたOCPの位置が自分に合っているのかどうか、客観的に判断するすべがなかった。
ところがOCを使えば、自分がペダリング中にいつ最大のトルクを発生させているかが一目瞭然だ。したがって、そのポイントで仮想最大歯数になるようにOCPを合わせれば、楕円チェーンリングの自分好みの「おいしいポイント」に合わせるのに時間がかからないし、真円チェーンリングから楕円チェーンリングに切り替える際も、それほど違和感を覚えることがないだろう。
TORQUE360°を用いればペダリングのトルク変動をグラフで確認できる
ローター INPOWERについてプレゼンテーションを行うダイアテックプロダクツの寺本俊介氏 また、TORQUE360°は、ペダリング1周の間のトルクの変化をグラフで表してくれる。グラフは2つの円からなり、大きい円が有効に作用する正のペダリングトルクとその大きさを表し、小さい円が反対側の脚が踏み脚の時に正のペダリングトルクを打ち消す負のペダリングトルクを表している。つまり、大きい円をなるべく大きく真円に近くし、小さい円をなるべく小さくすることが、効率のよいペダリングにつながるのだ。
この機能を活用すれば、引き脚局面で反対脚の重荷にならないように抜重する意識が養え、ペダリングスキルの向上に役立つ。惜しいのは、この機能がインドアでPCとペアリングしなければ使えないため、実走でリアルタイムに確認できるわけではないことだ。
このように、パワーメーターとしてはさらに完成度を高めてきた感があるINPOWER。かつてからROTOR POWERを使ってきたヘビーユーザーとしては不満がないわけではない。というのは、ROTOR POWERでは計測可能だった左右それぞれのパワー・トルク効率・ペダリングスムーズネス、左右バランスがINPOWERでは計測できないことだ。
この件については、ローターの日本の代理店であるダイアテックプロダクツは「ローターでは現在、INPOWERのデュアル化(左クランクではなく両側のクランクで独立して計測できるようにすること)に向けて開発を進めているようだ」と話していた。この話が1日も早く現実のものとなるよう、ローター製品のヘビーユーザーとしては、INPOWERのさらなる進化に期待したい。
ローター INPOWERを装着して霧島高原のアップダウンで実走行テストした
ローター INPOWER 徹底インプレッション 前編へ
動画で見るローター INPOWER&Q-RINGS プレゼンテーション
インプレライダープロフィール
浅野真則
プレゼンテーションで自身の体験を語る浅野真則 シクロワイアードをはじめとするWEBや自転車専門誌で執筆活動を行いながら、実業団登録選手として活動する業界屈指の実走派自転車ライター。ローター製品、中でも楕円チェーンリングの使用歴は6年以上で、Q-RINGSはもちろん、2年前からは楕円率を高めたQXLを愛用している。これに合わせるクランクベースのパワーメーターもROTOR POWERをチョイス。2014年にはQXLチェーンリングとROTOR POWERを搭載したバイクで、実業団3days熊野E2新宮ステージを含めて2つのレースで優勝した。
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ROTOR POWERとの違い
僕はローターが初めて出したパワーメーター内蔵クランク、ROTOR POWERを発売直後に購入し、決戦用バイクに装着して丸2シーズン以上使ってきた。数あるパワーメーターの中から、ROTOR POWERを選んだのには理由がある。
・Q-RINGS/QXLを開発したローター製のパワーメーターなので、これらの楕円チェーンリングとの相性が良い(他のパワーメーターは楕円型チェーンリングとの組み合わせに対応しないものもある)
・クランクベースのパワーメーターである。ホイールを変えても使えるので、練習でもレースでもパワー計測ができる。また、バイクの前後の重量バランスを崩さず、低重心化にも貢献するため、バイクの操縦安定性が向上することが期待できる
・3Dクランクの肉抜き穴にひずみセンサーを収めており、温度変化による影響を受けにくい。また、クランク内側にセンサーの出っ張りがないため、対応フレームも幅広く、フレーム買い換えの際も載せ替えがしやすい
以上のようなことが主な理由だ。
今回INPOWERが発売され、幸運にもいち早く使わせていただく機会を得た。今回はローター製品のヘビーユーザーという立場から、主にこれまで使ってきたROTOR POWERとの比較を中心にINPOWERをインプレしていきたい。
なお、インプレの条件はパワーメーターそのものの違いが分かるように、これまでROTOR POWERを搭載してきたバイクにそのままINPOWERをアッセンブルし、チェーンリングはどちらも同じQXLの52/36Tを装着した。なお、ここまでのINPOWERの解説は掲載済みの前編を参照して欲しい。
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INPOWERはROTOR POWERと同様、ローターが開発したクランクベースのパワーメーターだ。したがって、僕がROTOR POWERを選んだ際の3つの条件はクリアしている。ローターの楕円チェーンリングを愛用する僕にとっては、パワーメーターの選択肢がひとつ増えたことになる。
だが、中身は大きく変わっている。これまでのローター製パワーメーターとは構造が異なり、クランクシャフトの中にひずみセンサーやバッテリーを収めているので、非常に見た目がすっきりしている。チェーンリング側のクランクを見ると、パワーメーターが付いていることが分からない。すっきりしていてカッコイイと感じるか、これまでのパワーメーターのような外観の主張がないことを寂しいと感じるかは意見が分かれそうだ。
個人的にはクランクシャフトという回転軸の中心部にパワーメーターの電子部品や重量物が収まっているという構造は、いろいろな面で非常に理にかなっていると思う。
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実際にINPOWERを装着して、早くも1000km近く走り込んだが、パワーメーターを付けていることを全く感じさせないレベルで違和感がない。ヘッドユニットにパワーが表示されなければ、パワーメーターを付けていることさえ忘れそうだ。
また、ハブベースやペダルベースのパワーメーターのように、上りで重さを感じたり走りに微妙に影響を与えることもない。むしろ下りやコーナーではバイクコントロールを安定させてくれる方向に作用しているようにさえ感じる。
さらに、INPOWERは転倒時にも破損のリスクも少ない。パワーメーターに関する部品で外部に出ているのがアンテナぐらいなので、転倒した場合にも壊れにくいと考えられる。これに対し、ペダルベースのパワーメーターは転倒時に地面にぶつけやすく、破損のリスクも高い。
これだけ見ても、INPOWERはレースでも練習でもパワーメーターを使うようなヘビーユーザーにおすすめできる素性のよいパワーメーターであると言える。
ヘッドユニットとのレスポンスも改善
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しかし、最新のINPOWERでは、この違和感が解消されていた。短時間の高出力の出方も、他社製のパワーメーターと変わらなくなったし、長時間の平均パワーも安定して出ている。ストレスなく使えるというのは、非常に重要なことだと思う。
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しかし、これまではOCPの調整には500kmのテストライドが必要とされるなど、時間がかかるのが難点だった。また、最初にセッティングしたOCPの位置が自分に合っているのかどうか、客観的に判断するすべがなかった。
ところがOCを使えば、自分がペダリング中にいつ最大のトルクを発生させているかが一目瞭然だ。したがって、そのポイントで仮想最大歯数になるようにOCPを合わせれば、楕円チェーンリングの自分好みの「おいしいポイント」に合わせるのに時間がかからないし、真円チェーンリングから楕円チェーンリングに切り替える際も、それほど違和感を覚えることがないだろう。
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このように、パワーメーターとしてはさらに完成度を高めてきた感があるINPOWER。かつてからROTOR POWERを使ってきたヘビーユーザーとしては不満がないわけではない。というのは、ROTOR POWERでは計測可能だった左右それぞれのパワー・トルク効率・ペダリングスムーズネス、左右バランスがINPOWERでは計測できないことだ。
この件については、ローターの日本の代理店であるダイアテックプロダクツは「ローターでは現在、INPOWERのデュアル化(左クランクではなく両側のクランクで独立して計測できるようにすること)に向けて開発を進めているようだ」と話していた。この話が1日も早く現実のものとなるよう、ローター製品のヘビーユーザーとしては、INPOWERのさらなる進化に期待したい。
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ローター INPOWER 徹底インプレッション 前編へ
動画で見るローター INPOWER&Q-RINGS プレゼンテーション
インプレライダープロフィール
浅野真則
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