2015/12/02(水) - 19:08
11月21日~22日にわたって熊本県吉無田高原DHコースで開催されたDOWNHILL SERIES 第7戦。激戦のショートコースを制したのは、井手川直樹(AKI FACTORY/STRIDER)。前回の富士見に続き2連勝を飾った。
「最高です!」と笑顔が弾ける。Aフルコースを採用し、6分を越える超ロングコースだった富士見パノラマ大会から一転、優勝タイムが40秒台というショートコースでの開催となった第7戦吉無田高原。まったくタイプの異なるコースを完全攻略、2戦連続で勝利を手にしたのはベテラン・井手川直樹(AKI FACTORY/STRIDER)だった。
ダウンヒルシリーズ第7戦は11月21日、22日にかけて、熊本県吉無田高原DHコースで開催された。阿蘇の外輪山の外れにある会場は、20年以上前からMTBイベントが開かれている九州ダウンヒルシーンの歴史の中心でもある。コースが設定される丘は、見渡す限りカヤと笹が生え広がり、スタートからフィニッシュまで一度も森のなかに入らないという、不思議な景色のなかにある。
路面は火山灰の影響で真っ黒、表面の土は滑りやすく、しかしコツを掴めばグリップする。今年は昨年とはレイアウトを変え、レース時のみに使用する高速のジェットコースターセクションを採用。スタートしてから直線を駆け下り、大きな右コーナーと上り返しを経て、連続バーム、2つのテーブルトップ、最終コーナーという構成だ。
小雪が舞っていた昨年とは打って変わって、土曜日はポカポカ陽気。今年は、メーカーが5ブース、九州のショップが8ブース、地元の飲食店が2ブースと計15ブースが出展。フィニッシュエリアはいつになく賑やかで、九州のMTB熱の高さを物語る。
タイムドセッションでは、昨年の吉無田を制した井本はじめ(SRAM/LITEC)が45秒171のタイムで1位。2位には0.445秒差で井手川が、3位にはここ数戦表彰台から遠ざかっている安達靖(SRAM/LITEC)が入った。全クラスの総合リザルトで見ると、PROクラス4位の阿藤寛(Topknot racing)の後ろには、エリートクラスの福岡県・本村貴之(delsol/cleat/トクサガミネ)、広島県・田丸裕(SRAM/LITEC rising)が入った。
本村は現在42歳。30代からレースを始めたが、「練習の鬼」と呼ばれるほどに練習を積み、ジャパンシリーズでも予選でエリートクラス一桁に入る実力の持ち主。一方の田丸は17歳。今年からSRAM/LITECの育成チーム「rising」に所属し、ホームコースであるMIZUHO MTB PARKで開催された第5戦では優勝を期待されながらも下垣大樹(Lapierre/重力技研)に破れ、惜しくも2位となっている。西のライダー2人の負けられない闘いが、毎回激戦となるエリートクラスの今回の見所だ。
100%の雨予報だった日曜日。試走時間が終わる頃に20分ほどのお湿り程度の雨が降っただけで天候は回復したが、コースは不気味に濡れてしまった。少しの雨でもその影響は少なくなかったようで、試走とは変わってしまった路面コンディションに、滑ってコースアウトする選手も。
注目のエリートクラスでは、前日のタイムドセッションを走らなかった木村宏一(nu style海月)が47秒128というタイムを早い段階で出すと、その後、しばらくタイムは更新されない。残り2人となり、田丸がそれまでトップタイムを守っていた木村を2秒近く上回る45秒520というタイムで抜くと、コース脇で大きな歓声が上がった。
そしてすぐに、本村のスタート。目視ではどちらが速いとも分からない、負けず劣らずの走りでフィニッシュ。その瞬間、MCが45秒672とタイムを読み上げると、コースをじっとみつめていた田丸に安堵の笑みが浮かび、ブースエリアから大きな拍手が送られた。
第1戦十種ヶ峰では5位、第2戦SRAM PARKでは9位、その後練習中のケガを乗り越えながらも、第5戦で2位と悔しい思いをしてきた若者が、エリートクラス初優勝、そして念願だったPROクラスに挑戦する「下克上」の権利を得た。
そして、PROクラス。「下克上」田丸は45秒060とエリートクラス優勝時よりもタイムを伸ばしてフィニッシュ。そして、地元熊本が生んだトップライダーであり、タイムドセッションでは120%の境地を目指した結果、最下位に沈んだ浦上太郎(Transition Airlines/Cleat)がスタート。
「どれくらいのスピードなら曲がれるかを考えてスピードを落とすのではなく、できるだけスピードを上げたうえで、どうやったら曲がれるかを考えています」というレース前のコメント通り、初の44秒台、44秒850というタイムを出す。
続く阿藤、安達は45秒台でこのタイムに届かず。残り2人、井手川がフィニッシュし、44秒……770!と浦上を上回るタイムを出すと、会場は一瞬静まりかえったのち、大歓声。最終走者、井本が「ペダルがはまらなくて」とレース後に語ったように、上り返しでもたつく様子を見せ、フィニッシュすると46秒457。こうして、第6戦富士見パノラマに続き、井手川の優勝が決まった。
レース後、「コースが短いから、精神的にも技術的にも難しい。ショートコースでは、ミスしないように守って走っても勝てないから」と話し、会場については「よしむたキッズと呼ばれる子どもたちがたくさんいて、こういう環境があることが素晴らしいと思います。コースが全てじゃない。環境が大事。太郎君みたいなライダーがまた熊本から生まれるように、僕も応援しています。」と話した。
今回の総エントリーは85人。そのうち小学生が10人。中高生を含めると16人と、18歳以下の参加者が全参加者の2割弱を占める。昨年もたくさんのキッズが参加してくれたが、今年はそれを上回った。この会場内にはyans こと柳原氏が監修した常設の「体験コース」「パンプトラック」「ダートジャンプコース」が作られており、週末になるとここに走りに来る子どもたちがたくさんいる。
その子どもたちが競い合い、そしてローカルライダーが育っていくという形が出来上がりつつある。試走中には、走るラインを決めきれず、プレッシャーで泣き出してしまった地元キッズライダーに井手川が一緒にコースを見に行き、アドバイスをする光景も見られた。
年に一回プロライダーがやってきて自分たちと同じコースを走り、圧倒的な速さを見せつける。それをコース脇でぽかんと眺めるキッズ達の目が、なんともいえない憧れで輝いていたのを見て、DOWNHILL SERIESが目指している形に少しずつではあるが一歩ずつ近づいているのかもしれないと、強く感じた大会となった。
【他クラス優勝者】
XCバイククラス:岡山優太(MASAYA Bicycle Works) 56秒274
ファーストタイマー男子クラス:大栗秀介(人生下り坂) 53秒530
スポーツ女子クラス:荒木昌子 1分45秒718
スポーツ男子クラス:川本大輔(ちゅう吉福山DH部) 48秒638
エキスパート女子クラス:崎野真子 1分00秒814
エキスパート男子クラス:山田将輝(Limited846/LITEC) 48秒094
エリート女子クラス:末政実緒(SRAM/LITEC) 50秒467
report:DOWNHILL SERIES
photo:DOWNHILL SERIES/Hiroyuki NAKAGAWA
「最高です!」と笑顔が弾ける。Aフルコースを採用し、6分を越える超ロングコースだった富士見パノラマ大会から一転、優勝タイムが40秒台というショートコースでの開催となった第7戦吉無田高原。まったくタイプの異なるコースを完全攻略、2戦連続で勝利を手にしたのはベテラン・井手川直樹(AKI FACTORY/STRIDER)だった。
ダウンヒルシリーズ第7戦は11月21日、22日にかけて、熊本県吉無田高原DHコースで開催された。阿蘇の外輪山の外れにある会場は、20年以上前からMTBイベントが開かれている九州ダウンヒルシーンの歴史の中心でもある。コースが設定される丘は、見渡す限りカヤと笹が生え広がり、スタートからフィニッシュまで一度も森のなかに入らないという、不思議な景色のなかにある。
路面は火山灰の影響で真っ黒、表面の土は滑りやすく、しかしコツを掴めばグリップする。今年は昨年とはレイアウトを変え、レース時のみに使用する高速のジェットコースターセクションを採用。スタートしてから直線を駆け下り、大きな右コーナーと上り返しを経て、連続バーム、2つのテーブルトップ、最終コーナーという構成だ。
小雪が舞っていた昨年とは打って変わって、土曜日はポカポカ陽気。今年は、メーカーが5ブース、九州のショップが8ブース、地元の飲食店が2ブースと計15ブースが出展。フィニッシュエリアはいつになく賑やかで、九州のMTB熱の高さを物語る。
タイムドセッションでは、昨年の吉無田を制した井本はじめ(SRAM/LITEC)が45秒171のタイムで1位。2位には0.445秒差で井手川が、3位にはここ数戦表彰台から遠ざかっている安達靖(SRAM/LITEC)が入った。全クラスの総合リザルトで見ると、PROクラス4位の阿藤寛(Topknot racing)の後ろには、エリートクラスの福岡県・本村貴之(delsol/cleat/トクサガミネ)、広島県・田丸裕(SRAM/LITEC rising)が入った。
本村は現在42歳。30代からレースを始めたが、「練習の鬼」と呼ばれるほどに練習を積み、ジャパンシリーズでも予選でエリートクラス一桁に入る実力の持ち主。一方の田丸は17歳。今年からSRAM/LITECの育成チーム「rising」に所属し、ホームコースであるMIZUHO MTB PARKで開催された第5戦では優勝を期待されながらも下垣大樹(Lapierre/重力技研)に破れ、惜しくも2位となっている。西のライダー2人の負けられない闘いが、毎回激戦となるエリートクラスの今回の見所だ。
100%の雨予報だった日曜日。試走時間が終わる頃に20分ほどのお湿り程度の雨が降っただけで天候は回復したが、コースは不気味に濡れてしまった。少しの雨でもその影響は少なくなかったようで、試走とは変わってしまった路面コンディションに、滑ってコースアウトする選手も。
注目のエリートクラスでは、前日のタイムドセッションを走らなかった木村宏一(nu style海月)が47秒128というタイムを早い段階で出すと、その後、しばらくタイムは更新されない。残り2人となり、田丸がそれまでトップタイムを守っていた木村を2秒近く上回る45秒520というタイムで抜くと、コース脇で大きな歓声が上がった。
そしてすぐに、本村のスタート。目視ではどちらが速いとも分からない、負けず劣らずの走りでフィニッシュ。その瞬間、MCが45秒672とタイムを読み上げると、コースをじっとみつめていた田丸に安堵の笑みが浮かび、ブースエリアから大きな拍手が送られた。
第1戦十種ヶ峰では5位、第2戦SRAM PARKでは9位、その後練習中のケガを乗り越えながらも、第5戦で2位と悔しい思いをしてきた若者が、エリートクラス初優勝、そして念願だったPROクラスに挑戦する「下克上」の権利を得た。
そして、PROクラス。「下克上」田丸は45秒060とエリートクラス優勝時よりもタイムを伸ばしてフィニッシュ。そして、地元熊本が生んだトップライダーであり、タイムドセッションでは120%の境地を目指した結果、最下位に沈んだ浦上太郎(Transition Airlines/Cleat)がスタート。
「どれくらいのスピードなら曲がれるかを考えてスピードを落とすのではなく、できるだけスピードを上げたうえで、どうやったら曲がれるかを考えています」というレース前のコメント通り、初の44秒台、44秒850というタイムを出す。
続く阿藤、安達は45秒台でこのタイムに届かず。残り2人、井手川がフィニッシュし、44秒……770!と浦上を上回るタイムを出すと、会場は一瞬静まりかえったのち、大歓声。最終走者、井本が「ペダルがはまらなくて」とレース後に語ったように、上り返しでもたつく様子を見せ、フィニッシュすると46秒457。こうして、第6戦富士見パノラマに続き、井手川の優勝が決まった。
レース後、「コースが短いから、精神的にも技術的にも難しい。ショートコースでは、ミスしないように守って走っても勝てないから」と話し、会場については「よしむたキッズと呼ばれる子どもたちがたくさんいて、こういう環境があることが素晴らしいと思います。コースが全てじゃない。環境が大事。太郎君みたいなライダーがまた熊本から生まれるように、僕も応援しています。」と話した。
今回の総エントリーは85人。そのうち小学生が10人。中高生を含めると16人と、18歳以下の参加者が全参加者の2割弱を占める。昨年もたくさんのキッズが参加してくれたが、今年はそれを上回った。この会場内にはyans こと柳原氏が監修した常設の「体験コース」「パンプトラック」「ダートジャンプコース」が作られており、週末になるとここに走りに来る子どもたちがたくさんいる。
その子どもたちが競い合い、そしてローカルライダーが育っていくという形が出来上がりつつある。試走中には、走るラインを決めきれず、プレッシャーで泣き出してしまった地元キッズライダーに井手川が一緒にコースを見に行き、アドバイスをする光景も見られた。
年に一回プロライダーがやってきて自分たちと同じコースを走り、圧倒的な速さを見せつける。それをコース脇でぽかんと眺めるキッズ達の目が、なんともいえない憧れで輝いていたのを見て、DOWNHILL SERIESが目指している形に少しずつではあるが一歩ずつ近づいているのかもしれないと、強く感じた大会となった。
【他クラス優勝者】
XCバイククラス:岡山優太(MASAYA Bicycle Works) 56秒274
ファーストタイマー男子クラス:大栗秀介(人生下り坂) 53秒530
スポーツ女子クラス:荒木昌子 1分45秒718
スポーツ男子クラス:川本大輔(ちゅう吉福山DH部) 48秒638
エキスパート女子クラス:崎野真子 1分00秒814
エキスパート男子クラス:山田将輝(Limited846/LITEC) 48秒094
エリート女子クラス:末政実緒(SRAM/LITEC) 50秒467
report:DOWNHILL SERIES
photo:DOWNHILL SERIES/Hiroyuki NAKAGAWA
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