最大勾配13%の石畳坂「23番通り」でスロバキアジャージがアタック。一発の加速でライバルたちを振り切ったペーター・サガン(スロバキア)がフィニッシュまで独走し、念願の世界タイトルを手にした。集団スプリントで新城幸也が17位に入っている。



リッチモンド大学の敷地内をスタートしていく選手たちリッチモンド大学の敷地内をスタートしていく選手たち photo:Kei Tsuji
日本代表チームとしてエリート男子ロードレースに出場する別府史之、内間康平、新城幸也日本代表チームとしてエリート男子ロードレースに出場する別府史之、内間康平、新城幸也 photo:Kei Tsuji空の様子を確かめる新城幸也(ユーロップカー)空の様子を確かめる新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji


アメリカ国旗が選手たちを出迎えるアメリカ国旗が選手たちを出迎える photo:Kei Tsujiロード世界選手権を締めくくるエリート男子ロードレース。リッチモンド郊外のリッチモンド大学の敷地内をスタートし、16.2kmの周回コースを15周する全長261.4kmコースが世界チャンピオンを選び出す。

リッチモンド駅を通過するプロトンリッチモンド駅を通過するプロトン photo:Kei Tsuji選手たちの懸念事項であった天候は曇時々晴れ。雷雨もしくは嵐という天気予報は見事に覆り、晴れ間も出るほどの陽気がリッチモンドを包んだ。流れる雨雲が小雨を降らすシーンも見られたが、路面はドライな状態が保たれた。

逃げグループを率いるベン・キング(アメリカ)逃げグループを率いるベン・キング(アメリカ) photo:Kei Tsujiレース前半の主役を担ったのはリッチモンド出身のベン・キング(アメリカ)だった。パク・ソンベク(韓国)やジェシー・サージェント(ニュージーランド)ら7名を従えてキングがエスケープを敢行する。しかしアメリカチームが逃げに選手を乗せたため、周回コースの1周目からオランダがメイン集団を牽引。距離の長さから20分近いタイム差が生まれることも珍しくない世界選手権で、タイム差は5分以内に抑え込まれた。

オランダが牽引するメイン集団が平坦路を駆け抜けるオランダが牽引するメイン集団が平坦路を駆け抜ける photo:Kei Tsuji落ち着く暇もなく追走を続けたメイン集団は、フィニッシュまで5周回を残して早くも逃げを捕まえてしまう。アメリカチームは引き続き逃げの姿勢を見せ、テイラー・フィニー(アメリカ)、カンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ)、ギヨーム・ボワヴァン(カナダ)がエスケープを開始。アメリカンロックが大音量で流れ、カウベルが響く「リビーヒル」はフィニーの先行に沸いたが、この逃げも長続きしなかった。

残り3周回に入って加速するプロトン内では補給ポイントで落車が発生する。落車で前後を塞がれた内間康平(ブリヂストンアンカー)は再スタートに時間がかかり、一旦集団に復帰したものの石畳の登りでストップした前走者に前を塞がれて脱落。別府史之(トレックファクトリーレーシング)は集団前方で展開していたものの、体調不良によって中盤にレースを降りた。

フィニーらの逃げを捕まえたメイン集団はイアン・スタナード(イギリス)のアタックによって分裂。スタナードにアンドレイ・アマドール(コスタリカ)、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)、バウク・モレマ(オランダ)、トム・ボーネン(ベルギー)、ダニエル・モレーノ(スペイン)、そしてディフェンディングチャンピオンのミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド)という強力な7名が追いついて先行し、メイン集団から30秒のリードを稼ぎ出す。

エース級によって構成された逃げグループを、スプリンター(デゲンコルブとマシューズ)擁するドイツとオーストラリアが猛烈な勢いで追走。フランドルを彷彿とさせる走りで「リビーヒル」の石畳を先頭で駆け上がったボーネンも結局はメイン集団に吸収される。60名に絞られた状態でレースは最終周回に入った。



「23番通り」の石畳をこなすプロトン「23番通り」の石畳をこなすプロトン photo:Kei Tsuji
メイン集団のペースを上げるイアン・スタナード(イギリス)メイン集団のペースを上げるイアン・スタナード(イギリス) photo:Kei Tsuji観客が詰めかけた「リビーヒル」を登るプロトン観客が詰めかけた「リビーヒル」を登るプロトン photo:Kei Tsuji
逃げグループを率いるトム・ボーネン(ベルギー)逃げグループを率いるトム・ボーネン(ベルギー) photo:Tim de Waele残り3周の「リビーヒル」を登るペーター・サガン(スロバキア)と新城幸也(ユーロップカー)残り3周の「リビーヒル」を登るペーター・サガン(スロバキア)と新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiベルギーチーム率いるメイン集団が「リビーヒル」を進むベルギーチーム率いるメイン集団が「リビーヒル」を進む photo:Kei Tsuji


集団内で最終周回に向かう新城幸也(ユーロップカー)集団内で最終周回に向かう新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiタイラー・ファラー(アメリカ)とシウトソウによる最終周回のエスケープもイタリアチームとベルギーチームによって封印される。最後の「リビーヒル」でゼネク・スティバル(チェコ)が強力なアタックを仕掛けたものの、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)、グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)、ニキ・テルプストラ(オランダ)らを振り切ることは出来ない。

最終周回にアタックするタイラー・ファラー(アメリカ)最終周回にアタックするタイラー・ファラー(アメリカ) photo:Tim de Waeleそして迎えた「23番通り」でファンアフェルマートがアタックすると、その後ろから飛び出したのがサガンだった。急勾配の石畳坂で勢いよくアタックしたサガンが、ファンアフェルマートやテルプストラから数秒リードして頂上をクリア。そのまま下り区間を攻めたサガンが瞬く間にリードを広げ、残り1kmから始まる「ガヴァナー通り」の登りに差し掛かった。

最終周回の「23番通り」でアタックするペーター・サガン(スロバキア)最終周回の「23番通り」でアタックするペーター・サガン(スロバキア) photo:Tim de Waeleサガンから5秒ほど遅れてフラムルージュを通過したメイン集団からリゴベルト・ウラン(コロンビア)がアタックするも届かない。苦しい表情を見せながらもリードを守って登りを終えたサガンが、迫り来る集団を背に最終ストレートを駆け抜ける。後方を確認し、勝利を確信したサガンがフィニッシュライン手前で両手を広げた。

「キャリアの中で最大の勝利」。その輝かしい戦歴に世界チャンピオンのタイトルを加えたサガンがレース後のインタビューでそう言い切った。「アンビリーバブルな勝利。多くの犠牲の上にこの勝利は成り立っている」。

表彰式の最中、サガンは観客の中にレースを終えた兄のユライ・サガンを見つけ、表彰台を飛び降りて駆け寄る。スロバキアはサガン兄弟とミカル・コラーの3人で世界一を掴み取った。

長く伸びた髪をかきあげながらアルカンシェルを受け取ったサガンは「今日は待って待って、待った。何か起こった時に対応できるように、兄(ユライ・サガン)とミカルは常にそばにいてくれたんだ。誰もが疲れ切っていたと思う中で、最後の石畳坂で全開アタックした。仮に集団に捕まってしまうと、消耗していたのでスプリント出来なかったと思う。正しいタイミングでのアタックだった。今から1年間このレインボージャージを着るのは感慨深いよ」といつもの不敵な笑みを浮かべて語った。



独走でフィニッシュに飛び込むペーター・サガン(スロバキア)独走でフィニッシュに飛び込むペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji
集団はマイケル・マシューズ(オーストラリア)を先頭にフィニッシュ集団はマイケル・マシューズ(オーストラリア)を先頭にフィニッシュ photo:Kei Tsujiボーネンらに祝福されるペーター・サガン(スロバキア)ボーネンらに祝福されるペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji
弟の表彰式を見守るユライ・サガン(スロバキア)弟の表彰式を見守るユライ・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji金メダルの喜びを噛みしめるペーター・サガン(スロバキア)金メダルの喜びを噛みしめるペーター・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji
3名でアルカンシェルを手にしたスロバキア3名でアルカンシェルを手にしたスロバキア photo:Kei Tsuji


集団中ほどの17位でフィニッシュする新城幸也(ユーロップカー)集団中ほどの17位でフィニッシュする新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiサガンの後方でフィニッシュした集団の中に、苦しい表情を浮かべる新城の姿があった。フィニッシュ地点の電光掲示では16位と表示されたが、結果は17位。レース後すぐに新城は「(ジュニア女子の梶原悠未に)日本人最高位の記録を更新されてしまったから更新し返そうと思ったのに!4位が遠い!」と冗談交じりで笑いながら語った。

17位でレースを終えた新城幸也(ユーロップカー)17位でレースを終えた新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji「サイモン・ゲランスとマイケル・マシューズの番手をとったものの、残り1kmからの登りで埋もれてポジションを落としてしまいました。そして最終コーナーで中切れにあい、ひとりで距離を埋めてそのままスプリントしたけど届かなかった。前の集団に入っていれば10位以内に入っていたかも知れないのに」と悔やむ。

黒く汚れた新城幸也(ユーロップカー)の脚黒く汚れた新城幸也(ユーロップカー)の脚 photo:Kei Tsuji新城の理想の展開は、残り3周回で形成されたボーネンを含む先行グループに入ることだった。しかし位置取りの関係でアタックに反応出来なかったため集団内に待機。最後のスプリント勝負に切り替えた。

9位に入った2010年オーストラリア・ジーロング大会以来のロード世界選手権完走。「大好き」というサバイバルレースの最後の最後に、一発の加速力の欠如が順位に響いたと新城は分析する。

「期待だけさせておいてリタイアの世界選が続いたので、誰もが狙うレースで結果を残せたという意味では満足です。でも260kmを走った後のスプリント力が足りなかった。ブエルタを終えて登りを楽にこなせる身体になったものの、スプリントに向けたトレーニングを積むべきだったのかも知れません」。

「今シーズンは怪我があったから後半に伸びた。ここまで頭も疲れていないのは初めて。このコンディションで結果を残したい」と語る新城はレース翌日にフランスに帰国し、ツール・ド・ヴァンデ、パリ〜ボージュ、パリ〜トゥールを走る予定だ。



集団内で登りをこなす別府史之(トレックファクトリーレーシング)集団内で登りをこなす別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji落車の影響で集団から脱落した内間康平(ブリヂストンアンカー)落車の影響で集団から脱落した内間康平(ブリヂストンアンカー) photo:Kei Tsuji




UCIロード世界選手権2015ロードレース エリート男子結果
1位 ペーター・サガン(スロバキア)           6h14’37”
2位 マイケル・マシューズ(オーストラリア)         +03”
3位 ラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア)
4位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)
6位 サイモン・ゲランス(オーストラリア)
7位 トニー・ギャロパン(フランス)
8位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド)
9位 ルイ・コスタ(ポルトガル)
10位 フィリップ・ジルベール(ベルギー)
11位 トム・ドゥムラン(オランダ)
12位 アレックス・ハウズ(アメリカ)
13位 ニキ・テルプストラ(オランダ)
14位 レイン・ターラマエ(エストニア)
15位 ヴィチェスラフ・クズネツォフ(ロシア)
16位 ネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル)
17位 新城幸也(ユーロップカー)
18位 ジャコモ・ニッツォロ(イタリア)
19位 ブレント・ブックウォルター(アメリカ)
20位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)
DNF 内間康平(ブリヂストンアンカー)
DNF 別府史之(トレックファクトリーレーシング)

text&photo:Kei Tsuji in Richmond, USA

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