2015/09/02(水) - 15:39
速さだけではない「楽しさ」への原点回帰をもとに誕生したグラベルロードやセミファットMTBといったクロスオーバーなジャンルが確立。一方で電動コンポやE-Bikeなど「自転車の電化」が更に加速した感のある今回のユーロバイク。世界最大のサイクルショーを現地取材して見えた次のトレンドを紹介する。
スイスとオーストリアとの国境に近い、ドイツの南部の街・フリードリヒスハーフェン。アルプス地方では二番目に大きいボーデン湖を臨み、辺りにはりんご畑と麦畑が広がる風光明媚な土地が、世界最大の自転車ショーこと「ユーロバイク」の開催地である。今年で24回目の開催を迎えた。
そもそもユーロバイクとは、世界各国の自転車に関連するメーカーが集結する商業見本市である。今年は53の国と地域から1,530もの企業が出展。北米系自転車メーカーをはじめとした一部の有名どころを除いては、ほぼ全てのスポーツバイク関連メーカーが集結したといっても過言ではないだろう。また、この中には台湾のOEM系メーカーや、イタリアのウェア系素材メーカーも含まれている。
一方の来場は、ディストリビューターやドイツ国内のショップ関係者を中心に3日間ビジネスデイで45,870人をマークし、メディアの数は39カ国から1,766人に。最終日の一般公開日には20,730人ものサイクリストが会場のメッセ・フリードリヒスハーフェンへと足を運んだ。
楽しさへの原点回帰をもとに誕生したクロスオーバージャンル、コンポにE-Bikeと加速する自転車の電化
サイクリストにとっての「楽しさ」とはなんだろうか。己のスピードの限界に挑戦すること、ヒルクライムでタイムを縮めること、はたまた街中を流すこと。全てが正解だ。しかし、世界のサイクリストはもっと壮大な「アドベンチャー」に目を向け、そこに楽しさを見出しているといえるだろう。
例えば、ロードでは走れないけど、MTBではもの足りない長距離のオフロードがあって、レースみたいにスピードを出すわけではないから、バイクにはシクロクロスよりも太いタイヤを履かせたいし、キャリアも装着したいとする。これまでにもそういった需要をみたしてくれるバイクは確かにあったが、どれも廉価帯で、重量のあるものが中心だった。
しかし、そういった用途を満たし、フルカーボン製で、ピュアなレーシングCXほどでないにしても、軽量な「グラベルロード」と言われる様なバイクが今回のユーロバイクでは多くのメーカーから登場した。展示プロダクトの中から特に優れたものを表彰する「ユーロバイクアワード」には、いわゆるグラベルロードと呼ばれる、ロードライクなフレームにワイドタイヤを組み合わせたマルチパーパスなバイクが2台入った。
その1つが、すでにシクロワイアードでもインプレッションをお届けしたキャノンデールの「Slate」。30mmストロークのフロントサスに、650x42Bというハイボリュームなタイヤを組み合わせた、他に類を見ない1台である。そして、もう一つが超軽量XCフレームをリリースしてきたオープンサイクルの新機軸ともいうべき「U.P.」。レースバイクのテクノロジーを取り入れ、ドロップハンドルを装備しながらも、タイヤはクロスカントリーMTB用の27.5x2.25インチとしている。
グラベルロードの普及には、コンポーネントが大きく影響している。スラムとシマノが2013年にドロップハンドル対応の油圧ブレーキレバーをリリースしたことで、オフロードバイクとオンロードバイクとの間にあったボーダーが一気に低くなり、ロードパーツとMTBパーツとの組み合わせが容易となった。当初はシクロクロス用の専門的なパーツという見方が強かったが、リリースから2年を経た今にしてみれば、新たなジャンルを生み出したエポックメイキングなパーツといっても過言ではないだろう。
グラベルロードと同じくワイドタイヤという点では、MTBではセミファットタイヤが流行の兆しをみせている。一般的には「27.5+」「29+」とよばれ、ファットバイクとXC系の中間的なタイヤの太さ(おおよそ2.8~3.2インチ程度)が特徴だ。スコットは3モデルを登場させたほか、MTBに強いメーカー北米系メーカーもほぼ全てといってよいほどセミファットバイクをラインアップに加えてきている。
普及の背景には、技術の進歩により、ワイドなタイヤであってもスポーツバイクらしい軽快な走りを実現できるようになり、それがファットタイヤブームによって認知されてきたことが挙げられるだろう。加えてタイヤが太ければ、その分だけ安全であり、XCバイクではハードな荒れた路面でも「楽しく」走れる様になるし、トレイルへのアプローチがファットバイクなどよりも容易になる。
原点回帰的なコンセプトのバイクが目立った一方で、テクノロジーの進化は留まることを知らない。今回のユーロバイクの中でも最も注目を集めたプロダクトの1つがスラムのロード用ワイヤレスコンポーネント「RED eTap」。また展示こそされなかったものの、FSAもツール・ド・フランスよりテストを開始したセミワイヤレスコンポーネントをメディア向けに公開した。
また、「E-Bike」と呼ばれる電動アシストバイクの市場も順調に伸びており、一般公開日に来場した現地の熟年サイクリストの多さに、その勢いを感じることができた。そしてメーカーサイドも大きな市場と捉えており、パワーユニット市場において圧倒的なシェアを誇るボッシュに続けと、様々な電機メーカーが参入。
日本からはパナソニックや日本電産コパル、韓国からはサムスンやLGが出展した。加えてシマノも積極的で、ロードやMTBの外装変速コンポではなく、内装変速コンポーネント「Alfine Di2」との連携を強化した電動アシストユニット「STePS」を展示の目玉とした。
日本国内のマーケットのほとんどを占めるロードバイクにおいては、ディスクブレーキが注目を集めた。「IZALCO MAX DISC」でユーロバイクアワードを獲得したフォーカスを筆頭に、ピナレロ、サーヴェロなどがピュアレーシングモデルでディスク仕様をラインアップ。
パーツ面ではディスク仕様のロードに向けたアイテムが増えており、今年春にシマノが正式発表したブレーキ台座の新規格「フラットマウント」に対応したブレーキがTRPとスラムから登場。ホイールも増えており、マヴィックやフルクラムがカーボンリム採用の上位グレードを発表した。
ただ、ローター径やスルーアクスルのサイズなど、標準規格が未だ定まっていないことから、製品化に手をこまねいているブランドも少なくない。ともにレーシングモデルでディスクブレーキ仕様をラインアップしていないリドレーとキャニオンの担当者は「技術的に問題はなく、標準規格さえ決まればいつでもリリースできる」と語っている。
その他、ライダーの安全性を高める高照度なライトやリフレクターを用いたアパレル、ロードバイクにおけるエアロダイナミクスの追求やチューブレス対応タイヤ&ホイールの普及、蛍光カラーなどもトレンドといえよう。各メーカーブ―スで見つけたホットなプロダクトは、後日公開のフォトレポートにて紹介していく。
text&photo:Yuya.Yamamoto
スイスとオーストリアとの国境に近い、ドイツの南部の街・フリードリヒスハーフェン。アルプス地方では二番目に大きいボーデン湖を臨み、辺りにはりんご畑と麦畑が広がる風光明媚な土地が、世界最大の自転車ショーこと「ユーロバイク」の開催地である。今年で24回目の開催を迎えた。
そもそもユーロバイクとは、世界各国の自転車に関連するメーカーが集結する商業見本市である。今年は53の国と地域から1,530もの企業が出展。北米系自転車メーカーをはじめとした一部の有名どころを除いては、ほぼ全てのスポーツバイク関連メーカーが集結したといっても過言ではないだろう。また、この中には台湾のOEM系メーカーや、イタリアのウェア系素材メーカーも含まれている。
一方の来場は、ディストリビューターやドイツ国内のショップ関係者を中心に3日間ビジネスデイで45,870人をマークし、メディアの数は39カ国から1,766人に。最終日の一般公開日には20,730人ものサイクリストが会場のメッセ・フリードリヒスハーフェンへと足を運んだ。
楽しさへの原点回帰をもとに誕生したクロスオーバージャンル、コンポにE-Bikeと加速する自転車の電化
サイクリストにとっての「楽しさ」とはなんだろうか。己のスピードの限界に挑戦すること、ヒルクライムでタイムを縮めること、はたまた街中を流すこと。全てが正解だ。しかし、世界のサイクリストはもっと壮大な「アドベンチャー」に目を向け、そこに楽しさを見出しているといえるだろう。
例えば、ロードでは走れないけど、MTBではもの足りない長距離のオフロードがあって、レースみたいにスピードを出すわけではないから、バイクにはシクロクロスよりも太いタイヤを履かせたいし、キャリアも装着したいとする。これまでにもそういった需要をみたしてくれるバイクは確かにあったが、どれも廉価帯で、重量のあるものが中心だった。
しかし、そういった用途を満たし、フルカーボン製で、ピュアなレーシングCXほどでないにしても、軽量な「グラベルロード」と言われる様なバイクが今回のユーロバイクでは多くのメーカーから登場した。展示プロダクトの中から特に優れたものを表彰する「ユーロバイクアワード」には、いわゆるグラベルロードと呼ばれる、ロードライクなフレームにワイドタイヤを組み合わせたマルチパーパスなバイクが2台入った。
その1つが、すでにシクロワイアードでもインプレッションをお届けしたキャノンデールの「Slate」。30mmストロークのフロントサスに、650x42Bというハイボリュームなタイヤを組み合わせた、他に類を見ない1台である。そして、もう一つが超軽量XCフレームをリリースしてきたオープンサイクルの新機軸ともいうべき「U.P.」。レースバイクのテクノロジーを取り入れ、ドロップハンドルを装備しながらも、タイヤはクロスカントリーMTB用の27.5x2.25インチとしている。
グラベルロードの普及には、コンポーネントが大きく影響している。スラムとシマノが2013年にドロップハンドル対応の油圧ブレーキレバーをリリースしたことで、オフロードバイクとオンロードバイクとの間にあったボーダーが一気に低くなり、ロードパーツとMTBパーツとの組み合わせが容易となった。当初はシクロクロス用の専門的なパーツという見方が強かったが、リリースから2年を経た今にしてみれば、新たなジャンルを生み出したエポックメイキングなパーツといっても過言ではないだろう。
グラベルロードと同じくワイドタイヤという点では、MTBではセミファットタイヤが流行の兆しをみせている。一般的には「27.5+」「29+」とよばれ、ファットバイクとXC系の中間的なタイヤの太さ(おおよそ2.8~3.2インチ程度)が特徴だ。スコットは3モデルを登場させたほか、MTBに強いメーカー北米系メーカーもほぼ全てといってよいほどセミファットバイクをラインアップに加えてきている。
普及の背景には、技術の進歩により、ワイドなタイヤであってもスポーツバイクらしい軽快な走りを実現できるようになり、それがファットタイヤブームによって認知されてきたことが挙げられるだろう。加えてタイヤが太ければ、その分だけ安全であり、XCバイクではハードな荒れた路面でも「楽しく」走れる様になるし、トレイルへのアプローチがファットバイクなどよりも容易になる。
原点回帰的なコンセプトのバイクが目立った一方で、テクノロジーの進化は留まることを知らない。今回のユーロバイクの中でも最も注目を集めたプロダクトの1つがスラムのロード用ワイヤレスコンポーネント「RED eTap」。また展示こそされなかったものの、FSAもツール・ド・フランスよりテストを開始したセミワイヤレスコンポーネントをメディア向けに公開した。
また、「E-Bike」と呼ばれる電動アシストバイクの市場も順調に伸びており、一般公開日に来場した現地の熟年サイクリストの多さに、その勢いを感じることができた。そしてメーカーサイドも大きな市場と捉えており、パワーユニット市場において圧倒的なシェアを誇るボッシュに続けと、様々な電機メーカーが参入。
日本からはパナソニックや日本電産コパル、韓国からはサムスンやLGが出展した。加えてシマノも積極的で、ロードやMTBの外装変速コンポではなく、内装変速コンポーネント「Alfine Di2」との連携を強化した電動アシストユニット「STePS」を展示の目玉とした。
日本国内のマーケットのほとんどを占めるロードバイクにおいては、ディスクブレーキが注目を集めた。「IZALCO MAX DISC」でユーロバイクアワードを獲得したフォーカスを筆頭に、ピナレロ、サーヴェロなどがピュアレーシングモデルでディスク仕様をラインアップ。
パーツ面ではディスク仕様のロードに向けたアイテムが増えており、今年春にシマノが正式発表したブレーキ台座の新規格「フラットマウント」に対応したブレーキがTRPとスラムから登場。ホイールも増えており、マヴィックやフルクラムがカーボンリム採用の上位グレードを発表した。
ただ、ローター径やスルーアクスルのサイズなど、標準規格が未だ定まっていないことから、製品化に手をこまねいているブランドも少なくない。ともにレーシングモデルでディスクブレーキ仕様をラインアップしていないリドレーとキャニオンの担当者は「技術的に問題はなく、標準規格さえ決まればいつでもリリースできる」と語っている。
その他、ライダーの安全性を高める高照度なライトやリフレクターを用いたアパレル、ロードバイクにおけるエアロダイナミクスの追求やチューブレス対応タイヤ&ホイールの普及、蛍光カラーなどもトレンドといえよう。各メーカーブ―スで見つけたホットなプロダクトは、後日公開のフォトレポートにて紹介していく。
text&photo:Yuya.Yamamoto
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