2015/07/23(木) - 18:48
40年前の1975年、この日のフィニッシュ地点プラ・ルーにおいてエディ・メルクスがマイヨジョーヌを失い、陥落した。そんな歴史的エピソードのある峠と危険なアロス峠の下り。落ちたのはダブルツールの夢を見るコンタドールだった。
思い詰めた表情でスタート前にアップするアルベルト・コンタドール(ティンコフ・サクソ) photo:Makoto.AYANO
当日の朝10時、主催者ASOの担当者からメディア関係者に向けて急遽「アロス峠への通行を認めない」というメールが届いた。理由はちょうどフィニッシュ時間帯の天候の悪化が心配されるなか、コースの安全を最大限に確保するため。幅員が極端に狭いアロスでは車両スタックやトラブルが許されない。フィニッシュのプラ・ルーも、チーム車両と限られた関係車両のみに限定通行。かくして我々もプランを大幅に変えて動くことに。
チームスカイはほぼ全員がローラー台でウォームアップ photo:Makoto.AYANO
ティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシング)もスタート前にアップする photo:Makoto.AYANO
勝負はアルプスへ。4日連続のビッグな山岳ステージが待つ残り5日間は、日数は少ないが気が遠くなりそうな難易度と密度の高さの、長い長いツール最終週だ。天気予報により天候悪化が心配される中、スタートのディーニュ・レ・バンの街は快晴。今日も暑くなりそうだ。
奥さんが連れてきた生まれたばかりの新生児を愛おしそうに抱きかかえるのはニコラ・エデ(コフィディス)。フランス期待のワレン・バーギルのもとには代わる代わる激励がやってくる。休息日を一緒に過ごした家族や友人たちがアットホームな雰囲気をつくる一方、ウォームアップに勤しむ選手たちが多い。
奥さんと赤ちゃんが駆けつけたニコラ・エデ(コフィディス) photo:Makoto.AYANO
フランスの熱い期待をもって応援されるワレン・バーギル(ジャイアント・アルペシン) photo:Makoto.AYANO
休み明けにリズムを崩すことがあるのは初回休息日明けのステージで証明済み。そして今日は序盤から登り基調。スタートからハードな展開になるのは目に見えている。チームスカイとフルームはチーム全員でローラー台を用いてのアップ。コンタドールは表情ひとつ変えず、勝負をかけた雰囲気がひしひしと伝わってくる。
アップのはずなのに、力なくペダルを回すTJヴァンガーデレンのスピニングは、なにか悲しげで茫然自失といった雰囲気。このときすでに休息日に悪化した体調に大きな不安(あるいは絶望?)を抱えていたようだ。
断崖絶壁のナポレオン街道、3級山岳レ・レーク峠を行くプロトン photo:Makoto.AYANO
プロトンは断崖絶壁の間を貫くナポレオン街道を走る。カンヌからグルノーブルへの約350kmのN85号線「ナポレオン街道」は、地中海からアルプス山脈までプロヴァンス地方を縦断したナポレオンが、1815年に通った道そのもの。ただし将軍同様パリを目指すプロトンの進行方向は逆(明日第18ステージは順路に)。
後半の2つの山岳での総合バトルがあるのは必須。その前に逃げてステージを狙う挑戦者たち。石の断崖に取り付けられた細道に、素掘りのトンネル。石灰岩質のヴェルドン渓谷を行く色とりどりのプロトンが美しい。しかし長く伸びた集団からは早い段階から脱落者が続々とドロップ。もはや休息日に回復できないほどに疲労は蓄積しているのだろう。
断崖絶壁のレ・レーク峠を行くプロトン photo:Makoto.AYANO
チームメイトに押されながら走るティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング) photo:Tim de Waele
シャンゼリゼでのポディウムを欲していたヴァンガーデレンの失速。TJは13ステージの酷暑の日を境に調子を崩し、風邪気味となっていたが、休息日に悪化。昨夜はよく寝て熱も収まったが、スタートしてみるとまったく力が出ないことに気がついたという。TJには2人が付き添ったが、先行して峠をクリアするチームメイトたちはすでにサポートすることを諦めていたようだ。
一つ目の山岳を通過後にリタイアを決めたネイサン・ハース(キャノンデール・ガーミン) photo:Makoto.AYANO
同様に大きく遅れたネイザン・ハース(キャノンデール・ガーミン)は最初の峠を下った地点でバイクから降りた。憔悴しきった表情。チームカーに乗るところを撮ったことに対して苛立ちを向けられてしまった。我々日本人プレスにとって日頃からとくにフレンドリーな存在のネイザン。ジャパンカップ覇者のリタイアに心が痛くなる。この日のDNFリストにはレインボージャージのミカル・クヴィアトコウスキー(エティックス・クイックステップ)の名前も。
下りの難所アロス峠と、40年前にメルクスが陥落したプラ・ルーへ
ナイロ・キンタナ(モビスター)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)らがクリス・フルーム(チームスカイ)に続く photo:Makoto.AYANO
順調に差を開く逃げグループだが、思惑は様々。サガンの逃げはじつに4日連続。ティンコフサクソはサガンの他にもマイケル・ロジャース、ラファル・マイカを前の逃げに潜り込ませた。逃げて勝つためではなく、後半2つの山岳で後方に下がってコンタドールをアシストするために。
モビスターは3人を送りこみ、キンタナとバルベルデのサポートに備える。スカイはリッチー・ポートとニコラス・ロッシュだ。プラループでの決戦に備え、あとで後方に下がってくるつもりの選手たち。
バルベルデとキンタナをアシストするモビスターがマイヨジョーヌ集団を引く photo:Makoto.AYANO
プラ・ルー沿道のマイルストーン photo:Makoto.AYANO
ツールのフィニッシュ地としてはまだ登場3度目というプラ・ルーは、かつて「人喰い鬼」のニックネームをもつ無敵の強さを誇ったエディ・メルクスが陥落したフィニッシュ地点としてツールの歴史にその名を残す。今から40年前の1975年、ツール6勝目に向けてアロス峠の下りをもの凄い勢で下ったメルクスは、独走で入ったプラ・ルーの登りで突然失速する。そしてフランス人のベルナール・テブネに抜かれ、マイヨジョーヌを失う。
失速の理由は前日のステージで観客から脇腹にパンチを喰らったからとも言われているが、それ以来マイヨジョーヌを着ることができず、メルクスは引退することになる。プラルーはつまりメルクス終焉のきっかけとなった地と言われている。
キンタナやウランの応援に駆けつけたコロンビアのファンたち photo:Makoto.AYANO
アレクサンダー・クリストフの応援をするノルウェーのファンたち photo:Makoto.AYANO
1975年以来、プラルーは1980年には一度フィニッシュ地点になったが、アロス峠との組み合わせで登場するのは40年ぶりとなる。プラルー自体の難易度は低いものの、アロス峠の危険なダウンヒルとのコンビネーションで、リスクが多いことでこのツールで非常に重要なステージと恐れられていた。
風雲急を告げるプラ・ルーを登る後方集団 photo:Makoto.AYANO
テブネがメルクスに追いつき、並んだ、まさにラスト4kmの有名な写真にある背景の山が同じように臨めるスポットをみつけて撮影することに。1975年当時は舗装路が暑さの熱で溶け出し、道の真中にタールが流れ出ていたという。メルクスに追い付き、弱った様子を見たテブネは、溶け出たタールの向こうへと進路を変えてアタック。タールを踏みたくないメルクスはテブネの後ろに取りつくことができず、テブネはそのまま走り去っていった、という有名なエピソードが残されている。
プラ・ルーへ向け独走するサイモン・ゲシュケ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン) photo:Makoto.AYANO
今日のプラ・ルーは当時に比べ舗装状態は良いが、プロトンが近づくに連れて暗雲が立ち込め、空は今にも泣き崩れそうになっていた。そこに独走で到達したのはアロス峠で逃げ出したサイモン・ゲシュケ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)だった。ゲシュケの勝利は今ツールにおいてはグライペルの3勝、マルティンの1勝に次ぐドイツ人の5勝目。もちろん国別では最高勝利数だ。
ツール後半の山岳ステージで勝利するには体力を温存しておく必要があるものだが、中央山塊から一昨日のギャップに至るステージでも、ここまで幾度と無く連日逃げに乗っているゲシュケ。優勝者インタビューでは涙を流し喜びを噛み締めた。スキル・シマノ時代からチームに居続けるため、別府史之や土井雪広ともチームメイトだったおなじみの「小柄なドイツ人」。
昨年はツールに席はなかったが、今年のツールではキッテルの欠場により出場の可能性が生まれた。チームはキッテルのための列車だけで組む構成からシフト。デゲンコルブ、さらにバーギルのふたりのためのアシストとして、ゲシュケのオールラウンドな能力が買われた。
厳しい登りコースでの2人の伴侶として、あるいは先行して逃げることで2人の勝利へのアシストにつなげる役割。そしてツール後半にチャンスが有るなら自らのために走れるという約束。ジャイアント・アルペシンの2人のリーダーであるデゲンコルブ、バーギルの2人を差し置いて、結果を残した。
サイモン・ゲシュケに離され、プラ・ルーを登るアンドリュー・タランスキー(キャノンデール・ガーミン) photo:Makoto.AYANO
落車しなかれば勝てた? 傷が痛々しいティボー・ピノ(フランス、FDJ)がプラ・ルーを登る photo:Makoto.AYANO
自ら「スプリンターでもクライマーでもない」と言うゲシュケだが、強い登り能力をもつことは既に知られている。ヒルクライム能力の開花は2014年のティレーノ〜アドリアティコ2014第5ステージで、最大勾配が30%に達する「ムーロ・ディ・グアルディアレーレ」をコンタドールと競り合って登ったこと。頂上では6秒負けるものの、フロックでないことは明白だった。大きな勝利に恵まれない地味な存在のドイツ人だったが、以来ビッグな勝利は近いだろうと予想されてきた。
近年プロトンに流行している髭面が注目の的。縁起担ぎのための髭はステージ優勝では剃らず、総合優勝した時に剃ると真顔で話した。冗談なのか本気なのかは分からない。
マイヨジョーヌのクリス・フルームをマークするヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ) photo:Makoto.AYANO
陥落したコンタドール ダブルツールの夢は潰える
マイヨジョーヌが陥落したエピソードの地プラ・ルーで、フルームはまったく揺るがなかった。ニーバリ、キンタナ、バルベルデと代わる代わるアタックを試みるが、フルームは自身とチームメイトを使って余裕を持って対処。腰を上げることさえ少なかった。
休息日に公開されたパワーデータのことが話題だが、フルームは余力を存分に残しているように伺える。何も出来ず終いのニーバリが言う。「フルームは余裕を持って状況をコントロールできていた。彼を倒すのはほぼ不可能に近い。僕らはこれ以上のことができないよ」ー それほどまでにフルームは強い。
マイヨ・ジョーヌ集団から遅れたアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ) photo:Makoto.AYANO
プラ・ルーでマイヨジョーヌは陥落しなかったが、アロス峠で転がり落ちたのはコンタドールとピノ。危険なアロスの下りでリスクをとってアタックするだろうと言われていたコンタドールだが、落車の原因はスリップ。昨年のような怪我はなかったものの、これで期待された逆転劇は無くなった。ダブルツールの夢はプラ・ルーで完全にシャットダウンされた。
逃げ集団からゴルカ・イザギーレ、ヨナタン・カストロビエホの2人を下げ、キンタナとバルベルデをアシストするチーム4人体制でマイヨジョーヌ集団を引いたモビスター。ヴァンガーデレンの脱落で、キンタナとバルベルデでフルームの両脇の総合2位・3位のポディウムスポットをひとまず確保。チーム力の厚さとチームワークの的確さを披露した。
落車でブレーキレバーが曲がったまま走るティボー・ピノ(フランス、FDJ) photo:Makoto.AYANO
遅れがちなゲラント・トーマスをリッチー・ポートが引く photo:Makoto.AYANO
対するチームスカイはステージ勝利のチャンスさえあったリッチー・ポートの走りも光った。ポートは逃げに乗りながらフルームを待って下がり、登りでアシストすると、その後、遅れる気配を見せるトーマスに主を替え、プラ・ルー後半はトーマスをアシスト。トーマスはフルーム集団から脱落して1分2秒を失ったが、総合4位に留まった。ポートの強力な牽引が無ければ、トーマスは大きなタイム差を失う可能性もあった。
プラ・ルーをグルペットが登りつめたとき、大粒の雨が路面を叩き始めた。暑さを洗い流すような豪雨がアルプスの山肌を洗った。
text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
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当日の朝10時、主催者ASOの担当者からメディア関係者に向けて急遽「アロス峠への通行を認めない」というメールが届いた。理由はちょうどフィニッシュ時間帯の天候の悪化が心配されるなか、コースの安全を最大限に確保するため。幅員が極端に狭いアロスでは車両スタックやトラブルが許されない。フィニッシュのプラ・ルーも、チーム車両と限られた関係車両のみに限定通行。かくして我々もプランを大幅に変えて動くことに。
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奥さんが連れてきた生まれたばかりの新生児を愛おしそうに抱きかかえるのはニコラ・エデ(コフィディス)。フランス期待のワレン・バーギルのもとには代わる代わる激励がやってくる。休息日を一緒に過ごした家族や友人たちがアットホームな雰囲気をつくる一方、ウォームアップに勤しむ選手たちが多い。
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アップのはずなのに、力なくペダルを回すTJヴァンガーデレンのスピニングは、なにか悲しげで茫然自失といった雰囲気。このときすでに休息日に悪化した体調に大きな不安(あるいは絶望?)を抱えていたようだ。
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後半の2つの山岳での総合バトルがあるのは必須。その前に逃げてステージを狙う挑戦者たち。石の断崖に取り付けられた細道に、素掘りのトンネル。石灰岩質のヴェルドン渓谷を行く色とりどりのプロトンが美しい。しかし長く伸びた集団からは早い段階から脱落者が続々とドロップ。もはや休息日に回復できないほどに疲労は蓄積しているのだろう。
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同様に大きく遅れたネイザン・ハース(キャノンデール・ガーミン)は最初の峠を下った地点でバイクから降りた。憔悴しきった表情。チームカーに乗るところを撮ったことに対して苛立ちを向けられてしまった。我々日本人プレスにとって日頃からとくにフレンドリーな存在のネイザン。ジャパンカップ覇者のリタイアに心が痛くなる。この日のDNFリストにはレインボージャージのミカル・クヴィアトコウスキー(エティックス・クイックステップ)の名前も。
下りの難所アロス峠と、40年前にメルクスが陥落したプラ・ルーへ
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モビスターは3人を送りこみ、キンタナとバルベルデのサポートに備える。スカイはリッチー・ポートとニコラス・ロッシュだ。プラループでの決戦に備え、あとで後方に下がってくるつもりの選手たち。
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ツールのフィニッシュ地としてはまだ登場3度目というプラ・ルーは、かつて「人喰い鬼」のニックネームをもつ無敵の強さを誇ったエディ・メルクスが陥落したフィニッシュ地点としてツールの歴史にその名を残す。今から40年前の1975年、ツール6勝目に向けてアロス峠の下りをもの凄い勢で下ったメルクスは、独走で入ったプラ・ルーの登りで突然失速する。そしてフランス人のベルナール・テブネに抜かれ、マイヨジョーヌを失う。
失速の理由は前日のステージで観客から脇腹にパンチを喰らったからとも言われているが、それ以来マイヨジョーヌを着ることができず、メルクスは引退することになる。プラルーはつまりメルクス終焉のきっかけとなった地と言われている。
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テブネがメルクスに追いつき、並んだ、まさにラスト4kmの有名な写真にある背景の山が同じように臨めるスポットをみつけて撮影することに。1975年当時は舗装路が暑さの熱で溶け出し、道の真中にタールが流れ出ていたという。メルクスに追い付き、弱った様子を見たテブネは、溶け出たタールの向こうへと進路を変えてアタック。タールを踏みたくないメルクスはテブネの後ろに取りつくことができず、テブネはそのまま走り去っていった、という有名なエピソードが残されている。
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ツール後半の山岳ステージで勝利するには体力を温存しておく必要があるものだが、中央山塊から一昨日のギャップに至るステージでも、ここまで幾度と無く連日逃げに乗っているゲシュケ。優勝者インタビューでは涙を流し喜びを噛み締めた。スキル・シマノ時代からチームに居続けるため、別府史之や土井雪広ともチームメイトだったおなじみの「小柄なドイツ人」。
昨年はツールに席はなかったが、今年のツールではキッテルの欠場により出場の可能性が生まれた。チームはキッテルのための列車だけで組む構成からシフト。デゲンコルブ、さらにバーギルのふたりのためのアシストとして、ゲシュケのオールラウンドな能力が買われた。
厳しい登りコースでの2人の伴侶として、あるいは先行して逃げることで2人の勝利へのアシストにつなげる役割。そしてツール後半にチャンスが有るなら自らのために走れるという約束。ジャイアント・アルペシンの2人のリーダーであるデゲンコルブ、バーギルの2人を差し置いて、結果を残した。
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陥落したコンタドール ダブルツールの夢は潰える
マイヨジョーヌが陥落したエピソードの地プラ・ルーで、フルームはまったく揺るがなかった。ニーバリ、キンタナ、バルベルデと代わる代わるアタックを試みるが、フルームは自身とチームメイトを使って余裕を持って対処。腰を上げることさえ少なかった。
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プラ・ルーでマイヨジョーヌは陥落しなかったが、アロス峠で転がり落ちたのはコンタドールとピノ。危険なアロスの下りでリスクをとってアタックするだろうと言われていたコンタドールだが、落車の原因はスリップ。昨年のような怪我はなかったものの、これで期待された逆転劇は無くなった。ダブルツールの夢はプラ・ルーで完全にシャットダウンされた。
逃げ集団からゴルカ・イザギーレ、ヨナタン・カストロビエホの2人を下げ、キンタナとバルベルデをアシストするチーム4人体制でマイヨジョーヌ集団を引いたモビスター。ヴァンガーデレンの脱落で、キンタナとバルベルデでフルームの両脇の総合2位・3位のポディウムスポットをひとまず確保。チーム力の厚さとチームワークの的確さを披露した。
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対するチームスカイはステージ勝利のチャンスさえあったリッチー・ポートの走りも光った。ポートは逃げに乗りながらフルームを待って下がり、登りでアシストすると、その後、遅れる気配を見せるトーマスに主を替え、プラ・ルー後半はトーマスをアシスト。トーマスはフルーム集団から脱落して1分2秒を失ったが、総合4位に留まった。ポートの強力な牽引が無ければ、トーマスは大きなタイム差を失う可能性もあった。
プラ・ルーをグルペットが登りつめたとき、大粒の雨が路面を叩き始めた。暑さを洗い流すような豪雨がアルプスの山肌を洗った。
text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:Makoto.AYANO,Kei Tsuji,Tim de Waele,CorVos
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