2015/07/05(日) - 16:24
1954年にアムステルダムで開幕して以来、通算6回目のグランデパールを迎えるオランダ。前回は2010年のロッテルダム。ミッフィーの生まれ故郷ユトレヒトは、この日、猛烈な熱気が包み込んでいた。
私たち日本人としては今中大介が日本人として近代ツールに初出場した1996年のスヘルトヘンボスでの開幕が印象に残る。
熱いのはオランダでのツール人気からだけじゃない。実際の気温もおそらく40度超え。しかも湿気が高くて蒸し暑く、じっとしていても汗だくになる。フランス人に言わせると「北はいつも天気が悪くて寒い」はずだけれど、フランスの北以上に北にあるオランダはそれを感じさせない酷暑だ。
”史上もっとも暑いグランデパール”、あるいは”ユトレヒトの観測史上の最高気温を更新” などと言われるから、これが普通で無いことだけは確かだ。自分の16度の過去のツール取材体験でも、最も暑い開幕というのは当たっている。
スタート時刻は14時から。18時にかけて4時間の長丁場だ。日の長い欧州は夕方にかけてだんだん暑く不快になる。スタート地点に並んだチームバスによるピットは、どこも熱暑対策にてんてこ舞いだ。扇風機はもちろん、実際ここまで暑いと氷をフル活用するのがいちばん。アイスベストはもはや常識の装備。そして背中には氷を仕込んでスタートするのだ。
昨日、TTの準備をすすめるチームのホテルを取材して回った時、使い古しのパンティストッキングをはさみで加工していたのがオリカ・グリーンエッジだ。なんでも氷をまとめて仕込むには調度良いのだそうで、これを背中に仕込むのだそうだ。引退したジュリアン・ディーン氏もその作業を手伝っていたが、撮影すると「オレ、なんだかいけないことをしてる気分だな! 」と笑っていた。
うだる暑さのなか、アフリカはエリトリアからのライダー、MTNキュベカのダニエル・テクレハイマノが第1ライダーとして迎えられた。 狭いスタート台上にはクリスチャン・プリュドム氏とオランダの国賓らが並び、手短なグランデパールのショートセレモニーを行ってからテクレハイマノは走りだす。アフリカのチームの初のツール出場を祝し、ホットシートが用意されたのだ。ちなみに本格的なセレモニーは明日用意されている。
エリトリアの旗も沿道にはためく。太陽のもとで磨き上げられた光る黒い肌は、今日の天気にぴったりだ。クリスタル・グリーンに光るラボバンク本社をバックに走り出していく。
ヘーシンクにテンダム、モレマにファンエムデン....。スタートしていくオランダ人選手への応援がひときわ大きい。オランダ選手が通過するたびに「Hop(ホップ), Hop, Hop, Hop, Hop!」がこだまする。
ファンエムデンが中間計測タイムで最速をマークして大盛り上がり。しかし38番目と早めのスタートを切ったローハン・デニス(BMC)が驚異的なタイムでファンエムデンのタイムを15秒も短縮すると、感嘆のため息に。
しかし後半、もっとも大きな声援を浴びたのはツール・ド・スイスで2度のタイムトライアルを制したトム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)。1989年ぶりのオランダ人のマイヨジョーヌを期待されたが、先にスタートしたティアゴ・マシャドと最終コーナーで交錯。ややタイムを落とした。トムが勝てなかったことが判ったときには、すわ世の終わりかと思うほどの落胆ぶりの声があがった。しかしそれでもドゥムラン、ファンエムデン、ケルデルマンの3人のオランダ人がトップ10に入ったのだから、オランダ人にとっての開幕としては上々だったのかもしれない。
TTでは初の優勝。オーストラリア人として7人目のマイヨ・ジョーヌ着用者になったローハン・デニス(BMCレーシング)。1994年のクリス・ボードマン(イギリス)のマークした記録を塗り替え、個人TTのタイムとしては最速の55.446km/hをマークした。ウィギンズに破れて束の間のアワーレコードホルダーとなったが、「このスピードがアワーレコードで求めるもの」と、アワーレコード再挑戦にもさっそく意欲を見せる。
デニスはこの日のために母国オーストラリアで暑さに耐える特別練習を積んできたという。それはただでさえ暑いオーストラリアで、気温40度以上の日中にあえてトレーニングに出かけるというもの。
この状況に慣れていたデニスに対し、「熱にやられてしまった。クック(調理)されたよ」(マルティン)、口の中が乾いて呼吸が難しかった」(カンチェラーラ)と、2人の優勝候補は暑さでうまく力を発揮できなかったことを敗因として挙げた。
そして注目は「ファンタスティック4」内の争いだ。ニバリがデニスから43秒遅れの22位で4人の中ではベストタイム。フルームがニバリに+7秒、コンタドールはニバリに+15秒、キンタナは+18秒。
枠を広げて「総合争いをするであろう選手たち」の中では、ティボー・ピノ(FDJ.fr)がデニスから41秒遅れながらもっとも速く、ティージェイ・ヴァンガードレンがピノに対し+1秒。ニーバリが+2秒、フルームが+9秒、コンタドールが+17秒、ペローが+18秒、キンタナが+20秒になる。
ピノは言う。「たしかにキンタナに20秒差をつけたけど、この後の道程を考えると僅かな差だ。例えば明日のステージは風で2分を失う可能性だってある。でも自分の体調の仕上がりがいいことが確認できたのが嬉しい」。
用意されていたイエローバイク
レース後、BMCの泊まるホテルを訪問した。ウィニングバイクとなったデニスのBMCはさっぱりと洗浄され、スポンサー外のパーツをスポンサードものに差し替えてバスの前に飾られていた(どれがそのパーツかは別記事のツールバイク特集などで当てて欲しい)。
そしてその横ではすでにマイヨジョーヌ仕様のイエローバイクが組み立てられていた。レース終了からまだ2時間少々しか経っていないというのに。
この手早さには驚いた。すでにイエローバイクの用意ができていたということは、つまりデニスの勝利はチームとしてもかなり確率のある話として予想していたことなのだろう。ちなみにTV出演が続き、デニスはまだホテルに迎えずに居るという。結局、ゴールからわずか2時間20分でイエローバイクは完成した!
チームスタッフには誇らしげに語られてしまった。
「チームはデニスで今日の勝利を狙っていたんだ。僕たちは驚いていないよ。明日はカオスなステージになる予測があるから、急いで組んだバイクじゃトラブルになる。そんなことでマイヨジョーヌを失う訳にはいかないんだ。準備は完璧にね!。それがBMCレーシングだ」。
photo&text:Makoto.AYANO in Utrecht , Netherland
私たち日本人としては今中大介が日本人として近代ツールに初出場した1996年のスヘルトヘンボスでの開幕が印象に残る。
熱いのはオランダでのツール人気からだけじゃない。実際の気温もおそらく40度超え。しかも湿気が高くて蒸し暑く、じっとしていても汗だくになる。フランス人に言わせると「北はいつも天気が悪くて寒い」はずだけれど、フランスの北以上に北にあるオランダはそれを感じさせない酷暑だ。
”史上もっとも暑いグランデパール”、あるいは”ユトレヒトの観測史上の最高気温を更新” などと言われるから、これが普通で無いことだけは確かだ。自分の16度の過去のツール取材体験でも、最も暑い開幕というのは当たっている。
スタート時刻は14時から。18時にかけて4時間の長丁場だ。日の長い欧州は夕方にかけてだんだん暑く不快になる。スタート地点に並んだチームバスによるピットは、どこも熱暑対策にてんてこ舞いだ。扇風機はもちろん、実際ここまで暑いと氷をフル活用するのがいちばん。アイスベストはもはや常識の装備。そして背中には氷を仕込んでスタートするのだ。
昨日、TTの準備をすすめるチームのホテルを取材して回った時、使い古しのパンティストッキングをはさみで加工していたのがオリカ・グリーンエッジだ。なんでも氷をまとめて仕込むには調度良いのだそうで、これを背中に仕込むのだそうだ。引退したジュリアン・ディーン氏もその作業を手伝っていたが、撮影すると「オレ、なんだかいけないことをしてる気分だな! 」と笑っていた。
うだる暑さのなか、アフリカはエリトリアからのライダー、MTNキュベカのダニエル・テクレハイマノが第1ライダーとして迎えられた。 狭いスタート台上にはクリスチャン・プリュドム氏とオランダの国賓らが並び、手短なグランデパールのショートセレモニーを行ってからテクレハイマノは走りだす。アフリカのチームの初のツール出場を祝し、ホットシートが用意されたのだ。ちなみに本格的なセレモニーは明日用意されている。
エリトリアの旗も沿道にはためく。太陽のもとで磨き上げられた光る黒い肌は、今日の天気にぴったりだ。クリスタル・グリーンに光るラボバンク本社をバックに走り出していく。
ヘーシンクにテンダム、モレマにファンエムデン....。スタートしていくオランダ人選手への応援がひときわ大きい。オランダ選手が通過するたびに「Hop(ホップ), Hop, Hop, Hop, Hop!」がこだまする。
ファンエムデンが中間計測タイムで最速をマークして大盛り上がり。しかし38番目と早めのスタートを切ったローハン・デニス(BMC)が驚異的なタイムでファンエムデンのタイムを15秒も短縮すると、感嘆のため息に。
しかし後半、もっとも大きな声援を浴びたのはツール・ド・スイスで2度のタイムトライアルを制したトム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)。1989年ぶりのオランダ人のマイヨジョーヌを期待されたが、先にスタートしたティアゴ・マシャドと最終コーナーで交錯。ややタイムを落とした。トムが勝てなかったことが判ったときには、すわ世の終わりかと思うほどの落胆ぶりの声があがった。しかしそれでもドゥムラン、ファンエムデン、ケルデルマンの3人のオランダ人がトップ10に入ったのだから、オランダ人にとっての開幕としては上々だったのかもしれない。
TTでは初の優勝。オーストラリア人として7人目のマイヨ・ジョーヌ着用者になったローハン・デニス(BMCレーシング)。1994年のクリス・ボードマン(イギリス)のマークした記録を塗り替え、個人TTのタイムとしては最速の55.446km/hをマークした。ウィギンズに破れて束の間のアワーレコードホルダーとなったが、「このスピードがアワーレコードで求めるもの」と、アワーレコード再挑戦にもさっそく意欲を見せる。
デニスはこの日のために母国オーストラリアで暑さに耐える特別練習を積んできたという。それはただでさえ暑いオーストラリアで、気温40度以上の日中にあえてトレーニングに出かけるというもの。
この状況に慣れていたデニスに対し、「熱にやられてしまった。クック(調理)されたよ」(マルティン)、口の中が乾いて呼吸が難しかった」(カンチェラーラ)と、2人の優勝候補は暑さでうまく力を発揮できなかったことを敗因として挙げた。
そして注目は「ファンタスティック4」内の争いだ。ニバリがデニスから43秒遅れの22位で4人の中ではベストタイム。フルームがニバリに+7秒、コンタドールはニバリに+15秒、キンタナは+18秒。
枠を広げて「総合争いをするであろう選手たち」の中では、ティボー・ピノ(FDJ.fr)がデニスから41秒遅れながらもっとも速く、ティージェイ・ヴァンガードレンがピノに対し+1秒。ニーバリが+2秒、フルームが+9秒、コンタドールが+17秒、ペローが+18秒、キンタナが+20秒になる。
ピノは言う。「たしかにキンタナに20秒差をつけたけど、この後の道程を考えると僅かな差だ。例えば明日のステージは風で2分を失う可能性だってある。でも自分の体調の仕上がりがいいことが確認できたのが嬉しい」。
用意されていたイエローバイク
レース後、BMCの泊まるホテルを訪問した。ウィニングバイクとなったデニスのBMCはさっぱりと洗浄され、スポンサー外のパーツをスポンサードものに差し替えてバスの前に飾られていた(どれがそのパーツかは別記事のツールバイク特集などで当てて欲しい)。
そしてその横ではすでにマイヨジョーヌ仕様のイエローバイクが組み立てられていた。レース終了からまだ2時間少々しか経っていないというのに。
この手早さには驚いた。すでにイエローバイクの用意ができていたということは、つまりデニスの勝利はチームとしてもかなり確率のある話として予想していたことなのだろう。ちなみにTV出演が続き、デニスはまだホテルに迎えずに居るという。結局、ゴールからわずか2時間20分でイエローバイクは完成した!
チームスタッフには誇らしげに語られてしまった。
「チームはデニスで今日の勝利を狙っていたんだ。僕たちは驚いていないよ。明日はカオスなステージになる予測があるから、急いで組んだバイクじゃトラブルになる。そんなことでマイヨジョーヌを失う訳にはいかないんだ。準備は完璧にね!。それがBMCレーシングだ」。
photo&text:Makoto.AYANO in Utrecht , Netherland
フォトギャラリー
Amazon.co.jp