2015/05/27(水) - 13:56
「(ライバルチームが待たなかったという)議論については何が正しいとか間違っているとか言うつもりはない」という言葉にアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)の強さが集約されている。王者は、モルティローロを飛ぶように登った。
まずはじめに、第13ステージの終了後に発生した車上荒らしによってカメラ機材やMacBook、パスポートを一瞬にして失いました。各方面の手続きに奔走した数日が過ぎ、5月26日、多くの方々の協力を得てようやく仕事に打ち込める体制が整ったので久々に現地レポートを書かせていただきます。機材貸し出しを申し出てくれたイタリア人フォトグラファーたち、急遽レースレポートを押し付ける形になった編集部の各位、MacBook Proを日本で購入して持ってきてくれた渡邊卓人氏、同じくカメラとレンズを日本から運んできてくれる(第17ステージで合流予定の)田中苑子氏には感謝してもしきれません。
第16ステージは所謂ドロミテと呼ばれる山岳地帯からアルプス方面に進む難関山岳ステージ。獲得標高差は4500mオーバーで今大会最大。しかも悪名高きモルティローロが登場するとあって、正真正銘のクイーンステージという位置付け。気温15度ほどの雨が降るピンツォーロをスタートしてすぐに2級山岳カンポ・カルロマーニョの登坂が始まるため、各チームともに滞在先のホテルでしっかりローラー台を使用してアップを行ってから選手を送り出す。
スタート地点近くの登りを利用してアップする選手も。とにかくスタート直後から登りが始まるステージの緊張度は高い。最初の登りで遅れてしまうとグルペットにも入れずに単独走となり、足切りに遭う可能性が高くなるから。実質的にドクターストップがかかったリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)を除く173名が出走した。
この日の驚きは、レース中盤に形成されたグルペットの速いこと速いこと。まるで逃げ集団やメイン集団のような張り詰めた空気に包まれながら、歯を食いしばって山岳をこなしていくグルペット。
「序盤の山岳で集団前方のアタックに加わったんですが、標高の高さもあって失速してしまった」と笑って振り返り、グルペットでフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)は「一緒に走っていた集団の大半は、みんなキツそうで冗談も話せない状況だった」と証言している。
この日のステージカテゴリーは「超級山岳」。ステージ優勝者の平均スピードが34km/hを上回ったため(35.1km/h)、ルールブックによると優勝タイムから18%の猶予が与えられている。ステージ優勝者から54分30秒遅れてもタイムカットにならない計算だが、グルペットは最後までペースを弱めなかった。グルペット最終便はタイムカットまで14分以上残した40分19秒遅れでフィニッシュしている。
最大勾配18%の1級山岳モルティローロはイタリア有数の厳しさとして有名だ。勾配の面ではモンテゾンコランに敵わないが、道が細く、スイッチバックの連続で、体感的には15%オーバーが延々と続く。
各チームのメカニックは前日の休息日に急勾配対策を施した。フロントのインナーリングは34〜36Tが標準的で、スプロケットに至っては最大32Tも登場。ギア比が1に近い34x32Tという組み合わせも珍しくない状況。それでいて53x11Tというトップギアも使用するため、シマノの場合はアルテグラのロングケージリアディレイラーに組み替えられていた。
コンタドールのモルティローロ登坂タイムは45分07秒で、平均スピードは15.76km/h。先行したファビオ・アル(イタリア、アスタナ)らを追撃し、追いついてからさらにアタックを繰り出した結果、近年のモルティローロ登坂タイムの中では最速クラスのタイムが出た。なお、コンタドールは2008年に走った際に出した46分12秒という自身の記録を塗り替えている。
圧倒的な走りを披露したコンタドールだったが、39x25Tが標準的だった時代の1996年にイヴァン・ゴッティが記録した42分40秒という驚異的なコースレコードには届いていない。ゴッティのレコードはこれからもおそらく破られることはないだろう。
パンクしたマリアローザを待たずに、むしろそれを利用して攻撃したカチューシャやアスタナに対して、ティンコフ・サクソのオレグ・ティンコフ氏は「気品さに欠けている」と批判した。ルール上は全く問題ない走りだったが、ロードレースに存在する不文律として、マリアローザが不慮のトラブルに見舞われた場合はペースを落とすなどの姿勢を見せるのが常だった。
しかしコンタドールはそんな逆境を乗り切ったばかりか、逆にモルティローロでカチューシャやアスタナの鼻をへし折ることで王様ぶりを示した。表彰台に立ったコンタドールはマリアローザにキスをし、マリアローザへの愛と、もう誰にも渡さないことをアピールした。コンタドールのダブルツールが見えてきた。
text&photo:Kei Tsuji in Aprica, Italy
まずはじめに、第13ステージの終了後に発生した車上荒らしによってカメラ機材やMacBook、パスポートを一瞬にして失いました。各方面の手続きに奔走した数日が過ぎ、5月26日、多くの方々の協力を得てようやく仕事に打ち込める体制が整ったので久々に現地レポートを書かせていただきます。機材貸し出しを申し出てくれたイタリア人フォトグラファーたち、急遽レースレポートを押し付ける形になった編集部の各位、MacBook Proを日本で購入して持ってきてくれた渡邊卓人氏、同じくカメラとレンズを日本から運んできてくれる(第17ステージで合流予定の)田中苑子氏には感謝してもしきれません。
第16ステージは所謂ドロミテと呼ばれる山岳地帯からアルプス方面に進む難関山岳ステージ。獲得標高差は4500mオーバーで今大会最大。しかも悪名高きモルティローロが登場するとあって、正真正銘のクイーンステージという位置付け。気温15度ほどの雨が降るピンツォーロをスタートしてすぐに2級山岳カンポ・カルロマーニョの登坂が始まるため、各チームともに滞在先のホテルでしっかりローラー台を使用してアップを行ってから選手を送り出す。
スタート地点近くの登りを利用してアップする選手も。とにかくスタート直後から登りが始まるステージの緊張度は高い。最初の登りで遅れてしまうとグルペットにも入れずに単独走となり、足切りに遭う可能性が高くなるから。実質的にドクターストップがかかったリッチー・ポート(オーストラリア、チームスカイ)を除く173名が出走した。
この日の驚きは、レース中盤に形成されたグルペットの速いこと速いこと。まるで逃げ集団やメイン集団のような張り詰めた空気に包まれながら、歯を食いしばって山岳をこなしていくグルペット。
「序盤の山岳で集団前方のアタックに加わったんですが、標高の高さもあって失速してしまった」と笑って振り返り、グルペットでフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)は「一緒に走っていた集団の大半は、みんなキツそうで冗談も話せない状況だった」と証言している。
この日のステージカテゴリーは「超級山岳」。ステージ優勝者の平均スピードが34km/hを上回ったため(35.1km/h)、ルールブックによると優勝タイムから18%の猶予が与えられている。ステージ優勝者から54分30秒遅れてもタイムカットにならない計算だが、グルペットは最後までペースを弱めなかった。グルペット最終便はタイムカットまで14分以上残した40分19秒遅れでフィニッシュしている。
最大勾配18%の1級山岳モルティローロはイタリア有数の厳しさとして有名だ。勾配の面ではモンテゾンコランに敵わないが、道が細く、スイッチバックの連続で、体感的には15%オーバーが延々と続く。
各チームのメカニックは前日の休息日に急勾配対策を施した。フロントのインナーリングは34〜36Tが標準的で、スプロケットに至っては最大32Tも登場。ギア比が1に近い34x32Tという組み合わせも珍しくない状況。それでいて53x11Tというトップギアも使用するため、シマノの場合はアルテグラのロングケージリアディレイラーに組み替えられていた。
コンタドールのモルティローロ登坂タイムは45分07秒で、平均スピードは15.76km/h。先行したファビオ・アル(イタリア、アスタナ)らを追撃し、追いついてからさらにアタックを繰り出した結果、近年のモルティローロ登坂タイムの中では最速クラスのタイムが出た。なお、コンタドールは2008年に走った際に出した46分12秒という自身の記録を塗り替えている。
圧倒的な走りを披露したコンタドールだったが、39x25Tが標準的だった時代の1996年にイヴァン・ゴッティが記録した42分40秒という驚異的なコースレコードには届いていない。ゴッティのレコードはこれからもおそらく破られることはないだろう。
パンクしたマリアローザを待たずに、むしろそれを利用して攻撃したカチューシャやアスタナに対して、ティンコフ・サクソのオレグ・ティンコフ氏は「気品さに欠けている」と批判した。ルール上は全く問題ない走りだったが、ロードレースに存在する不文律として、マリアローザが不慮のトラブルに見舞われた場合はペースを落とすなどの姿勢を見せるのが常だった。
しかしコンタドールはそんな逆境を乗り切ったばかりか、逆にモルティローロでカチューシャやアスタナの鼻をへし折ることで王様ぶりを示した。表彰台に立ったコンタドールはマリアローザにキスをし、マリアローザへの愛と、もう誰にも渡さないことをアピールした。コンタドールのダブルツールが見えてきた。
text&photo:Kei Tsuji in Aprica, Italy
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