アメリカ南東部はテネシー州を拠点とするライトスピードは、他に先駆けていち早く実用的なチタン製レーシングフレームを完成させ、多くのプロライダーを虜にしてきたブランドである。今回はそのラインアップから、3Al-2.5Vチタンを使用したレーシングモデル「T3」をインプレッションした。



ライトスピード T3ライトスピード T3 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
機械加工業を営んでいたデヴィッド・リンスキー氏がライトスピード社を創業したのは1986年のこと。カーボンやアルミなど、スチールに取って代わる軽量なバイクフレーム用素材の研究開発が盛んになり始める少し前のことである。しかし、チタンは強度や耐食性から優れた素材として認知されていたものの、加工性や入手性の低さ故に自転車には適さないというのが一般的な考え方であった。

そんな中、1980年代末にライトスピードは同郷のマーリン(Merlin)社と共にチタンフレームの開発を行い、その可能性を世界に示す。そして、1989年12月の冷戦終結によって、それまで原子力や航空宇宙といった軍事産業のみに使用が許されていたチタン合金が容易に入手可能となる。ここからライトスピードは研究開発を強化し、次々と高品質なレーシングフレームを世に送り出していく。

細かいながら均一なビード痕で溶接されたアウター受け細かいながら均一なビード痕で溶接されたアウター受け 雰囲気あるヘッドバッジが配されたヘッドチューブはHT44規格雰囲気あるヘッドバッジが配されたヘッドチューブはHT44規格 直線的なフレーム形状にマッチするストレートブレードのフロントフォーク直線的なフレーム形状にマッチするストレートブレードのフロントフォーク


プロ供給実績としてはラボバンクやロットにサポートを行い、2003年ツールではロビー・マキュアン(オーストラリア)のポイント賞獲得に貢献。また、スポンサー契約外で使用された例も数多く、特に逸話として語られるのが、1999年のツール・ド・フランスでのこと。ランス・アームストロングはチームバイクと全く同じカラーに塗られたライトスピードのTTバイク「Blade」を駆り、個人TTで2勝を勝ち取った。

チタンフレームとしては随一の戦績を誇るライトスピードの高い技術力は国内外の有名ブランドが認めるところだ。過去にはデローザやエディ・メルクス、ビアンキなどそうそうたる面々のOEM生産を請け負ったというストーリーも。一時は時代の流れに沿ってカーボンをメインとした時期があり、創業当時とは経営体制も大きく変わったものの、チタンに関する技術やノウハウは脈々と受け継がれ、着実に進化しているのだ。

トップチューブは断面形状を変化させることでねじれ剛性と柔軟性を同時に高めているトップチューブは断面形状を変化させることでねじれ剛性と柔軟性を同時に高めている ミニマムで均一な溶接部のビード痕。熱影響を最小限として強度を確保するミニマムで均一な溶接部のビード痕。熱影響を最小限として強度を確保する

ダウンチューブはBBへ向けて菱型へと変化させることで、BBシェルとの接合部を拡大ダウンチューブはBBへ向けて菱型へと変化させることで、BBシェルとの接合部を拡大 BBはワイドなPF30規格BBはワイドなPF30規格


そんなライトスピードの2015ラインアップにあって、チタンバイクのセカンドグレードに位置付けられているのが、今回インプレッションする「T3」である。素材に3%のアルミと2.5%のバナジウムを添加することで強度を高めた3Al-2.5Vチタン合金を採用するレーシングバイクだ。

スローピングスタイルのフレームデザインは一見して、金属フレームならではの直線的な佇まい。しかし実際にT3を目の前にしてみれば、各チューブはゆるやかな形状変化を伴っていることに気づかされる。ビルディングはテネシー州南東部の工業地帯チャタヌーガの工房にて、熟練の職人達によって手作業で行われており、その左右の対称性やエッジの滑らかさは惚れぼれさせられる程だ。各溶接部は均一なビード痕を刻みながらも非常にミニマム。シートステー及びチェーンステー端部を塞ぐ蓋やケーブルのアウター受けをも溶接で仕上げるなど、細部にもライトスピードの優れた技術力を見て取ることができる。

縦方向の柔軟性と横剛性を両立させるべく、カーボンの様に複雑な形状に成型されたチェーンステー縦方向の柔軟性と横剛性を両立させるべく、カーボンの様に複雑な形状に成型されたチェーンステー 全てのケーブルはメンテナンス製に優れる外出し仕様。ルーティングは極めて自然だ全てのケーブルはメンテナンス製に優れる外出し仕様。ルーティングは極めて自然だ


剛性を担うダウンチューブはヘッド側の丸断面からBBに向けて徐々に菱型へと変化させ、PF30規格のワイドなBBシェルとの接合部を拡大。ねじれ剛性と縦の柔軟性を両立すべくトップチューブはヘッドから後方に向けて、大口径の台形断面から扁平形状へと変形させている。

そして、ライトスピードの持つ技術力の高さが最大限に発揮されているといえるのがチェーンステーであろう。高強度である一方で加工性に劣るチタンではあるが、T3はBBからリアエンドにかけて縦長から横長へと断面形状を変化させ、更にはベンド加工を施すなど、カーボンの如く複雑な形状を描く。トリプルバテッド加工とあわせて縦横の剛性を最適化し、チタンのしなやかさとレースバイクに求められる高い剛性を両立させることに成功しているのだ。

ライトスピードの優れた加工力が光るブレーキブリッジの形状ライトスピードの優れた加工力が光るブレーキブリッジの形状 シートステーは僅かに扁平しているシートステーは僅かに扁平している 誇らしげなHUNDBUILD IN USAのバッジ誇らしげなHUNDBUILD IN USAのバッジ


一方でシートステーは僅かに扁平させることで、横剛性を維持しつつ振動吸収性やトラクション性能を向上。シートチューブはオーソドックスな丸断面としている。ヘッドチューブはハンドビルドの金属フレームで近年トレンドとなっているHT44規格とし、肉厚を1mmとすることでハンドリングやブレーキングの安定性を確保した。組み合わせられるストレートブレードのフロントフォークは、オーバーサイズのフレームに負けないボリュームによって、走行安定性に貢献している。

今回のインプレッションバイクはメインコンポーネントがスラムRED22、クランクがローター3DFという本国カタログ通りのアッセンブル。ホイールはレイノルズのフルカーボンチューブラー「58 AERO」だ。なお、販売パッケージはフレームセット、シマノULTEGRA Di2完成車、機械式ULTEGRA完成車という3タイプが設定され、取り扱いはタキザワサイクルが行っている。

カーボン一辺倒の時代に、チタンの可能性を追求するライトスピード。趣きのある独特な金属光沢を放つ「T3」は果たしてどの様な立ち振る舞いを見せてくれるのだろうか。早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「チタンならではのウィップが気持ちいい 1日中走り続けたくなるバイク」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)


チタンならではの金属光沢やきれいな仕上がりの溶接部には男心くすぐられますね。ライトスピードというと個人的にはスパルタンなイメージがありましたが、T3は比較的ニュートラルな乗り味で、素直に「これは良い」と感じさせてくれるバイクです。時間乗っていても飽きることがなく、1日中走り回った後でも楽しいと思えるでしょう。

絶対的な剛性は高いレベルにある一方、一般的なホビーレーサーで体重の軽い私であっても、踏み込むと僅かにウィップします。ただ、ロスしている様な印象はなく、そこからのバイクの進みがとても軽快で、普段使用している硬いカーボンバイクにはない新鮮な乗り味でした。

「チタンならではのウィップが気持ちいい 1日中走り続けたくなるバイク」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)「チタンならではのウィップが気持ちいい 1日中走り続けたくなるバイク」吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
登りは比較的低ケイデンスでトルクを掛けていくと気持ち良いバイクが前に出てくれますね。カーボンよりも、ほんの僅かに質量的な重さを感じてしまいますが、疲労が溜まってきて高ケイデンスに切り替えてもバイクが軽快に前へ出てくれます。平地では、特に時速35km台後半から~40km前半にかけての心地よい伸びが軽やかでした。

やはり、HT44規格を採用し、肉厚を充分に確保するなどヘッドチューブがしっかりしているためか、路面の粗い下りコーナーでもバイクが挙動を乱すこともありません。テストバイクには軽量ブレーキがアッセンブルされていたため、フレームのブレーキ性能を限界まで引き出すことはできませんでしたがDURA-ACEであってもフレームが負けることは無いでしょう。ストレートフォークは想像していたよりもクイック過ぎず、ニュートラルですね。

快適性については、カーボンフレームと比較しても遜色ないですね。微振動も綺麗にいなすことができています。トップチューブの後ろ側を始めとした各部の扁平形状が効いているのではないでしょうか。同時にトラクション性能はカーボンに及ばずとも金属としてはトップレベルにあり、しっかりと路面を捉えてくれます。

細かい点では、リアディレーラーハンガーの剛性が高いのではと感じました。フレーム本体の破損を防止するために、昨今のカーボンフレームには敢えて折れやすいリアディレーラーハンガーを装着していますが、それと比較すると見た目にも感触的にも丈夫そう。実際にリア側の変速フィールが心なしか良い気がします。

用途としては登り下りのあるコースをマイペースで淡々と、一日中走り続けるという使い方にピッタリではないでしょうか。もちろんレースユースにも対応してくれますし、競技者であっても他人とは被らない個性的なバイクが欲しいという方にはぴったりなはず。チタンで周りのカーボンバイクを蹴散らせたらカッコいいと思いますし、T3はそれができるだけの純粋な走行性能の高さを持つバイクです。また、金属フレームですから衝撃にも強く、カーボンでは一歩引いてしまう様なグラベルライドもこなしてくれるはずです。

フレームセットの販売も行われるということですが、今回のテストバイクのパーツアッセンブルは個人的にはほぼ理想どおりです。やはり実用性よりも独特なルックスを活かしてあげたいので、スラムREDとローターのクランクという組み合わせは好適ですね。ホイールは「こだわり」の他にも様々な部分で共通項が多そうなゴキソを組み合わせるとおもしろいでしょう。

総じて、チタンとは一口にいっても幅広いですが、カーボンのハイエンドと肩を並べる様なプライスタグのモデルの中にあってもアメリカ製で30万円を切る価格設定は良心的ですね。耐久性が高い分だけ乗れる年数も長いですから、見方によってはお買い得ともいえるでしょう。

「安定性を重視した1台 全てのシチュエーションで重心を後方に置くと真価を発揮する」
中村仁(Hi-Bike)


かつてメカニックをしていたチームがライトスピードを使用していたのですが、設計の自由度が少ないチタンにあっても着実に進化していると関心させられました。特に最新規格を導入したヘッドチューブと組み合わせられるフロントフォークによる安心感の高さが印象的でした。

「安定性を重視した1台 全てのシチュエーションで重心を後方に置くと真価を発揮する」中村仁(Hi-Bike)「安定性を重視した1台 全てのシチュエーションで重心を後方に置くと真価を発揮する」中村仁(Hi-Bike) T3は安定性を重視して設計されたフレームといえるでしょう。ヒルクライム、平地巡航、ダウンヒルとシチュエーションを問わず、しっかりとサドルに座って重心を後方に置いてあげると、より気持ちよく走ってくれます。対象的にダンシングしたり、サドル前方に座るとひらひらっとすることがありました。剛性は比較的マイルドで、全体的にウィップしながらもスチールと比較すると芯が強い印象です。

登りは車体重量がそのまま乗り味に直結しており、軽快です。ケイデンスやトルクの高低に関わらず、シッティングで後ろ荷重にして乗ってあげるとより前に進んでくれました。カーボンとは異なるペダリングのリズムがあるため、乗り始めは慣れを要するでしょう。思わず脚をついてしまいそうな急勾配ではひらひら感が逆にメリットとなり、ダンシングすれば、ぐいっとバイクが進んでくれます。

下りでは重心の位置を体感的に掴めてさえいれば、ヒラヒラ感は身を潜め、しっかりとコントロールすることができます。荒れた路面でもバイクが振動をいなし続けてくれるため、弾かれず、トラクションが抜けてしまうことはありませんでした。ブレーキングについても不満はなく、今回は軽量なキャリパーが装着されていましたが、DURA-ACEなどストッピングパワーの大きなモデルでも、充分にその制動力を発揮してくれるはず。

総じて、性能面ではロングライドを主として稀にロードレースやヒルクライムに参加するという方に適性があるのではないでしょうか。所有欲という意味では既にカーボンバイクを所有していて、個性的な1台を探しているという方に最適なはずです。ヘッドチューブとシートチューブ裏の雰囲気あるバッジや、チタンならではの色味は所有欲を充分に満たしてくれますね。性能とルックスの高バランスを考えれば、コストパフォーマンスといえるでしょう。

パーツアッセンブルは、クランクやブレーキをサードパーティーにするなど、他人のバイクとは被らないオリジナリティーある組み合わせで遊んで欲しいですね。装着するパーツを選ばない懐の深いフレームではないでしょうか。ホイールはひらひらとしたハンドリングを落ち着かせるためにも、テストバイクの様な50mm以上のリムハイトのエアロ系がマッチすると感じました。見た目的にもエアロホイールがおすすめですね。

ライトスピード T3ライトスピード T3 photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
ライトスピード T3
フレーム:3Al-2.5V Titanium
ヘッド規格:Litespeed Taperd
BB規格:PF30
フォーク:Litespeed Taperd
サイズ:XS、S、M、ML、L、XL
価格:
■フレームセット 285,700円
■シマノULTEGRA Di2+フルクラムRacing 5完成車 558,900円
■シマノULTEGRA Di2+フルクラムRacing 5完成車 476,100円



インプレッションライダーのプロフィール

吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所) 中村仁(Hi-Bike)

茨城県つくば市に店舗を構えるHi-Bikeの店長を務めると同時に、JCF強化支援スタッフで主にレースメカニックを務めている。過去にはイノアックに在籍し、師事していた元オリンピック代表選手 高橋松吉さんのもとで自転車競技に打ち込む。現役引退後は一般企業とプロショップに勤め経験を積んだ後、独立し現在のつくばに店を構える。「ロードレースで活躍する日本人を見たい」という夢の実現に向けて、ショップでは充実したバイクライフをサポートするサービスを提供し、メカニック業務では後進の育成を務めることをモットーとしている。

Hi-Bike HP

photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto