2015/04/13(月) - 09:06
本格的なデリバリーが開始され、MTBレース会場でも見かける機会が多くなってきたシマノ M9000系XTR。今回は既にM9000系を実戦投入している沢田時選手(ブリヂストン・アンカー)によるインプレッションをお届け。ついにリア11速化を果たした機械式MTBコンポーネントの最高峰の実力は如何に。
新型クランクは従来モデルと同じく4アーム式
アルミ、チタン、カーボンの3素材を組み合わせることで軽量化と耐久性の向上を同時に達成したチェーンリング
当面は既存のフレームに対応するデュアルプル方式のFD-M9025(写真)が主流になるだろう
Di2の登場によって、やや影に隠れがちな新型の機械式XTR。しかしながら、リア11速化を筆頭に、XCレース向けのM9000系とトレイルライド向けのM9020系との差別化など、多様化の一途をたどるライディングスタイルや変化するホイールサイズに合わせた進化には目を見張るものがある。
今回は、恐らく国内で主流になるであろうXCレース向けのM9000系のインプレッションをお届けする。ただ、差別化が図られた一方で共通する点も多いことから、M9020系の購入を検討している方にも参考になるはずだ。それでは各パーツの詳細を解説していこう。
DURA-ACEと同じカーボン製スパイダーを採用することで重量増を最小限に抑えている
11速化されたスプロケット。歯数は11-40Tのみだ
シマノでは初めてのチューブレスレディとなるWH-M9000-TL
まずは、新型XTRの中で最も大きく進化したと言っても過言ではないクランクとスプロケット。前後の歯数構成や組み合わせを徹底的に煮詰めることで、システム全体としてクロスレシオ化した「リズムステップデザイン」を採用する。これにより、変速時におけるギア比の変化をほぼ均一とすることで常に一定のケイデンスを維持することが可能に。フリクションロスの大きなチェーンのたすき掛け状態が必要ないようギア比が設定されていることとあわせて、ライダーの疲労軽減を図っている。
クランク「FC-M9000」では、シマノのXC用としては初となるシングル(1x11)とダブル(2x11)の2種類がラインアップ。接着工法によって成型されるクランクアームは、中空部分を最大限に拡大することで軽量化を果たし、同時にQファクターを従来モデルよりも10mm縮めた158mmとし、高効率化を実現した。
チェーンリングはトレイル仕様の「FC-9020」とも共通の構造で、アウタープレートにアルミ、インナープレートにカーボン、歯先にチタンと3素材を組み合わせることで軽量化と耐久性の向上を同時に達成。2x11用では横剛性の向上とSG-Xスパイク構造によって変速性能も向上しているとのこと。ギア比の調整はフロントで行うため、1x11用では30T、32T、34T、36Tの4種類、2x11用では34-24T、36-26T、38-28Tの3種類をラインアップされる。
プーリー位置等の見直しにより40Tに対応したRD-M9000
スタビライザーにはアジャスト機能が搭載された
一方のスプロケット「CS-M9000」の歯数は、XC用とトレイル用に関わらず11-13-15-17-19-21-24-27-31-35-40Tと1種類のみ。構造面ではローギアをスポーク側にオフセットすることで、従来の10速用フリーボディへの装着を可能としたユーザーフレンドリーな設計がトピックス。11速化とワイドレシオ化による重量増は、ロー側ギアへのアルミの採用やカーボンスパイダーアームによって最小限に抑えられている。
そして、高効率化を更に後押しするのが、スプロケットとクランクを接続するチェーン「CN-HG900-11」だ。シマノ独自のフッ素加工SIL-TECをローラー及びプレートに施すことで、最大60%のプレート間摩擦抵抗の低減と30%に泥はけ性向上に成功。また、プレート形状の改良などあわせて耐久性は20%向上した。
スリムな形状のブレーキ及びシフトレバー。サスのロックアウトレバーとも干渉しづらい
シフトレバーはボールベアリングやポリマーコーティングワイヤーによってフリクションロスを低減している
Ice Techテクノロジーによる高い熱安定性を誇るローターとマグネシウムなどによって軽量化されたキャリパー
フレームや周辺パーツと干渉しにくいコンパクトデザインのキャリパー
リアディレーラー「RD-M9000」は従来同一線上にあったガイドプーリーの軸とプレートテンション軸をオフセットすることでローギア40Tに対応。カセットスプロケットとプーリーの間隔を段数に関わらず一定とすることで調整が容易に。チェーンスタビライザーにはアジャスト機能が追加され、前モデルのRD-M985に対して最大で50%強く設定できる一方、弱めに調整した場合にはよりライトアクションとすることが可能となった。
従来より大きく構造が変化したフロントディレーラー「FD-M9020」は、プレートを横方向に動かす「サイドスイング」によって変速力が100%も向上。同時にタイヤクリアランスが15mm拡大し、リンク軸の変更に伴いスイングアームが大きく動作した場合のチェーンとフロントディレーラーの干渉が低減。フレーム設計の自由度が向上した。
また、ケーブルのルーティングも一新され、ボールベアリングやポリマーコーティングインナーワイヤーを新たに採用したシフトレバー「SL-M9000」とあわせて、操作力を大幅に低減した。なお、FD-M9020は専用台座を要するため、既存のフレームに対応するFD-M9025も用意される。
M9000系XTRの組み付け例。金属光沢が力強く頑丈ながらも上質な印象を与えてくれる
M9000系のブレーキはレース用途にあわせて、M9020系よりもコントロール性を重視。ガラス繊維樹脂製ピストンと、断熱層を取り入れたブレーキパッドを新たに採用することで断熱性を10%高め、より安定した制動特性を目指した。同時にマグネシウム、カーボン、チタンによって軽量化を図っている。
今回インプレッションをきいたのはU23全日本XC王者の沢田時選手(ブリヂストン・アンカー)。シマノ初となるフロントシングルや、各部の進化は如何に。チューブレスレディとなったカーボンラミネートアルミリム採用のWH-M9000-TLのインプレとあわせて紹介しよう。
ーインプレッション
「11速は信頼性高し 全体的に順当な進化を遂げている」沢田時(ブリヂストンアンカー)
M9000系に変更する以前は「11速も必要なのだろうか」と感じていましたが、実際に使ってみると多段化のメリットは大きなという印象です。例えば登りでシフトダウンする際、10速ですと軽くなりすぎてしまい「脚が回りすぎてしんどい」ということが多々ありましたが、11速になってからはそれが少ない。ギア一枚の変化を10速の場合に1とすれば、11速の場合は0.5~0.7という感覚です。より最適なギア選択が可能になったことで、レース中の疲労度合いが大きく異なってくるのではないでしょうか。
「フロントシングルはガードを装着せずとも不意にチェーンが落ちることがなく安心」
シマノにとっても私にとっても初のフロントシングルということですが、ガードを装着せずとも不意にチェーンが落ちたりということが無く、非常に安心できますね。ダブルでは変速操作のミスでチェーンを落としてしまこともありますから、シンプルな1×11とより効率のよいギアの2×11が選択ができるのは、レースでは大きな武器になるはずです。
M9000系XTRとWH-M9000-TLをアッセンブルしたバイクを駆る沢田時選手(ブリヂストンアンカー)
沢田時選手(ブリヂストンアンカー)と愛車のアンカー XR9 チェーンリングの歯数については、34Tが基本になってくるかなと考えています。加えて平坦基調なコース用に36T、登りがちなコース様に32Tと3枚用意しておけば、あらゆるコースに対応できますね。加えて30Tもラインアップにありますから、ホビーレーサーの方でも積極的にフロントシングルを取入れて頂けるのではないでしょうか。
リアは11-40Tのみの設定ですが、フロントは歯数バリエーションが豊富なため、これといって気になりませんし、1種類のほうがセッティングで迷うこともなくなるでしょう。今季はワールドカップや世界選手権など国内よりハードなコースでもフロントシングルで走る予定です。
変速については、シフトレバーを押してからの反応は僅かに早くなった気がします。加えてスタビライザーにONとOFFに左右されづらくなりましたね。ONにした状態でチェーンが暴れづらいのは従来どおりなのですが、変速操作が重くなる度合いは小さくなりました。ワイヤーの引きの軽さ自体は従来モデルでも非常に良かったため、リアに関して言えば、少しスムーズになった程度です。
その他の駆動系パーツに関して、まずクランクのQファクターが10mmほど狭くなりましたが、セッティングに大きく影響するほどではないと印象です。チェーンについては駆動系がまるごと替わってしまったため、改良されたコーティングの効果がどの程度なのかを感じとるのは難しいのですが、着実にロスが少なくなっていますね。総じて、新型XTRは旧型の堅実性を着実に受け継ぎながらも着実に進化しているといえるでしょう。
また、コンポーネントより一足先に、昨年10月ごろからチューブレスレディのWH-M9000-TLも使用しており、こちらについても、とても気に入っています。剛性が適度で、小さいサスペンションの如く衝撃をマイルドに吸収してくれますね。ホイールに関しては「何も言うことなし」というほどの完成度です。
M9000系/M9020系発表時の解説記事はこちらから
取材協力:アンカー
photo:Makoto.AYANO, Yuya.Yamamoto
text:Yuya.Yamamoto
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Di2の登場によって、やや影に隠れがちな新型の機械式XTR。しかしながら、リア11速化を筆頭に、XCレース向けのM9000系とトレイルライド向けのM9020系との差別化など、多様化の一途をたどるライディングスタイルや変化するホイールサイズに合わせた進化には目を見張るものがある。
今回は、恐らく国内で主流になるであろうXCレース向けのM9000系のインプレッションをお届けする。ただ、差別化が図られた一方で共通する点も多いことから、M9020系の購入を検討している方にも参考になるはずだ。それでは各パーツの詳細を解説していこう。
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まずは、新型XTRの中で最も大きく進化したと言っても過言ではないクランクとスプロケット。前後の歯数構成や組み合わせを徹底的に煮詰めることで、システム全体としてクロスレシオ化した「リズムステップデザイン」を採用する。これにより、変速時におけるギア比の変化をほぼ均一とすることで常に一定のケイデンスを維持することが可能に。フリクションロスの大きなチェーンのたすき掛け状態が必要ないようギア比が設定されていることとあわせて、ライダーの疲労軽減を図っている。
クランク「FC-M9000」では、シマノのXC用としては初となるシングル(1x11)とダブル(2x11)の2種類がラインアップ。接着工法によって成型されるクランクアームは、中空部分を最大限に拡大することで軽量化を果たし、同時にQファクターを従来モデルよりも10mm縮めた158mmとし、高効率化を実現した。
チェーンリングはトレイル仕様の「FC-9020」とも共通の構造で、アウタープレートにアルミ、インナープレートにカーボン、歯先にチタンと3素材を組み合わせることで軽量化と耐久性の向上を同時に達成。2x11用では横剛性の向上とSG-Xスパイク構造によって変速性能も向上しているとのこと。ギア比の調整はフロントで行うため、1x11用では30T、32T、34T、36Tの4種類、2x11用では34-24T、36-26T、38-28Tの3種類をラインアップされる。
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一方のスプロケット「CS-M9000」の歯数は、XC用とトレイル用に関わらず11-13-15-17-19-21-24-27-31-35-40Tと1種類のみ。構造面ではローギアをスポーク側にオフセットすることで、従来の10速用フリーボディへの装着を可能としたユーザーフレンドリーな設計がトピックス。11速化とワイドレシオ化による重量増は、ロー側ギアへのアルミの採用やカーボンスパイダーアームによって最小限に抑えられている。
そして、高効率化を更に後押しするのが、スプロケットとクランクを接続するチェーン「CN-HG900-11」だ。シマノ独自のフッ素加工SIL-TECをローラー及びプレートに施すことで、最大60%のプレート間摩擦抵抗の低減と30%に泥はけ性向上に成功。また、プレート形状の改良などあわせて耐久性は20%向上した。
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従来より大きく構造が変化したフロントディレーラー「FD-M9020」は、プレートを横方向に動かす「サイドスイング」によって変速力が100%も向上。同時にタイヤクリアランスが15mm拡大し、リンク軸の変更に伴いスイングアームが大きく動作した場合のチェーンとフロントディレーラーの干渉が低減。フレーム設計の自由度が向上した。
また、ケーブルのルーティングも一新され、ボールベアリングやポリマーコーティングインナーワイヤーを新たに採用したシフトレバー「SL-M9000」とあわせて、操作力を大幅に低減した。なお、FD-M9020は専用台座を要するため、既存のフレームに対応するFD-M9025も用意される。
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今回インプレッションをきいたのはU23全日本XC王者の沢田時選手(ブリヂストン・アンカー)。シマノ初となるフロントシングルや、各部の進化は如何に。チューブレスレディとなったカーボンラミネートアルミリム採用のWH-M9000-TLのインプレとあわせて紹介しよう。
ーインプレッション
「11速は信頼性高し 全体的に順当な進化を遂げている」沢田時(ブリヂストンアンカー)
M9000系に変更する以前は「11速も必要なのだろうか」と感じていましたが、実際に使ってみると多段化のメリットは大きなという印象です。例えば登りでシフトダウンする際、10速ですと軽くなりすぎてしまい「脚が回りすぎてしんどい」ということが多々ありましたが、11速になってからはそれが少ない。ギア一枚の変化を10速の場合に1とすれば、11速の場合は0.5~0.7という感覚です。より最適なギア選択が可能になったことで、レース中の疲労度合いが大きく異なってくるのではないでしょうか。
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変速については、シフトレバーを押してからの反応は僅かに早くなった気がします。加えてスタビライザーにONとOFFに左右されづらくなりましたね。ONにした状態でチェーンが暴れづらいのは従来どおりなのですが、変速操作が重くなる度合いは小さくなりました。ワイヤーの引きの軽さ自体は従来モデルでも非常に良かったため、リアに関して言えば、少しスムーズになった程度です。
その他の駆動系パーツに関して、まずクランクのQファクターが10mmほど狭くなりましたが、セッティングに大きく影響するほどではないと印象です。チェーンについては駆動系がまるごと替わってしまったため、改良されたコーティングの効果がどの程度なのかを感じとるのは難しいのですが、着実にロスが少なくなっていますね。総じて、新型XTRは旧型の堅実性を着実に受け継ぎながらも着実に進化しているといえるでしょう。
また、コンポーネントより一足先に、昨年10月ごろからチューブレスレディのWH-M9000-TLも使用しており、こちらについても、とても気に入っています。剛性が適度で、小さいサスペンションの如く衝撃をマイルドに吸収してくれますね。ホイールに関しては「何も言うことなし」というほどの完成度です。
M9000系/M9020系発表時の解説記事はこちらから
取材協力:アンカー
photo:Makoto.AYANO, Yuya.Yamamoto
text:Yuya.Yamamoto
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