2015/02/10(火) - 10:46
2013、2014と2年連続してツールで区間4勝を達成したマルセル・キッテル。世界最速の名を欲しいままにするドイツ人スプリンターの愛機が「Faster From Every Angle」をテーマに掲げ開発されたジャイアントのエアロロード、PROPELだ。今回はセカンドグレードモデル「ADVANCED PRO」をインプレッションした。
ジャイアント PROPEL ADVANCED PRO 1 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
1990年台後半に当時最強のロードチームの1つであったオンセのサポートを行って以来、Tモバイル、ラボバンク、ジャイアント・アルペシンとワールドクラスの強豪プロチームと密接な関わりを持ち続ける、世界最大の自転車ブランド、ジャイアント。
トレンドリーダーとしての側面も持ち、例えば今ではほぼ全てのメーカーが採用しているスローピングトップチューブのロードバイクを世界で初めて登場させたことは余りにも有名な話だろう。近年ではディスクブレーキ搭載のシクロクロスバイクが一般的になったが、マスプロメーカーとしてその先陣を切ったのがジャイアント。ラルス・ファンデルハール(オランダ)が油圧ディスクブレーキ仕様のTCX ADVANCED SLを駆り、昨季のワールドカップ年間王者を獲得したことも記憶に新しい。
しかし、こと空力性能を狙ったエアロロードバイクに関して言うと、2013年までPROPELのデビューを待つことになる。ジャイアントの言葉を借りれば、その理由は「現在のロードバイク市場で最高のエアロ性能を目指した」から。丸2年に渡る開発期間を要した結果、「史上最速エアロロードバイク」が完成したのである。
スッキリとした印象のヘッド周り。タイヤクリアランスを大きくとることで太めのタイヤに対応している
シンプルなストレートブレードのフォーク
タイヤの太さによってインナーリード受けの位置を変えることができる
PROPELの特徴は、実際の走行で想定されるシチュエーションをできる限り再現しテストを行ったことにある。フレームセット単体での解析を行うのが常だが、PROPELではシミュレーション段階から完成車状態を想定。これによってブレーキやハンドル&ステムなど、トータルパッケージとしての開発が進められた。
また、解析データを基に造られたテストモデルに、サポートチームの所属選手をかたどった独自の可動マネキンを乗車させて風洞実験を行ったこともユニークな点だ。レース中に欠かせないボトルに関しても、搭載した状態で最も風による影響を受けないフレーム形状を模索。シミュレーション上や実験施設内での成績に満足するのではなく、あくまで生身のレーサーがレースで使うことを前提としているのだ。
90年代後半にスローピングトップチューブを世界に送り出したジャイアントだが、結果的にPROPELはエアロダイナミクス追求のため、ホリゾンタルデザインにごく近い、僅かなスローピングスタイルで誕生する。
シートクランプは臼式。今季より防水カバーが標準装備となった
エアロを追求するため、トップチューブをホリゾンタルとしている
ボトルケージ装着時の空気抵抗を考慮したダウンチューブの造形
ヘッドチューブはジャイアント独自規格のOverDrive2。変速ワイヤーのアウター受けはトップチューブ上面に設置
中でもキーとなっているのがフレーム及びフロントフォーク形状と一体化する専用ブレーキ。TRPとの共同開発によって誕生した「SPEED CONTROLブレーキシステム」は車体と組み合わせた際に翼断面形状を形成し、整流効果を発揮する。2015年モデルからは全てのモデルにアルミ製キャリパーが採用され、コントロール性、制動性も高められたことが特徴だ。
実際に目にしたプロペルはエアロロード然としたフォルムながら、極端なまでに薄い部分はライバルメーカーのバイクと比べ少ないように感じる。ヘッドチューブは真ん中がくびれたエアロデザインだが、上側1-1/4インチ、下側1-1/2インチのOVERDRIVE2ヘッド然り、BB86規格のボトムブラケット然り、同社のTCRなどと比較してもひけを取らないボリュームを有している。
これはPROPELがエアロのみを追い求めたのではなく、どんな場面でも活躍できるオールラウンドな性能を追い求めたから。実際に2013年、2014年のツール・ド・フランス超級山岳ステージでも使われた実績は、それを証明していると言っても過言ではないはずだ。
標準でカーボン製エアロハンドル「CONTACT SLR AERO」がアッセンブルされている
ホイールはフルカーボンのチューブレスレディモデル「P-SLR0 AERO Carbon」
こうして完成したPROPELは、厳格なテストを行うことで有名なドイツの自転車雑誌「TOUR」による検証において優れた性能を証明している。そのエアロフォルムは真向かいからはもちろんだが、それ以上に斜め前からの風に対して優れた性能を発揮し、進行方向より10°の向きから吹く風に対しては他のエアロロードを大きく下回る抵抗値をマークした。
また、時速40km/hで距離40kmのタイムトライアルを行った場合、2位のバイクに対して12秒、それ以下に対して30秒以上という圧倒的なアドバンテージを示したのだ。そして何よりも、マルセル・キッテルとジョン・デゲンコルブ(共に今季はジャイアント・アルペシン)という2人のドイツ人スプリンターの活躍がPROPELの持つ優位性を証明している。
TTバイク然とした翼断面のVECTORシートピラー
翼断面のチューブを多用するリアトライアングル
リアはタイヤクリアランスを狭めることで空気の乱れを抑制。ボトムブラケットはBB86規格だ
さて、今回インプレッションするのはセカンドグレードに位置付けられる「ADVANCED PRO」。基本的な設計はプロユースのハイエンド「ADVANCED SL」と共通だが、素材にT700グレードのカーボンを採用することでアマチュアライダーに最適な剛性を実現。シートポストは細やかな調整が可能な非ISPタイプとしている。
また、「ADVANCED PRO」には3つの販売パッケージが設定されており、今回テストするのはスカイブルーが鮮やかな「ADVANCED PRO 1」。機械式のシマノ6800系ULTEGRAをメインコンポとし、ジャイアントのカーボン技術を駆使したエアロホイール「P-SLR0 AERO Carbon」と、エアロ形状のハンドル/ステムという組み合わせ。この内容で完成車価格430,000円とは、驚くべきコストパフォーマンスだと言えよう。
ーインプレッション
「性能に偏りがないエアロロード 様々なシーンで活躍してくれる1台」山崎敏正(シルベストサイクル)
エアロバイクの皮を被ったオールラウンドモデルというのが第一印象です。車重的にも乗り味的にも軽いですし、登り性能も良好。空力性能を追求しながらも、他のエアロロードにありがちな性能の偏りがなく、ロードバイクとしても高い完成度を実現した点は素晴らしいですね。
まずPROPELの最大の特徴でありながら、購入を検討している方の多くにとって懸念材料でもあるブレーキについては一般的なキャリパープレーキと比較しても遜色ない性能に仕上がっています。様々なシチュエーションでブレーキをかけてみましたが、そのフィーリングや絶対的な制動力に不満はありませんし、メンテナンス性も悪くありません。
「性能に偏りがないエアロロード 様々なシーンで活躍してくれる1台」山崎敏正(シルベストサイクル)
フレームの剛性感は程よい印象で、エアロロードバイクにありがちなバランスの悪さは感じられません。今回試乗したバイクのサイズは小さめでしたが、硬すぎずに気持よく走ってくれました。特に前後方向のバランスに長けていますね。ハイエンドモデルに多いパリっと乾いた乗り味とはすこし違いますが、それでもグレード・価格以上に高品質のカーボンを使っていることが伝わってきました。
様々なプロファイルのコーナーでハンドリングを試してみましたが、オーバーもアンダーもなくニュートラルで、速度に関わらずコーナーでは思い通りのラインをトレースできます。その理由は重心が低いからだと感じました。ジャイアントながらスローピングでないにも関わらず低重心を実現できたのは、これまでに培ってきた経験やノウハウが存分に活かされているからでしょう。
そして、思いのほか好印象だったのが加速性能です。フレームそのものの性能に加え、アッセンブルされているカーボンディープホイールの転がり性能が非常に高いことがその理由です。おまけにカーボン製のエアロハンドルがアッセンブルされて430,000円とはコストパフォーマンスが非常に高いですね。
比較的エアロバイクが苦手な快適性についてはまずまずといえるでしょう。ひどく荒れた路面では突き上げが大きいと感じることもありましたが、レーシングバイクとしてみれば標準的なレベルです。個人的な意見ではありますが、内股が擦れることがある私にとっては、トップチューブの後端が薄くなっているのはお気に入りのポイントです。
総じて、バイクの乗り味と同じ様に様々な方におすすめできる1台です。エアロ性能を追求しながら、登り性能も高いレベルにありますね。走る場所やシチュエーションを選ばず、エンデューロ、ヒルクライム、ロングライドと何でも守備範囲です。何をしたいかがよく分かっていない初心者が買っても満足できる1台ですね。もちろん2台目に選ぶ、ステップアップのバイクとしてもピッタリです。
「コストパフォーマンス抜群 さすがはジャイアントと思わせる完成度の高さ」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
実は個人的にも非常に興味のある1台で、インプレッションを楽しみにしていました。フレームと一体化させたブレーキ形状や、ボトルケージを考慮したダウンチューブの形状など、実際の走行状況を考えた設計でエアロを追求した一方、実物を目の前にしてみるとチューブがペラペラということもなく、普通のロードバイクに肉付けしてエアロ化したという印象です。
「コストパフォーマンス抜群 さすがはジャイアントと思わせる完成度の高さ」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 実際に乗り始めて、まず感じたのが直進安定性の高さ。フラつきづらいため、上半身をリラックスさせながらラクに走らせることができました。その反面、コーナーでややオーバーステアが出てしまう点が気になりましたが、慣れの範疇というレベルで抑えられています。
個人的にも最も注目していたブレーキについては合格点といえるでしょう。ただ初期制動については、一般的なキャリパーが急激に立ち上がるのに対して、PROPELの場合は緩やか。その後は握りを強くした分だけ制動力が上昇していくという印象で、乗り始めはやや慣れが必要ですね。購入を考えている方の中にはブレーキに不安を覚えている方も少なくないでしょうが、さすがはジャイアントと思わせる完成度の高さがあります。フィーリング的な不満がある場合にはシューを変えると良いでしょう。
剛性感に関しては比較的マイルドで、尖った印象はありませんでした。踏み込むと自然にペダルが入って加速してくれる印象です。そしてやはり、平地の巡航は非常に得意で、高速で走ることに特化したバイクといえるでしょう。その一方で登りもしっかりとこなしてくれますし、巡航性と登坂性能のバランスの高さには驚かされました。登りでは一定ペースでケイデンス高めの時に軽快さを感じました。
ダンシングは大きく振らずに走ってあげると、PROPEL特有のリズムに合ってうまく進んでくれると感じました。これはヘッドやフォークを含めたトータルの横剛性に起因するものですね。
エアロロードは硬く乗り心地が悪いのが常ですが、PROPELには当てはまりません。よほど荒れた路面でなければ、快適かつ軽快に走ることができます。突上げも少なく、カーボン製のレーシングバイクという観点では標準的といえますね。
総じて、フレームの性能とアッセンブリーを考えると非常にお買い得ですね。アッセンブルされているホイールは剛性感があり、重量としては1500gを超えている割に重さは感じませんでした。トレンドに従ってワイドリムを採用しているのもポイントです。平地がメインだけど登りも好きという方、人と違うバイクが欲しい方、そしてPROPELと共に勝利を量産しているマルセル・キッテルのファンという方まで幅広くおすすめです。
ジャイアント PROPEL ADVANCED PRO 1 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ジャイアント PROPEL ADVANCED PRO 1
フレーム:Advanced-Grade Composite、VECTOR Composite Seat Pillar
フォーク:Pro-Spec、 Advanced-Grade Composite、Full Composite OverDrive 2 Column
コンポーネント:シマノ 6800系アルテグラ+ジャイアント SPEED CONTROL SL
ホイール:ジャイアント P-SLR0 AERO Carbon
タイヤ:ジャイアント P-SL1 700x23C
ハンドル:ジャイアント CONTACT SLR AERO
ステム:ジャイアント CONTACT SL OD2
シートピラー:ジャイアント VECTOR Composite
サドル:フィジーク ARIONE CX MG
サイズ:465(XS)、500(S)、520(M)、545(ML)mm
重 量:7.4kg(Sサイズ)
価 格:430,000円(税抜)
インプレライダープロフィール
山崎敏正(シルベストサイクル) 山崎敏正(シルベストサイクル)
「てnち」のニックネームで親しまれているシルベストサイクル総括店長。選手としてはモスクワオリンピックの日本代表に選出された経験を持つ一方で、サンツアーの開発部に在籍していたことから機材への造詣も深い。現在もロードレースで現役で、実業団ロードで入賞する好調ぶり。シルベストサイクルは梅田、箕面、京都と関西に3箇所に店舗を構え「頑張るアスリートのためのショップ」として信頼の技術力や確かなフィッティングサービスなどを提供している。加えて、ロードレースやロングライド、トライアスロン、トレイルランなど様々なジャンルのソフトサービスを展開している。
CWレコメンドショップページ
ショップHP
鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。過去には大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の北浦和に店を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。ショップでは個人のポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考えている。「買ってもらった方に自転車を続けてもらう」ことをモットーに魅力あるバイクライフを提案する日々を送っている。
CWレコメンドショップページ
ショップHP
ウエア協力:reric
ウエアのインプレッションはこちら
photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto
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1990年台後半に当時最強のロードチームの1つであったオンセのサポートを行って以来、Tモバイル、ラボバンク、ジャイアント・アルペシンとワールドクラスの強豪プロチームと密接な関わりを持ち続ける、世界最大の自転車ブランド、ジャイアント。
トレンドリーダーとしての側面も持ち、例えば今ではほぼ全てのメーカーが採用しているスローピングトップチューブのロードバイクを世界で初めて登場させたことは余りにも有名な話だろう。近年ではディスクブレーキ搭載のシクロクロスバイクが一般的になったが、マスプロメーカーとしてその先陣を切ったのがジャイアント。ラルス・ファンデルハール(オランダ)が油圧ディスクブレーキ仕様のTCX ADVANCED SLを駆り、昨季のワールドカップ年間王者を獲得したことも記憶に新しい。
しかし、こと空力性能を狙ったエアロロードバイクに関して言うと、2013年までPROPELのデビューを待つことになる。ジャイアントの言葉を借りれば、その理由は「現在のロードバイク市場で最高のエアロ性能を目指した」から。丸2年に渡る開発期間を要した結果、「史上最速エアロロードバイク」が完成したのである。
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PROPELの特徴は、実際の走行で想定されるシチュエーションをできる限り再現しテストを行ったことにある。フレームセット単体での解析を行うのが常だが、PROPELではシミュレーション段階から完成車状態を想定。これによってブレーキやハンドル&ステムなど、トータルパッケージとしての開発が進められた。
また、解析データを基に造られたテストモデルに、サポートチームの所属選手をかたどった独自の可動マネキンを乗車させて風洞実験を行ったこともユニークな点だ。レース中に欠かせないボトルに関しても、搭載した状態で最も風による影響を受けないフレーム形状を模索。シミュレーション上や実験施設内での成績に満足するのではなく、あくまで生身のレーサーがレースで使うことを前提としているのだ。
90年代後半にスローピングトップチューブを世界に送り出したジャイアントだが、結果的にPROPELはエアロダイナミクス追求のため、ホリゾンタルデザインにごく近い、僅かなスローピングスタイルで誕生する。
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中でもキーとなっているのがフレーム及びフロントフォーク形状と一体化する専用ブレーキ。TRPとの共同開発によって誕生した「SPEED CONTROLブレーキシステム」は車体と組み合わせた際に翼断面形状を形成し、整流効果を発揮する。2015年モデルからは全てのモデルにアルミ製キャリパーが採用され、コントロール性、制動性も高められたことが特徴だ。
実際に目にしたプロペルはエアロロード然としたフォルムながら、極端なまでに薄い部分はライバルメーカーのバイクと比べ少ないように感じる。ヘッドチューブは真ん中がくびれたエアロデザインだが、上側1-1/4インチ、下側1-1/2インチのOVERDRIVE2ヘッド然り、BB86規格のボトムブラケット然り、同社のTCRなどと比較してもひけを取らないボリュームを有している。
これはPROPELがエアロのみを追い求めたのではなく、どんな場面でも活躍できるオールラウンドな性能を追い求めたから。実際に2013年、2014年のツール・ド・フランス超級山岳ステージでも使われた実績は、それを証明していると言っても過言ではないはずだ。
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また、時速40km/hで距離40kmのタイムトライアルを行った場合、2位のバイクに対して12秒、それ以下に対して30秒以上という圧倒的なアドバンテージを示したのだ。そして何よりも、マルセル・キッテルとジョン・デゲンコルブ(共に今季はジャイアント・アルペシン)という2人のドイツ人スプリンターの活躍がPROPELの持つ優位性を証明している。
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さて、今回インプレッションするのはセカンドグレードに位置付けられる「ADVANCED PRO」。基本的な設計はプロユースのハイエンド「ADVANCED SL」と共通だが、素材にT700グレードのカーボンを採用することでアマチュアライダーに最適な剛性を実現。シートポストは細やかな調整が可能な非ISPタイプとしている。
また、「ADVANCED PRO」には3つの販売パッケージが設定されており、今回テストするのはスカイブルーが鮮やかな「ADVANCED PRO 1」。機械式のシマノ6800系ULTEGRAをメインコンポとし、ジャイアントのカーボン技術を駆使したエアロホイール「P-SLR0 AERO Carbon」と、エアロ形状のハンドル/ステムという組み合わせ。この内容で完成車価格430,000円とは、驚くべきコストパフォーマンスだと言えよう。
ーインプレッション
「性能に偏りがないエアロロード 様々なシーンで活躍してくれる1台」山崎敏正(シルベストサイクル)
エアロバイクの皮を被ったオールラウンドモデルというのが第一印象です。車重的にも乗り味的にも軽いですし、登り性能も良好。空力性能を追求しながらも、他のエアロロードにありがちな性能の偏りがなく、ロードバイクとしても高い完成度を実現した点は素晴らしいですね。
まずPROPELの最大の特徴でありながら、購入を検討している方の多くにとって懸念材料でもあるブレーキについては一般的なキャリパープレーキと比較しても遜色ない性能に仕上がっています。様々なシチュエーションでブレーキをかけてみましたが、そのフィーリングや絶対的な制動力に不満はありませんし、メンテナンス性も悪くありません。
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フレームの剛性感は程よい印象で、エアロロードバイクにありがちなバランスの悪さは感じられません。今回試乗したバイクのサイズは小さめでしたが、硬すぎずに気持よく走ってくれました。特に前後方向のバランスに長けていますね。ハイエンドモデルに多いパリっと乾いた乗り味とはすこし違いますが、それでもグレード・価格以上に高品質のカーボンを使っていることが伝わってきました。
様々なプロファイルのコーナーでハンドリングを試してみましたが、オーバーもアンダーもなくニュートラルで、速度に関わらずコーナーでは思い通りのラインをトレースできます。その理由は重心が低いからだと感じました。ジャイアントながらスローピングでないにも関わらず低重心を実現できたのは、これまでに培ってきた経験やノウハウが存分に活かされているからでしょう。
そして、思いのほか好印象だったのが加速性能です。フレームそのものの性能に加え、アッセンブルされているカーボンディープホイールの転がり性能が非常に高いことがその理由です。おまけにカーボン製のエアロハンドルがアッセンブルされて430,000円とはコストパフォーマンスが非常に高いですね。
比較的エアロバイクが苦手な快適性についてはまずまずといえるでしょう。ひどく荒れた路面では突き上げが大きいと感じることもありましたが、レーシングバイクとしてみれば標準的なレベルです。個人的な意見ではありますが、内股が擦れることがある私にとっては、トップチューブの後端が薄くなっているのはお気に入りのポイントです。
総じて、バイクの乗り味と同じ様に様々な方におすすめできる1台です。エアロ性能を追求しながら、登り性能も高いレベルにありますね。走る場所やシチュエーションを選ばず、エンデューロ、ヒルクライム、ロングライドと何でも守備範囲です。何をしたいかがよく分かっていない初心者が買っても満足できる1台ですね。もちろん2台目に選ぶ、ステップアップのバイクとしてもピッタリです。
「コストパフォーマンス抜群 さすがはジャイアントと思わせる完成度の高さ」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
実は個人的にも非常に興味のある1台で、インプレッションを楽しみにしていました。フレームと一体化させたブレーキ形状や、ボトルケージを考慮したダウンチューブの形状など、実際の走行状況を考えた設計でエアロを追求した一方、実物を目の前にしてみるとチューブがペラペラということもなく、普通のロードバイクに肉付けしてエアロ化したという印象です。
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個人的にも最も注目していたブレーキについては合格点といえるでしょう。ただ初期制動については、一般的なキャリパーが急激に立ち上がるのに対して、PROPELの場合は緩やか。その後は握りを強くした分だけ制動力が上昇していくという印象で、乗り始めはやや慣れが必要ですね。購入を考えている方の中にはブレーキに不安を覚えている方も少なくないでしょうが、さすがはジャイアントと思わせる完成度の高さがあります。フィーリング的な不満がある場合にはシューを変えると良いでしょう。
剛性感に関しては比較的マイルドで、尖った印象はありませんでした。踏み込むと自然にペダルが入って加速してくれる印象です。そしてやはり、平地の巡航は非常に得意で、高速で走ることに特化したバイクといえるでしょう。その一方で登りもしっかりとこなしてくれますし、巡航性と登坂性能のバランスの高さには驚かされました。登りでは一定ペースでケイデンス高めの時に軽快さを感じました。
ダンシングは大きく振らずに走ってあげると、PROPEL特有のリズムに合ってうまく進んでくれると感じました。これはヘッドやフォークを含めたトータルの横剛性に起因するものですね。
エアロロードは硬く乗り心地が悪いのが常ですが、PROPELには当てはまりません。よほど荒れた路面でなければ、快適かつ軽快に走ることができます。突上げも少なく、カーボン製のレーシングバイクという観点では標準的といえますね。
総じて、フレームの性能とアッセンブリーを考えると非常にお買い得ですね。アッセンブルされているホイールは剛性感があり、重量としては1500gを超えている割に重さは感じませんでした。トレンドに従ってワイドリムを採用しているのもポイントです。平地がメインだけど登りも好きという方、人と違うバイクが欲しい方、そしてPROPELと共に勝利を量産しているマルセル・キッテルのファンという方まで幅広くおすすめです。
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ジャイアント PROPEL ADVANCED PRO 1
フレーム:Advanced-Grade Composite、VECTOR Composite Seat Pillar
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コンポーネント:シマノ 6800系アルテグラ+ジャイアント SPEED CONTROL SL
ホイール:ジャイアント P-SLR0 AERO Carbon
タイヤ:ジャイアント P-SL1 700x23C
ハンドル:ジャイアント CONTACT SLR AERO
ステム:ジャイアント CONTACT SL OD2
シートピラー:ジャイアント VECTOR Composite
サドル:フィジーク ARIONE CX MG
サイズ:465(XS)、500(S)、520(M)、545(ML)mm
重 量:7.4kg(Sサイズ)
価 格:430,000円(税抜)
インプレライダープロフィール
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「てnち」のニックネームで親しまれているシルベストサイクル総括店長。選手としてはモスクワオリンピックの日本代表に選出された経験を持つ一方で、サンツアーの開発部に在籍していたことから機材への造詣も深い。現在もロードレースで現役で、実業団ロードで入賞する好調ぶり。シルベストサイクルは梅田、箕面、京都と関西に3箇所に店舗を構え「頑張るアスリートのためのショップ」として信頼の技術力や確かなフィッティングサービスなどを提供している。加えて、ロードレースやロングライド、トライアスロン、トレイルランなど様々なジャンルのソフトサービスを展開している。
CWレコメンドショップページ
ショップHP
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スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。過去には大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の北浦和に店を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。ショップでは個人のポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考えている。「買ってもらった方に自転車を続けてもらう」ことをモットーに魅力あるバイクライフを提案する日々を送っている。
CWレコメンドショップページ
ショップHP
ウエア協力:reric
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photo:Makoto.AYANO
text:Yuya.Yamamoto
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