2014/12/16(火) - 08:54
今シーズン限りで選手を引退した宮澤崇史に、今後の活動について訊いた。アスリートとしての経験を活かしていくのはもちろん、枠にとらわれない幅広い活動を展開していくという。ファッションや食など様々なことにも興味を示し、タカシは動く。
(聞き手:綾野 真)
ー 改めて、すべてのレースと選手活動を終えて今、どう感じていますか? やりきった感はある? また選手に戻りたいと思わない?
いやいやいや、選手はもうたくさん(笑)。もうお腹いっぱいで、おかわりは要らないよ! という感じ。僕はいつでも常にやり尽くしてたし、燃え尽きてた。よく後悔はしてない?って訊かれるけど、いつでも全力で悔いのないように走ってきたから。今も、10年前も後悔なんてしたこともない。辞めるタイミングが今だったということだけ。いつも精一杯やって来ていたから。
ー ではもう気持ちを切り替えて、これからのことに向かっているんですね。タカシのこれからについて話を聞かせてください。今後は何をしていくんですか?
とくにどこに所属するわけではなく、基本的にフリーランスとして活動していきます。色々な依頼に対して、宮澤らしい発想で応えていきます。私を必要としてくれる人に対して仕事をします。
ー 新しいことへのチャレンジですね。
そうです。今までは選手として創意工夫をしながら自分自身の能力を高めていくだけでよかった。でもこれからは、新しいことにイチからの挑戦ですから、初めて自転車でヨーロッパに行ったときと同じ気持ちですね。何事も初めての中で自分を成り立たせていかなくてはいけないですから。選手をやめて気は楽になりましたが、新たな不安はありますね。
イタリアに最初行った時だって右も左も分からない中で何とかやって来た。それを新しい世界でやっていかなきゃいけないから。今のところは必然的に各種イベントや講演、メディア出演・開発アドバイザーなどを始めています。これからは様々なことに仕事を広げていきたい。
ー 自分の経験を生かしていくということですね。高校生の頃から自転車競技を初めて、UCIプロツアーの世界にまで上り詰めたわけですが、自分の経験を振り返ってみると?
日本のレースも走ったけど、17歳の時から長い間ヨーロッパに行って走ってきました。僕の中ではヨーロッパでの経験や影響が大きく、それがすべてと言ってもいいですね。ヨーロッパで生活しながら、レース活動をして、選手として育ってきた。そこで学んだことがすべてですね。
ー 欧州での活動に関しては浅田顕さん、大門宏さんの2人のキーマンがいましたね。
その2人のもとで走り育てていただいた経験があったから、サクソバンクに入った時も戸惑いがありませんでした。そこで私が何をすべきかがわかっていたし、言葉の壁もほとんどなかった。英語は最初だけ苦労したけど、コミュニケーションの取り方自体はすでに身についていたし、5ヶ国語目を話せるようになるには、コツを見つけるだけだった。
ー やはり世界最高峰のチームで走れたのは良い経験だったのでしょうか?
そこにたどり着くことは確かに難しいし、良い経験だったことは確かです。ツール・ド・フランスに出場はできなかったけど、それが心残りかと言われるとそんなこともない。ツール・ド・フランスは誰にとってもわかりやすい夢だけど、ツールはある意味特殊で、プロサイクリングの世界って決してそれだけじゃない。サクソバンクというプロチームで走り、総合ジャージとポイントジャージに袖を通したことは、自分の目標にひとつ到達できたと思っている。
ー やはりプロツアーチームの環境というのは最高のものでしたか?
チームはしっかりしているし、バジェット(予算)についても余裕がある。他のチームと比べることじゃないけど、すべてがスマートでしたね。ただ、素晴らしい環境なんだけど、「何が何でも!」という泥臭さはないですね(笑)。
ー それはエリート集団だからということ?
すべてがシステム化されているし、何に対しても潔いんです。いい意味でネチネチしていないし、あっさりしている。僕がかつて浅田さんのところで走っていた時は、泥臭ささも多くて、何かにしがみついていて、「ナニクソ、這い上がってやるぜっ!」っていう、がむしゃらな感じでした。6畳一間に4人ぐらいがせめぎあって、這い上がろうとしているようなギラギラした感じですね(笑)。そこでモチベーションが身についた。
ー ハングリー精神というやつですね。
僕のなかでいい思い出は、そこで身につけたことかな。お金もなかったし、機材や物品の不足や制限もあった。カーボンホイールなんてオリンピック出場(30歳)まで使ったこともなかったし、その環境のなかでも、恵まれたアイツら(プロツアーレーサーたち)に勝ってやるっていう意地みたいな気持ちがあった。
ー サクソバンク(現ティンコフ・サクソ)の場合はすでに選手やチームが完成形で、あとはレースで勝利という結果を挙げることに集中していくという違いがあるのでしょうね。
そうそう。しかし気分的なもの、モチベーションは選手にとって大切な要素です。カザフの選手がアジア大会を鉄フレームでものすごい攻めの走りをしていた事をよく思い出します。力勝負だけど、ハングリー精神は一緒です。
ー タカシはいろいろなことを突き詰めていくタイプですよね。選手や一般サイクリストに対してのトレーニング理論の伝授やコーチングなどの展開についても期待してしまいます。
すでにそういった仕事も始めています。まだお話できない事もあるのですが、一つずつ進めています。イベントや講習などは常に受け付けていますよ。トレーニング理論やコーチングに関して思うのは、パワーメーターって「体重計」と同じだと思う。やったことが数値で出る。ダイエットと同じですね。食べる物を確認しながら、目標の数値へと近づけていく確認作業なんです。パワーメーターなどはそのアイテムでしか無い。『こうなりたい』と思ったことを手助けしてくれるもの。私はそれ以上のこと、トレーニングの本質を教えていくことをしたいですね。
自分はプロ時代もパワーがあまり伸びなかったんですよ。でも、体重が60kgから58kgに変化してもパワー値が一緒だった。でもそれって伸びているってことなんです。僕の場合、身体の使い方でパワー不足をカバーできていたと思います。
ー 話を変えて、お洒落なメガネをしていますよね。メガネのプロデュースもしているそうですね。
999.9(フォーナインズ)(=品質の高さで知られる国産眼鏡メーカー)には普段のメガネをサポートして頂いています。高校を卒業して初めて買ったメガネがフォーナインズだったんです。会社に自転車好きの方が居て、そのうち自転車部もできた。交流するうちに社長も自転車のことが気になってきて、ついにロードバイクを買ってしまったぐらい。フォーナインズにはバイク用アイウェアってのは無かったから、そのアドバイスをすることになったんです。
スポーツサングラスの製作アドバイスをしています。今後、同社初のスポーツにフォーカスしたサングラスも販売します。楽しみにしていてください。こういったアドバイザーも仕事の一つです。
ー アスリートとしての枠にとらわれない活動ですね。
モノづくりにこだわりをもった方たちとディスカッションを重ねて製品を作り上げていくのは楽しい。すごく好きですね。メガネが好きでしょうがない人たち、良いモノをつくりたいと思っている職人さんたちとのコラボは本当に楽しいです。世の中にとって意味のあるもの、価値のあるモノをつくっていくのは興奮します。自転車関係の商品企画や製品評価なども手がけていきたいですね。
ー タカシはバイクやプロダクツ、食事、ワイン、コーヒー、ファッション..... 何にでもこだわりますよね。きっと「極めること」が好きなんですね。
まだまだです(笑)。でも、私なりのこだわりを創る事は好きですね。まだ詳しくは言えないけど、オリジナル商品なんかもつくっていきます。ミヤザワってこんなこと頼んでいいのかな?などと恐れずに声をかけて欲しいですね。僕は楽しいことをしたい。私が大切にしている思いが伝わるような仕事をしていきたいですね。生活を楽しくする、bravo(ブラーボ)なことを提案していきたい。
ー 声をかけにくいのは、尊敬すべきアスリートだから、身構えてしまうのかもしれません(笑)。
ところで国内チームの監督になるという話も聞きました。
あくまでも仕事のひとつとして引き受けました。自分の経験を少しでも活かせればと思ったからです。若手育成も仕事を受けていく中のひとつ、ということです。選手のためにこんな事が必要じゃないかな? と私なりに面白いチーム運営形態を考えました。詳しくはまだ話せませんが、発表を楽しみにしてください。
ー なんだか面白そうです。楽しみな話ですね。
(〜サクソバンクでの体幹トレーニング中のビデオを見ながら〜)
プロチームにいた時、僕はチームのやる事全てを吸収しようと思っていたので、チームでやるトレーニング風景など逐一ビデオに撮ったりしていました。それはたぶん後で役に立つだろうと考えていたんですね。
チームに指示されたトレーニングプランなども、すべて記録をとっているんです。そんな事もチーム指導に盛り込んでいきたいと思っています。
ー スパイみたいですね・笑。でも、トップチームのノウハウをたくさんお持ち帰りしたわけですね。
そうです(笑)。資料として貴重だと思います。そして、あの世界を体験した人間として伝えられること、経験を生かしていくことには貪欲でありたいです。
ー 枠にとらわれないこれからの活動に期待しています。選手をやめても、さらに面白いことができそうですね。楽しみです。
なんでも見境なくやるってわけじゃないけど、僕を必要としてくれる人のために仕事をしていきたいですね。皆さん、お声がけ待っています!
text&photo:Makoto.AYANO
(聞き手:綾野 真)
ー 改めて、すべてのレースと選手活動を終えて今、どう感じていますか? やりきった感はある? また選手に戻りたいと思わない?
いやいやいや、選手はもうたくさん(笑)。もうお腹いっぱいで、おかわりは要らないよ! という感じ。僕はいつでも常にやり尽くしてたし、燃え尽きてた。よく後悔はしてない?って訊かれるけど、いつでも全力で悔いのないように走ってきたから。今も、10年前も後悔なんてしたこともない。辞めるタイミングが今だったということだけ。いつも精一杯やって来ていたから。
ー ではもう気持ちを切り替えて、これからのことに向かっているんですね。タカシのこれからについて話を聞かせてください。今後は何をしていくんですか?
とくにどこに所属するわけではなく、基本的にフリーランスとして活動していきます。色々な依頼に対して、宮澤らしい発想で応えていきます。私を必要としてくれる人に対して仕事をします。
ー 新しいことへのチャレンジですね。
そうです。今までは選手として創意工夫をしながら自分自身の能力を高めていくだけでよかった。でもこれからは、新しいことにイチからの挑戦ですから、初めて自転車でヨーロッパに行ったときと同じ気持ちですね。何事も初めての中で自分を成り立たせていかなくてはいけないですから。選手をやめて気は楽になりましたが、新たな不安はありますね。
イタリアに最初行った時だって右も左も分からない中で何とかやって来た。それを新しい世界でやっていかなきゃいけないから。今のところは必然的に各種イベントや講演、メディア出演・開発アドバイザーなどを始めています。これからは様々なことに仕事を広げていきたい。
ー 自分の経験を生かしていくということですね。高校生の頃から自転車競技を初めて、UCIプロツアーの世界にまで上り詰めたわけですが、自分の経験を振り返ってみると?
日本のレースも走ったけど、17歳の時から長い間ヨーロッパに行って走ってきました。僕の中ではヨーロッパでの経験や影響が大きく、それがすべてと言ってもいいですね。ヨーロッパで生活しながら、レース活動をして、選手として育ってきた。そこで学んだことがすべてですね。
ー 欧州での活動に関しては浅田顕さん、大門宏さんの2人のキーマンがいましたね。
その2人のもとで走り育てていただいた経験があったから、サクソバンクに入った時も戸惑いがありませんでした。そこで私が何をすべきかがわかっていたし、言葉の壁もほとんどなかった。英語は最初だけ苦労したけど、コミュニケーションの取り方自体はすでに身についていたし、5ヶ国語目を話せるようになるには、コツを見つけるだけだった。
ー やはり世界最高峰のチームで走れたのは良い経験だったのでしょうか?
そこにたどり着くことは確かに難しいし、良い経験だったことは確かです。ツール・ド・フランスに出場はできなかったけど、それが心残りかと言われるとそんなこともない。ツール・ド・フランスは誰にとってもわかりやすい夢だけど、ツールはある意味特殊で、プロサイクリングの世界って決してそれだけじゃない。サクソバンクというプロチームで走り、総合ジャージとポイントジャージに袖を通したことは、自分の目標にひとつ到達できたと思っている。
ー やはりプロツアーチームの環境というのは最高のものでしたか?
チームはしっかりしているし、バジェット(予算)についても余裕がある。他のチームと比べることじゃないけど、すべてがスマートでしたね。ただ、素晴らしい環境なんだけど、「何が何でも!」という泥臭さはないですね(笑)。
ー それはエリート集団だからということ?
すべてがシステム化されているし、何に対しても潔いんです。いい意味でネチネチしていないし、あっさりしている。僕がかつて浅田さんのところで走っていた時は、泥臭ささも多くて、何かにしがみついていて、「ナニクソ、這い上がってやるぜっ!」っていう、がむしゃらな感じでした。6畳一間に4人ぐらいがせめぎあって、這い上がろうとしているようなギラギラした感じですね(笑)。そこでモチベーションが身についた。
ー ハングリー精神というやつですね。
僕のなかでいい思い出は、そこで身につけたことかな。お金もなかったし、機材や物品の不足や制限もあった。カーボンホイールなんてオリンピック出場(30歳)まで使ったこともなかったし、その環境のなかでも、恵まれたアイツら(プロツアーレーサーたち)に勝ってやるっていう意地みたいな気持ちがあった。
ー サクソバンク(現ティンコフ・サクソ)の場合はすでに選手やチームが完成形で、あとはレースで勝利という結果を挙げることに集中していくという違いがあるのでしょうね。
そうそう。しかし気分的なもの、モチベーションは選手にとって大切な要素です。カザフの選手がアジア大会を鉄フレームでものすごい攻めの走りをしていた事をよく思い出します。力勝負だけど、ハングリー精神は一緒です。
ー タカシはいろいろなことを突き詰めていくタイプですよね。選手や一般サイクリストに対してのトレーニング理論の伝授やコーチングなどの展開についても期待してしまいます。
すでにそういった仕事も始めています。まだお話できない事もあるのですが、一つずつ進めています。イベントや講習などは常に受け付けていますよ。トレーニング理論やコーチングに関して思うのは、パワーメーターって「体重計」と同じだと思う。やったことが数値で出る。ダイエットと同じですね。食べる物を確認しながら、目標の数値へと近づけていく確認作業なんです。パワーメーターなどはそのアイテムでしか無い。『こうなりたい』と思ったことを手助けしてくれるもの。私はそれ以上のこと、トレーニングの本質を教えていくことをしたいですね。
自分はプロ時代もパワーがあまり伸びなかったんですよ。でも、体重が60kgから58kgに変化してもパワー値が一緒だった。でもそれって伸びているってことなんです。僕の場合、身体の使い方でパワー不足をカバーできていたと思います。
ー 話を変えて、お洒落なメガネをしていますよね。メガネのプロデュースもしているそうですね。
999.9(フォーナインズ)(=品質の高さで知られる国産眼鏡メーカー)には普段のメガネをサポートして頂いています。高校を卒業して初めて買ったメガネがフォーナインズだったんです。会社に自転車好きの方が居て、そのうち自転車部もできた。交流するうちに社長も自転車のことが気になってきて、ついにロードバイクを買ってしまったぐらい。フォーナインズにはバイク用アイウェアってのは無かったから、そのアドバイスをすることになったんです。
スポーツサングラスの製作アドバイスをしています。今後、同社初のスポーツにフォーカスしたサングラスも販売します。楽しみにしていてください。こういったアドバイザーも仕事の一つです。
ー アスリートとしての枠にとらわれない活動ですね。
モノづくりにこだわりをもった方たちとディスカッションを重ねて製品を作り上げていくのは楽しい。すごく好きですね。メガネが好きでしょうがない人たち、良いモノをつくりたいと思っている職人さんたちとのコラボは本当に楽しいです。世の中にとって意味のあるもの、価値のあるモノをつくっていくのは興奮します。自転車関係の商品企画や製品評価なども手がけていきたいですね。
ー タカシはバイクやプロダクツ、食事、ワイン、コーヒー、ファッション..... 何にでもこだわりますよね。きっと「極めること」が好きなんですね。
まだまだです(笑)。でも、私なりのこだわりを創る事は好きですね。まだ詳しくは言えないけど、オリジナル商品なんかもつくっていきます。ミヤザワってこんなこと頼んでいいのかな?などと恐れずに声をかけて欲しいですね。僕は楽しいことをしたい。私が大切にしている思いが伝わるような仕事をしていきたいですね。生活を楽しくする、bravo(ブラーボ)なことを提案していきたい。
ー 声をかけにくいのは、尊敬すべきアスリートだから、身構えてしまうのかもしれません(笑)。
ところで国内チームの監督になるという話も聞きました。
あくまでも仕事のひとつとして引き受けました。自分の経験を少しでも活かせればと思ったからです。若手育成も仕事を受けていく中のひとつ、ということです。選手のためにこんな事が必要じゃないかな? と私なりに面白いチーム運営形態を考えました。詳しくはまだ話せませんが、発表を楽しみにしてください。
ー なんだか面白そうです。楽しみな話ですね。
(〜サクソバンクでの体幹トレーニング中のビデオを見ながら〜)
プロチームにいた時、僕はチームのやる事全てを吸収しようと思っていたので、チームでやるトレーニング風景など逐一ビデオに撮ったりしていました。それはたぶん後で役に立つだろうと考えていたんですね。
チームに指示されたトレーニングプランなども、すべて記録をとっているんです。そんな事もチーム指導に盛り込んでいきたいと思っています。
ー スパイみたいですね・笑。でも、トップチームのノウハウをたくさんお持ち帰りしたわけですね。
そうです(笑)。資料として貴重だと思います。そして、あの世界を体験した人間として伝えられること、経験を生かしていくことには貪欲でありたいです。
ー 枠にとらわれないこれからの活動に期待しています。選手をやめても、さらに面白いことができそうですね。楽しみです。
なんでも見境なくやるってわけじゃないけど、僕を必要としてくれる人のために仕事をしていきたいですね。皆さん、お声がけ待っています!
text&photo:Makoto.AYANO
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