2014/11/01(土) - 11:29
独自の製法と設計で、高品質なカーボンバイクを世に送り続けるタイム。大幅なラインナップ変更が行われた2015年モデルのセカンドグレードに位置するのが、今回インプレするIZONだ。タイムの新たなフラッグシップモデルであるSKYLONと共通のレーシーなジオメトリーを持つIZONの真価を解き明かしていこう。
フランス・リヨンを拠点とするカーボンフレームメーカーであるタイム。1987年、独自のフロート機構を持つビンディングペダルの製造から同社の歴史は始まった。1993年には、当時まだ珍しかったカーボンフレームの製造に着手。以来、20年間にわたりトップレベルのカーボンフレームの製作を続けてきたタイムは、2005年、2006年のロードレース世界選手権優勝など数々の輝かしい実績を残している。
しかしながら近年はプロツアーチームへの供給は少なく、グランツールをはじめとしたメジャーレースでは目立った活躍は少なくなってきている。それでも国内・外を問わずサイクリストの間では「タイムと言えばピュアレーシングバイクの最高峰」として認識されている。
読者の中でも、いつかはタイム、というような憧れを抱いている人もいるのではないだろうか。それは、スポンサーシップなどのしがらみがなく、純粋に勝利を目指して本当に自分が気に入った機材を使うことのできるハイアマチュア間の評価が高いことに他ならない。
1993年のフレーム製造開始時から一貫して、RTM(レジントランスファーモールディング)製法によってバイクを製作しているタイム。RTM工法は精度と強度の両方が高い次元で求められる航空機の主翼や、F1のシャーシ等の製造にも採用された実績を持ち、ここ最近の例をあげるとMRJの尾翼部材でも採用されている工法だ。
一般的なカーボンフレームでは、カーボンシートを樹脂に含浸させたプリプレグを貼り合わせていく。しかし、圧力をかけて素材を曲げるため、フレーム内部に残留物が残ったり、シワができるほか、作業者の熟練度にも左右されやすい問題がある。
対して、タイムは専用の機械によりカーボンの原糸を編み込んでいくことで各チューブを作り出していく。そして、フレーム各部の形に作成された「ロウ」を芯材として、その上に自社で編み込んだカーボンを7層に重ねて履かせたのち、金型に入れ最後にエポキシ素材を注入するRTM工法により成形する。繊維層の剥離や空洞が生じづらく、安全性の向上を図ることが可能となる他、使用した「ロウ」はその後融解し吸い出すことでフレーム内部に残留物が発生せず、軽量化にもつながるのだ。
カーボン繊維の種類や向き、編み込み方によって各チューブに狙い通りの性能を発揮させることができるRTM工法と振動吸収性に優れたヴェクトランを組み合わせることで、チューブ自体の振動吸収性を向上させることを実現していることがタイムの最も特徴的なポイントだ。世界中の自転車メーカーの中でもタイムのみが持つこの技術は、振動吸収性の確保のために極細のチューブや、湾曲した特異な形状のチューブを採用せずとも高い快適性をバイクにもたらすため、剛性バランスや強度にも優れたバイクを実現するのに一役買っている。
バイクの快適性の追求に注がれるタイムの情熱は非常に大きいものがある。それを端的に表しているのが、2015年のタイムラインナップの目玉として登場したAKTIVフォークだ。マスダンパーをフォークブレード先端に内蔵することにより、不快な振動周波数を打ち消すというコンセプトの新しいプロダクトだ。タイムの全モデルにAKTIVフォーク仕様が用意されるが、モデルおよびサイズによって全て違ったチューニングを施された状態で出荷されるというから、快適性に対するこだわりの高さが窺える。
そんなライディングフィールを追求するタイムが理想とする万能バイクとして送り出されたバイクが今回インプレするIZON(アイゾン)だ。フラッグシップモデルとなるSKYLONが大幅に形状を変更し、マッシブで丸みを帯びた形状となっているのに比べると前作NXSを踏襲した形状となっている。
モノコックで作られる前三角に対して、リアはシートステー、チェーンステーともにラグに差し込まれる方式。これは、狙った性能を出しやすいモノコック成形と、クラッシュ時のリプレイスメントがききやすいラグ方式の良いところを併せ持っているから。
チェーンステーは左右非対称となっており、ドライブトレインのある右側とない左側、それぞれの部位にかかる力に応じて最適化された形状に成型されている。今では多くのブランドが左右非対称チェーンステーを採用しているが、その流れに先鞭をつけたのはタイムであった。シートステーは細くゆるやかに弧を描く事で振動吸収性を高め、長距離ライドでの疲労を軽減するように設計されている。
リブの入ったデザインのヘッドチューブやトップチューブ、上下異径のヘッドパーツを採用することでしっかりとした剛性を確保している。特にクイックセットと呼ばれるヘッドセットはタイム独自の構造であり、プレッシャープラグを用いた一般的な固定方法よりも軽量かつ、高剛性にできるというメリットがある。フレームと同じくRTM工法で製作されたフロントフォークと合わせて優れたコントロール性能を実現している。
グランフォンドをターゲットに開発されたIZON。とはいえ、ロングライドをゆったりと楽しむだけのバイクということではなく、ハイペースで長距離を走りタイムを競う本場ヨーロッパのグランフォンドを最高に満喫できるだけの性能を持ったバイクとして生まれたということだ。
タイムがIZONに込めたキーワードは3つ、「REAVTIVITY(反応性)」「POLYVALENCE(多用途性)」「AGILITY(機敏性)」。カーボンフレームにおいて、ユニークな着眼点と情熱をもつフレンチブランドが生み出したIZONはこの3つの要素をどう表現しているのか。今回のテストバイクにはカンパニョーロ スーパーレコードEPSにボーラウルトラ2をアッセンブル。タイヤにはハッチンソン カーボンコンプを履き、ハンドル回りはタイムで統一されている。それでは、インプレッションに移ろう。
—インプレッション
「フレームの硬さと加速性のマッチングは見事 タイムらしさを色濃く受け継ぐレーサー」藤野智一(なるしまフレンド)
"タイムらしさ"色濃いロードバイクと表現したい。昔からタイムは振動吸収性が抜群だと言われてきましたが、このIZONもしっかりとそれが受け継がれています。振動の収束が他のブランドとは一線を画していて、それは一貫して独自の工法を用いて自社生産していることにもよるのでしょう。
最近のフレームとしては比較的細身ですが、ベントしたシートステー以外には特にフレームの造形で突き上げをカットするような工夫は無いように思います。となるとカーボンの中に編み込んでいるというヴェクトラン繊維が良い働きをしているんでしょうね。実際に乗ってもカーボン自体の上質さを感じますし、BBからチェーンステーにかけてのフォルムも左右非対称だったりと、安定感ある走りの中で軽い走りを生み出すための努力が見て取れます。左右非対称設計は今でこそ一般化した手法ではありますが、先陣を切ったタイムの独創性は素晴しいですよね。
またフレームの硬さと加速性のマッチングは賞賛したいほどです。硬めの踏み味ですが一瞬タメがあり、素早く加速へと繋げてくれる一連の流れは刺激的です。そこに優秀な振動吸収性が加わるのでどんな場面においてもストレスがかなり少ないと言えるでしょう。振動吸収性が良いということはつまり路面状況に左右されにくいため、巡航性能もかなり高いレベルにあると感じましたね。これは速度域を問わず言えることだと思います。
リアバックの動きによって接地感がかなり高いことが特徴で、少しおかしな表現ですがチェーンステーに誰かもう一人乗っているかのようにリアホイールが地面にベタ付きする感覚がありました。"2ケツ"している時のような…と言えば分かりやすでしょうか(笑)。絶対的な硬さはありつつもぎゅっと路面に張り付くこのフィーリングはさすがタイムと言える部分です。特にパワーを掛けて登りをダンシングで攻めた時の走りが最高で、インプレ中もかなり踏み込んでしまいました。そして頂上付近で脚が終わってしまい、"ああ、やっぱり硬いんだな"、と(笑)。
全体的にかなり優秀なバイクですが、強いてデメリットを挙げるとすれば、高速時での伸びがもう少し欲しいと感じます。これだけ様々な性能を実現しているのでそこを指摘するのは酷ですが、これはホイール次第で工夫できるでしょう。
完全にレース用バイクですから、ホビーレースから最高峰カテゴリーの選手まで、幅広く満足できる実力があることは間違いありません。加えて、何度も言っていることですが振動吸収性が素晴しいことから、ラグジュアリーな乗り方をしたい大人にもオススメ。ルックと並ぶフランス車ならではの美しさもありますから、所有欲だって満たされますね。余裕さえあれば、幅広い方に乗って頂きたい一台です。
「たわんだ後の返りが推進力に貢献 ハイペースでロングライドをしたい方にも」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)
いざ乗ってみると、タイムの人気ぶりを嫌が上でも分からせてくれるような、そんなバイクです。剛性感もしっかりとあって、「進む感じ」がスゴく良く伝わってくるんですね。重量も比較的軽量ですし、乗ると手に持ったよりもずっと軽いフィーリングを味わえます。
剛性バランスとしては前が硬く、後ろが柔らかくできていると感じます。しかし力が逃げることは無く、ある程度力を掛けてモガいた際にはリアバックが絶妙にしなり、それが推進力に繋がってくれる。たわんだあとの押し返しがちゃんと活かされていることに驚きましたね。
ですからレース中にアタックが立て続けに掛かっているような場面ではすごく武器になるでしょう。長時間踏み続けてもあまり脚へのダメージが少なく、例えばおきなわ210kmのようなロングレースでは、ただ硬いバイクに乗るライバルに対してアドバンテージが生じるはずです。あくまで選手目線での話でずが、「自分はライバルよりも脚が持つ!」と思えるのも精神衛生上良いことでしょう(笑)。
登りに関してはシッティングでもダンシングでも、トルクの高低に関わらずあまり欠点が見つかりません。前述したようにパワーを掛けて踏めばしなりが生じますが、その後に伸びてくれます。登りだけを見れば他に優秀なモデルはありますが、IZONの登り性能も侮れません。
先ほどフロントが硬めだと言いましたが、特にフォークはかなりしっかりとしていますね。剛性が高いことでブレーキもしっかりと効きますし、狙ったラインを外すことが少なかったり、ベタッと安定していたりと下り性能は抜群です。
今回の試乗車は若干サドルが高かった(=高重心)のですが、それでもコントローラブルで突っ込んでも怖くない。思わず攻めたくなってしまうようなバイクです(笑)。
通じてリアバックの振動吸収性もなかなかのものです。フロントは硬めであることからかなり突き上げてきますが、サドルへの衝撃はしっかりと取れている。比較的路面の状況を乗り手に伝えてくるバイクではありますが、レーサーとして捉えた時には十分と言えるのではないでしょうか。
ホイールは試乗車のBORAのようなある程度硬めのディープリムがオススメです。柔らかめのホイールではフォークの突っ張りに負けてロスが生まれてしまうかもしれないからです。またヘッドもタイムオリジナルの規格ですが、メカを苦手な方には良いでしょう。ワイヤーの取り回しにしても特に問題視する場所はありませんでした。
40万円強というプライスですが、この走り性能を考えれば高価すぎるとは思いません。良いフレームだと思います。前述したようにツール・ド・おきなわのような長距離レースに適していますが、アタックが連続するクリテリウムにも使ってみたい。アタック一発の切れ味こそ超高剛性バイクに譲りますが、ある程度の時間を高負荷で走ることを考えればかなり活躍してくれるのではないでしょうか。レーサーはもちろんですが、非レーサーでもハイペースでロングランをしたい方には自身をもってオススメしたいと感じました。
タイム IZON
サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
ボトムブラケット:BB30
カラー:PLASMA-MATT、FLAMME ROUGE
付属品:カーボンボトルケージ(1つ)
価 格:430,000円(税込)
インプレライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナオリンピックロードレースでの21位を皮切りに、94・97年にツール・ド・おきなわ優勝、98、99年は2年連続で全日本ロードチャンピオンとなるなど輝かしい戦歴を持つ。02年に引退してからはチームブリヂストン・アンカーで若手育成に取り組み、11年までは同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップ
山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)
1978年神奈川県藤沢市生まれ。中学生2年生の頃藤沢市の自転車店ワタナベレーシングに入会し本格的に自転車競技を始める。高校卒業後は4年間のヨーロッパ選手生活を経て2000年からは国内トップチームで活躍した。U23全日本選手権2連覇をはじめ、優勝経歴多数。選手時代から地元でキッズ向け自転車スクールを開催するなど活動を行い、2013年6月に出身ショップを引き継ぐかたちで「BICYCLE FACTORY YAMAMOTO」をオープンさせた。
BICYCLE FACTORY YAMAMOTO
ウェア協力:sportful(日直商会)
text:Naoki,YASUOKA
photo:So,ISOBE,Makoto.AYANO
フランス・リヨンを拠点とするカーボンフレームメーカーであるタイム。1987年、独自のフロート機構を持つビンディングペダルの製造から同社の歴史は始まった。1993年には、当時まだ珍しかったカーボンフレームの製造に着手。以来、20年間にわたりトップレベルのカーボンフレームの製作を続けてきたタイムは、2005年、2006年のロードレース世界選手権優勝など数々の輝かしい実績を残している。
しかしながら近年はプロツアーチームへの供給は少なく、グランツールをはじめとしたメジャーレースでは目立った活躍は少なくなってきている。それでも国内・外を問わずサイクリストの間では「タイムと言えばピュアレーシングバイクの最高峰」として認識されている。
読者の中でも、いつかはタイム、というような憧れを抱いている人もいるのではないだろうか。それは、スポンサーシップなどのしがらみがなく、純粋に勝利を目指して本当に自分が気に入った機材を使うことのできるハイアマチュア間の評価が高いことに他ならない。
1993年のフレーム製造開始時から一貫して、RTM(レジントランスファーモールディング)製法によってバイクを製作しているタイム。RTM工法は精度と強度の両方が高い次元で求められる航空機の主翼や、F1のシャーシ等の製造にも採用された実績を持ち、ここ最近の例をあげるとMRJの尾翼部材でも採用されている工法だ。
一般的なカーボンフレームでは、カーボンシートを樹脂に含浸させたプリプレグを貼り合わせていく。しかし、圧力をかけて素材を曲げるため、フレーム内部に残留物が残ったり、シワができるほか、作業者の熟練度にも左右されやすい問題がある。
対して、タイムは専用の機械によりカーボンの原糸を編み込んでいくことで各チューブを作り出していく。そして、フレーム各部の形に作成された「ロウ」を芯材として、その上に自社で編み込んだカーボンを7層に重ねて履かせたのち、金型に入れ最後にエポキシ素材を注入するRTM工法により成形する。繊維層の剥離や空洞が生じづらく、安全性の向上を図ることが可能となる他、使用した「ロウ」はその後融解し吸い出すことでフレーム内部に残留物が発生せず、軽量化にもつながるのだ。
カーボン繊維の種類や向き、編み込み方によって各チューブに狙い通りの性能を発揮させることができるRTM工法と振動吸収性に優れたヴェクトランを組み合わせることで、チューブ自体の振動吸収性を向上させることを実現していることがタイムの最も特徴的なポイントだ。世界中の自転車メーカーの中でもタイムのみが持つこの技術は、振動吸収性の確保のために極細のチューブや、湾曲した特異な形状のチューブを採用せずとも高い快適性をバイクにもたらすため、剛性バランスや強度にも優れたバイクを実現するのに一役買っている。
バイクの快適性の追求に注がれるタイムの情熱は非常に大きいものがある。それを端的に表しているのが、2015年のタイムラインナップの目玉として登場したAKTIVフォークだ。マスダンパーをフォークブレード先端に内蔵することにより、不快な振動周波数を打ち消すというコンセプトの新しいプロダクトだ。タイムの全モデルにAKTIVフォーク仕様が用意されるが、モデルおよびサイズによって全て違ったチューニングを施された状態で出荷されるというから、快適性に対するこだわりの高さが窺える。
そんなライディングフィールを追求するタイムが理想とする万能バイクとして送り出されたバイクが今回インプレするIZON(アイゾン)だ。フラッグシップモデルとなるSKYLONが大幅に形状を変更し、マッシブで丸みを帯びた形状となっているのに比べると前作NXSを踏襲した形状となっている。
モノコックで作られる前三角に対して、リアはシートステー、チェーンステーともにラグに差し込まれる方式。これは、狙った性能を出しやすいモノコック成形と、クラッシュ時のリプレイスメントがききやすいラグ方式の良いところを併せ持っているから。
チェーンステーは左右非対称となっており、ドライブトレインのある右側とない左側、それぞれの部位にかかる力に応じて最適化された形状に成型されている。今では多くのブランドが左右非対称チェーンステーを採用しているが、その流れに先鞭をつけたのはタイムであった。シートステーは細くゆるやかに弧を描く事で振動吸収性を高め、長距離ライドでの疲労を軽減するように設計されている。
リブの入ったデザインのヘッドチューブやトップチューブ、上下異径のヘッドパーツを採用することでしっかりとした剛性を確保している。特にクイックセットと呼ばれるヘッドセットはタイム独自の構造であり、プレッシャープラグを用いた一般的な固定方法よりも軽量かつ、高剛性にできるというメリットがある。フレームと同じくRTM工法で製作されたフロントフォークと合わせて優れたコントロール性能を実現している。
グランフォンドをターゲットに開発されたIZON。とはいえ、ロングライドをゆったりと楽しむだけのバイクということではなく、ハイペースで長距離を走りタイムを競う本場ヨーロッパのグランフォンドを最高に満喫できるだけの性能を持ったバイクとして生まれたということだ。
タイムがIZONに込めたキーワードは3つ、「REAVTIVITY(反応性)」「POLYVALENCE(多用途性)」「AGILITY(機敏性)」。カーボンフレームにおいて、ユニークな着眼点と情熱をもつフレンチブランドが生み出したIZONはこの3つの要素をどう表現しているのか。今回のテストバイクにはカンパニョーロ スーパーレコードEPSにボーラウルトラ2をアッセンブル。タイヤにはハッチンソン カーボンコンプを履き、ハンドル回りはタイムで統一されている。それでは、インプレッションに移ろう。
—インプレッション
「フレームの硬さと加速性のマッチングは見事 タイムらしさを色濃く受け継ぐレーサー」藤野智一(なるしまフレンド)
"タイムらしさ"色濃いロードバイクと表現したい。昔からタイムは振動吸収性が抜群だと言われてきましたが、このIZONもしっかりとそれが受け継がれています。振動の収束が他のブランドとは一線を画していて、それは一貫して独自の工法を用いて自社生産していることにもよるのでしょう。
最近のフレームとしては比較的細身ですが、ベントしたシートステー以外には特にフレームの造形で突き上げをカットするような工夫は無いように思います。となるとカーボンの中に編み込んでいるというヴェクトラン繊維が良い働きをしているんでしょうね。実際に乗ってもカーボン自体の上質さを感じますし、BBからチェーンステーにかけてのフォルムも左右非対称だったりと、安定感ある走りの中で軽い走りを生み出すための努力が見て取れます。左右非対称設計は今でこそ一般化した手法ではありますが、先陣を切ったタイムの独創性は素晴しいですよね。
またフレームの硬さと加速性のマッチングは賞賛したいほどです。硬めの踏み味ですが一瞬タメがあり、素早く加速へと繋げてくれる一連の流れは刺激的です。そこに優秀な振動吸収性が加わるのでどんな場面においてもストレスがかなり少ないと言えるでしょう。振動吸収性が良いということはつまり路面状況に左右されにくいため、巡航性能もかなり高いレベルにあると感じましたね。これは速度域を問わず言えることだと思います。
リアバックの動きによって接地感がかなり高いことが特徴で、少しおかしな表現ですがチェーンステーに誰かもう一人乗っているかのようにリアホイールが地面にベタ付きする感覚がありました。"2ケツ"している時のような…と言えば分かりやすでしょうか(笑)。絶対的な硬さはありつつもぎゅっと路面に張り付くこのフィーリングはさすがタイムと言える部分です。特にパワーを掛けて登りをダンシングで攻めた時の走りが最高で、インプレ中もかなり踏み込んでしまいました。そして頂上付近で脚が終わってしまい、"ああ、やっぱり硬いんだな"、と(笑)。
全体的にかなり優秀なバイクですが、強いてデメリットを挙げるとすれば、高速時での伸びがもう少し欲しいと感じます。これだけ様々な性能を実現しているのでそこを指摘するのは酷ですが、これはホイール次第で工夫できるでしょう。
完全にレース用バイクですから、ホビーレースから最高峰カテゴリーの選手まで、幅広く満足できる実力があることは間違いありません。加えて、何度も言っていることですが振動吸収性が素晴しいことから、ラグジュアリーな乗り方をしたい大人にもオススメ。ルックと並ぶフランス車ならではの美しさもありますから、所有欲だって満たされますね。余裕さえあれば、幅広い方に乗って頂きたい一台です。
「たわんだ後の返りが推進力に貢献 ハイペースでロングライドをしたい方にも」山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)
いざ乗ってみると、タイムの人気ぶりを嫌が上でも分からせてくれるような、そんなバイクです。剛性感もしっかりとあって、「進む感じ」がスゴく良く伝わってくるんですね。重量も比較的軽量ですし、乗ると手に持ったよりもずっと軽いフィーリングを味わえます。
剛性バランスとしては前が硬く、後ろが柔らかくできていると感じます。しかし力が逃げることは無く、ある程度力を掛けてモガいた際にはリアバックが絶妙にしなり、それが推進力に繋がってくれる。たわんだあとの押し返しがちゃんと活かされていることに驚きましたね。
ですからレース中にアタックが立て続けに掛かっているような場面ではすごく武器になるでしょう。長時間踏み続けてもあまり脚へのダメージが少なく、例えばおきなわ210kmのようなロングレースでは、ただ硬いバイクに乗るライバルに対してアドバンテージが生じるはずです。あくまで選手目線での話でずが、「自分はライバルよりも脚が持つ!」と思えるのも精神衛生上良いことでしょう(笑)。
登りに関してはシッティングでもダンシングでも、トルクの高低に関わらずあまり欠点が見つかりません。前述したようにパワーを掛けて踏めばしなりが生じますが、その後に伸びてくれます。登りだけを見れば他に優秀なモデルはありますが、IZONの登り性能も侮れません。
先ほどフロントが硬めだと言いましたが、特にフォークはかなりしっかりとしていますね。剛性が高いことでブレーキもしっかりと効きますし、狙ったラインを外すことが少なかったり、ベタッと安定していたりと下り性能は抜群です。
今回の試乗車は若干サドルが高かった(=高重心)のですが、それでもコントローラブルで突っ込んでも怖くない。思わず攻めたくなってしまうようなバイクです(笑)。
通じてリアバックの振動吸収性もなかなかのものです。フロントは硬めであることからかなり突き上げてきますが、サドルへの衝撃はしっかりと取れている。比較的路面の状況を乗り手に伝えてくるバイクではありますが、レーサーとして捉えた時には十分と言えるのではないでしょうか。
ホイールは試乗車のBORAのようなある程度硬めのディープリムがオススメです。柔らかめのホイールではフォークの突っ張りに負けてロスが生まれてしまうかもしれないからです。またヘッドもタイムオリジナルの規格ですが、メカを苦手な方には良いでしょう。ワイヤーの取り回しにしても特に問題視する場所はありませんでした。
40万円強というプライスですが、この走り性能を考えれば高価すぎるとは思いません。良いフレームだと思います。前述したようにツール・ド・おきなわのような長距離レースに適していますが、アタックが連続するクリテリウムにも使ってみたい。アタック一発の切れ味こそ超高剛性バイクに譲りますが、ある程度の時間を高負荷で走ることを考えればかなり活躍してくれるのではないでしょうか。レーサーはもちろんですが、非レーサーでもハイペースでロングランをしたい方には自身をもってオススメしたいと感じました。
タイム IZON
サイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
ボトムブラケット:BB30
カラー:PLASMA-MATT、FLAMME ROUGE
付属品:カーボンボトルケージ(1つ)
価 格:430,000円(税込)
インプレライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナオリンピックロードレースでの21位を皮切りに、94・97年にツール・ド・おきなわ優勝、98、99年は2年連続で全日本ロードチャンピオンとなるなど輝かしい戦歴を持つ。02年に引退してからはチームブリヂストン・アンカーで若手育成に取り組み、11年までは同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップ
山本雅道(BICYCLE FACTORY YAMAMOTO)
1978年神奈川県藤沢市生まれ。中学生2年生の頃藤沢市の自転車店ワタナベレーシングに入会し本格的に自転車競技を始める。高校卒業後は4年間のヨーロッパ選手生活を経て2000年からは国内トップチームで活躍した。U23全日本選手権2連覇をはじめ、優勝経歴多数。選手時代から地元でキッズ向け自転車スクールを開催するなど活動を行い、2013年6月に出身ショップを引き継ぐかたちで「BICYCLE FACTORY YAMAMOTO」をオープンさせた。
BICYCLE FACTORY YAMAMOTO
ウェア協力:sportful(日直商会)
text:Naoki,YASUOKA
photo:So,ISOBE,Makoto.AYANO
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