2014/07/29(火) - 02:55
個人TTのゴール地点ベルジュラックからパリ近郊までは約500km。選手たちは昼の飛行機でパリ近郊のエヴリーまで飛び、大会側の用意する乗合バスでスタート地点に現れた。
最終日の慌ただしいスタート 164選手がパリ・シャンゼリゼへ
空港から主催者手配の乗り合いバスでスタート地点に到着したイェンス・フォイクトが自身最後のツールのステージに臨む photo:MakotoAYANOこの日のスタートは午後3時10分と遅めの設定だったが、選手たちが会場に到着したのはなんとスタート40分前。2時間前までに用意を済ませて到着することが通常の流れの中で、観客もスタッフたちもやきもきしながら到着を待っていた。しかもバスを降りた選手たちはまだアフターウェアのまま。
パリに向かう最終日のスタート前はツールを振り返るいろいろなミニイベントが各チームバス周りであるものだが、さすがにちょっと無理のある状況。それでもスタート時間が変更になることなく、あわただしく着替えをすませ、バイクの用意をしてサインへ向かう選手たち。
この日ツール全体が慌ただしかったのは、選手以外の関係者が前日から500kmの陸路移動をしている強行行程も原因だったようだ。(当方も大変な強行軍を強いられる難関超級ステージでした!)
3人のスペシャルバイク
ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデール)には最終日のためだけの新たなカスタムペイントバイクが用意された photo:MakotoAYANO
グリーンとシルバーラメで巧みに塗り分けたアートワーク photo:MakotoAYANO
鯉の鱗のようなエアブラシワーク photo:MakotoAYANO
マイヨジョーヌ、ヴェール、アポワの3人には特別カラーのバイクが用意されていた。ペーター・サガンにはこの最終日のためだけに新たなカスタムペイントバイクが届けられた。エアブラシを用いてグリーンとシルバーラメで鯉の鱗のような模様を巧みに塗り分けたアートワークは息を呑む美しさ。
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)のバイクはブラックべースで各部にイエローをあしらう。チームメイトたちのバイクにもイエローのバーテープが巻かれた。
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)のために用意されたマイヨ・ジョーヌ仕様バイク photo:MakotoAYANO
ルックペダルもジョーヌカラーだ photo:MakotoAYANO
フレームとホイールのロゴに赤い水玉があしらわれる photo:MakotoAYANO
ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)のために用意されたマイヨアポワカラーのバイク photo:MakotoAYANO
ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)のために用意されたマイヨアポワカラーのバイクはフレームとホイールのロゴに赤い水玉があしらわれる。
そしてチーム総合1位のAG2Rラモンディアールも全選手のバイクに黄色いバーテープが巻かれた。これは黄色いゼッケンと黄色いヘルメットに合わせてのコーディネイト。
総合敢闘賞の獲得が決まったアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデール)を他のチームの選手も祝福する photo:MakotoAYANO
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデール)のドサルルージュ(赤いゼッケン) photo:MakotoAYANO
また、朝になってアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデール)に総合敢闘賞が授与されることが発表された。デマルキのバイクのブレーキレバーフードは赤いものに交換され、自身はドサルルージュ(赤いゼッケン)をつける。
デマルキの受賞を他の選手も祝福する。勝利にこそつながらなかったが、サガンのマイヨヴェールのアシストをしながらも果敢なアタックを繰り返した走りが評価された。
「今日はコカ(ブライアン・コカール)のための仕事をします」と新城幸也(ユーロップカー) photo:MakotoAYANO最終日は最後のスプリントのチャンス。新城幸也(ユーロップカー)も「今日はコカ(ブライアン・コカール)のために走ります」と宣言。「アタックしてシャンゼリゼの敢闘賞を!」のリクエストには「それは無いです」ときっぱり。残念だがチームに勝利のチャンスがあるときはそれに賭けるのがチームメンバーのつとめ。
「このバタバタで本当に定刻通りにスタートしようというんだからすごいですね〜」とユキヤも心配するなか、164選手がパリ・シャンゼリゼへと向かった。そしてこの日は、ちょうどゴール時間から表彰式あたりの時間にかけて豪雨になるという天気予報が出ていた。選手たちは状況によってはノーレースを主催者に交渉する根回しをしていたようだ。
パヴェのクラッシュにあわや?
コンコルド広場のコーナーを抜け、石畳の上を加速していく選手たち photo:Makoto.AYANO
世界一華やかなシャンゼリゼ大通りは、華麗さにその存在を忘れがちになるが過酷な石畳の道。もし天候が原因でレースがキャンセルされたとしても、今回の「落車のツール」でなら誰も文句は言わないかもしれない。選手たちはすでに第5ステージで石畳に、多くのステージで、何度も落車に泣かされてきているから。
落車したジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:Makoto Ayanoこのところのツールがお気に入りのアクロバット飛行隊によるジェット煙幕が、凱旋門からコンコルド広場まで青・白・赤のトリコロールの筋を空に引いた。心配された雨は降ること無く持ちこたえ、シャンゼリゼでは激しいバトルになった。
雨が降らなくても落車は起きた。2周回目に起きたコンコルド広場でのクラッシュは総合2位ジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)を巻き込んだ。ニーバリのスローダウンの呼びかけは効果を発揮せずレースは激しく進行した。ペローが再びバイクに跨るまで、シャンゼリゼ全体が息を呑むように心配して見守ったのがわかった。
チームメイトがアシストし、なんとか集団に戻った。怪我は大したものでなく骨折は無し。
ランタンルージュのジ・チェンに課された最終日の独走
落車で遅れ、回収車に煽られながらひとり走るジ・チェン(ジャイアント・シマノ) photo:MakotoAYANOこの落車で復帰に手間取り、結果的には集団に1ラップされるまで遅れたのはジ・チェン(ジャイアント・シマノ)。「中国人初のツール・ド・フランス出場・そして完走」の歴史をつくるまさにその日にとんだ受難だった。そしてチェンは集団内でもっとも総合順位が低い”ランタンルージュ”。その選手が最終日に回収車両「ボワチュール・バレイ」に煽られながら最後尾を一人で走るという、実に象徴的な光景を目にすることになった。
温かい声援を受けて走るチェンは、結局最終2周を残してメイン集団にラップされ、集団の最後尾にぶら下がりながら走った。観客たちはチェンのここまでの走りを連日の報道で知っている。ツールの新たな歴史はヴィジュアルに分かりやすい形をともなって達成された。総合ではニーバリに遅れること6時間2分24秒遅れ。 この差は1954年のツールで記録された6時間7分29秒の最大タイム差に5分5秒足りないだけの歴代2位の大差となった。
昨年のコピー勝利 キッテル最速の証明
4人逃げが捕まる気配を見て再び単独でアタックを試みるリッチー・ポート(オーストラリア) photo:MakotoAYANO
グライペルでのスプリント勝利を狙うロット・べリソルとジャイアント・シマノが位置取り争いで火花を散らす photo:MakotoAYANO
逃げのなかで意地を見せたのはリッチー・ポート(チームスカイ)だった。フルームが去った後エースを任せられながらもその期待に応えられず、体調さえ崩した。勝ち目はなくともアピールする走りで存在感を示したが、それもゴールまで7kmまで。
2勝目を意気込むアンドレイ・グライペルのロット・べリソルトレインと、マイヨヴェールを着たサガンの悲願の勝利を狙うキャノンデール、そしてジャイアント・シマノの列車が激しく位置取りを争う。新城幸也がスタート時に「今日はコカ(ブライアン・コカール)のための仕事をします」と話したとおり、ユーロップカーも前に上がってくる。
クリストフらを下したマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ) photo:Makoto Ayano
しかしジャイアント・シマノの列車は強力だった。キッテルは一度スピードを緩めてアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)に先行を許すも、残した脚をうまく使う省エネスプリントでクリストフを追い抜いた。
再びシャンゼリゼを制してポディウムで天を仰いだマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ) photo:MakotoAYANO落車を警戒し、安全圏で走ったニーバリはアスタナの選手たちに守られて、キッテルから24秒遅れでゴールした。
分断したメイン集団では昨日パンクが原因で2秒差で総合5位から6位に落ちて涙を飲んだロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)がスプリント争いの混乱に乗じて果敢に攻め、ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)との差を逆転しようと”小さな抵抗”を試みていた。しかしその動きを警戒していたヴァンガーデレンはバルデの動きを見逃さず、ともにキッテルから4秒遅れの一緒のグループでフィニッシュしている。
昨年と同じく、開幕ステージのスプリントを制してマイヨジョーヌを着て、閉幕ステージのシャンゼリゼのスプリントを制して通算4勝でツールを締めくくったキッテル。前年のコピーのような勝利が今年も実現した。加えて最後尾も制すというオマケもつけて。
今日は「ブレーカウェイキラー」のチェン一人が減ったものの、残るメンバーは全員が疲労を感じさせない力強い牽引を見せた。チームがここまでに失ったメンバーは落車でリタイアしたドリス・デヴェナインスのみ。「強力なチームなしにこの勝利はありえない」とキッテルがコメントするとおり、その2名を除くメンバーは今日も強力にキッテルをアシストした。
チーム力最強を示したジャイアント・シマノ列車
トレインを組んでメイン集団を率いるジャイアント・シマノ photo:Makoto Ayano
2年連続で大きな結果を残したジャイアント・シマノ(昨年はアルゴス・シマノ)。キッテルの強さとともにそれを支えるチーム力も3週間を経てなお最強だった。チームは2013ブエルタで2つのステージ優勝を挙げた若手ワレン・バルギル(フランス)をツールメンバーからあえて外し、キッテル必勝体制でツールに臨んだことでフランス人ファンたちから強い批判を受けた。しかしその選択が間違っていなかったことを証明した。もっとも、バルギルがポディウムに登れた可能性も今となっては否定できないが。
落車で第1ステージで去ったマーク・カヴェンディッシュ(オメガファーマ・クイックステップ)との勝負はまた来年に持ち越し。ともかくキッテルは「ツール最速のスプリンター」の称号を昨年に引き続き手にすることになった。
パンターニ以来のイタリア人勝利 メッシーナの鮫ニーバリを迎えたティフォージたち
シャンゼリゼで盛り上がるニーバリ応援団 photo:Makoto Ayano
イタリア自転車競技連盟のレナート・ディロッコ氏も祝福に駆けつけた photo:MakotoAYANO
この日、シャンゼリゼ沿道には多くのイタリア国旗が翻った。緑・白・赤の”トリコローレ”に加え、ニーバリのあだ名「メッシーナの鮫」を描いたニバリファンクラブの旗、マイヨジョーヌを着せた鮫の風船などが振られた。観戦エリアに詰めかけた、イタリアから来た”ティフォージ”たち。イタリアの、おそらくシチリア島周辺の「南の人」を感じさせる日に焼けた風貌の観客たちが賑やかに「ヴィンチェンツォ!」コールを繰り返していた。
イタリアから駆けつけたファンを背に記念撮影するヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Makoto Ayano
1998年にマルコ・パンターニがツールを制して以来、16年ぶりにイタリアにツール・ド・フランスの総合優勝をもたらしたニーバリ。シチリア出身の29歳にとって2010年ブエルタ・ア・エスパーニャ、2013年ジロ・デ・イタリアに続く3つめのグランツールの勝利だ。
ポディウムに登壇したニーバリは感極まった表情でトロフィーーを受け取った。両手を挙げて勝利をアピールすることを忘れ、表彰台を一度降りてからイタリア人フォトグラファーたちに呼び戻しの催促をされて再度ポディウムに上がり直し、そこで改めて両手を挙げた。
2014ツール・ド・フランスを制したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Makoto.AYANO
ニーバリが目にうっすらと涙を浮かべるのは最終日だけのことではなく、第2ステージのアタックで1つ目のステージ優勝を挙げたときから続いていること。ニーバリは結局一度着たマイヨジョーヌを第9ステージで逃げ切り勝利したトニー・ギャロパン(ロット・べリソル)にいったん譲ったのみで、1日後に再び取り戻すとその後は最後まで着続けることになった。
最大優勝候補クリス・フルームが去った第5ステージの石畳では、もうひとりの優勝候補アルベルト・コンタドールに2分半のタイム差をつけることに成功する。ライバルのコンタドールが第10ステージで落車・リタイアして姿を消した後も強さを維持。アルプス、ピレネー山頂ゴールも制し、4つのステージ勝利とマイヨ・ジョーヌを堅持した。
表彰台でマイクを手に、紙に書いてきた言葉を少しぎこちなく読み上げ、春からここまで着実に準備を進めてきたこと、ツール・ド・フランスで優勝して上るシャンゼリゼのポディウムは”唯一の存在”であること、そしてそこで感じた喜びが想像した以上だったと話した。そして、家族、生まれたばかりの娘、アスタナのチームメイト、ヴィノクロフら支えてくれた人に対する感謝の気持ちを繰り返し言葉にした。主張しない謙虚な態度。決して強さを誇示しない、おとなしく物静かなチャンピオンの誕生だ。
イタリア国歌に胸に手を当てるヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)、2位のジャンクリストフ・ペロー(AG2Rラモンディアール)、3位のティボー・ピノ(FDJ.fr) photo:MakotoAYANO
ニーバリの両脇に立った37歳のペローと24歳のピノ。表彰台に2人のフランス人が登るという、フランス人にとって永年の願いだった事態がついに実現した。
成し遂げられた「ツールのフランス革命」。しかし2人のフランス人に対してシャンゼリゼは熱狂的には沸かず、むしろ静かに3人の健闘を讃えた。ペローとピノの二人も謙虚そのもの。ふたりとも、本来はそこが彼らの居場所ではないことを前日に語っている。やはり落車で2大優勝候補が居なくなったことを抜きにこのツールは語れないことを誰もが知っているのだ。
表彰式が終わるとニーバリが大騒ぎするイタリアからのファンたちが陣取るエリアに駆け寄った。その場でRAI(イタリア国営放送)のアレッサンドラ・ステファノさんがシチリア島とつなぎ、親戚や友人たちと話す生中継が始まった。優しい声で故郷の親しい人たちに話しかけるニーバリ。等身大のチャンピオンという印象を受けた。
ニーバリはコンタドールとフルーム、そして昨年ツールで2位のキンタナらが顔を揃えるブエルタ・ア・エスパーニャには出場しない。昨年アングリルでその力を見くびっていて最後に負かされたクリス・ホーナーとのリベンジマッチも見送りだ。ツールでの勝負はまた来年のツールで。2015年にオランダはユトレヒトで開幕するツールで、ニーバリは3人の最大優勝候補のひとりとして、王者にふさわしい扱いを受けるはずだ。
photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:TimDeWale,A.S.O,CorVos
2013年の「100周年ツール」では取りやめとなったパレードが今年は開催されました。その模様は別記事でグラフィカルにお伝えします。お楽しみに。
最終日の慌ただしいスタート 164選手がパリ・シャンゼリゼへ
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パリに向かう最終日のスタート前はツールを振り返るいろいろなミニイベントが各チームバス周りであるものだが、さすがにちょっと無理のある状況。それでもスタート時間が変更になることなく、あわただしく着替えをすませ、バイクの用意をしてサインへ向かう選手たち。
この日ツール全体が慌ただしかったのは、選手以外の関係者が前日から500kmの陸路移動をしている強行行程も原因だったようだ。(当方も大変な強行軍を強いられる難関超級ステージでした!)
3人のスペシャルバイク
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マイヨジョーヌ、ヴェール、アポワの3人には特別カラーのバイクが用意されていた。ペーター・サガンにはこの最終日のためだけに新たなカスタムペイントバイクが届けられた。エアブラシを用いてグリーンとシルバーラメで鯉の鱗のような模様を巧みに塗り分けたアートワークは息を呑む美しさ。
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)のバイクはブラックべースで各部にイエローをあしらう。チームメイトたちのバイクにもイエローのバーテープが巻かれた。
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ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)のために用意されたマイヨアポワカラーのバイクはフレームとホイールのロゴに赤い水玉があしらわれる。
そしてチーム総合1位のAG2Rラモンディアールも全選手のバイクに黄色いバーテープが巻かれた。これは黄色いゼッケンと黄色いヘルメットに合わせてのコーディネイト。
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また、朝になってアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデール)に総合敢闘賞が授与されることが発表された。デマルキのバイクのブレーキレバーフードは赤いものに交換され、自身はドサルルージュ(赤いゼッケン)をつける。
デマルキの受賞を他の選手も祝福する。勝利にこそつながらなかったが、サガンのマイヨヴェールのアシストをしながらも果敢なアタックを繰り返した走りが評価された。
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「このバタバタで本当に定刻通りにスタートしようというんだからすごいですね〜」とユキヤも心配するなか、164選手がパリ・シャンゼリゼへと向かった。そしてこの日は、ちょうどゴール時間から表彰式あたりの時間にかけて豪雨になるという天気予報が出ていた。選手たちは状況によってはノーレースを主催者に交渉する根回しをしていたようだ。
パヴェのクラッシュにあわや?
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世界一華やかなシャンゼリゼ大通りは、華麗さにその存在を忘れがちになるが過酷な石畳の道。もし天候が原因でレースがキャンセルされたとしても、今回の「落車のツール」でなら誰も文句は言わないかもしれない。選手たちはすでに第5ステージで石畳に、多くのステージで、何度も落車に泣かされてきているから。
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雨が降らなくても落車は起きた。2周回目に起きたコンコルド広場でのクラッシュは総合2位ジャンクリストフ・ペロー(フランス、AG2Rラモンディアール)を巻き込んだ。ニーバリのスローダウンの呼びかけは効果を発揮せずレースは激しく進行した。ペローが再びバイクに跨るまで、シャンゼリゼ全体が息を呑むように心配して見守ったのがわかった。
チームメイトがアシストし、なんとか集団に戻った。怪我は大したものでなく骨折は無し。
ランタンルージュのジ・チェンに課された最終日の独走
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温かい声援を受けて走るチェンは、結局最終2周を残してメイン集団にラップされ、集団の最後尾にぶら下がりながら走った。観客たちはチェンのここまでの走りを連日の報道で知っている。ツールの新たな歴史はヴィジュアルに分かりやすい形をともなって達成された。総合ではニーバリに遅れること6時間2分24秒遅れ。 この差は1954年のツールで記録された6時間7分29秒の最大タイム差に5分5秒足りないだけの歴代2位の大差となった。
昨年のコピー勝利 キッテル最速の証明
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逃げのなかで意地を見せたのはリッチー・ポート(チームスカイ)だった。フルームが去った後エースを任せられながらもその期待に応えられず、体調さえ崩した。勝ち目はなくともアピールする走りで存在感を示したが、それもゴールまで7kmまで。
2勝目を意気込むアンドレイ・グライペルのロット・べリソルトレインと、マイヨヴェールを着たサガンの悲願の勝利を狙うキャノンデール、そしてジャイアント・シマノの列車が激しく位置取りを争う。新城幸也がスタート時に「今日はコカ(ブライアン・コカール)のための仕事をします」と話したとおり、ユーロップカーも前に上がってくる。
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しかしジャイアント・シマノの列車は強力だった。キッテルは一度スピードを緩めてアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)に先行を許すも、残した脚をうまく使う省エネスプリントでクリストフを追い抜いた。
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分断したメイン集団では昨日パンクが原因で2秒差で総合5位から6位に落ちて涙を飲んだロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール)がスプリント争いの混乱に乗じて果敢に攻め、ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)との差を逆転しようと”小さな抵抗”を試みていた。しかしその動きを警戒していたヴァンガーデレンはバルデの動きを見逃さず、ともにキッテルから4秒遅れの一緒のグループでフィニッシュしている。
昨年と同じく、開幕ステージのスプリントを制してマイヨジョーヌを着て、閉幕ステージのシャンゼリゼのスプリントを制して通算4勝でツールを締めくくったキッテル。前年のコピーのような勝利が今年も実現した。加えて最後尾も制すというオマケもつけて。
今日は「ブレーカウェイキラー」のチェン一人が減ったものの、残るメンバーは全員が疲労を感じさせない力強い牽引を見せた。チームがここまでに失ったメンバーは落車でリタイアしたドリス・デヴェナインスのみ。「強力なチームなしにこの勝利はありえない」とキッテルがコメントするとおり、その2名を除くメンバーは今日も強力にキッテルをアシストした。
チーム力最強を示したジャイアント・シマノ列車
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2年連続で大きな結果を残したジャイアント・シマノ(昨年はアルゴス・シマノ)。キッテルの強さとともにそれを支えるチーム力も3週間を経てなお最強だった。チームは2013ブエルタで2つのステージ優勝を挙げた若手ワレン・バルギル(フランス)をツールメンバーからあえて外し、キッテル必勝体制でツールに臨んだことでフランス人ファンたちから強い批判を受けた。しかしその選択が間違っていなかったことを証明した。もっとも、バルギルがポディウムに登れた可能性も今となっては否定できないが。
落車で第1ステージで去ったマーク・カヴェンディッシュ(オメガファーマ・クイックステップ)との勝負はまた来年に持ち越し。ともかくキッテルは「ツール最速のスプリンター」の称号を昨年に引き続き手にすることになった。
パンターニ以来のイタリア人勝利 メッシーナの鮫ニーバリを迎えたティフォージたち
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この日、シャンゼリゼ沿道には多くのイタリア国旗が翻った。緑・白・赤の”トリコローレ”に加え、ニーバリのあだ名「メッシーナの鮫」を描いたニバリファンクラブの旗、マイヨジョーヌを着せた鮫の風船などが振られた。観戦エリアに詰めかけた、イタリアから来た”ティフォージ”たち。イタリアの、おそらくシチリア島周辺の「南の人」を感じさせる日に焼けた風貌の観客たちが賑やかに「ヴィンチェンツォ!」コールを繰り返していた。
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1998年にマルコ・パンターニがツールを制して以来、16年ぶりにイタリアにツール・ド・フランスの総合優勝をもたらしたニーバリ。シチリア出身の29歳にとって2010年ブエルタ・ア・エスパーニャ、2013年ジロ・デ・イタリアに続く3つめのグランツールの勝利だ。
ポディウムに登壇したニーバリは感極まった表情でトロフィーーを受け取った。両手を挙げて勝利をアピールすることを忘れ、表彰台を一度降りてからイタリア人フォトグラファーたちに呼び戻しの催促をされて再度ポディウムに上がり直し、そこで改めて両手を挙げた。

ニーバリが目にうっすらと涙を浮かべるのは最終日だけのことではなく、第2ステージのアタックで1つ目のステージ優勝を挙げたときから続いていること。ニーバリは結局一度着たマイヨジョーヌを第9ステージで逃げ切り勝利したトニー・ギャロパン(ロット・べリソル)にいったん譲ったのみで、1日後に再び取り戻すとその後は最後まで着続けることになった。
最大優勝候補クリス・フルームが去った第5ステージの石畳では、もうひとりの優勝候補アルベルト・コンタドールに2分半のタイム差をつけることに成功する。ライバルのコンタドールが第10ステージで落車・リタイアして姿を消した後も強さを維持。アルプス、ピレネー山頂ゴールも制し、4つのステージ勝利とマイヨ・ジョーヌを堅持した。
表彰台でマイクを手に、紙に書いてきた言葉を少しぎこちなく読み上げ、春からここまで着実に準備を進めてきたこと、ツール・ド・フランスで優勝して上るシャンゼリゼのポディウムは”唯一の存在”であること、そしてそこで感じた喜びが想像した以上だったと話した。そして、家族、生まれたばかりの娘、アスタナのチームメイト、ヴィノクロフら支えてくれた人に対する感謝の気持ちを繰り返し言葉にした。主張しない謙虚な態度。決して強さを誇示しない、おとなしく物静かなチャンピオンの誕生だ。

ニーバリの両脇に立った37歳のペローと24歳のピノ。表彰台に2人のフランス人が登るという、フランス人にとって永年の願いだった事態がついに実現した。
成し遂げられた「ツールのフランス革命」。しかし2人のフランス人に対してシャンゼリゼは熱狂的には沸かず、むしろ静かに3人の健闘を讃えた。ペローとピノの二人も謙虚そのもの。ふたりとも、本来はそこが彼らの居場所ではないことを前日に語っている。やはり落車で2大優勝候補が居なくなったことを抜きにこのツールは語れないことを誰もが知っているのだ。
表彰式が終わるとニーバリが大騒ぎするイタリアからのファンたちが陣取るエリアに駆け寄った。その場でRAI(イタリア国営放送)のアレッサンドラ・ステファノさんがシチリア島とつなぎ、親戚や友人たちと話す生中継が始まった。優しい声で故郷の親しい人たちに話しかけるニーバリ。等身大のチャンピオンという印象を受けた。
ニーバリはコンタドールとフルーム、そして昨年ツールで2位のキンタナらが顔を揃えるブエルタ・ア・エスパーニャには出場しない。昨年アングリルでその力を見くびっていて最後に負かされたクリス・ホーナーとのリベンジマッチも見送りだ。ツールでの勝負はまた来年のツールで。2015年にオランダはユトレヒトで開幕するツールで、ニーバリは3人の最大優勝候補のひとりとして、王者にふさわしい扱いを受けるはずだ。
photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:TimDeWale,A.S.O,CorVos
2013年の「100周年ツール」では取りやめとなったパレードが今年は開催されました。その模様は別記事でグラフィカルにお伝えします。お楽しみに。
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