2014/07/23(水) - 21:07
2度めの休息日明け、いよいよツールは最終週に突入する。ピレネー山岳3連戦の初日は山頂フィニッシュではないものの、超級バレ峠を含む5つの山岳ポイントのある237.5kmの長い行程だ。
大勢の観客が詰めかけたバレ峠を行くプロトン photo:Makoto.AYANO
一段と強さを感じるチームアスタナ。リエーベ・ヴェストラはいくつかの変顔をマスター photo:Makoto.AYANO上り距離が長く、高度も高い傾向があるアルプスに対し、ピレネー山岳は距離短めでより勾配がシャープで厳しい。前者が一定リズムで登るのに対し、後者がよりパンチ力を要する走りが得意な選手に向くという。
元オランダチャンピオンでツール・ド・フランスのステージ勝利を上げたことがあるレオン・ファンボンは今はカメラマンをしている photo:Makoto.AYANOこの一帯は新城幸也にとってアマチュア時代にトゥールーズを拠点に過ごしたことでおなじみのエリア。ユキヤにとって練習コースとして知り尽くしていることも強み。そしてユキヤは言う「今日はトマの日です。彼が勝利に向けて動くことは間違いないので、ロランのアシストをしながらトマの勝利もサポートするように動きたい。もちろん自分も逃げに乗れればベスト」。
アイルランドからのニコラス・ロッシュ(サクソ・ティンコフ)のファン photo:Makoto.AYANO総合3位バルデ、4位ピノのフランス人若手2人のポディウム争い。そして総合上位にいるペロー(6位)、ロラン(10位)の4人はフランスメディアにホットな話題を提供する。休息日のレキップ紙は4人をトップ1面に大きく扱ったが、メディアの過熱報道に比べ選手の方は状況を冷静に分析している。
インタビュー攻めのバルデは言う。「実際のところ、今後はチームの総合争いはTTが得意なペローの役割になるだろうとわかっている。しかしピレネーは僕が待ち望んだ山。僕向きの攻撃できる山なんだ。マイヨブランを守るためにトライする。ピノとは友人だけど、彼は山では倒すべきライバル。ピレネーの3日間でリードを広げたい」。
ピノは言う。「バルデとは16秒差だけれど、ピレネー後の54kmの個人タイムトライアルのことを考えれば、僕にとってはバルベルデ、ヴァンガーデレン、ペローのほうが危険な存在。バルデとの16秒差はTTで取り返せるけど、いま名前を挙げた選手は僕よりもTTが速い」。
「AG2Rがイゾアール峠で僕を落とそうとしたと新聞で読んだけど、それは他の選手に対してのアクションじゃなくて、僕に対してのものだったようだね。でもバルデが落とさなければいけなかった相手はバルベルデとヴァンガーデレンだ。彼らは表彰台に登ろうとしている。
僕にとっては彼らがピレネーでもっとも落としたい相手だ。僕の目標はシャンゼリゼのポディウムに登ること。それが無理でもトップ5でもいい。その上でバルデが2位か3位で、彼がマイヨブランを着ているなら、僕は彼に対してハッピーだ。僕にとってはマイヨブランよりもポディウムが最大の目標なんだ。ライバルたちにはピレネーの3日間で毎日少しづつタイム差を稼げるといい」。
涼し気な並木道を行くプロトン photo:Makoto.AYANO
世界チャンプのコスタまでDNS 英国王室の呪い?
ツールらしい大きな応援旗を用意して選手たちを待つ photo:Makoto.AYANOこの日スタートしなかったルイ・コスタ(ランプレ・メリダ)とサイモン・イェーツ(オリカ・グリーンエッジ)。喘息で調子を崩していた世界チャンピオンは肺炎と診断された。また、最年少のイェーツは若さのため無理をさせたくないという判断でツールを去ることに。
エキップアサダジャージで応援する日本からの観客 photo:Makoto.AYANOあるファンから、ヨークシャーでのグランデパールにおいて最前列に並んだ選手がほとんどリタイアしたというの指摘を受けた。なるほど、第1ステージのスタート前の、ウィリアム王子とキャサリン妃、ヘンリー王子たちと並んだ選手たちの写真を見れば、少し背筋が寒くなる? 「英国王室の呪い」から逃れているのは、ゲラント・トーマス(チームスカイ)だけだ。主役級の選手が次々去る事態が続くと、こんなミステリーじみたゴシップ話も出てくる。
長いステージを締めくくる最後の超級山岳バレ峠には多くの観客たちが山肌を埋めていた。そのなかにあって日本の旗も多く目立った。市民レース「エタップ・ドゥ・ツール」を走った後ツール観戦に来たグループ、ツール観戦ツアーで来たグループ、個人手配で自転車で登ってきたエキップアサダつながりのグループなど、多くの日本人が日の丸を手に声援を送っていた。峠ではユキヤのいい走りとチームメイトの活躍があったから、満足できたのでは?
ヴォクレールとユーロップカーの失敗
3人逃げを形成したトマ・ヴォクレール(ユーロップカー) photo:Makoto.AYANOバニェール・ド・リュションはトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)にとって約束された場所だった。ツールで過去に2度、2010年第15ステージ2012年第16ステージでステージ優勝を挙げ、昨年はルート・ドゥ・スッドでもステージ優勝している幸運のゴール地点だ。
ちょっと怖いマスクのトリコロール応援団 photo:Makoto.AYANO今ツールのコース発表のときからこのステージに対する意気込みを表明していたヴォクレールは、その意気込み通り逃げグループに入り、マイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ)、ホセ・セルパ(コロンビア、ランプレ・メリダ)と3人でバレ峠を越えた。
9秒遅れでフィニッシュするトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)ら photo:Tim de Waeleそしていったんは上りで離れたものの下りでもう一人の山岳での切り札、シリル・ゴティエもゴールへ向けて再び伴い、数的有利な状況を揃えた。しかし勝利へ向けての準備が整っていながら、ロジャースに対して戦術的なミスを冒してしまった。
超級バレ峠を越えてバニェール・ド・リュションへ下る。ゴティエとのチームプレイを盾に「チームメイトのために引かない」と、ロジャースの要求を拒んだヴォクレール。ロジャースはゼスチャーを含めて言葉でも威嚇した。「その言葉は200km前にも聞いた!。俺に対してゲームをするな」と。それは逃げ集団が形成されようとしているときに、ケヴィン・レザ(ユーロップカー)がヴォクレールらを待つとき引かなかったことに対しての言葉だ。
ゴティエのアタックを利用する形でロジャースがアタックし、ユーロプカーの2人は置き去りにされた。チームの数的優位と、勝利に恵まれてきたこの場所での幸運を過信してしまったヴォクレール。ゴティエも、3度の個人TT世界チャンピオンの独走力を甘く見ていた。いったん離されると最後、追いつくことなど不可能だった。
ヴォクレールは悔しさいっぱいの表情でインタビューに答えた。「僕らは順番に闘っていた。ロジャースのアタックがあったとき、僕はシリル(ゴティエ)なら勝てると思っていたのに、それがあだになった。後ろで見ていた僕はどうすることもできなかった。完全に失敗だ。数の有利はときに不利になることがあるんだ」。
クレンブテロール陽性からの再起に成功したロジャース
バレ峠で3人逃げを率いるマイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ) photo:Makoto.AYANO
深々とお辞儀をするマイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ) photo:Tim de Waeleロジャースがゴール前で見せた「お辞儀」ポーズは、ジャパンカップでも見せたものだ。まるで感謝の気持をすべての人に伝えているかのようなポーズ。
マイケル・ロジャースのステージ勝利について語るビャルヌ・リース監督 photo:Makoto.AYANO昨年、ツアー・オブ・北京で滞在中の中国で汚染された食肉を摂ったことでクレンブテロール陽性となり、一時的な出場停止処分を受けたロジャース。多大な時間とポケットマネーを費やして潔白を証明したが、ジャパンカップでの勝利は戻ってこなかった。処分は取り消され、春には復帰できた。ジロでは2勝を挙げた。しかしそれ以来、ロジャースの競技、あるいは人生に対する考え方と態度は大きく変化したようだ。「ロジャースは生まれ変わった」という言葉がしっくりくるような変化。それはやはり、悪夢の一件によってもたらされた心境の変化から来ている。
ロジャースは言う。「復帰を果たしてからは、自転車レースでベストを尽くしたとしても、最悪の起こりうるケースはレースに負けることだけ(人生を失うことじゃない)。気持ちを新しくしてから、新しいチャンスが訪れるようになった。以前は起こったことをただ受け入れるだけの自分だった。でも、あの一件以来、生き方に対する考え方を変えた。もう他の誰かの人生を生きるのはやめようと思った。それまで僕は失敗を恐れていた。しかし、今は恐れていない。
でも、目標を見つけるのは難しいね。以前の僕はグランツールで勝とうと考えていた。でも現実的になった時、1週間程度のレースなら勝てる可能性があることを理解した。逃げに乗るためには脱落してタイムを落としておくことも必要なんだ。アルベルトが居なくなって回ってきたチャンス。僕はこうしてチャンスを手に入れた」。
バレ峠が分けた、総合争いの勝者と敗者
11分32秒遅れの34位に終わったフランク・シュレク(トレックファクトリーレーシング) photo:Makoto.AYANO
バレ峠でピノやニーバリから少し遅れだしたアレハンドロ・バルベルデ(モビスター) photo:Makoto.AYANO先頭グループがステージ勝利に向けた闘いを続けるなか、逃げを容認するのんびりペースで最終の峠まで来たメイン集団では、バレ峠の登り始めから、突如として総合争いのバトルが始まっていた。麓からの急激なペースアップで奇襲作戦を仕掛けたのはバルベルデとモビスター。
その動きをゴール後のユキヤはこう振り返る「バレ峠まではずっとゆっくりだったのが、いきなりペースが狂ったように上がって、身体が対応できなかったですね。最初のペースアップでアップアップ状態になってしまった。峠に入る前に心拍を上げておく必要がありました。たまらず遅れてしまいました。」
このペースアップに総合上位を狙う大物選手たちも調子を狂わせたようだ。ピエール・ロラン、フランク・シュレク(トレックファクトリーレーシング)、バウク・モレマ(ベルキン)、そしてヴァンガーデレンまで脱落した。続いてバルデも苦しみ、ニーバリとピノのマイヨジョーヌグループから脱落した。
総合上位の希望をもつ選手たちの多くが山頂ゴールステージを待たずして脱落した。
ライバルを引き離し、総合3位とマイヨブランも手にしたピノ
勢いが付いていたのはピノ。前の逃げから下がってきたアルノー・ジャネソンとジェレミー・ロワにアシストされ、バレ峠をライバルたちに差をつけてクリアした。山頂が近づくとアタックするように鋭くペースを上げた。しかしマイヨ・ジョーヌのニーバリは冷静に対処。
ティボー・ピノ(FDJ.fr)がヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)を引き連れてバレ峠を登る photo:Makoto.AYANO
バレ峠でバッド・デイに陥ったティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング) photo:Makoto.AYANOダウンヒルがアキレス腱のピノ。昨年のツールは下りに対する恐怖心を克服できず失意のうちにリタイアしたが、今年はプラン通りライバルたちに余裕をもって峠の頂上をクリアした。バニェール・ド・リュションへの長く危険なテクニカルダウンヒルは、チームメイトに引率役となってもらってリスクを取らずに下ることができた。
沿道にはスピード違反取り締まり装置の着ぐるみが... photo:Makoto.AYANOバレ峠頂上ではバルベルデがピノグループに離されていたが、ゴールまでにアシストに助けられて追いついた。しかしピノはヴァンガーデレンとバルデらに大きなタイム差をつけ、ピノはこのステージでもうひとりの勝者になった。総合を3位に上げ、マイヨブランも獲得。他のライバルたちを引き離した。
ティボー・ピノ(FDJ.fr)がヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)を引き連れてバレ峠を登る photo:Makoto.AYANO「ヴァンガーデレンとバルデを引き離したことは知ったけど、彼らのことを考えている余裕はなかった。僕は僕のレースをすることに専念していた。とにかく山頂までにベストを尽くし、後のダウンヒルはリスクをとらずになりゆきに任せる。
僕は登りでアタックすることが必要だったんだ。ルションへの下りは曲がりくねって危ない。だから前方でバレ峠を越えて、タイムの余裕を持って下りたかった。アルノーに登りを手伝ってもらって、ジェレミーと一緒に下れたのはパーフェクトだった。
マイヨブランと総合3位へのアップ。しかしピノは浮かれていない。どころか、まだパリでの表彰台に関しては確定できるものではないと考えている。
「この総合3位はあくまで暫定。本当に総合3位になるためには、最終日2日前のステージの個人TTを待たなければいけない。TTでは一気に大きなタイムを失うだろう。それまでに僕はペローとヴァンガーデレンに対してもっとタイム差をつけておくことが必要だ。ペローは良く登れている。知っての通りTTにも強い。彼がポディウム争いにおいてもっとも手強い相手になる。明日、そして明後日でもっとタイム差をつけることが必要だ」。
バレ峠でタイムを失い、ティボー・ピノに逆転されたロメン・バルデ(AG2Rラモンディアール) photo:Makoto.AYANO脱落したバルデはペローのアシストに?
「ロメン・バルデと一緒」手書きのフラッグで応援する子どもたち photo:Makoto.AYANO脱落してマイヨブランと総合3位の座を失ったバルデは言う。「ここまでのツールで僕にはバッド・デイがなかったのに、今日はタフな一日だった。アタックしようと思ってたのに、こうして遅れてしまった。サム(ドゥムラン)が助けてくれて大きなタイム差がつくことは避けられたけど、精神的に厳しい一日だった。ペローのアシストに回るかどうかは今夜話し合って決めることになるけど、そういうことになるはずだ。僕の答えは”Oui”だね」。
ラヴニュ監督は言う「ピノは素晴らしいアタックを見せた。そしてバルデにとっていい日じゃなかった。しかしペローにとっては素晴らしい日だった。明日の状況はどうなるか分からない。ジャン・クリストフ(ペロー)はタイムトライアルを前にいい位置につけた。しかし明日はまた別の日。明日もいいとは限らない。毎日驚きがあるのがツールだ」。
ペローは2009年のフランスTTチャンピオン。昨年は最終日4日前の個人TTで試走と本番の2度落車して鎖骨を骨折してリタイアを喫している。ペローが残りのピレネー山岳2ステージで遅れを喫しなければ、そして個人TTで実力通りの走りができれば、ピノの3位だけでなく2位のバルベルデをも逆転できる可能性がある。
ピレネー初日をいい状態でこなしたユキヤ
16分21秒遅れの53位でステージを走りきった新城幸也(ユーロップカー) photo:Makoto.AYANO
沿道にグループで居た日本からの応援団。お目当てはもちろんユキヤ photo:Makoto.AYANO楽しみにしていたピレネー初日を16分21秒遅れの53位で走りきったユキヤは言う。
「最後のバレ峠は麓からのペースアップに調子が狂わされたけど、ステージ全体ではいい感じで登れました。最初のアタック合戦にはもちろん加わりました。
チームからはトマ(ヴォクレール)かゴティエ(シリル)のどちらかが入るようにという指示だったんですが、僕が入れなかったにしろ2人共が逃げに乗れたのが良かった。トマも最後はあんなことになるとは思ってもみなかったでしょう。結果が出なかったのは残念です。
終盤はピエール(ロラン)のそばに居れるのが僕しか居なかったので頑張らざるを得なかったんですが、ピエールも遅れはしたけれど30秒程度に抑えていい感じなので、まずまずのステージでしたね。ピレネーは明日が鍵ですね。明日はピエールの日です。僕が逃げに乗れれば”前待ち”するなどいろいろ闘い方はあります。パンクへの備えなどでただピエールのそばに居ることも重要になってきますから」。
photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:TimDeWale
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ピノは言う。「バルデとは16秒差だけれど、ピレネー後の54kmの個人タイムトライアルのことを考えれば、僕にとってはバルベルデ、ヴァンガーデレン、ペローのほうが危険な存在。バルデとの16秒差はTTで取り返せるけど、いま名前を挙げた選手は僕よりもTTが速い」。
「AG2Rがイゾアール峠で僕を落とそうとしたと新聞で読んだけど、それは他の選手に対してのアクションじゃなくて、僕に対してのものだったようだね。でもバルデが落とさなければいけなかった相手はバルベルデとヴァンガーデレンだ。彼らは表彰台に登ろうとしている。
僕にとっては彼らがピレネーでもっとも落としたい相手だ。僕の目標はシャンゼリゼのポディウムに登ること。それが無理でもトップ5でもいい。その上でバルデが2位か3位で、彼がマイヨブランを着ているなら、僕は彼に対してハッピーだ。僕にとってはマイヨブランよりもポディウムが最大の目標なんだ。ライバルたちにはピレネーの3日間で毎日少しづつタイム差を稼げるといい」。
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ヴォクレールとユーロップカーの失敗
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ゴティエのアタックを利用する形でロジャースがアタックし、ユーロプカーの2人は置き去りにされた。チームの数的優位と、勝利に恵まれてきたこの場所での幸運を過信してしまったヴォクレール。ゴティエも、3度の個人TT世界チャンピオンの独走力を甘く見ていた。いったん離されると最後、追いつくことなど不可能だった。
ヴォクレールは悔しさいっぱいの表情でインタビューに答えた。「僕らは順番に闘っていた。ロジャースのアタックがあったとき、僕はシリル(ゴティエ)なら勝てると思っていたのに、それがあだになった。後ろで見ていた僕はどうすることもできなかった。完全に失敗だ。数の有利はときに不利になることがあるんだ」。
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バレ峠が分けた、総合争いの勝者と敗者
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このペースアップに総合上位を狙う大物選手たちも調子を狂わせたようだ。ピエール・ロラン、フランク・シュレク(トレックファクトリーレーシング)、バウク・モレマ(ベルキン)、そしてヴァンガーデレンまで脱落した。続いてバルデも苦しみ、ニーバリとピノのマイヨジョーヌグループから脱落した。
総合上位の希望をもつ選手たちの多くが山頂ゴールステージを待たずして脱落した。
ライバルを引き離し、総合3位とマイヨブランも手にしたピノ
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マイヨブランと総合3位へのアップ。しかしピノは浮かれていない。どころか、まだパリでの表彰台に関しては確定できるものではないと考えている。
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ピレネー初日をいい状態でこなしたユキヤ
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photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE
photo:TimDeWale
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