2014/07/21(月) - 09:18
自転車やモータサイクルなどの二輪車用タイヤ&チューブメーカーとして85年以上の歴史を持つ国産ブランド、IRC。新型コンパウンドを採用しタイヤに求められる様々な性能をバランス良く向上させた、ロード用クリンチャータイヤの新たなフラッグシップ「IRC ASPITE PRO」の24Cをテストした。
今回インプレッションを行う「ASPITE PRO」は、ここ数年チューブレスタイヤに注力してきたIRCが久々にリリースする新型レーシングクリンチャータイヤ。グリップ力、転がり抵抗、耐パンク性、重量、エアロダイナミクスなどタイヤに求められる様々な性能をバランス良く向上させたことが特長だ。開発にあたってはIRCタイヤを使用し、欧州レースにも積極的に参戦する「EQA U23」の意見が取入れられた。
コンパウンドはASPITE PRO用に開発された新型を使用する。グリップ力は転がり重視のコンパウンドをベースに7%向上させ、高摩擦コンパウンドとの中間かつ実用的な性能を実現。耐カット性能は転がり重視のコンパウンドより4%、高摩擦コンパウンドより9%向上している。
トレッドパターンも一新されており、センターをスリック、サイドをヤスリ目とすることで、転がりとグリップの相反する性能を両立。なお、サイドのヤスリ目は突起を中央から外へ向かうにつれて粗大化させ、摩擦係数に変化をもたせている。これにより、ゆるいカーブでは転がりよく高いスピードを維持することができ、鋭角なコーナーではバイクを安心してバイクを倒すことができるという。なお、トレッド面には摩耗インジケーターが設けられている。
加えて、タイヤ内部全体に耐パンクブレーカーを配することで、ドライコンディションでのサイドカットによる耐パンク性を40%向上させている。また、ドライとウェットでの耐パンク性の違いが僅かであることもトピックスだ。
そして、エアロダイナミクスの向上を図ったことも忘れてはならない。風洞実験から得たデータを基に、ビード部分にフィンを設け、リムとの段差を平滑にすることで、時速40km時で4%のドラッグ低減に成功している。
タイヤサイズは24cと26cの2種類で、トレンドを取り入れた太めの仕様となっている。今回インプレッションを行った24cの重量は205g(カタログ値)。また兄弟モデルとして、水はけの良いトレッドパターンとグリップ力に富むRBCCコンパウンドを組み合わせたウェットコンディション用としてASPITE PRO WETが登場している(紹介記事はこちらから)。
それでは早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
嵌め込みは非常にきつく、クリンチャータイヤの中でも最強レベル。これはタイヤ内部全体に配されたという耐パンクブレーカーに起因しているのだろう。しかし、トレッド面の厚みは非常に薄い。実測重量は214gと219gでカタログ重量よりもやや重い。幅は8barまで充填した状態で23.4mmだった。(装着リムの内幅は17mm)
テスト走行の距離は一週間で約300km。空気圧6.5bar-9.0barを0.5bar刻みで調整しながらテストを行った。新品の状態ではおぼつかない印象だったものの、恐らく皮むきが終わった20kmあたりから性能が出てくる様になってきた。従って走り初めの20kmほどは慎重に走ったほうがよいだろう。
まず印象的だったのが真円度の高さ。もっとも、最近新しく発表されるクリンチャータイヤは総じて精度が高い。もちろん、このASPITE PROも例外ではなく、結果として転がり性能が悪かろうはずがない。このタイヤの製造過程でかなりの精度が確保されている事は、ホイールに装着して空廻ししてみれば判る。
乗り心地に関しては「衝撃の角を取ってくれる」とはまさにこのタイヤの事だという印象だ。どんなタイヤでも、ある程度まで空気圧を落とせば振動吸収性は上がる。従って7barを下回る空気圧では振動を吸収しているように感じられても、9bar辺りまで空気圧を上げるとガンガンと衝撃を伝えてくる製品が多い。
一方このタイヤは違う。9barまで内圧を高め、路面の悪い部分に入ると、自分の体は”ガンガンガン”という衝撃に備えているのだが、伝わってくる振動は”ボンボンボン”という感じだ。9barで大きな段差を越える時も、”ガツン”ではなく”ボコン”といった感じ。トレッド面自体が振動を吸収しているかの様に感じる。これはトレッド面の薄さ故に、衝撃に対するタイヤの変形スピードと復元スピードが早まり、結果として衝撃の角を取ってくれているのではと予想する。
グリップ感に関しては、タイヤ自体の変形やネジレによる設置面積の増加に頼るタイプではない。トレッド面のコンパウンドやパターンの摩擦係数の高さに頼ったグリップ感だ。ケーシングの変形を期待せずとも十分なグリップを実現している辺りは流石モーターサイクルのタイヤを手掛けるメーカーと行ったところだ。
このタイヤの最たる特徴は”とにかく向きが変わる”ことだろう。とにかく自分が行きたい方向に膨らむことなくスンナリと向かっていってくれる。仮に下りのコーナーにオーバースピードで入ってしまっても、膨らんで外側に張り付く事態はかなり回避できそうだとすら感じるほどだ。
グリップの絶対値がかなり高い反面、滑り始めの挙動はかなり大きい。従ってグリップのブレイクポイントを超えてしまった時のリカバリーは少々厳しい印象だ。意図的にブレイクポイントを超えるバンク角を与えてテストを繰り返したのだが、コントローラブルな性格は持ち合わせていないような印象だ。ただし、根本的なグリップの絶対値は相当高いところにある事だけは付け加えておこう。ガッチリしたグリップフィーリングこそ感じられなかったが、グリップ絶対値の高さは、その素晴らしい回頭性の高さが証明していると言える。
総じて、ASPITE PROは素直に高性能と評価できるタイヤである。回頭性の良さ、摩擦係数の高さに由来するグリップ感、衝撃の角を取ってくれる振動吸収性など、完成度は非常に高い。なお、整流効果を高めるというエアロフィンの効果は、残念ながら私のレベルでは体感することはできなかった。
IRC ASPITE PRO(クリンチャー)
サイズ:700×24c、700×26c
重 量:205g(24c、カタログ値)
空気圧:100~130psi(24c)、90~115psi(26c)
価 格:6,200円(税抜)
text:Kenji.Degawa
今回インプレッションを行う「ASPITE PRO」は、ここ数年チューブレスタイヤに注力してきたIRCが久々にリリースする新型レーシングクリンチャータイヤ。グリップ力、転がり抵抗、耐パンク性、重量、エアロダイナミクスなどタイヤに求められる様々な性能をバランス良く向上させたことが特長だ。開発にあたってはIRCタイヤを使用し、欧州レースにも積極的に参戦する「EQA U23」の意見が取入れられた。
コンパウンドはASPITE PRO用に開発された新型を使用する。グリップ力は転がり重視のコンパウンドをベースに7%向上させ、高摩擦コンパウンドとの中間かつ実用的な性能を実現。耐カット性能は転がり重視のコンパウンドより4%、高摩擦コンパウンドより9%向上している。
トレッドパターンも一新されており、センターをスリック、サイドをヤスリ目とすることで、転がりとグリップの相反する性能を両立。なお、サイドのヤスリ目は突起を中央から外へ向かうにつれて粗大化させ、摩擦係数に変化をもたせている。これにより、ゆるいカーブでは転がりよく高いスピードを維持することができ、鋭角なコーナーではバイクを安心してバイクを倒すことができるという。なお、トレッド面には摩耗インジケーターが設けられている。
加えて、タイヤ内部全体に耐パンクブレーカーを配することで、ドライコンディションでのサイドカットによる耐パンク性を40%向上させている。また、ドライとウェットでの耐パンク性の違いが僅かであることもトピックスだ。
そして、エアロダイナミクスの向上を図ったことも忘れてはならない。風洞実験から得たデータを基に、ビード部分にフィンを設け、リムとの段差を平滑にすることで、時速40km時で4%のドラッグ低減に成功している。
タイヤサイズは24cと26cの2種類で、トレンドを取り入れた太めの仕様となっている。今回インプレッションを行った24cの重量は205g(カタログ値)。また兄弟モデルとして、水はけの良いトレッドパターンとグリップ力に富むRBCCコンパウンドを組み合わせたウェットコンディション用としてASPITE PRO WETが登場している(紹介記事はこちらから)。
それでは早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
嵌め込みは非常にきつく、クリンチャータイヤの中でも最強レベル。これはタイヤ内部全体に配されたという耐パンクブレーカーに起因しているのだろう。しかし、トレッド面の厚みは非常に薄い。実測重量は214gと219gでカタログ重量よりもやや重い。幅は8barまで充填した状態で23.4mmだった。(装着リムの内幅は17mm)
テスト走行の距離は一週間で約300km。空気圧6.5bar-9.0barを0.5bar刻みで調整しながらテストを行った。新品の状態ではおぼつかない印象だったものの、恐らく皮むきが終わった20kmあたりから性能が出てくる様になってきた。従って走り初めの20kmほどは慎重に走ったほうがよいだろう。
まず印象的だったのが真円度の高さ。もっとも、最近新しく発表されるクリンチャータイヤは総じて精度が高い。もちろん、このASPITE PROも例外ではなく、結果として転がり性能が悪かろうはずがない。このタイヤの製造過程でかなりの精度が確保されている事は、ホイールに装着して空廻ししてみれば判る。
乗り心地に関しては「衝撃の角を取ってくれる」とはまさにこのタイヤの事だという印象だ。どんなタイヤでも、ある程度まで空気圧を落とせば振動吸収性は上がる。従って7barを下回る空気圧では振動を吸収しているように感じられても、9bar辺りまで空気圧を上げるとガンガンと衝撃を伝えてくる製品が多い。
一方このタイヤは違う。9barまで内圧を高め、路面の悪い部分に入ると、自分の体は”ガンガンガン”という衝撃に備えているのだが、伝わってくる振動は”ボンボンボン”という感じだ。9barで大きな段差を越える時も、”ガツン”ではなく”ボコン”といった感じ。トレッド面自体が振動を吸収しているかの様に感じる。これはトレッド面の薄さ故に、衝撃に対するタイヤの変形スピードと復元スピードが早まり、結果として衝撃の角を取ってくれているのではと予想する。
グリップ感に関しては、タイヤ自体の変形やネジレによる設置面積の増加に頼るタイプではない。トレッド面のコンパウンドやパターンの摩擦係数の高さに頼ったグリップ感だ。ケーシングの変形を期待せずとも十分なグリップを実現している辺りは流石モーターサイクルのタイヤを手掛けるメーカーと行ったところだ。
このタイヤの最たる特徴は”とにかく向きが変わる”ことだろう。とにかく自分が行きたい方向に膨らむことなくスンナリと向かっていってくれる。仮に下りのコーナーにオーバースピードで入ってしまっても、膨らんで外側に張り付く事態はかなり回避できそうだとすら感じるほどだ。
グリップの絶対値がかなり高い反面、滑り始めの挙動はかなり大きい。従ってグリップのブレイクポイントを超えてしまった時のリカバリーは少々厳しい印象だ。意図的にブレイクポイントを超えるバンク角を与えてテストを繰り返したのだが、コントローラブルな性格は持ち合わせていないような印象だ。ただし、根本的なグリップの絶対値は相当高いところにある事だけは付け加えておこう。ガッチリしたグリップフィーリングこそ感じられなかったが、グリップ絶対値の高さは、その素晴らしい回頭性の高さが証明していると言える。
総じて、ASPITE PROは素直に高性能と評価できるタイヤである。回頭性の良さ、摩擦係数の高さに由来するグリップ感、衝撃の角を取ってくれる振動吸収性など、完成度は非常に高い。なお、整流効果を高めるというエアロフィンの効果は、残念ながら私のレベルでは体感することはできなかった。
IRC ASPITE PRO(クリンチャー)
サイズ:700×24c、700×26c
重 量:205g(24c、カタログ値)
空気圧:100~130psi(24c)、90~115psi(26c)
価 格:6,200円(税抜)
text:Kenji.Degawa
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