個人的な見解を言わしてもらうと、アイルランドでの「ビッグスタート」は盛り上がったが、やはりジロはイタリアを走ってこそジロだ。華やかで大音量をかき鳴らすキャラバン隊を見てそう思った。でもバーリの危険な周回コースはいただけなかった。



チャーター機でバーリに向かう新城幸也(ユーロップカー)チャーター機でバーリに向かう新城幸也(ユーロップカー) photo:Tim de Waele
チャーター機に乗り込む別府史之(トレックファクトリーレーシング)チャーター機に乗り込む別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Tim de Waeleチャーター機でバーリに降り立ったエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)チャーター機でバーリに降り立ったエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Tim de Waele


選手とのセルフィー(自分撮り)がブーム選手とのセルフィー(自分撮り)がブーム photo:Kei Tsuji休息日の朝早くにダブリンを発ち、チャーター機でバーリに到着したのは196名の選手たち。ダブリンとバーリは約2700km離れており、飛行機でおよそ3時間の距離だ。レースを含めた移動距離だけを見ると史上最長のグランツールなのでは?ちなみに報道陣の中には38時間かけて車を運転してきた強者もいる。

デモル監督と周回コースについて話す別府史之(トレックファクトリーレーシング)デモル監督と周回コースについて話す別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji地理的に言うと、バーリは"長靴の形をしたイタリア半島のアキレス腱"あたりに位置する。緯度で言うとダブリンから12度ほど南下したことになる。日本に当てはめると、札幌から鹿児島までの南下に等しい(実際はバーリと青森の北緯が一緒ぐらい)。

ちなみに日本でもお馴染みのバリ島はBALIで、こちらはBARI。カタカナで書くと似ており、GoogleでBARIを検索するとご丁寧にBALIを表示してくれるが、発音は全く別物だ。

とにかく移動に関して大きなトラブルは起こらず、どのチームも安全にバイクを本国イタリアまで輸送することに成功した。イタリアに入って大会関係車両がどっと増え、チームカーやチームスタッフの数もどっと増えた。ティンコフ・サクソの宮島正典マッサーもこの第4ステージからジロに合流した。



パールピンクのコルナゴC60で登場した新城幸也(ユーロップカー)パールピンクのコルナゴC60で登場した新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji


観客に見守られながら周回をこなす観客に見守られながら周回をこなす photo:Kei Tsujiジロらしいジロがこの日から始まったと言える。「今日ようやくジロが開幕する」なんて言うジャーナリストもいる。別府史之(トレックファクトリーレーシング)が「やはりイタリアはご飯が美味しい!」と嬉しそうな顔で熱弁してしまうほど、やはりイタリアはご飯が美味しい。

観客に見守られながら周回をこなす観客に見守られながら周回をこなす photo:Kei Tsujiアイルランドを走った即席のキャラバン車両ではなく、カラフルな車列がバーリの街を行く。おしとやかなアイルランドのキャラバンとは違い、ノリとか音量とか露出度が全然違う。毎年規模を縮小していたキャラバンだが、今年は昨年よりもキャラバンのボリュームが増えた印象。

さて、アスタナ、ティンコフ・サクソ、オメガファーマ・クイックステップが乗るスペシャライズドの新型ターマックに注目が集まる中、そこに割って入るようにパールピンクのコルナゴC60が登場した。持ち主は新城幸也(ユーロップカー)。コルナゴが特別に用意したスペシャルカラーだ。イタリアメディアから大きな注目を集めるパールピンクのバイクで新城は残りのステージを闘っていく。

最高気温15度の世界から、最低気温15度の世界へ。Tシャツの季節到来と思いきや、分厚い雨雲がスタート地点ジョヴィナッツォの上空に立ち込める。スタートに合わせたように大粒の雨が降ってきた。

雨に濡れた路面は驚くほど滑りやすい。スニーカーでスピードスケート大会を開催出来そうなほどグリップの効かない路面。スタート地点に集まった選手たちは苦笑いするしかなかった。観客や報道陣の中では「ジロがアイルランドから雨を連れてきた」なんてお決まりのジョークが飛び交った。



ガッツポーズを繰り出すナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr)ガッツポーズを繰り出すナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr) photo:Kei Tsuji


25番手でフィニッシュする別府史之(トレックファクトリーレーシング)25番手でフィニッシュする別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsujiペタッキに「ビースト(野獣)」と呼ばれ、ヴィヴィアーニに「ミサイル」と呼ばれ、マシューズに「アンビータブル(無敵)」と言わしめたマルセル・キッテル(ドイツ、ジャイアント・シマノ)は残念ながら発熱でスタートしなかった。当初からキッテルは本格山岳ステージ前にリタイアする予定だったが、そのあまりにも早いリタイアにジロが盛り下がったことは否めない。

リスクを負うことなくフィニッシュした新城幸也(ユーロップカー)リスクを負うことなくフィニッシュした新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiその一方でライバルたちは俄然モチベーションが上がったはず。「危険なコースが続いたのでアイルランドではスプリントしなかった」と言うアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)もその一人だ。

雨によって鏡のように滑りやすくなった路面雨によって鏡のように滑りやすくなった路面 photo:Kei Tsujiちなみにペタッキにはジロのステージ優勝最年長記録がかかっている。しかも8秒差の総合2位につけているため、仮に(マシューズが4位以下と仮定して)ペタッキがステージ優勝すればボーナスタイム10秒獲得でマリアローザ獲得。そんなシナリオを思い描いていたに違いない。

しかしペタッキはスプリントに絡めず19位。「年齢がそうさせたのかも知れないけど、コーナーで(攻めることが出来ずに)ブレーキングしてしまった」と表情を曇らす。おそらくこの日が「アレ=ジェット」にとってマリアローザを着るキャリア最後のチャンスだった。

サイクリングペースで走っていても滑ってしまいそうな路面に、フィニッシュした選手たちはみな怒りの表情か苦笑いを浮かべていた。泥とか埃とか何かよく分からない汚いものを全身に浴びた選手たちは真っ黒だ。

新城幸也も別府史之も落車に巻き込まれることなくフィニッシュ。新城にはチームからスプリントの指示が出たが「(あまりにも危険すぎて)断った」と言う。別府は汚れた顔を拭きながら、第3ステージのチーム総合成績1位の表彰に向かった。

連日のように雨降りが続いた昨年のジロと言い、イタリアレースと雨は切っても切れない関係にある。第5ステージのフィニッシュ地点であるバジリカータ州ヴィッジャーノの天候は雨で、気温15度という予報が出ている。

プーリア州同様に、経験上バジリカータ州の路面も雨が降るとかなり滑る。とにかくトラブルなく選手たちが完走することを願うばかりだ。



第3ステージのチーム総合成績1位の表彰を受けるトレックファクトリーレーシング第3ステージのチーム総合成績1位の表彰を受けるトレックファクトリーレーシング photo:Kei Tsuji



text&photo:Kei Tsuji in Bari, Italy

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