2014/03/21(金) - 05:06
3月7日から14日までベトナムのホーチミン市周辺で行われた女子ロードステージレースのBIWASE CUP2014に、日本代表チームが参戦した。アジアでは少ない女子だけのステージレース。参戦した4人の戦いぶりを、本遠征の監督である柿木孝之氏(JCFロード競技部会員)のレポートで紹介しよう。
遠征の概要
大会名 :BIWASE CUP 2014
派遣期間:平成26年3月5日(水)~15日(土)
開催期間:平成26年3月7日(金)~14日(金)8ステージ
開催地 :ベトナム(ホーチミン周辺コース)
選手団 :
監督 柿木孝之(JCFロード競技部会員)
メカニック 中村仁(JCF強化支援スタッフ、Hi-Bike店長)
選 手 西加南子(LUMINARIA)
金子広美(イナーメ・アイランド信濃山形)
合田祐美子(早稲田大学)
坂口聖香(パナソニックレディース)
以下、柿木監督のレポートは発表済みのJCFレポートに加筆編集されたもの。柿木監督は「途中で私の乗ったサポートバイクが煙を吹き、そこからヒッチハイクでモトクロスバイクを捕まえて、交通規制がされていない中、渋滞中の車を縫いながら007のように集団を追いかけ、映画よりもリアルな死の恐怖を味わいました。遠征でこんな経験は初めてです」と当時を振り返る。また写真はすべて柿木監督によるものだが、「サポートバイクの後部座席でボトル満載のクーラーボックスを持ちながらの」撮影だったという。
柿木孝之(JCFロード競技部会員)レポート Vol.1
3月7日から14日までの8日間、計8ステージの女子のステージレースBIWASE CUP2014に日本女子ナショナルチームは参戦した。UCI公認のレースではないが、タイやマレーシアもナショナルチームが参戦し、計14チームで争われた。日本からは西加南子(LUMINARIA)、金子広美(イナーメアイランド信濃山形)、合田祐美子(早稲田大)、坂口聖香(パナソニックレディース)の4名が出場した。豊岡英子(パナソニックレディース)も参加予定であったが体調不良で今回はメンバーから外れた。
コースは全体に平坦基調で登り区間が少なく、区間3位までに与えられる10秒、6秒、4秒のボーナスタイムやステージによって1~2箇所設けられたスプリントポイントでの上位3名に与えられる3、2、1秒のボーナスタイムが個人総合成績に大きく影響することが予想された。個人総合成績で上位に入るためには、大きな逃げに乗るか、または各ステージでのスプリントで上位に入り続けるかといった戦い方が求められる。チームの目標としては、チームで戦っての個人総合優勝、区間優勝とした。
第1ステージ アウェイの洗礼 金子5位、坂口9位
第1ステージは96kmのコースであるが、大会のコースプロフィールはなく、初日はどこに登りがあって、どこか下りなのか分からないままスタートすることになった。ホーチミン周辺は日中30℃から35℃あり日本との気温差が激しく、日本の選手はまずはこの暑さと闘うことになる。
この日のチームの作戦は、とにかく暑さになれること。自分達からは攻撃を仕掛けることはせずに、大きな集団の逃げだけは逃さないようにすることと、ゴールスプリントの際には金子、合田で西をスプリントに導くこととした。日本との気温差20℃以上というだけではなく、蒸し暑さも選手には厳しい環境だ。
レースは10kmほどでタイの選手が1人で逃げる。集団の動きが収まり60kmあたりまで最大3分20秒差で逃げるが、スプリンターを擁する地元ベトナムの大会スポンサーチームを中心に集団もペースを維持しレースは振り出しに戻る。レース中盤から後半にかけて強い向かい風と、激しい未舗装区間、アップダウンで遅れる選手が出るが、日本選手4名は集団の前方で動きに対応する。
この日は地元の選手にも暑かったようで、熱中症の症状をみせて落車をする選手も複数みられた。合田がラスト20kmで荒れた路面が続いたため、ボトルゲージが曲がってしまい、ペダリング出来ない状況でストップするが10kmほど追いかけて集団復帰する。
ゴールを探し求めて走る外国チーム
この日は予定では96kmの距離であったにもかかわらず、サポートするオートバイのメーター表示でも100kmを超えているにもかかわらず、ラスト10kmの看板が現われない。特別ルールでラスト10kmまで認められている補給も続く。審判には英語を話せる人がおらず、唯一英語が通じるUCIコミッセールに尋ねてみても残り距離は分からないという。
さらにゴールがレース予定距離より大幅に伸びている状況にもかかわらず、コースサイドに残りの距離表示もないため日本の選手はゴールがどこだか分からない状況になる。すでに予定のゴール距離を超えているので、金子が登り頂上がゴールと予想してスプリントするが、そこにはゴールはなかった。
結局レース距離は予定より20kmも長く、ゴール地点の表示もない中での緩い登りでの集団スプリントとなり、金子が5位でゴールした。レース後に知らされたのだが、レース中盤で交通規制がうまくいかず、途中コース変更をすることで距離が伸びてしまったとのこと。選手の集団にはベトナム語で審判からの説明があったそうだが、英語を話せる審判がいない。
そのため英語での説明はなく、日本を含む海外チームはどこがゴールか分からない状況でラスト20kmを走ることになり、ゴール前の連携もとれず各自バラバラでのゴールとなった。ゴールの旗がみえるまでゴールが分からないレースというのは経験がなく、まずはベトナムのレースの最初の洗礼を受ける事となった。
第1ステージ 結果
1位 Nguyen Thi That(ベトナムVAG)3時間18分53秒
2位 Tran Thi Phuong Trang(ベトナムVAG)同タイム
3位 Phan Thi Lieu(ベトナムVAG)同タイム
5位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
9位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
24位 西加南子(LUMINARIA)同タイム
29位 合田祐美子(早稲田大)4秒差
第2ステージ 金子が追い上げるがラスト3kmで吸収、坂口5位、西6位
前日はどこがゴールか分からないレースとなったので抗議した結果、この日はラスト10kmから数か所でコミッセールが残り距離が表示された看板を持つこととなった。残り距離の表示を立てなかった理由が「標識をレース通過前に立てると、誰かに持っていかれてしまうから」とのことで、道幅の広い道路に地面にチョークで残り距離が書かれていたようであるが、平坦の路面に書かれても先頭の選手以外は気がつかない。この日は80kmのコース設定であり、コースプロフィールがないのでインターネットやベトナムチームの監督から情報をもらう。
前半からアップダウンが多く、ラスト20kmに3kmの登りがあるということで、この日は登りの得意な金子を中心にチームでまとまって攻撃することにする。この日は第1ステージより標高が高く、気温湿度ともに前日より低く感じ暑さをさほど感じない。スタート直後に日本選手を含まない7名ほどの逃げが決まり厳しい状況になるが、西と金子が追撃をかけて集団は一つに戻る。その際にベトナム選手の1人逃げが決まっていたようで、その選手が集団に大きな差をつけ始める。20km過ぎに坂口を含む11名の追撃が決まり、そこにタイ、マレーシアも1名ずつ入る形で進む。
金子、坂口、合田の日本人選手だけの追走が
先頭の1人逃げの選手は坂口のグループに3分差、集団に5分30秒差をつける。坂口のグループもうまく回らず、集団もペースが落ちて差が拡がらない。それでもアップダウンコースを1人で5分差を維持し逃げ続けるベトナム選手がいるというのには驚かされた。ラスト20kmの3kmの登り区間が始まると、金子が日本の選手全員に声をかけてから一気に攻撃に出る。集団は長く伸びた状態から一気にバラバラになり、金子、坂口、合田の日本人選手だけのグループが出来る。金子のスピードに合田がついていけず遅れ、代わってベトナムの選手が金子と坂口に追いつき金子の先頭固定でペースを上げて3名で登り続ける。
登り頂上手前で坂口が3名の中から遅れて金子とベトナム選手の2名になる。登り頂上からゴールまでの距離を考えるとペースを落としてでも坂口を追走集団に残しておいたほうが得策かとも思えたが、金子らを追って集団も近くまで迫っており、金子は坂口を残すために少し緩めていたペースを上げて先頭を独走する選手を目指して進んでいく。金子とベトナムの選手は集団に戻った日本人3名を含む15名ほどの集団と50秒以上の差となる。向かい風区間では、金子は先頭を長く牽く形で1人逃げを続ける選手とのタイム差をジワジワ縮めて1分30秒差となる。
西ら日本選手3名を含む追走集団はタイのナショナルチームが4名で先頭を固めて非常に強力に集団を牽引して差を縮めていく。ラスト10kmは横風も強く、位置取りが悪かった合田がここで遅れる。金子は先頭を多く牽く形で粘り続けたものの、ラスト3kmでついに集団に追いつかれる。そこから集団は単独で先頭で逃げ続ける選手とのタイム差を縮める動きではなく、2位争いを目指しての牽制が始まり一気にペースを落としてしまう。これにより遅れていた合田も追いつくことが出来たが、この牽制で1人逃げ選手とのタイム差がまた一気に拡がってしまう。
ラスト2kmで合田が攻撃するが集団も逃さない。ゴール前は西と坂口が連携して集団の先頭を狙うが、ゴール直前になって集団復帰を果たしたスプリンター選手が爆発的なスプリントをみせた。坂口は集団の4位で区間5位。西が区間6位と続いた。結局この日は前半から逃げ続けたベトナムの選手が後続集団に2分差以上の差をつけて逃げ切った。チームとしてはレース序盤に危険な逃げを許してしまった際に、西と金子がすぐに追いかけ、集団に吸収してからのカウンターアタックに坂口を乗せることで、後半の勝負所まで脚を貯めながら走ることが出来た。勝負所となる登り区間ではチームでまとまって動き、集団を崩壊させて一時は集団から日本選手が3名抜け出す形になった。
ラスト3kmでの判断は?
その後は金子が逃げ続け、レース前半から独走を続けていた選手には追いつけないまでも個人総合成績で2位に入るチャンスであったが、タイチームが向かい風と横風が吹いた平坦区間で非常にまとまった追撃をみせてラスト3kmで封じられた。集団では金子が捕まった後に、後ろで休めていた日本選手の攻撃がなく、ラスト3kmから2kmまでの1kmの区間で激しい牽制に入ってしまった。
そのためタイチームのスプリンターの脚を休ませ、さらに集団から遅れていたスプリンター選手の復帰を許し、先頭を独走する選手に1分10秒差まで迫っていたのを、たった1kmの区間だけでさらにそこから1分ほどプレゼントすることになってしまった。チームバイクが集団後ろに近いところを走れたため、ラスト2kmで集団一番後ろにいた合田に大声で叫んでアタックする指示が届き、何とか集団は動き始めたが、ステージレースを戦う場合には、チームとして、個人としてレースの局面ごとに何をすべきかを考える力を身につける必要がある。
このステージのラスト3kmから2kmの状況でみると、チームとしてはこの日の区間2位がより重要なのか、今後の個人総合を考えた場合に独走している選手とのタイム差を拡げられてもよいのか、15名ほどの集団に日本選手が4人いて、各選手のこの日のレースで脚を使った状況と各選手のゴール前でのスプリントの可能性を考えて、チームとしてこの日だけではなく最終的に個人総合成績を出すためには何をすべきかを判断できる能力が各選手には求められた。男子選手と比べてステージレースの経験の少ない女子選手には、この日のレースは考えて走ることを学ぶための良い機会となった。
第2ステージ 結果
1位 Truong Thi Bich Nhien(ベトナム DT2)2時間27分30秒
2位 Nguyen Thuy Dung(ベトナム CBD1)2分14秒差
3位 Nguyen Thi That(ベトナム VAG)同タイム
5位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
6位 西加南子(LUMINARIA)同タイム
9位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
20位 合田祐美子(早稲田大)2分20秒差
第3ステージ 西が落車で救急搬送、坂口が5位
この日は1周5kmの湖の周りの周回を10周回する50kmのコース。登り区間はなく、レース距離も短くスプリンターの日となることが予想された。標高800-900mほどの高地ということもあり、暑さをあまり感じない。レースはスタートから単発のアタックは続くが10秒以上の差がつくことはない。
タイムボーナスのある3周回、6周回のスプリント賞でも大きな動きはなく、このままゴールまで集団スプリントかと思われた7周目の中盤で大落車が発生する。日本選手は金子以外の3名が巻き込まれてしまい、西は落車を避けて止まれたものの後ろから激しく衝突されて、頬と顎を激しく地面に打ち付けて顎の下を大きく切ってしまい、出血が激しく大会側に止められリタイア。
西は救急車でそのまま病院へ搬送された。合田、坂口もこの落車に巻き込まれたが、自力で何とか復活に成功する。最後は向かい風の中での集団スプリントとなり落車から集団復帰を果たした坂口が5位に入った。病院に運ばれた西は、外傷は顎と頬だけであったが、救急車内で誕生日を聞かれた際にすぐに思い出せなかったとのことで、本人は出走を望んでいたが脳震盪を起こしていると判断して翌日からのレースの出走を取りやめた。
キャプテンとしてチームのまとめ役であった西がレースを走れなくなり日本チームは3名となってしまった。これまでの3日間の走りをみただけでも西はチームが不利な状況に陥らないような動きなど個人のレース結果には現われないチームでの戦いの走りの出来る選手であったので、翌ステージからはチームは苦戦を強いられことになる場面も多くなることが容易に想定された。
続くアウェイの厳しさ
この日のレース前の監督会議では機材交換箇所は周回中に2箇所で、それ以外で機材故障やアクシデントが発生した場合はコミッセールバイクが集団に戻すという話であったが、落車に巻き込まれた日本選手、マレーシア選手には何の手助けもなく、ベトナム選手のみがバイク先導で集団に復帰していく。
コミッセールバイクは日本選手やマレーシア選手の後ろをついているのみで、合田、坂口ともに集団復帰に大きな力を使って戻ることに成功した。レース後にコミッセールに朝の監督会議の話と全く異なると抗議したが、ただ日本選手やマレーシア選手のそばを走っていたオートバイの運転手がルールを知らなかっただけということで片づけられてしまう。
第3ステージ 結果
1位 Nguyen Thi That (ベトナム VAG)1時間16分13秒
2位 Jutatip Maneephan(タイ)同タイム
3位 Panwaraporn Boonsawat(タイ) 同タイム
5位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
17位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
48位 合田祐美子(早稲田大)同タイム
西加南子(LUMINARIA)は完走扱いにはなったが、身体の状態をみてリタイアすることとした
第4ステージ 3人で戦う日本チーム、坂口が7位に
第4ステージはリゾート地のNha Trangの海岸沿いの直線路を往復する設定で、1周回3.3kmのコースを16周する50kmで争われた。レース前半は片側が追い風区間でもう片側が向かい風の状況であったが、中盤からは海からの横風が強く吹き始めた。日差しが強く、蒸し暑い状況の中で数名のアタックが頻繁に続く。この日はミーティング通りにレース前半から合田が積極的に前で動き、逃げに入る動きをする。
合田は参加選手の少ない日本の女子レースしか走ったことがなく、集団の中に入るのが苦手なため、前で動く機会は多くはなかったが、この日は吹っ切れたように前で動き続ける。5周目あたりで集団が分かれて、10名ほどの先頭グループに入った合田はスプリント賞争いに加わるがタイムボーナスは獲得できなかった。
レース中盤からも大きな逃げは決まらず、集団は逃げを10秒以上は許さない。ラスト3周に入り強力なベトナムの選手2名が逃げを決める。逃げる意思と力を持った非常に危険な逃げであり、残り距離とメンバーを考えると決まったかに見えたが、集団もペースを上げて振り出しに戻す。ラスト周回に入り、ラスト1kmほどでベトナムの選手が1人逃げに成功して集団にわずかの差で逃げ切り優勝する。
この日は坂口が7位に入った。金子、坂口はこの日は集団内で大きな動きをせず、ラスト5周を切ってからのみ前で動きをみせて力を温存した。この日は非常に暑く、コース上の日陰でレースを観ていても頭がフラフラする状況の暑さの過酷なレースであった。
第4ステージ 結果
1位 Pham Hong Loan(ベトナム CBD2)1時間32分00秒
2位 Panwaraporn Boonsawat(タイ) 2秒差
3位 Nguyen Thi That(ベトナム VAG)同タイム
7位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
14位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
25位 合田祐美子(早稲田大)同タイム
photo&text:柿木孝之(JCFロード競技部会員)
edit:高木秀彰
遠征の概要
大会名 :BIWASE CUP 2014
派遣期間:平成26年3月5日(水)~15日(土)
開催期間:平成26年3月7日(金)~14日(金)8ステージ
開催地 :ベトナム(ホーチミン周辺コース)
選手団 :
監督 柿木孝之(JCFロード競技部会員)
メカニック 中村仁(JCF強化支援スタッフ、Hi-Bike店長)
選 手 西加南子(LUMINARIA)
金子広美(イナーメ・アイランド信濃山形)
合田祐美子(早稲田大学)
坂口聖香(パナソニックレディース)
以下、柿木監督のレポートは発表済みのJCFレポートに加筆編集されたもの。柿木監督は「途中で私の乗ったサポートバイクが煙を吹き、そこからヒッチハイクでモトクロスバイクを捕まえて、交通規制がされていない中、渋滞中の車を縫いながら007のように集団を追いかけ、映画よりもリアルな死の恐怖を味わいました。遠征でこんな経験は初めてです」と当時を振り返る。また写真はすべて柿木監督によるものだが、「サポートバイクの後部座席でボトル満載のクーラーボックスを持ちながらの」撮影だったという。
柿木孝之(JCFロード競技部会員)レポート Vol.1
3月7日から14日までの8日間、計8ステージの女子のステージレースBIWASE CUP2014に日本女子ナショナルチームは参戦した。UCI公認のレースではないが、タイやマレーシアもナショナルチームが参戦し、計14チームで争われた。日本からは西加南子(LUMINARIA)、金子広美(イナーメアイランド信濃山形)、合田祐美子(早稲田大)、坂口聖香(パナソニックレディース)の4名が出場した。豊岡英子(パナソニックレディース)も参加予定であったが体調不良で今回はメンバーから外れた。
コースは全体に平坦基調で登り区間が少なく、区間3位までに与えられる10秒、6秒、4秒のボーナスタイムやステージによって1~2箇所設けられたスプリントポイントでの上位3名に与えられる3、2、1秒のボーナスタイムが個人総合成績に大きく影響することが予想された。個人総合成績で上位に入るためには、大きな逃げに乗るか、または各ステージでのスプリントで上位に入り続けるかといった戦い方が求められる。チームの目標としては、チームで戦っての個人総合優勝、区間優勝とした。
第1ステージ アウェイの洗礼 金子5位、坂口9位
第1ステージは96kmのコースであるが、大会のコースプロフィールはなく、初日はどこに登りがあって、どこか下りなのか分からないままスタートすることになった。ホーチミン周辺は日中30℃から35℃あり日本との気温差が激しく、日本の選手はまずはこの暑さと闘うことになる。
この日のチームの作戦は、とにかく暑さになれること。自分達からは攻撃を仕掛けることはせずに、大きな集団の逃げだけは逃さないようにすることと、ゴールスプリントの際には金子、合田で西をスプリントに導くこととした。日本との気温差20℃以上というだけではなく、蒸し暑さも選手には厳しい環境だ。
レースは10kmほどでタイの選手が1人で逃げる。集団の動きが収まり60kmあたりまで最大3分20秒差で逃げるが、スプリンターを擁する地元ベトナムの大会スポンサーチームを中心に集団もペースを維持しレースは振り出しに戻る。レース中盤から後半にかけて強い向かい風と、激しい未舗装区間、アップダウンで遅れる選手が出るが、日本選手4名は集団の前方で動きに対応する。
この日は地元の選手にも暑かったようで、熱中症の症状をみせて落車をする選手も複数みられた。合田がラスト20kmで荒れた路面が続いたため、ボトルゲージが曲がってしまい、ペダリング出来ない状況でストップするが10kmほど追いかけて集団復帰する。
ゴールを探し求めて走る外国チーム
この日は予定では96kmの距離であったにもかかわらず、サポートするオートバイのメーター表示でも100kmを超えているにもかかわらず、ラスト10kmの看板が現われない。特別ルールでラスト10kmまで認められている補給も続く。審判には英語を話せる人がおらず、唯一英語が通じるUCIコミッセールに尋ねてみても残り距離は分からないという。
さらにゴールがレース予定距離より大幅に伸びている状況にもかかわらず、コースサイドに残りの距離表示もないため日本の選手はゴールがどこだか分からない状況になる。すでに予定のゴール距離を超えているので、金子が登り頂上がゴールと予想してスプリントするが、そこにはゴールはなかった。
結局レース距離は予定より20kmも長く、ゴール地点の表示もない中での緩い登りでの集団スプリントとなり、金子が5位でゴールした。レース後に知らされたのだが、レース中盤で交通規制がうまくいかず、途中コース変更をすることで距離が伸びてしまったとのこと。選手の集団にはベトナム語で審判からの説明があったそうだが、英語を話せる審判がいない。
そのため英語での説明はなく、日本を含む海外チームはどこがゴールか分からない状況でラスト20kmを走ることになり、ゴール前の連携もとれず各自バラバラでのゴールとなった。ゴールの旗がみえるまでゴールが分からないレースというのは経験がなく、まずはベトナムのレースの最初の洗礼を受ける事となった。
第1ステージ 結果
1位 Nguyen Thi That(ベトナムVAG)3時間18分53秒
2位 Tran Thi Phuong Trang(ベトナムVAG)同タイム
3位 Phan Thi Lieu(ベトナムVAG)同タイム
5位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
9位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
24位 西加南子(LUMINARIA)同タイム
29位 合田祐美子(早稲田大)4秒差
第2ステージ 金子が追い上げるがラスト3kmで吸収、坂口5位、西6位
前日はどこがゴールか分からないレースとなったので抗議した結果、この日はラスト10kmから数か所でコミッセールが残り距離が表示された看板を持つこととなった。残り距離の表示を立てなかった理由が「標識をレース通過前に立てると、誰かに持っていかれてしまうから」とのことで、道幅の広い道路に地面にチョークで残り距離が書かれていたようであるが、平坦の路面に書かれても先頭の選手以外は気がつかない。この日は80kmのコース設定であり、コースプロフィールがないのでインターネットやベトナムチームの監督から情報をもらう。
前半からアップダウンが多く、ラスト20kmに3kmの登りがあるということで、この日は登りの得意な金子を中心にチームでまとまって攻撃することにする。この日は第1ステージより標高が高く、気温湿度ともに前日より低く感じ暑さをさほど感じない。スタート直後に日本選手を含まない7名ほどの逃げが決まり厳しい状況になるが、西と金子が追撃をかけて集団は一つに戻る。その際にベトナム選手の1人逃げが決まっていたようで、その選手が集団に大きな差をつけ始める。20km過ぎに坂口を含む11名の追撃が決まり、そこにタイ、マレーシアも1名ずつ入る形で進む。
金子、坂口、合田の日本人選手だけの追走が
先頭の1人逃げの選手は坂口のグループに3分差、集団に5分30秒差をつける。坂口のグループもうまく回らず、集団もペースが落ちて差が拡がらない。それでもアップダウンコースを1人で5分差を維持し逃げ続けるベトナム選手がいるというのには驚かされた。ラスト20kmの3kmの登り区間が始まると、金子が日本の選手全員に声をかけてから一気に攻撃に出る。集団は長く伸びた状態から一気にバラバラになり、金子、坂口、合田の日本人選手だけのグループが出来る。金子のスピードに合田がついていけず遅れ、代わってベトナムの選手が金子と坂口に追いつき金子の先頭固定でペースを上げて3名で登り続ける。
登り頂上手前で坂口が3名の中から遅れて金子とベトナム選手の2名になる。登り頂上からゴールまでの距離を考えるとペースを落としてでも坂口を追走集団に残しておいたほうが得策かとも思えたが、金子らを追って集団も近くまで迫っており、金子は坂口を残すために少し緩めていたペースを上げて先頭を独走する選手を目指して進んでいく。金子とベトナムの選手は集団に戻った日本人3名を含む15名ほどの集団と50秒以上の差となる。向かい風区間では、金子は先頭を長く牽く形で1人逃げを続ける選手とのタイム差をジワジワ縮めて1分30秒差となる。
西ら日本選手3名を含む追走集団はタイのナショナルチームが4名で先頭を固めて非常に強力に集団を牽引して差を縮めていく。ラスト10kmは横風も強く、位置取りが悪かった合田がここで遅れる。金子は先頭を多く牽く形で粘り続けたものの、ラスト3kmでついに集団に追いつかれる。そこから集団は単独で先頭で逃げ続ける選手とのタイム差を縮める動きではなく、2位争いを目指しての牽制が始まり一気にペースを落としてしまう。これにより遅れていた合田も追いつくことが出来たが、この牽制で1人逃げ選手とのタイム差がまた一気に拡がってしまう。
ラスト2kmで合田が攻撃するが集団も逃さない。ゴール前は西と坂口が連携して集団の先頭を狙うが、ゴール直前になって集団復帰を果たしたスプリンター選手が爆発的なスプリントをみせた。坂口は集団の4位で区間5位。西が区間6位と続いた。結局この日は前半から逃げ続けたベトナムの選手が後続集団に2分差以上の差をつけて逃げ切った。チームとしてはレース序盤に危険な逃げを許してしまった際に、西と金子がすぐに追いかけ、集団に吸収してからのカウンターアタックに坂口を乗せることで、後半の勝負所まで脚を貯めながら走ることが出来た。勝負所となる登り区間ではチームでまとまって動き、集団を崩壊させて一時は集団から日本選手が3名抜け出す形になった。
ラスト3kmでの判断は?
その後は金子が逃げ続け、レース前半から独走を続けていた選手には追いつけないまでも個人総合成績で2位に入るチャンスであったが、タイチームが向かい風と横風が吹いた平坦区間で非常にまとまった追撃をみせてラスト3kmで封じられた。集団では金子が捕まった後に、後ろで休めていた日本選手の攻撃がなく、ラスト3kmから2kmまでの1kmの区間で激しい牽制に入ってしまった。
そのためタイチームのスプリンターの脚を休ませ、さらに集団から遅れていたスプリンター選手の復帰を許し、先頭を独走する選手に1分10秒差まで迫っていたのを、たった1kmの区間だけでさらにそこから1分ほどプレゼントすることになってしまった。チームバイクが集団後ろに近いところを走れたため、ラスト2kmで集団一番後ろにいた合田に大声で叫んでアタックする指示が届き、何とか集団は動き始めたが、ステージレースを戦う場合には、チームとして、個人としてレースの局面ごとに何をすべきかを考える力を身につける必要がある。
このステージのラスト3kmから2kmの状況でみると、チームとしてはこの日の区間2位がより重要なのか、今後の個人総合を考えた場合に独走している選手とのタイム差を拡げられてもよいのか、15名ほどの集団に日本選手が4人いて、各選手のこの日のレースで脚を使った状況と各選手のゴール前でのスプリントの可能性を考えて、チームとしてこの日だけではなく最終的に個人総合成績を出すためには何をすべきかを判断できる能力が各選手には求められた。男子選手と比べてステージレースの経験の少ない女子選手には、この日のレースは考えて走ることを学ぶための良い機会となった。
第2ステージ 結果
1位 Truong Thi Bich Nhien(ベトナム DT2)2時間27分30秒
2位 Nguyen Thuy Dung(ベトナム CBD1)2分14秒差
3位 Nguyen Thi That(ベトナム VAG)同タイム
5位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
6位 西加南子(LUMINARIA)同タイム
9位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
20位 合田祐美子(早稲田大)2分20秒差
第3ステージ 西が落車で救急搬送、坂口が5位
この日は1周5kmの湖の周りの周回を10周回する50kmのコース。登り区間はなく、レース距離も短くスプリンターの日となることが予想された。標高800-900mほどの高地ということもあり、暑さをあまり感じない。レースはスタートから単発のアタックは続くが10秒以上の差がつくことはない。
タイムボーナスのある3周回、6周回のスプリント賞でも大きな動きはなく、このままゴールまで集団スプリントかと思われた7周目の中盤で大落車が発生する。日本選手は金子以外の3名が巻き込まれてしまい、西は落車を避けて止まれたものの後ろから激しく衝突されて、頬と顎を激しく地面に打ち付けて顎の下を大きく切ってしまい、出血が激しく大会側に止められリタイア。
西は救急車でそのまま病院へ搬送された。合田、坂口もこの落車に巻き込まれたが、自力で何とか復活に成功する。最後は向かい風の中での集団スプリントとなり落車から集団復帰を果たした坂口が5位に入った。病院に運ばれた西は、外傷は顎と頬だけであったが、救急車内で誕生日を聞かれた際にすぐに思い出せなかったとのことで、本人は出走を望んでいたが脳震盪を起こしていると判断して翌日からのレースの出走を取りやめた。
キャプテンとしてチームのまとめ役であった西がレースを走れなくなり日本チームは3名となってしまった。これまでの3日間の走りをみただけでも西はチームが不利な状況に陥らないような動きなど個人のレース結果には現われないチームでの戦いの走りの出来る選手であったので、翌ステージからはチームは苦戦を強いられことになる場面も多くなることが容易に想定された。
続くアウェイの厳しさ
この日のレース前の監督会議では機材交換箇所は周回中に2箇所で、それ以外で機材故障やアクシデントが発生した場合はコミッセールバイクが集団に戻すという話であったが、落車に巻き込まれた日本選手、マレーシア選手には何の手助けもなく、ベトナム選手のみがバイク先導で集団に復帰していく。
コミッセールバイクは日本選手やマレーシア選手の後ろをついているのみで、合田、坂口ともに集団復帰に大きな力を使って戻ることに成功した。レース後にコミッセールに朝の監督会議の話と全く異なると抗議したが、ただ日本選手やマレーシア選手のそばを走っていたオートバイの運転手がルールを知らなかっただけということで片づけられてしまう。
第3ステージ 結果
1位 Nguyen Thi That (ベトナム VAG)1時間16分13秒
2位 Jutatip Maneephan(タイ)同タイム
3位 Panwaraporn Boonsawat(タイ) 同タイム
5位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
17位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
48位 合田祐美子(早稲田大)同タイム
西加南子(LUMINARIA)は完走扱いにはなったが、身体の状態をみてリタイアすることとした
第4ステージ 3人で戦う日本チーム、坂口が7位に
第4ステージはリゾート地のNha Trangの海岸沿いの直線路を往復する設定で、1周回3.3kmのコースを16周する50kmで争われた。レース前半は片側が追い風区間でもう片側が向かい風の状況であったが、中盤からは海からの横風が強く吹き始めた。日差しが強く、蒸し暑い状況の中で数名のアタックが頻繁に続く。この日はミーティング通りにレース前半から合田が積極的に前で動き、逃げに入る動きをする。
合田は参加選手の少ない日本の女子レースしか走ったことがなく、集団の中に入るのが苦手なため、前で動く機会は多くはなかったが、この日は吹っ切れたように前で動き続ける。5周目あたりで集団が分かれて、10名ほどの先頭グループに入った合田はスプリント賞争いに加わるがタイムボーナスは獲得できなかった。
レース中盤からも大きな逃げは決まらず、集団は逃げを10秒以上は許さない。ラスト3周に入り強力なベトナムの選手2名が逃げを決める。逃げる意思と力を持った非常に危険な逃げであり、残り距離とメンバーを考えると決まったかに見えたが、集団もペースを上げて振り出しに戻す。ラスト周回に入り、ラスト1kmほどでベトナムの選手が1人逃げに成功して集団にわずかの差で逃げ切り優勝する。
この日は坂口が7位に入った。金子、坂口はこの日は集団内で大きな動きをせず、ラスト5周を切ってからのみ前で動きをみせて力を温存した。この日は非常に暑く、コース上の日陰でレースを観ていても頭がフラフラする状況の暑さの過酷なレースであった。
第4ステージ 結果
1位 Pham Hong Loan(ベトナム CBD2)1時間32分00秒
2位 Panwaraporn Boonsawat(タイ) 2秒差
3位 Nguyen Thi That(ベトナム VAG)同タイム
7位 坂口聖香(パナソニックレディース)同タイム
14位 金子広美(イナーメアイランド信濃山形)同タイム
25位 合田祐美子(早稲田大)同タイム
photo&text:柿木孝之(JCFロード競技部会員)
edit:高木秀彰
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