世界最大の自転車ブランドジャイアントが、「27.5 IS the future of Off-Road」つまり27.5インチこそがMTBの未来だとして、XCとオールマウンテンを27.5インチ化するという決断を下した。今回はほぼ一新されたMTBラインナップの中からレーシングXCマシン「XTC ADVANCED 27.5」をインプレッションする。



ジャイアント XTC ADVANCED 27.5 2ジャイアント XTC ADVANCED 27.5 2 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
MTB黎明期よりタイヤは長らく26インチが主流であったが、2000年代になり29erが急速にスタンダードと呼ばれるようになってきた。そんな中、2012年のMTBワールドカップにおいて現世界チャンピオンのニノ・シューター(スイス)が27.5インチのバイクを駆り勝利を収めて以降、その性能の高さは周知のものとなった。しかしながらMTB界全体が27.5インチに一辺倒になったということはなく、29インチと27.5インチのどちらをメインに据えるかはメーカーによって大きく異なっている。

そんな中ジャイアントはクロスカントリーとオールマウンテンのほぼ全モデルを27.5インチ化するという大きな決断を下した。その理由は、加速感や静的重量のトータルの「軽さ」、フレーム剛性に起因するロスを表す「効率」、取り回しや障害物走破性などをまとめた「コントロール性」の3つにある。

シートチューブの振動吸収性の向上を狙った臼型のシートクランプシートチューブの振動吸収性の向上を狙った臼型のシートクランプ 正方形断面のダウンチューブ正方形断面のダウンチューブ 上1-1/4インチ径下1-1/2インチ径というテーパーヘッドチューブ上1-1/4インチ径下1-1/2インチ径というテーパーヘッドチューブ


いずれもMTBの性能を測る上では重要な指標であり、27.5インチは寸法上では26インチと29インチの中間ながら、全てのファクターで両サイズの中間値よりも高い水準を達成しているというのがジャイアントの考え方だ。加えてマウンテンバイクが本来持つべき「操る楽しさ」や、スポーツバイクとしてのルックスのまとまりや美しさなど、数値では表現できない性能にも配慮した結果だという。

27.5インチバイクの開発には、ジャイアントがサポートする様々な体型のライダーが男女ともに開発に協力している。中でも、今回インプレッションを行う「XTC ADVANCED」のテストライダーには身長173cmのエミル・リンドグレン(スウェーデン、ジャイアントPRO XCチーム)や168cmのマリアンヌ・フォス(オランダ)など日本人の平均身長に近いライダーも多く参加。26インチに対するビッグホイールならではの走破性を維持しつつも、取り回しや俊敏性、ポジショニングなど29インチでは走破性の向上と引き換えに犠牲となっていた性能の見直しが図られている。

泥など全天候に対応するフレーム内蔵ケーブル泥など全天候に対応するフレーム内蔵ケーブル フロントサスペンションはFOX RACING SHOXを採用フロントサスペンションはFOX RACING SHOXを採用

マッシブな形状のチェーンステーマッシブな形状のチェーンステー リアリジットのため振動吸収を狙ったリアバックリアリジットのため振動吸収を狙ったリアバック


その要となったのが新開発の27.5インチ専用ジオメトリーで、比較的短いクロスカントリーレースの競技時間と27.5インチの特性を考慮した寸法を採用している。27.5インチでは寝気味のヘッド角と長めのホイールベース、29インチに迫るハンガー下がりによってより安定感を高めている。またステム取り付け位置が従来よりも手前かつ低くなるため、適正サイズであれば短く角度のついたステムや逆ライズのハンドルバーの様な、特殊で入手性の低いパーツを使う必要がなくなることも大きなトピックス。身長170cm以下のライダーでも無理なく理想的なポジションが実現できる。

一新されたホイールサイズとジオメトリーを支えるのは、ジャイアントバイクの数多の実績を支えてきた先進的でユニークなテクノロジーとエンジニアリングだ。フレームに使用されるカーボン素材にはT-700グレードカーボン原糸から作りだされる「ADVANCED」を採用。あえてセカンドグレードのカーボンを使用することで、素材に衝撃吸収性の一部を担わせているのだろう。

CTDコントロールが可能なフロントサスペンションCTDコントロールが可能なフロントサスペンション フィジーク ツンドラ2 MGをサドルに採用しているフィジーク ツンドラ2 MGをサドルに採用している


シートポストの固定方式として、一般的なシートクランプではなく斜ウスを採用することで、シートポストのしなりを最大限に利用し、高い快適性を獲得。同時に、シートポスト径は細身の27.2mmとされ、よりシートポスト周辺での衝撃吸収性とトラクション性能を向上させている。

素材とシート周りで快適性を確保する一方でチューブ形状は剛性を重視しており、正方形断面のダウンチューブやマッシブなチェーンステー、幅広BBシェルなどライダーのパワーをロス無く推進力に変換するデザインを採用している。操作性については上側1-1/4インチ径・下側下1-1/2インチ径という独自の大径テーパーヘッドチューブ「オーバードライブ2」を採用し、ハンドル周りのねじれ剛性を向上。ハードなコーナリングやダウンヒル、ゴールスプリントでの高い安定性を実現した。

27.5x2.1のタイヤから27.5x2.2まで対応するであろうクリアランス27.5x2.1のタイヤから27.5x2.2まで対応するであろうクリアランス 減量と剛性バランスの調整が行われたBB89減量と剛性バランスの調整が行われたBB89 軽量、高効率、高コントロール性を実現した27.5インチタイヤ軽量、高効率、高コントロール性を実現した27.5インチタイヤ


今回のテストバイクは「XTC ADVANCED 27.5 」のセカンドグレードに位置づけられる「2」。プロユースのハイエンドモデルと共通のフレームにFOX F100 RL CTD EVOフロントフォークを組み合わせている。ドライブトレインはシマノ XTRとDEORE XTをミックス。ホイールには自社製リムにDTスイスのハブを組み合わせたXC用アルミリムホイール「ジャイアント P-CXR1」をアッセンブルしている。では、早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「MTBであることを忘れるほどの軽快さ」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

ジャイアントは価格以上のポテンシャルやクオリティーを持つバイクを製作できるメーカーということは周知の事実だと思います。そして、今回のバイクもセカンドグレードながらもハイエンドモデルに思わせる性能があり、とても乗りやすいバイクでした。

「MTBというのを引いても軽快さが引き立つバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「MTBというのを引いても軽快さが引き立つバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 27.5インチのバイクの中にはまだまだ性能を向上させる余地があるものも多いですが、XTC ADVANCEDは発売から日が浅いにも関わらず完成度が非常に高い。ロードバイク以上に機材の性能差が出てしまうMTBですから、レーシングモデルながら初心者の方にこそ乗ってもらいたいですね。

26インチは長い歴史があり、29erはここ7年位で急速にシェアを伸ばしてきたという流れですが、新登場の27.5インチは思っていたよりも煮詰められていますね。ジオメトリーやアッセンブリーによって違いが出てきてますが完成形に近いバイクと言ってもいいでしょう。障害物を乗り越える能力が高くや階段を下っても不安感じなかったですね。

今回の試乗バイクは私の適正サイズより小さかったのですが、違和感を感じることなく乗りこなせました。それだけバイク全体のバランスがとれているということの現れでしょう。

フレームの剛性は非常に高く、踏み出しの軽さが際立って感じましたが、一昔前のようにあたりが強くて、足が疲労感覚えやすいということはなかったですね。フレームの剛性バランスはロードバイクで得たノウハウを活用していると思います。そのためか、オンロードではロードバイクらしい走行をしてくれました。

フロントサスペンションはクロスカントリーからトレイル、ダウンヒルまで様々な走行シーンに対応可能なモデルがアッセンブルされています。なかなかMTBを楽しめる環境が少ない日本でも、街中にある自宅から郊外の里山まで自走でアプローチしながらもトレイルやダウンヒルまで楽しむといった使い方でできるでしょう。

臼式のシートクランプを採用することで振動吸収性の向上を図っているそうですが、今回のインプレッションでは確認できませんでした。しかしながら、リアリジットバイクとしての路面追従性は高く、前後共にコントロールしやすかったという点で、臼式のシートクランプを採用した意味を感じとることができました。

大径ホイールらしく高い登り性能をもちますが、29インチのような腰高感は希薄で、バイクを押さえつけるために上半身が力んでしまうことはありませんでした。コーナリングではイメージしたラインをトレースできたりと基本性能が非常に高いですね。

ブレーキングに関しては、性能的にシマノDEORE XTのブレーキを活かせるようなセッティングになっています。26インチと比較すると車輪径が大きいためストッピングパワーが更に必要となりますが、十分なパワーがありますね。ダウンヒルのようにハイスピードからの制動も安心です。飛んだり跳ねたりするような場面では100mmストロークのサスペンションや2.1インチ幅のタイヤでカバーしてくれるでしょう。

コンポーネントはシマノXTRとDEORE XTを組み合わせたアッセンブルとなっており、レース使用を考えている方でも初心者の方でもバッチリ対応してくれます。タイヤはソフトなモデルが搭載されていて乗り心地に貢献していましたね。

XTC ADVANCEDはマウンテンバイクをより身近に感じたい方でハイコストパフォーマンスの買い物をしたい方に向いているでしょう。バリバリな競技者の方にはもちろんオススメですが、ビギナーにこそ、軽さやブレーキの効きなどレーシングバイクならではの性能を味わってもらいたいです。

ジャイアント XTC ADVANCED 27.5 2ジャイアント XTC ADVANCED 27.5 2 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
ジャイアント XTC ADVANCED 27.5 2
サイズ:350、390、440、490
フレーム:Advanced-Grade Composite OLD135/142mm
フォーク:FOX F100 RL CTD EVO OverDrive 2 Column 100mm Travel 15mm Axle
コンポーネント:シマノ XTR / DEORE XT
クランクセット:シマノ DEORE XT
ホイール:ジャイアント P-XCR1
タイヤ:シュワルベ RACING RALPH PERF 27.5x2.1
価 格:380,000円(税抜、完成車)、180,000円(税抜、フレームセット)



インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。

ショップHP

ウェア協力:レリック

text:Gakuto.Fujiwara
photo:Makoto.AYANO
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