ツール・ド・フランス2012年大会からリクイガス(現キャノンデール)に供給され、ペーター・サガンの2年連続マイヨ・ヴェール獲得をアシストした「SUPERSIX EVO Hi-Mod」。今回のインプレッションでは、その弟分にあたる素材違いカーボンバイクのエントリーモデル「SUPERSIX EVO 5 105」をテストする。



キャノンデール SUPERSIX EVO 5 105キャノンデール SUPERSIX EVO 5 105 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
2011年に登場した「SUPERSIX EVO(特集記事へ)」はプロユースにも対応する強度・剛性を持ちながら、フレーム単体重量695gを実現したことで世間のサイクリストに驚きを持って迎えられた。その翌年には数千にも及ぶバイクの中から「優れたロードバイク」としてドイツのツアーマガジンに評価され、ユーロバイクゴールドアワードも受賞するなど、世界的に高い評価を得ている。

その優れた性能はプロレース界での活躍でも証明されている。イヴァン・バッソ(イタリア)によるジロ・デ・イタリア2011総合優勝を筆頭に、ツール・ド・フランスでは2012、2013と2年連続でペーター・サガン(スロバキア)がポイント賞を獲得するなど、コースを問わないマルチな性能で数々の勝利に貢献。その優位性は周知のものとなった。

上側1-1/8インチ、下側1-1/4インチのテーパーヘッドチューブ上側1-1/8インチ、下側1-1/4インチのテーパーヘッドチューブ 振動吸収性の向上を狙ったオフセットがあるフロントフォーク振動吸収性の向上を狙ったオフセットがあるフロントフォーク ケーブルは外装となりメンテナンス性に優れるケーブルは外装となりメンテナンス性に優れる


キャノンデールの「SUPERSIX EVO」は「トップでゴールラインを駆け抜ける」というコンセプトを持ち開発されたレーシングロードバイクだ。そのため、レーシングマシンに求められる軽量や剛性、ジオメトリーなどの効率性を徹底的に追求しているという。

「SUPERSIX EVO 5」はフラッグシップモデルの「SUPERSIX EVO Hi-Mod」と同様のキャノンデール独自の軽量かつ高剛性、高強度なフレームとなるバリステックカーボン構造を採用。「EVO Hi-Mod」はハイモジュラスカーボンを使用しているが、「EVO 5」は中張力カーボンを素材に使用している。重量増は避けられないが、レイアップ方法や素材の使用量を調整することで、カーボンエントリーグレードの中ではトップクラスの950gを実現している。

レースに必要な振動吸収性と路面追従性を向上させるためのSPEED SAVEマイクロサスペンションがフロントフォークやリアバックに配されている。軽量で耐ねじれ剛性に優れるため、パワー効率を損なうことなくペダリングパワーを推進力へ変換できるシステムだ。結果として巡航スピードを上げ、コーナリングスピードを上げることにも貢献する。

優れたエアロダイナミクス性の発揮を狙った直線型のチューブ優れたエアロダイナミクス性の発揮を狙った直線型のチューブ 前モデルより15%以上減少されたフォークブレード幅前モデルより15%以上減少されたフォークブレード幅

キャノンデールのプレスフィット式BB30キャノンデールのプレスフィット式BB30 前モデルより直径が約20%細くなったダウンチューブ前モデルより直径が約20%細くなったダウンチューブ


さらに、乗り心地を向上させ振動吸収性を向上させるために、シートチューブは上部が27.2mm径のシートポストが使用できるように円形状になっており、BB部に向けて緩やかに扁平形状に変化している。このデルタ・シートチューブは横方向へは高剛性を発揮し、垂直方向へはしなるよう設計されている。

SUPERSIX EVOはエアロダイナミクスという点でも進化を遂げている。他社ではフレームのオーバーサイズ化がますます進むなか、SUPERSIX EVOは現行のSUPERSIXに比べてダウンチューブの直径は約20%細くなり、フォークブレードは幅を15%以上減少。さらにヘッドチューブは上側1-1/8インチ、下側1-1/4インチのテーパーステアとなっている。

軽量でねじれ剛性を持つスピードSAVEマイクロサスペンション軽量でねじれ剛性を持つスピードSAVEマイクロサスペンション メインコンポーネントにはシマノ105がアッセンブルされているメインコンポーネントにはシマノ105がアッセンブルされている


流線型のチューブを使用せず、そして重量と剛性の妥協を一切許さずに、高いエアロダイナミクス性能を発揮するという「驚くべきサイズダウン」を実現。マシンの前方部において前面投影面積を減少させることに成功するという、非常に大きな意味をもつサイズダウンとなっている。

「SUPERSIX EVO 5」はメインコンポーネントにシマノ105をアッセンブルしたエントリーモデルだ。ホイールにはシマノRA11、クランクはFSA ゴサッマーと比較的価格を抑えたパーツアッセンブルとなっている。ケーブル類は外装となっているが、メンテナンス性を考慮すれば交換が容易で取り扱いやすいと言えるだろう。

エンド部に向けて細くなるシートステーエンド部に向けて細くなるシートステー リアバックにはスピードSAVEシステムが搭載されているリアバックにはスピードSAVEシステムが搭載されている シートチューブ下部は扁平形状となっているシートチューブ下部は扁平形状となっている


2011年に衝撃的な登場を果たしたキャノンデール SUPERSIX EVO。ペーター・サガン、イヴァン・バッソなどトッププロの走りを支えるテクノロジーを搭載したエントリーモデルの性能はどのようなものだろうか。早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「高級バイクに近い乗り味を感じられるカーボンエントリーバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

既に自分のショップでも試乗車として提供し、同じような仕様で乗って熟知していたので第一印象はすでに持っていたのですが、「Supersix EVO 5 105」は上位モデルの「Supersix EVO HI-MOD」とジオメトリが同様なのでフレーム自体の差はなく、とても乗りやすいバイクだと改めて思いました。パーツアッセンブルや乗り心地は差異がありますが、カーボンエントリーモデルの価格帯としては非常に仕上がりが良いです。

「高級バイクに近い乗り味を感じられるカーボンエントリーバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「高級バイクに近い乗り味を感じられるカーボンエントリーバイク」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 振動吸収性や路面の追従性という面で優れていて、荒いペダリングを行っても、下りのコーナリングでバイク任せにして乗っても安定して走ってくれるという印象があります。部分的にどこかがしなって振動吸収をすると言うよりは、振動吸収はフレーム全体で行っており、振動を収束させているように感じました。

また、ロードインフォメーションは的確に伝えながらも、不必要な振動はバイクが吸収しているように感じました。振動によってリアバックが暴れたりふらついたいすることがなく、SAVEシステムがサスペンション効果を出しています。前後のバランスが非常に優れているので、バイクの中央に重心を置いて自然に走るだけで、その機能を果たしてくれていますね。

非常に優れたレベルで仕上げられているこのバイクは、まとまっていて癖が無く、ニュートラルであることが味ですね。踏み出しは非常に軽快で、ハンドリングに関しては直線安定性やクイックさのどちらにも振られていなく、誰もが安心して乗れます。そのため、レースでの使用やポジショニングなどを変更してのロングライドにも対応できるでしょう。

キャノンデールの特徴的なBB規格であるBB30は、BB周りの剛性を高めているため、前にバイクが進んでくれると思いました。また、リアバックのSAVEシステムが機能していて、荒れた路面でダンシングをしても後輪が滑ってしまうことが無く、スピードが乗って高速になってもバイクが暴れたりしないので、怖いと思うことはありませんでしたね。

パーツアッセンブルを同じにした上位モデルとの乗り比べをしても、フレームは違いがはっきりとわからないほど性能が高いですね。一方で、重量が軽い「Hi-MOD」はレースバイクですが、こちらはよりソフトな乗り心地という違いはあります。ペダリングに関してもライダーに繊細さを求めるのではなく、ソフトな感触を与えますね。

キャノンデールには同価格帯にアルミレーシングバイクの「CAAD10」があり、比較するならば約6万円という価格差がチョイスの判断基準となるでしょう。「CAAD10」は間違いなくアルミモデルの中ではベストなチョイスですが、より予算があり、キャノンデールのカーボンバイクの演出を感じたい方はこの「Supersix EVO 5 105」でしょう。

カラーリングには人気があるキャノンデールグリーンがあしらわれているレプリカカラーと、マットブラックが流行するなかであえて光沢を出したブラックの2色があり、どちらもかっこいいですね。落ち着いたカラーが欲しくて、シナプスのようなコンフォートではなくレーシングバイクに乗りたいという方に向いているでしょう。

フレームをベースにホイールを載せ替えていくことで、楽しい付き合いが長くできるバイクでしょう。登りや下りを均等にこなせるほど高い次元のバランスを持つバイクは、悪いところがなく乗り手を選びません。カーボンエントリーモデルの価格帯で高級バイクに近い乗り味を体感したい方におススメの1台です。


「ロードレーサーらしいキビキビとした乗り味のカーボンバイク」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

カーボンエントリーモデルですが、ハイエンドモデルと同じモールド(金型)が使われている、至ってニュートラルなロードレーサーです。「Supersix EVO Hi-MOD」が持つ切れの良さが穏やかにチューンされている印象を受けました。「CAAD10」のようにトップチューブの中心部が細くなっており、足が当たらないようなレース実践仕様となっている点が興味深いですね。

ハンドリングに関しては、ロードレーサーらしいキビキビしている感じがあったので好感を持ちました。登りは軽快に前へ進んで行きましたが、クランクに剛性不足を感じました。クランクを変更することで、さらにフレーム性能を引き出せて、バイク全体の印象が変わるかもしれないです。

「ロードレーサーらしいキビキビとした乗り味のカーボンバイク」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)「ロードレーサーらしいキビキビとした乗り味のカーボンバイク」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
オフセットされているフロントフォークは荒れた路面で活きていて、激しい振動をカットしています。しかし、フロント周辺部の弱さは全く感じませんでしたね。リアバックはSAVEシステムが搭載されているので、信頼できる安定感があり、かつ、立ち漕ぎをした時の反応性も優れていました。

下りの走行性能に関しては特に突出したところは感じませんでした。コーナーの入りはスムーズで安定感がありましたね。シッティングからダンシングへの移行もスムーズに力が入って反応してくれる印象があります。しかし、「Supersix EVO Hi-MOD」の方が、フレームが板のように剛性があり、高い反応性を備えていると感じました。上位モデルとの違いはカーボンの質ですが、このバイクもロードレーサーの基本性能は備えています。

フレーム性能がいいので長い期間乗り続ける事ができるでしょう。レースバイクなのでホビーレースでの使用を考えた時は、反応性を向上させるクランクやホイールへ変更することで十分に戦えると思いますね。コースに合わせてディープリムやローハイトリムなどに変更すると、よりフレームが活きてくると感じました。

今回試乗したカーボンエントリーのレーシングバイクは、ペーター・サガンに憧れてこれからレースを始めようとする方や、ロードバイクをこれから始めようと思った方に向いていますね。コーナリングもニュートラルステアでスムーズにこなせ、登りでも踏めば気持よく進んでくれるので、レースを楽しめるでしょう。スプリントやパンチの効いたアタックも充分可能です。

カーボンエントリーモデルでスタンダードなコストパフォーマンスを備えるこのバイク。ニュートラルなフレームにパーツで味付けを楽しみたい方におススメの1台です。プロチームに憧れてレプリカカラーフレームに同じようなパーツアッセンブルへと変更したりするのは楽しいでしょうし、ハイグレードのパーツに交換してもフレームが劣ることはありません。

キャノンデール SUPERSIX EVO 5 105キャノンデール SUPERSIX EVO 5 105 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
キャノンデール SUPERSIX EVO 5 105
サイズ:44、48、50、52、54、56、58
フレーム:Supersix Evo バリステックカーボン、スピードセーブ、プレスフィット BB30
フォーク:Supersix Evo バリステックカーボン、スピードセーブ
コンポーネント:シマノ 5700系105
クランクセット:FSA ゴッサマ プロ
ホイール:シマノ RS11
ハンドル、ステム、シートポスト:キャノンデール C3
タイヤ:シュワルベ レガーノ 700x23c
カラー:チームレプリカ、ジェットブラック
価 格:259,000円



インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。

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鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。過去には大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の北浦和に店を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。ショップでは個人のポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考えている。「買ってもらった方に自転車を続けてもらう」ことをモットーに魅力あるバイクライフを提案する日々を送っている。

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ウェア協力:レリック

text:Gakuto.Fujiwara
photo:Makoto.AYANO

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