北京郊外で中国初のUCIシクロクロスレースが開始された。日本から小坂光と宮内佐季子が参戦したレースの模様をレポートする。

会場となった延慶県は自転車での観光に力を入れる

UCIレーススタート前に行われた開会式UCIレーススタート前に行われた開会式 延慶県は、北京市の北西部(※)に位置し、北京の中央市街地から道のり約90km、高速道路を使って1時間半ほどで到着する。高速道路から見える山々の稜線には、万里の長城が広がる。(※中国の行政区分では、市の中に県が存在する。ちなみに北京市の面積は、日本の四国を一回りほど小さくしたくらい)

バイクセッティングをおこなう小坂光。菅田監督がサポートするバイクセッティングをおこなう小坂光。菅田監督がサポートする UCI女子レーススタートUCI女子レーススタート 延慶県は万里の長城や豊かな自然景観と共に、自転車を使った観光にも力を入れている。県政府のホームページにも自転車旅行の特集ページがあり、推奨ツーリングコースが紹介されている他、レンタルバイクも用意されている。自転車競技の面では、県内でロードレースやMTBのレースが定期的に開催されており、ロードレースでは今年も10月に開催されるUCIワールドツアー「ツアー・オブ・北京」の拠点の一つになっている。

まさに「自転車の県」と呼んでもよさそうなこの場所で、「千森杯 UCIシクロクロスイベント延慶ステーション」が、中秋節連休の最中、9月21日(土)に開催された。会場は、延慶県の中心市街地から2~3kmに位置するグイ河森林公園内にコースが用意された。


中国初のUCIシクロクロスレースが開催

スタート直前の宮内。ナショナルチャンピオンジャージでの出走スタート直前の宮内。ナショナルチャンピオンジャージでの出走 中国で初めてとなるUCIシクロクロスレース(クラスC2)が実施され、女子(40分、出走21名)、男子(60分、出走61名)の順で計2レース開催された。世界各地から選手を招待。昨シーズンUCIランキング男子39位のタイス・アル (オランダ、フィデア) をはじめ、18カ国から80名以上の選手が集まった。日本のレースでもおなじみ、モリー・キャメロン/Molly Cameron(アメリカ)も出走している。

階段セクションをクリアする宮内佐季子階段セクションをクリアする宮内佐季子 日本からもナショナルチームとして現日本チャンピオンである宮内佐季子(Club Viento)と、小坂光(宇都宮ブリッツェン)が出走。菅田純也(東北CXプロジェクト オルガナイザー)が監督として選手達を支えた。

地元中国からも数名の選手が出走していたが、イベントの冠スポンサーである千森集団自転車チーム所属のNa Tian(田娜/ナ・ティエン)は、地元メディアの注目が高かった。レース翌朝の中国中央テレビ(CCTV)スポーツチャンネル(5ch)のニュース番組内でも、彼女へのインタビューが全国放映された。

男子スタート直前。小坂光が最前列に並ぶ男子スタート直前。小坂光が最前列に並ぶ コースは1周3.5km、渓流沿いを通るコースで平坦基調ではあるものの、シクロクロスらしい細かなアップダウンがアクセントとして配置されたコース。会場となった森林公園には、常設されているタイル舗装のサイクリングロードがあり、コースの一部としてうまく組み入れられていた。また、この大会のために盛り土などをして新規に造営したと思われるセクションもあった。さらに、複数の階段セクションや立体交差も用意された。

男子レース。階段セクションをクリアするタイス・アル (オランダ、フィデア)男子レース。階段セクションをクリアするタイス・アル (オランダ、フィデア) 日本選手団も、「走っていて楽しく、コーナー設計もよく考えられており、日本でもこれほど良いコースはあまり見られない」と高く評価していた。また、出来たばかりのコースのためか、路面の凹凸が激しい部分が多く、身体に負担のかかるレースになったようだ。

大会の2日前まで雨が降っていたが、レース当日は最高気温26度で、日差しの強い晴天。路面は一部のぬかるみを除いて乾燥しており、選手には暑さがきついレースだったと思われる。

優勝したタイス・アル (オランダ、フィデア)優勝したタイス・アル (オランダ、フィデア) 関係者以外の観客については残念ながら多いとは言えず、用意された観客スタンドには空席が目立った。それでも、地元の人と思われる方々が応援に駆けつけ、コースのあちこちで「加油!(ジィァヨゥ:「がんばれ!」)」と声援を送っていた。スタート・ゴール地点に近い階段セクションには多くの人が集まったが、ここでは声援というよりも、選手達のスムーズな動きに驚きや感嘆の声が上がっていたのが印象的だった。

女子レースは序盤に先頭に立っていたマーグリットヘレナ・クロッペンブルグ(デンマーク)が階段セクションのアプローチで落車、それ以降はアサマリナ・アーランドソン(スウェーデン)が先行しリードを広げた。しかし、落車から復帰したクロッペンブルグが終盤に追いつき、ゴールスプリントの末、クロッペンブルグが優勝した。宮内は9位でゴールしている。

男子レースはタイス・アル (オランダ、フィデア) が序盤からがリードを広げ、終始レースをリード。そのまま2位に1分以上の差をつけ優勝した。2位にはアルノー・ジョフロワ(フランス)が入り、FIDEA勢がワン・ツー・フィニッシュを飾った。小坂は序盤10位前後と好位置につけたものの、中盤にペースを崩し41位でゴールしている。

レース後、日本の両選手に話を聞いた。
宮内は「コースが楽しかった。他の選手とレースをすることは出来たのはよかったが、自分の力を出し切れなかったのが残念だった」とのこと。今年のシクロクロスシーズンの抱負については、「全日本選手権を獲ります。豊岡選手だけでなく、若い選手達が速くなってきていると思うので、負けないようにしたい」と語った。

小坂は「運営がしっかりしており、招待選手へのもてなしが嬉しかった。中国渡航前から体調を崩していたこともあるが、なによりまだ60分を走りきるシクロクロスの身体が出来ていなかった。全日本チャンピオンを目指して準備をしていく。レースは少し期間があいて11月からになるが、一戦一戦、気を抜かない集中したレースをしていきたい」とのことだった。

午前にはアマチュアレースも開催

午後のUCIレースに先立ち、午前には地元の愛好家によるアマチュアレースが開催された。男女混走約40名で30分のレースを楽しんでいた。このレースではUCIレースの招待選手が先導をおこなった。出場した選手は、地元のチームに参加している人が多かったようだ。応援にまわったチームメート達の「加油!加油!」の声援がリズミカルにコースに響いていた。

中国における初シクロクロス 歴史の起点となるか

クレーンカメラが数台用意されたほか、多数のビデオカメラでレース状況を実況クレーンカメラが数台用意されたほか、多数のビデオカメラでレース状況を実況 はじめて中国で開催されたUCIシクロクロスレース。招待選手の規模や会場の設備などを見ると、かなりの予算・体制で開催されたことが分かる。

Na Tian(田娜)(中国)Na Tian(田娜)(中国) たとえば、複数のクレーンカメラを含む多数のビデオカメラにより、スタート・ゴール地点に設置された2台の巨大なスクリーンでレースを確認することが出来た。その映像は、ワールドカップ中継で見るものと同じように見えた。さらに中継車が用意され、中国国内向けにネット中継もおこなわれていた。

男子レース。立体交差を通過する選手達男子レース。立体交差を通過する選手達 設備だけでなく、コース設計・運営も参加選手・スタッフに好評だったようだ。全レースが予定通りの時刻で進行し、レースの実施に大きな問題は無いように見えた。これには主要スタッフにUCIをはじめとする欧州の人材を活用したことと、国際レースを含む自転車レースを多数開催している延慶県が会場になったことも影響していると考える。千森集団の、BMXトラック等の国内自転車コース施工経験が生かされたことも想像に難くない。

今後についてだが、大会関係者に話を聞いたところ、来年以降の開催はもちろんのこと、UCIレースクラスC1への昇格、さらにワールドカップも見据えているとのことだった。一方で、国内競技人口の少なさや観客の数、知名度など、中国でのシクロクロスの裾野の広がりについては、まだこれからであると感じた。今回のようなイベントを通じて、中国国内の競技者・ファンが増えることに期待したい。

最後に、 菅田純也監督に話を聞いた。
菅田さん;「初めてシクロクロスを開催したとは思えないほどの運営だったと思います。主催者や通訳やアテンドをしている現地のボランティアスタッフもとてもフレンドリーで、木曜日の午前の万里の長城観光から始まり、滞在期間のスケジューリングがしっかりしており、ホスピタリティーが素晴らしかったと思います。」

「今回はあまり自国の選手が参加していませんでした(3名)が、選手の育成までおこなっていくようになれば日本よりも先に行ってしまう可能性があり非常に脅威ですが、情報交換や交流を進めていき、将来的にアジア選手権なども開催出来れば良いなと思います。」


2013千森杯UCIシクロクロスイベント延慶ステーション結果
UCIレース男子
1位 タイス・アル (オランダ)1:00:09
2位 アルノー・ジョフロワ(フランス) +1:06
3位 ジャスティン・リンダイン(USA) +1:32
41位 小坂光 +7:59

UCIレース女子
1位 マーグリットヘレナ クロッペンブルグ (デンマーク) 35:47
2位 アサマリナ・アーランドソン(スウェーデン) +0:00
3位 アデラ・カーター (ドイツ) +0:10
9位 宮内佐季子 +1:24


text&photo: Takahisa Fujita