今年で5回目の開催となった「全日本ステージレースinいわて」が、9月6日から8日にかけて開催された。連日の熱戦の模様をダイジェストでご紹介する。

2009年に第1回大会が開催された「全日本ステージレースinいわて」は、1952年から開催されてきた「三笠宮杯東北一周自転車競争」、1993年から開催された「三笠宮杯ツール・ド・とうほく」を継承する大会である。岩手県八幡平市を舞台に、3日間4ステージのレースが行われた。

出場できるのは、男子は高校生とジュニア、女子は全カテゴリーの選手。これらの選手が出場できるステージレースとしては、日本で唯一の存在である。男子は1チーム6名(最小4名)、女子は3名(最小2名)で構成される。今年は男子18チーム107名、女子4チーム12名がエントリーした。



第1ステージ・タイムトライアル 2.4km
世界選手権代表の横山航太が一番時計、女子は三宅玲奈がトップに立つ

第1ステージは登りと下りがおよそ半分のコースでタイムトライアル。登坂力よりもダウンヒルでのテクニックの差が出る事が予想された。

第1ステージ 男子トップタイムは横山航太(北信越高体連選抜)第1ステージ 男子トップタイムは横山航太(北信越高体連選抜) photo:Satoru.Kato第1ステージ 男子2位の齊藤瞭太(群馬県高体連選抜)第1ステージ 男子2位の齊藤瞭太(群馬県高体連選抜) photo:Satoru.Kato第1ステージ 男子3位の松本裕典(京都府北桑田高校)第1ステージ 男子3位の松本裕典(京都府北桑田高校) photo:Satoru.Kato


男子
92番目にスタートした齊藤瞭太(群馬県高体連選抜)が3分33秒を出し、それまでトップの松本祐典(京都府北桑田高校)を上回る。その後102番目にスタートした横山航太(北信越高体連選抜)が3分30秒を叩き出して更新。

昨年まで2人の兄が第1ステージで優勝している徳田匠(京都府北桑田高校)が最後の107番目にスタートするもタイム更新には至らず、横山の第1ステージ優勝が確定。リーダージャージ「APPIジャージ」に袖を通し

第1ステージ 優勝の三宅玲奈(全国高体連強化育成)第1ステージ 優勝の三宅玲奈(全国高体連強化育成) photo:Satoru.Kato第1ステージ 優勝の横山航太(北信越高体連選抜)第1ステージ 優勝の横山航太(北信越高体連選抜) photo:Satoru.Kato


女子
三宅玲奈(全国高体連強化育成)が4分18秒でステージ優勝。2位の三浦涼香(全国高体連強化育成)のタイムを10秒近く上回って優勝した。



第2ステージ・クリテリウム 男子36km、女子24km
塩田航平がステージ優勝。総合首位は橋詰丈に。女子は大谷杏奈がステージ優勝して総合首位

午前の第1ステージに続き、午後からは同じコースを使用してのクリテリウム。男子は15周、女子は10周する。距離の割に高低差のあり、クリテリウムと言うにはハードなコース。男子に至っては、獲得標高差が約1000mにもなる。

男子
レースはスタート直後からアタックがかかり、ハイペースで進行する集団は常に一列棒状。緩む事無いペースにメイン集団の人数は絞られ、レース中盤には32名にまで減る。

第2ステージ男子 レース序盤、リーダージャージを先頭に縦に伸びた集団第2ステージ男子 レース序盤、リーダージャージを先頭に縦に伸びた集団 photo:Satoru.Kato第2ステージ男子 逃げ切った3名のゴールスプリント。塩田航平(埼玉県高体連選抜)のスピードが伸びる第2ステージ男子 逃げ切った3名のゴールスプリント。塩田航平(埼玉県高体連選抜)のスピードが伸びる photo:Satoru.Kato

1年ぶりのリーダージャージを確認するように袖を通す橋詰丈(東京都高体連選抜)1年ぶりのリーダージャージを確認するように袖を通す橋詰丈(東京都高体連選抜) photo:Satoru.Kato第2ステージ女子 5名のスプリント勝負を大谷杏奈(全国高体連選抜)が制する第2ステージ女子 5名のスプリント勝負を大谷杏奈(全国高体連選抜)が制する photo:Satoru.Kato


残り3周、石上優大(神奈川県高体連選抜)がアタック。これに橋詰丈(東京都高体連選抜)、塩田航平(埼玉県高体連選抜)が飛び付く。逃げ切りで一致していたという3人の逃げは最後まで潰されることなく続き、ゴールスプリントを塩田が制してステージ優勝した。APPIジャージを着た横山は終盤に遅れ、このステージ2位の橋詰に首位の座を明け渡した。

女子
終盤に全国高体連選抜チームが攻撃に出て、APPIジャージの三宅を切り離す事に成功。最後は大谷杏奈(全国高体連選抜)が4名のスプリントを制してステージ優勝。同時に、総合首位に立った。



第3ステージ ロードレース 男子111km、女子63.6km
横山航太がステージ2勝目、女子は三宅玲奈が2周を逃げ切って総合首位奪回

第3ステージは、来年の全日本選手権の開催が決まった八幡平パノラマラインコースを使用してのロードーレス。男子は7周、女子は4周する。男女共に最長距離のステージで、勝負の行方を左右する「クイーンステージ」となる。この日はスタート時点での気温は16℃。涼しいを通り越して寒い中でのレースとなった。

第3ステージ男子 この日は曇りながら岩手山が姿を見せた第3ステージ男子 この日は曇りながら岩手山が姿を見せた photo:Satoru.Kato
男子
序盤からアタックが繰り返されるが、総合順位のタイム差が無い事から、なかなか逃げが容認されない。前日同様、速いペースで進んだ集団はレース中盤には30人ほどに絞り込まれた。

最終周回に入る直前、齊藤瞭太(群馬県高体連選抜)と横山の2名が飛び出す。総合順位でのタイム差がある2名の飛び出しに集団では牽制が入って一時減速。最後の登り区間でも追いつく勢いは無く、勝負は先行した齊藤と横山に絞られた。

第3ステージ男子 2名の飛び出しに牽制するメイン集団第3ステージ男子 2名の飛び出しに牽制するメイン集団 photo:Satoru.Kato第3ステージ男子 最終周回直前に飛び出した横山航太(北信越高体連選抜・前)と齊藤瞭太(群馬県高体連選抜)第3ステージ男子 最終周回直前に飛び出した横山航太(北信越高体連選抜・前)と齊藤瞭太(群馬県高体連選抜) photo:Satoru.Kato

第3ステージ男子 ステージ2勝目をアピールしてゴールする横山航太(北信越高体連選抜)第3ステージ男子 ステージ2勝目をアピールしてゴールする横山航太(北信越高体連選抜) photo:Satoru.Kato第3ステージ女子 2周を逃げ切って優勝した三宅玲奈(全国高体連強化育成)第3ステージ女子 2周を逃げ切って優勝した三宅玲奈(全国高体連強化育成) photo:Satoru.Kato


最後は「このコースは何度も勝っているので得意」と言う横山が齊藤を下してステージ2勝目を挙げた。APPIジャージの橋詰は30秒遅れたメイン集団内でゴールし、総合首位の座を守った。

女子
残り2周で飛び出した三宅が4分以上の差をつけて逃げ切り、ステージ2勝目。同時にAPPIジャージを大谷から取り返した。



第4ステージ・ロードレース 男子95.2km 女子47.8km
塩田が逆転で個人総合優勝!団体総合は群馬県高体連選抜が大逆転。女子は三宅玲奈が個人総合優勝

第4ステージ男子 レース中盤、メイン集団から合流があり17名になった逃げ集団第4ステージ男子 レース中盤、メイン集団から合流があり17名になった逃げ集団 photo:Satoru.Kato第3ステージと同じコースで行われる最終日。男子は6周、女子は3周する。昨日までなんとかもっていた天気だが、この日は朝から雨。スタートに合わせてやんでくれたものの、レース中は路面が乾く事は無かった。

第4ステージ男子 京都府北桑田高校が先頭に立って集団を牽引するが、逃げ集団との差は縮まらない第4ステージ男子 京都府北桑田高校が先頭に立って集団を牽引するが、逃げ集団との差は縮まらない photo:Satoru.Kato男子
最終日のスタートラインに並ぶことができたのは、およそ半数の57名。第3ステージを終えた時点で、総合首位の橋詰と2位塩田との差は8秒、3位石上との差は11秒しかない。4位以下も大差なく続いており、最終日も気の抜けないレースになる。

第4ステージ男子 「気がついたら後方集団に取り残されて何も出来ない状態だった」と橋詰丈(東京都高体連選抜)第4ステージ男子 「気がついたら後方集団に取り残されて何も出来ない状態だった」と橋詰丈(東京都高体連選抜) photo:Satoru.Katoレースは1周目から動いた。横山の動きをきっかけに7名が抜け出し、2周目には8名が追いつく。さらにメイン集団からジャンプしてきた選手が合流し、17名の逃げグループが形成された。この中には総合上位の塩田、石上、小山貴大(群馬県高体連選抜)が含まれていた。

APPIジャージの橋詰はメイン集団。東京都高体連選抜と京都府北桑田高校が中心となって集団を牽引するが、強力なメンバーが揃う逃げ集団との差は一向に縮まらない。

残り2周、逃げ集団では小山が中心となってペースアップすると集団が分裂。小山、齊藤、塩田、石上、横山、仲村顕登(奈良県奈良北高校)、成海大地(九州高体連強化育成)の7名が先行する。橋詰を含む集団との差は3分まで開き、総合優勝争いは、逃げ集団にいる塩田、石上、小山の争いに移った。

強調体勢を敷いてきた7名は、最後の登り区間に入りアタック合戦が始まる。石上や横山がしかけるが決定打とならず残り1kmを通過。仲村が先手を打って最後のスプリント勝負が始まると、「スプリントでは絶対に負けられない」と言う塩田の加速が伸び、石上、小山に先着。ステージ2勝目と同時に総合優勝も決めた。

橋詰は4分以上遅れてゴール。昨年に続き最終日で首位陥落する事になり、「まだ自分の力が足りない。来年またチャレンジします。」と語った。

団体総合順位にも逆転が起きた。小山、齊藤がこの日上位に入った事で、前日終了時点で4位だった群馬県高体連選抜が一気に躍進して優勝した。

第4ステージ男子 「スプリントでは負けられない」塩田航平(埼玉県高体連選抜)が値千金の勝利第4ステージ男子 「スプリントでは負けられない」塩田航平(埼玉県高体連選抜)が値千金の勝利 photo:Satoru.Kato第4ステージ女子 2位でゴールする三宅玲奈(全国高体連強化育成)第4ステージ女子 2位でゴールする三宅玲奈(全国高体連強化育成) photo:Satoru.Kato


女子
1周目から5名に絞られ、決定的な逃げが決まらないまま最終周回に突入。最後は大谷がスプリント勝負を制してステージ2勝目。APPIジャージの三宅が5秒差の2位に入り、前日につけた大差に頼る事なく総合優勝を確定させた。



次世代選手と女子選手の強化育成の場として

男子 個人総合 左から、2位 石上優大(神奈川県高体連選抜)、優勝 塩田航平(埼玉県高体連選抜)、3位 小山貴大(群馬県高体連選抜)男子 個人総合 左から、2位 石上優大(神奈川県高体連選抜)、優勝 塩田航平(埼玉県高体連選抜)、3位 小山貴大(群馬県高体連選抜) photo:Satoru.Kato男子については、今年も最後まで緊張感のある良いレースだった。こういうレースはエリートでさえなかなか見られるものではない。選手に話を聞くと、的確な状況分析をしたコメントが返ってくるから、高校生やジュニアと侮る事は出来ない。

過去にこのレースを経験しているエリートやU23、学連などで活躍する選手も多い。折しも、大会最終日に2020年のオリンピック開催地が東京に決まった。今年の大会に出場した選手は中核を担う世代になるだろう。次世代の選手を育成する場として、この「ステージ・レースinいわて」が果たす役割は大きいと思う。

一方、今年は女子の出場者数が昨年の半分になってしまった事が残念だった。日程の都合など、社会人選手にはハードルが高い部分もあるかもしれないが、国内でステージレースを経験出来る良い機会だ。混成チームで2名からエントリー出来るので、来年以降より多くのチーム・選手が参加される事を願いたい。

男子 団体総合 左から、3位 埼玉県高体連選抜、優勝 群馬県高体連選抜、2位 福島県高体連選抜男子 団体総合 左から、3位 埼玉県高体連選抜、優勝 群馬県高体連選抜、2位 福島県高体連選抜 photo:Satoru.Kato女子団体総合 左から、3位 岩手県選抜、優勝 全国高体連強化育成、2位 全国高体連選抜女子団体総合 左から、3位 岩手県選抜、優勝 全国高体連強化育成、2位 全国高体連選抜 photo:Satoru.Kato


そして、この貴重なレースを多くの方に知って頂きたく、今年は試験的に公式サイトとツイッターを運用し、多くの方々に見て頂いた。もし可能であれば、来年は現地に来て見て頂きたい。がらぱさんの場内実況もあるので、全日本並みに楽しめる事請け合いである。


男子 個人総合時間順位
1位 塩田航平(埼玉県高体連選抜・栄北高校)6時間35分19秒
2位 石上優大(神奈川県高体連選抜・横浜高校)+15秒
3位 小山貴大(群馬県高体連選抜・前橋育英高校)+39秒
4位 成海大地(九州高体連選抜・沖縄県立普天間高校)+53秒
5位 横山航太(北信越高体連選抜・長野県立篠ノ井高校)+1分
6位 斉藤瞭太(群馬県高体連選抜・群馬県立前橋工業高校)+1分46秒

男子 団体総合順位
1位 群馬県高体連選抜 19時間56分14秒
2位 福島県高体連選抜 +52秒
3位 埼玉県高体連選抜 +1分4秒

女子 総合時間順位
1位 三宅玲奈(全国高体連強化育成)4時間32分42秒
2位 大谷杏奈(全国高体連選抜)+4分31秒
3位 三浦涼香(全国高体連強化育成)+4分52秒
4位 伊藤小紅(全国高体連選抜)+5分38秒
5位 谷 伊央里(全国高体連選抜)+7分21秒
6位 八木 梓(全国高体連強化育成)+11分23秒

女子 団体総合順位
1位 全国高体連強化育成 9時間10分53秒
2位 全国高体連選抜 +5分1秒
3位 岩手県選抜 +32分45秒
4位 札幌選抜 +33分49秒


text&photo:Satoru.Kato


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