2009/07/09(木) - 18:24
スタート地点のル・キャップ・ダグドは海とキャンプでバカンスを楽しむ観光客でごったがえしている。眩しいほどの快晴。しかし不快指数は高くない。今日も当然勝ちにいくカヴェンディッシュは全身マイヨヴェールで登場。ウェアだけでなくシューズ、アイウェアまでグリーン。ちょっとカメレオンのようだ。
チームで最悪の一日をすごしたスキル・シマノ。「ローイヤッケルのうめき声が耳に残って離れないんです。残念な思いをした彼のためにも頑張って走ります。気分を切り替えることが重要!」と別府フミ。
平坦系ステージでスプリントを狙うファンヒュンメルも意気込み充分。「ツールのレベルの高さに驚いている。調子はいいが、ここにいる誰もが全員調子がいい。勝てるかどうかは分からないけど、楽しみにしていて欲しい」。
今日も海岸沿いに絡む風のステージになる。警戒は怠れない。
悪夢を晴らすスキル・シマノの動き
リゾート地の海岸を離れてからのスタート。レース開始すぐ、12km地点のフミのアタックをラジオが伝える。フミは下がり、今度はチームメイトのティマーが先頭集団に入った。逃げ成功。スキル・シマノは昨日の悪運を晴らす走りだ。
イグナチエフ(カチューシャ)、フタロヴィッチ&ジェラン(フランセーズデジュー)サパ(ポーランド、ランプレ)、ヴォクレール(Bboxブイグテレコム)、ティマー(スキル・シマノ)で形成された逃げ集団は順調に差を広げる。沿道のフランス人ファンの関心は、トマ(ヴォクレール)に注がれる。
リズムつきの「アレ〜・ト〜マ〜ッ!」の合唱で応援する沿道のファンたち。2004年にマイヨジョーヌを10日間着てからというもの、ヴォクレールは不振のつづくフランス人選手の中でも段トツの人気だ。逃げ、勝利を求めて攻撃する姿はツールでも毎年のように観られる。
同じフランス人で逃げグループに入っているジェランへの声援もあるが、スター度では人気度がまったく違う。ジェランは昨年までヴォクレールのチームメイト。ちょっとジェラシー? ジェランも世界選手権ロード表彰台経験者だというのに。
40km地点で9分40秒の差だったが、集団は追ったり、緩めたり。マイヨジョーヌを着るサクソバンクが集団コントロールのために前を引かなくてはならないはずだが、前に出てこない。かわりにカヴェンディッシュを従えたチームコロンビアが引いている。まだ序盤のうちから4分差にまで詰めておきながら、後半にかけてもこの差は決定的には詰まらなかった。つまりは泳がせすぎた。
集団は他のことに関心があったようだ。それは第2ステージのように今日のコースも海岸線に出ること。つまりは横風との闘いがあることだ。
逃げ集団に入ったティマー(スキル・シマノ)のために、スキル・シマノのチームカーもこの逃げ集団につく。これにJ SPORTSのTVクルーが乗り込んでいたようだ。序盤はボトルを取りにくるフミなど、最高の映像が取れたようだ。
サクソバンクの集団分断作戦
ペルピニャンのゴールまでの後半戦は、内陸から海岸線に向かい、右折。海岸線を南下してから折り返すように再び北上する。海沿いだから風が吹く。その風の方向を読みながらレースをすることになる。
サクソバンクが前に出てきたのは海岸線に入る直前のことだ。追い風に乗ってペースを上げる。進行方向が変わることで向かい風になったとき、集団を分解するように動く。スピードと風向きに耐え切れなくなった選手をきっかけに中切れが起こり、後方に取り残される選手が出てくる。
逃げているグループのことなどどうでもよく、マイヨジョーヌを維持することさえ気にかけない。狙うのは集団の分断とライバルの疲弊。マイヨジョーヌ自ら先頭を引きまくるサクソバンクとカンチェラーラはこの日、総合を狙うシュレク兄弟のために走っているようにみえた。後半のプロトンは、平坦だというのにクリテリウムのようなスピードで走り抜ける。
アームストロングも集団先頭に出てくる。風圧を受けても強い選手は落車のリスクが無い走りをしている。いっぽうで落車で遅れたヘーシンク。このときすでに腕を骨折してハンドルが握れず、片手でのライディングだった。ラボバンクの希望の星は、あえなくツールを終えることになった。
トマからベルノドーの誕生日プレゼント
ラスト4.7kmで飛び出したヴォクレール。パンチ力のある走りで逃げのスペシャリストであるイグナチエフらを突き放した。ほぼステージ全編を逃げ切り、2004年にマイヨジョーヌを獲得したのと同じ日に、ツールでの待望のステージ優勝を飾った。あの日も今日も、恩師ジャンルネ・ベルノドー監督の誕生日。最高のプレゼントになった。
「この勝利をずっとずっと待ち望んでいたんだ。毎年、ツールではチャレンジを繰り返してきた。僕は総合が狙えないから、ステージを狙うしかないんだ。あきらめずに頑張れば、その努力はいつか報われるということの証明だよ。」
「この勝利はベルノドーに、でもホントは妻と子供にかな。妻はツールに来たんだけど、今朝分かれた。今飛行機に乗っている頃だから、まだ知らないはずだよ」とヴォクレール。しかめっ面で逃げてきて、ゴール後の笑顔がより映える。
ブイグテレコムが2010年でチームスポンサーを降りることは新城幸也が5位になった第2ステージで明らかにされていた。2004年にマイヨジョーヌを獲得したときも、このチームはスポンサーであったブリオッシュ・ラ・ブーランジェールがその年限りで撤退する運命を負っていた。デジャブのような一日が、2010年以降のチーム活動に新たなスポンサーを呼ぶだろうか。
ブイグテレコムには長らくグランツールで総合上位を狙えるような決定的リーダーになれる選手がいない。それが弱みだ。しかしヴァンデ県をベースにした堅実なチーム運営と、ヴォクレールやフェドリゴらフランスの人気者を揃える。チームには今まで、スーパーUやカストラマといった国内のDIYチェーンやスーパーマーケットなどがスポンサーについてきた。ヴォクレールの勝利、そして純フランスチームに日本のサムライが入ったことで、新たなスポンサードの動きが芽生えることを期待しよう。
ピレネー前のライバル減らし
横風区間で集団の前に出て一気にペースを上げ、後続を断ち切る。落車を避け、自分たちの安全を図るため、というの理由のひとつ。これらの動きについて、ゴール地点で選手の到着を待つ間にリクイガスの中野喜文マッサーに興味深い話を聞いたので紹介しておこう。
リクイガスチームは昨夜ミーティングをもち、マリオ・シーレア監督がこの日のステージの海岸線区間についての話をした。第2ステージと同じように横風の影響を受けるはずのこの海沿いで、スピードを上げてクライマーたちを苦しめる動きがある、と。
アンドラ・アルカリスの山岳ステージに入る前のこの2ステージは比較的難易度が低いが、消化ステージというわけでは決してなく、サストレなど軽量級のクライマーを疲弊させる、生殺しステージになるのだという。それが続く山岳での走りを決める。
クライマーを潰すこと、総合争いのライバル減らしが目的だというのだ。シーレアはイタリア人ながら20年のツールの経験があるので、こういった作戦に精通していると中野さんは言うのだ。
2008年ツールでも、サクソバンク(当時チームCSC)はツールの序盤戦・第7ステージで、同じような動きをした。突如チームでアタックをかけて逃げ集団を作り出し、乗り遅れる総合上位狙いの選手を慌てさせた。ピレネーに入る2日前だ。直前の落車の影響があったクリストフ・モローを引き離し、リタイアに追い込んだ。
総合上位を狙う選手が、難易度が低いステージだから「何も動きが無いだろう」と油断しているスキを突くこの攻撃が、勝負を決めてしまうこともあるのだ。
明日第6ステージ、ジローナからバルセロナまでのステージは難易度が少し上がり、海岸線に近い山の中をいくコースは、道幅がより細く、複雑に曲がりくねっている。山岳ポイントも複数あり、ツールよりもジロによく登場するような中級山岳ステージだ。
「明日のステージはやばいことが起こりそうですよ」と中野さんは話してくれた。
text&photo:Makoto.AYANO
チームで最悪の一日をすごしたスキル・シマノ。「ローイヤッケルのうめき声が耳に残って離れないんです。残念な思いをした彼のためにも頑張って走ります。気分を切り替えることが重要!」と別府フミ。
平坦系ステージでスプリントを狙うファンヒュンメルも意気込み充分。「ツールのレベルの高さに驚いている。調子はいいが、ここにいる誰もが全員調子がいい。勝てるかどうかは分からないけど、楽しみにしていて欲しい」。
今日も海岸沿いに絡む風のステージになる。警戒は怠れない。
悪夢を晴らすスキル・シマノの動き
リゾート地の海岸を離れてからのスタート。レース開始すぐ、12km地点のフミのアタックをラジオが伝える。フミは下がり、今度はチームメイトのティマーが先頭集団に入った。逃げ成功。スキル・シマノは昨日の悪運を晴らす走りだ。
イグナチエフ(カチューシャ)、フタロヴィッチ&ジェラン(フランセーズデジュー)サパ(ポーランド、ランプレ)、ヴォクレール(Bboxブイグテレコム)、ティマー(スキル・シマノ)で形成された逃げ集団は順調に差を広げる。沿道のフランス人ファンの関心は、トマ(ヴォクレール)に注がれる。
リズムつきの「アレ〜・ト〜マ〜ッ!」の合唱で応援する沿道のファンたち。2004年にマイヨジョーヌを10日間着てからというもの、ヴォクレールは不振のつづくフランス人選手の中でも段トツの人気だ。逃げ、勝利を求めて攻撃する姿はツールでも毎年のように観られる。
同じフランス人で逃げグループに入っているジェランへの声援もあるが、スター度では人気度がまったく違う。ジェランは昨年までヴォクレールのチームメイト。ちょっとジェラシー? ジェランも世界選手権ロード表彰台経験者だというのに。
40km地点で9分40秒の差だったが、集団は追ったり、緩めたり。マイヨジョーヌを着るサクソバンクが集団コントロールのために前を引かなくてはならないはずだが、前に出てこない。かわりにカヴェンディッシュを従えたチームコロンビアが引いている。まだ序盤のうちから4分差にまで詰めておきながら、後半にかけてもこの差は決定的には詰まらなかった。つまりは泳がせすぎた。
集団は他のことに関心があったようだ。それは第2ステージのように今日のコースも海岸線に出ること。つまりは横風との闘いがあることだ。
逃げ集団に入ったティマー(スキル・シマノ)のために、スキル・シマノのチームカーもこの逃げ集団につく。これにJ SPORTSのTVクルーが乗り込んでいたようだ。序盤はボトルを取りにくるフミなど、最高の映像が取れたようだ。
サクソバンクの集団分断作戦
ペルピニャンのゴールまでの後半戦は、内陸から海岸線に向かい、右折。海岸線を南下してから折り返すように再び北上する。海沿いだから風が吹く。その風の方向を読みながらレースをすることになる。
サクソバンクが前に出てきたのは海岸線に入る直前のことだ。追い風に乗ってペースを上げる。進行方向が変わることで向かい風になったとき、集団を分解するように動く。スピードと風向きに耐え切れなくなった選手をきっかけに中切れが起こり、後方に取り残される選手が出てくる。
逃げているグループのことなどどうでもよく、マイヨジョーヌを維持することさえ気にかけない。狙うのは集団の分断とライバルの疲弊。マイヨジョーヌ自ら先頭を引きまくるサクソバンクとカンチェラーラはこの日、総合を狙うシュレク兄弟のために走っているようにみえた。後半のプロトンは、平坦だというのにクリテリウムのようなスピードで走り抜ける。
アームストロングも集団先頭に出てくる。風圧を受けても強い選手は落車のリスクが無い走りをしている。いっぽうで落車で遅れたヘーシンク。このときすでに腕を骨折してハンドルが握れず、片手でのライディングだった。ラボバンクの希望の星は、あえなくツールを終えることになった。
トマからベルノドーの誕生日プレゼント
ラスト4.7kmで飛び出したヴォクレール。パンチ力のある走りで逃げのスペシャリストであるイグナチエフらを突き放した。ほぼステージ全編を逃げ切り、2004年にマイヨジョーヌを獲得したのと同じ日に、ツールでの待望のステージ優勝を飾った。あの日も今日も、恩師ジャンルネ・ベルノドー監督の誕生日。最高のプレゼントになった。
「この勝利をずっとずっと待ち望んでいたんだ。毎年、ツールではチャレンジを繰り返してきた。僕は総合が狙えないから、ステージを狙うしかないんだ。あきらめずに頑張れば、その努力はいつか報われるということの証明だよ。」
「この勝利はベルノドーに、でもホントは妻と子供にかな。妻はツールに来たんだけど、今朝分かれた。今飛行機に乗っている頃だから、まだ知らないはずだよ」とヴォクレール。しかめっ面で逃げてきて、ゴール後の笑顔がより映える。
ブイグテレコムが2010年でチームスポンサーを降りることは新城幸也が5位になった第2ステージで明らかにされていた。2004年にマイヨジョーヌを獲得したときも、このチームはスポンサーであったブリオッシュ・ラ・ブーランジェールがその年限りで撤退する運命を負っていた。デジャブのような一日が、2010年以降のチーム活動に新たなスポンサーを呼ぶだろうか。
ブイグテレコムには長らくグランツールで総合上位を狙えるような決定的リーダーになれる選手がいない。それが弱みだ。しかしヴァンデ県をベースにした堅実なチーム運営と、ヴォクレールやフェドリゴらフランスの人気者を揃える。チームには今まで、スーパーUやカストラマといった国内のDIYチェーンやスーパーマーケットなどがスポンサーについてきた。ヴォクレールの勝利、そして純フランスチームに日本のサムライが入ったことで、新たなスポンサードの動きが芽生えることを期待しよう。
ピレネー前のライバル減らし
横風区間で集団の前に出て一気にペースを上げ、後続を断ち切る。落車を避け、自分たちの安全を図るため、というの理由のひとつ。これらの動きについて、ゴール地点で選手の到着を待つ間にリクイガスの中野喜文マッサーに興味深い話を聞いたので紹介しておこう。
リクイガスチームは昨夜ミーティングをもち、マリオ・シーレア監督がこの日のステージの海岸線区間についての話をした。第2ステージと同じように横風の影響を受けるはずのこの海沿いで、スピードを上げてクライマーたちを苦しめる動きがある、と。
アンドラ・アルカリスの山岳ステージに入る前のこの2ステージは比較的難易度が低いが、消化ステージというわけでは決してなく、サストレなど軽量級のクライマーを疲弊させる、生殺しステージになるのだという。それが続く山岳での走りを決める。
クライマーを潰すこと、総合争いのライバル減らしが目的だというのだ。シーレアはイタリア人ながら20年のツールの経験があるので、こういった作戦に精通していると中野さんは言うのだ。
2008年ツールでも、サクソバンク(当時チームCSC)はツールの序盤戦・第7ステージで、同じような動きをした。突如チームでアタックをかけて逃げ集団を作り出し、乗り遅れる総合上位狙いの選手を慌てさせた。ピレネーに入る2日前だ。直前の落車の影響があったクリストフ・モローを引き離し、リタイアに追い込んだ。
総合上位を狙う選手が、難易度が低いステージだから「何も動きが無いだろう」と油断しているスキを突くこの攻撃が、勝負を決めてしまうこともあるのだ。
明日第6ステージ、ジローナからバルセロナまでのステージは難易度が少し上がり、海岸線に近い山の中をいくコースは、道幅がより細く、複雑に曲がりくねっている。山岳ポイントも複数あり、ツールよりもジロによく登場するような中級山岳ステージだ。
「明日のステージはやばいことが起こりそうですよ」と中野さんは話してくれた。
text&photo:Makoto.AYANO
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