2013/07/08(月) - 20:12
スカイプロサイクリングによる完全支配のレースから1日、今度はスカイへの総攻撃が繰り広げられた。最強と思われた黒いチームはピレネーの細い山道に散り、フルームひとりが先頭集団のなかで孤立した。
「第1ラウンドでKO!」から一夜明けて
スタート地点に赤いスカーフを巻いて登場したモビスターの選手たち。今日はスペイ三大祭のひとつ、ナバーラ州パンプローナのサン・フェルミン祭の日に当たり、故郷を離れたモビスターの選手たちは、毎年ツールでこの姿を披露している。
マイヨジョーヌに身を包んだクリス・フルーム(スカイプロサイクリング)は余裕たっぷりでリラックスした表情。朝のレキップ紙の昨日のレースの見出しは「第1ラウンドでKO!」だ。「してやったり」のスカイだが、この日が厳しいレースになることは、この時点で予測できていなかっただろう。
マイヨブラン・アポアルージュに身を包んだピエール・ロラン(ユーロップカー)は早くからスタート最前列に並び集中した表情をみせる。今着ている”フルームの次点によるマイヨ・アポア” を本当に自分のものにするためには、ステージ前半の山岳ポイントを確実に集めていかなくてはいけない。ロランとは離れて後方に並んだ新城幸也(ユーロップカー)は「さぁ、今日は大変な日です。頑張らなくちゃ!」と決意を表しつつも、にこやかに笑う。調子は良さそうだ。
スカイへの報復攻撃 スタートからサスペンスは始まった
スタート直後からのガーミン・シャープによるアタックの応酬は、この日のステージ優勝を狙うダニエル・マーティンのため。そして同時に山岳に強い選手を揃えるモビスターがレースを動かし始めた。それに便乗するようにコンタドール擁するサクソ・ティンコフも3人を集団前方に送り込む。
他の多くのチームが、昨日のステージで好き放題やられたスカイへの報復攻撃に合意するかのようにアタックに便乗する。山岳が続く長く厳しいステージであるはずなのに、レースはスタート20kmで激化し、早くもバラバラ。こうなると序盤の展開で遅れた選手はタイムアウトとの戦いの長い一日を過ごすことになる。
スカイの誤算は、いきなりのこの激しい動きに対応できないほど昨日のハードワークの疲れが残っていたこと。そしてタイミング悪く強力なアシストとして頼れるひとりのピーター・ケノーが落車したこと。
2つめの1級山岳マント峠では、マイヨヴェールのサガンを除く、マイヨジョーヌのフルーム、マイヨアポアのロラン、マイヨブランのクインターナの3賞ジャージを含む30人の強力な先頭集団が形成される。そしてここまでフルームをこの集団に送り込むアシストをしたポルトが遅れ、気がつけばスカイはフルームひとりぼっちになってしまった。
無線で「ポルト遅れる」の知らせを受けて元気を増した先頭集団。まずはポルトを総合2位の座から引きずり下ろすことが先決とばかり、共同戦線をはってペースを上げ続けた。同じく遅れたカデル・エヴァンス(BMCレーシング)はその後粘りを見せて先頭集団に復帰するが、ポルトはそのままリカバリーできずに結果的には約18分の遅れを喫した。総合2位から完全に転落。表彰台は非現実的なものになった。アメリカとフランスの希望の星、ティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシング)とティボー・ピノ(FDJ.FR)2人も取り戻せない遅れをとった。
スカイのブレイルスフォードGMはレース後に言う。
「リッチーがあんなことになるなんて予測していなかった。彼がああなるのは珍しい。彼は前日に激しく攻めたから、そのツケだろう。昨日チームは素晴らしい走りだったが、ハードに攻めた翌日はベストな日ではなかったね」。
昨日プロトンを支配したスカイの黒い軍団はバラバラ。集団の中で孤立したフルーム。人数を揃えるモビスターやサクソティンコフ、そして他チームが共謀する共同戦線に、ひとりで立ち向かうことになる。
しかしマント峠下りでのバルベルデによるサプライズアタックにも、ウルケット・タンシザン峠クインターナによる度重なるアタックも、ひとりで対応できた。スカイがチームの弱みを見せたとはいえ、フルームの強さは揺るがないようにも思える。
チーム力を見せたモビスターだがフルームへのアタックは成功せず
ウルケット・タンシザン峠の頂上からバニェール・ド・ビゴールまでの30km以上の長い下り区間を前にして、モビスターやコンタドール、クインターナらによる攻撃は終わりを告げる。モレマ、テンダム、エヴァンス、アンディ、ロドリゲスらも、せっかくフルームをひとりきりにした大きなチャンスを活かすこと無く、一緒にゴールして終わってしまった。
ポルトを総合2位から転落させ、それぞれの順位をひとつづつ繰り上げることには成功したが(ダニエル・マーティンが8位に割り込んだため、ホアキン・ロドリゲスだけは総合9位で変わらず)。
総合を2位に上げたバルベルデは言う「今日のレースには満足だ。ポルトを排除し、スカイにダメージを与えることができた。ステージ優勝も挙げられればよかったが、それは実現できなかった。本当に厳しい一日だったんだ。フルームを孤立させることには成功したが、彼の弱さは最後まで見つけられなかった。彼を振り落とせなかったのは残念だ。」
それでも最後にフルームに対してアタックできなかったことは後に批判も呼びそうだが、ともかくモビスターは存在感を示した。クインターナは新人賞と総合も7位に上げ、ルイ・コスタも総合10位に上がった。チーム総合でも首位のとおり強力なチーム力がある。
弱みを見せたスカイ、しかしフルームは強い。つけ込む隙は見つかるか?
一方のスカイにとって手痛いのがヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)のタイムアウトによる失格だ。平坦から登りのあるコースまで、どんな状況でもハイテンポを刻める力強い機関車を一台失ったことになる。そして依然としてゲラント・トーマスは第1ステージでの落車で骨盤の一部を骨折したまま走っている。
コンタドールとサクソ・ティンコフにとってはベテランアシストのベンハミン・ノバル(スペイン)のリタイアが痛い。ノバルはコンタドールの良きアシストとして(そしてルームメイトとして)グランツールでの走りを支えてきた選手だ。
ツールの総合争いはこのあと少しおあずけとなり、次の水曜日のモンサンミッシェルでの33kmの個人タイムトライアルで再開。クリテリウム・ドーフィネでの似た距離の個人TTで、バルベルデはフルームに対し2分37秒を失っているため、フルームがそこで差を広げるのはほぼ確実だ。そして本格的な山岳決戦へと突入するのは土曜日だ。
ツールはミステリーを残しつつ、休息日を挟んで第2週へと向かう。今年の勝負どころは後半に集中している。昨日、今年のツールの勝負が決まったと嘆いた人は今日のレースで再び興味をもったことだろう。
ブレイルスフォードGM(スカイ)は言う「昨日は我々にとって最高な一日だった。それが今日はもっとも過酷な一日になった。昨日『ツールは終わった』と言った人たちは今夜その言葉を思い出すだろうね。でもだからこのスポーツは素晴らしいんだ。コーナーを曲がった先には何があるかわからないんだ。レースにとって良いことだと思う。人々は最後まで分からないサスペンスを欲するもの。私にとってそれは良いことではないけれど、それが良いことだということは認める(笑)。我々がレースを手中に収めたと思ったらそうではなかった。クリスをツールの勝者と呼ぶのはまだ早い。」
photo&text:Makoto.AYANO
「第1ラウンドでKO!」から一夜明けて
スタート地点に赤いスカーフを巻いて登場したモビスターの選手たち。今日はスペイ三大祭のひとつ、ナバーラ州パンプローナのサン・フェルミン祭の日に当たり、故郷を離れたモビスターの選手たちは、毎年ツールでこの姿を披露している。
マイヨジョーヌに身を包んだクリス・フルーム(スカイプロサイクリング)は余裕たっぷりでリラックスした表情。朝のレキップ紙の昨日のレースの見出しは「第1ラウンドでKO!」だ。「してやったり」のスカイだが、この日が厳しいレースになることは、この時点で予測できていなかっただろう。
マイヨブラン・アポアルージュに身を包んだピエール・ロラン(ユーロップカー)は早くからスタート最前列に並び集中した表情をみせる。今着ている”フルームの次点によるマイヨ・アポア” を本当に自分のものにするためには、ステージ前半の山岳ポイントを確実に集めていかなくてはいけない。ロランとは離れて後方に並んだ新城幸也(ユーロップカー)は「さぁ、今日は大変な日です。頑張らなくちゃ!」と決意を表しつつも、にこやかに笑う。調子は良さそうだ。
スカイへの報復攻撃 スタートからサスペンスは始まった
スタート直後からのガーミン・シャープによるアタックの応酬は、この日のステージ優勝を狙うダニエル・マーティンのため。そして同時に山岳に強い選手を揃えるモビスターがレースを動かし始めた。それに便乗するようにコンタドール擁するサクソ・ティンコフも3人を集団前方に送り込む。
他の多くのチームが、昨日のステージで好き放題やられたスカイへの報復攻撃に合意するかのようにアタックに便乗する。山岳が続く長く厳しいステージであるはずなのに、レースはスタート20kmで激化し、早くもバラバラ。こうなると序盤の展開で遅れた選手はタイムアウトとの戦いの長い一日を過ごすことになる。
スカイの誤算は、いきなりのこの激しい動きに対応できないほど昨日のハードワークの疲れが残っていたこと。そしてタイミング悪く強力なアシストとして頼れるひとりのピーター・ケノーが落車したこと。
2つめの1級山岳マント峠では、マイヨヴェールのサガンを除く、マイヨジョーヌのフルーム、マイヨアポアのロラン、マイヨブランのクインターナの3賞ジャージを含む30人の強力な先頭集団が形成される。そしてここまでフルームをこの集団に送り込むアシストをしたポルトが遅れ、気がつけばスカイはフルームひとりぼっちになってしまった。
無線で「ポルト遅れる」の知らせを受けて元気を増した先頭集団。まずはポルトを総合2位の座から引きずり下ろすことが先決とばかり、共同戦線をはってペースを上げ続けた。同じく遅れたカデル・エヴァンス(BMCレーシング)はその後粘りを見せて先頭集団に復帰するが、ポルトはそのままリカバリーできずに結果的には約18分の遅れを喫した。総合2位から完全に転落。表彰台は非現実的なものになった。アメリカとフランスの希望の星、ティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシング)とティボー・ピノ(FDJ.FR)2人も取り戻せない遅れをとった。
スカイのブレイルスフォードGMはレース後に言う。
「リッチーがあんなことになるなんて予測していなかった。彼がああなるのは珍しい。彼は前日に激しく攻めたから、そのツケだろう。昨日チームは素晴らしい走りだったが、ハードに攻めた翌日はベストな日ではなかったね」。
昨日プロトンを支配したスカイの黒い軍団はバラバラ。集団の中で孤立したフルーム。人数を揃えるモビスターやサクソティンコフ、そして他チームが共謀する共同戦線に、ひとりで立ち向かうことになる。
しかしマント峠下りでのバルベルデによるサプライズアタックにも、ウルケット・タンシザン峠クインターナによる度重なるアタックも、ひとりで対応できた。スカイがチームの弱みを見せたとはいえ、フルームの強さは揺るがないようにも思える。
チーム力を見せたモビスターだがフルームへのアタックは成功せず
ウルケット・タンシザン峠の頂上からバニェール・ド・ビゴールまでの30km以上の長い下り区間を前にして、モビスターやコンタドール、クインターナらによる攻撃は終わりを告げる。モレマ、テンダム、エヴァンス、アンディ、ロドリゲスらも、せっかくフルームをひとりきりにした大きなチャンスを活かすこと無く、一緒にゴールして終わってしまった。
ポルトを総合2位から転落させ、それぞれの順位をひとつづつ繰り上げることには成功したが(ダニエル・マーティンが8位に割り込んだため、ホアキン・ロドリゲスだけは総合9位で変わらず)。
総合を2位に上げたバルベルデは言う「今日のレースには満足だ。ポルトを排除し、スカイにダメージを与えることができた。ステージ優勝も挙げられればよかったが、それは実現できなかった。本当に厳しい一日だったんだ。フルームを孤立させることには成功したが、彼の弱さは最後まで見つけられなかった。彼を振り落とせなかったのは残念だ。」
それでも最後にフルームに対してアタックできなかったことは後に批判も呼びそうだが、ともかくモビスターは存在感を示した。クインターナは新人賞と総合も7位に上げ、ルイ・コスタも総合10位に上がった。チーム総合でも首位のとおり強力なチーム力がある。
弱みを見せたスカイ、しかしフルームは強い。つけ込む隙は見つかるか?
一方のスカイにとって手痛いのがヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)のタイムアウトによる失格だ。平坦から登りのあるコースまで、どんな状況でもハイテンポを刻める力強い機関車を一台失ったことになる。そして依然としてゲラント・トーマスは第1ステージでの落車で骨盤の一部を骨折したまま走っている。
コンタドールとサクソ・ティンコフにとってはベテランアシストのベンハミン・ノバル(スペイン)のリタイアが痛い。ノバルはコンタドールの良きアシストとして(そしてルームメイトとして)グランツールでの走りを支えてきた選手だ。
ツールの総合争いはこのあと少しおあずけとなり、次の水曜日のモンサンミッシェルでの33kmの個人タイムトライアルで再開。クリテリウム・ドーフィネでの似た距離の個人TTで、バルベルデはフルームに対し2分37秒を失っているため、フルームがそこで差を広げるのはほぼ確実だ。そして本格的な山岳決戦へと突入するのは土曜日だ。
ツールはミステリーを残しつつ、休息日を挟んで第2週へと向かう。今年の勝負どころは後半に集中している。昨日、今年のツールの勝負が決まったと嘆いた人は今日のレースで再び興味をもったことだろう。
ブレイルスフォードGM(スカイ)は言う「昨日は我々にとって最高な一日だった。それが今日はもっとも過酷な一日になった。昨日『ツールは終わった』と言った人たちは今夜その言葉を思い出すだろうね。でもだからこのスポーツは素晴らしいんだ。コーナーを曲がった先には何があるかわからないんだ。レースにとって良いことだと思う。人々は最後まで分からないサスペンスを欲するもの。私にとってそれは良いことではないけれど、それが良いことだということは認める(笑)。我々がレースを手中に収めたと思ったらそうではなかった。クリスをツールの勝者と呼ぶのはまだ早い。」
photo&text:Makoto.AYANO
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