2009/07/05(日) - 16:22
プロローグと呼ぶには長すぎるタイムトライアルの第1ステージ。モナコのヨットハーバーをスタートしてカジノ前を抜け、エズ峠へと続く上り坂をこなす華麗なコースだ。蒸し暑く、午後から天気が崩れるとの天気予報。
最後尾近くからスタートする必要があるコンタドールに対して、スタート順の自由度があるアームストロングとライプハイマーは早い時間にスタート時間を設定した。ツールでもっとも注目を集める男、ランスはなんと18番目にスタート。
夕方に雨が降ったとしたら、このテクニカルコースではリスクは非常に大きくなる。天気が崩れる前にスタートした選手たちが有利になることはあり得た。
絞りきれた4年前のような脚、身体で乗り込んできたランス。しかしウォームアップの追い込みながらもリラックスした感じは、4年前のままの王者の風格だ。固定ローラーにセットしたバイクが唸りと異音を発しながらきしむ。取り巻く人垣の多さは以前の再現。レースを走るとき意外はアスタナジャージを着ようとせず、リブストロングのジャージとメロウ・ジョニーのジャージで通す「好き放題」ぶりだ。
その少し後から、別府史之もウォームアップを始める。日本から応援に駆けつけたファンも何人かバスを訪れる。いずれも日の丸の旗持参。フミはリラックスしてそれに応えている。
新城幸也はバスで待ってもなかなか現れてくれなかった。ウォームアップのシーンを撮りたかったが、こちらがチームエリアに居られる時間までにユキヤは姿を見せず、残念。ランスのスタートを撮るためにスタート台へ移動。ものすごい人垣に、スタート台付近になかなか入ることが出来ず、あやうく見逃すところだった。
ランスがスタート。モナコの興奮は早くも18番スタートで最高潮に達した。
ブリュイネール監督は前日の記者会見でこう言っていた「コンタドールはリーダーだが、3週間のレースでは何でも起こりうる。アルベルトが今ままでに勝ったツール、ブエルタ、そしてジロでも、大きな差を持って勝ってはいない。チームにはクレーデンも入れて複数のリーダーになれる選手たちがいる。何でも起こりうるステージレースではリスクを分散させて複数のカードをもっておくことが必要だ」。理論整然としたヨハンらしい「ブレない」コメント。
そしてこうも付け加えた「メディアはランスとアルベルトのライバリティのストーリーをを創りあげようとしているように感じる」。
フミ、ユキヤのスタートをスタート台で見送ってからコースに出ることにしていた。フミのスタートはとくに騒がれることがなかった。マンジャスさんも普段からのアナウンスでおなじみ。フランス2/3テレビジョンのクルーにも新鮮さが足りなかったか。
それでも「このツールには2人の日本人が登場します!」とマンジャスさんが高らかに宣伝してくれていた。
ユキヤは緊張の面持ちでスタート地点にやってきた。メントールに浸した脱脂綿を鼻孔に詰め、念入りなストレッチで身体をほぐす。そしてスタート台にたつと、何に対してでもなく、大きくニッコリ笑ってからハンドルを握り締めた。
春からいい走りを見せた新人 ユキヤの新鮮度はフミよりも大きく、TVクルーもランス並の追いかけようだ。
曇り空が重くなったが、雨はどうやら最終走者まで降らずにもちこたえた。上りで少し抑え目に走り、下りと平坦で猛烈なパワーを発揮して勝利したカンチェラーラ。直前のスイスで見せた走りのまま、ツールで3度目のオープニングウィン&マイヨジョーヌ獲得だ。春のクラシックシーズンを怪我で棒に振ったが、完全復活だ。
カンチェラーラは言う「上りで出し切らないようにしたほうがいいことは分かっていた。ビヤンヌ(リース監督)はカジノ(序盤の数キロ)ですでにいい走りだとインカムで教えてくれた。乳酸が溜まらない様に走って、平坦で差をつけた。レース前から僕は優勝候補の一人で、もしすべてコトが間違いなく運べば、ライバルたちが僕を打倒することは不可能だと思っていた。勝利とマイヨジョーヌで復活することはスペシャル・モチベーションだった」。
カンチェラーラの春は厳しいものだった。ティレーノ・アドリアティコでの落車の怪我、そしてその後の病気で調子が造れず、本来輝くはずのミラノ〜サンレモやパリ〜ルーベといった春のクラシックを見送った。
「春に起こったことは厳しかった。クラッシュと病気のあと体調が見出せず、勝ちたいレースで走れなかった。シーズンの目標を(まだ制覇していないクラシックの)フランドル(フランドル一周レース、ロンド・ファン・フラーンデレン)に設定していたが、ノーと言わざるを得なかった。つらかったが、シーズンは長いから前向いていこうと自分に言い聞かせてきた。」
「そしてトレーニングをかねて長い距離を走るためにジロに出る決意をしたのはすごい決心だったが、それが良かった。スイスでオートバイペーサーでトレーニングを積んだ。多くの犠牲を払ってきた。ここで本当に復活したんだ。」
カンチェラーラに次ぐ2位はコンタドール。最近のタイムトライアル能力の向上を完全に証明した。
「彼(カンチェラーラ)のようなすごい選手に次いで2位は素直に喜べる。この結果には大満足だ。今日の目標は総合成績のうえでライバルたちに差をつけることだった。差は最小限だけど、大事なことは僕がいい調子を感じ取れていること。脚はよく反応する。これからレースを始められるよ!」
「もしや」の期待はあったが、ランスはまずまずの10位。「ハードでテクニカル! リズムを見つけるのが難しかった。長くレースを離れていたんだ。ベストは尽くしたけど...(やや不満げに)。それにしてもなんて美しいコースなんだ。楽しんだよ。調子はすごくいいよ。他の選手がどう走るかが楽しみだね。でもステージ優勝やマイヨジョーヌは期待しないよ!」
ジロではメディアの取材をシャットアウトしたランス。このコメントはチーム広報のフィリップ・マールテンスさんがボイスレコーダーで録音して、プレスセンターに持ってきたものだ。
フェルナンド・アロンソが表彰台に表れ、プレゼンテーターをつとめた。優勝会見が終わる頃に雨が降りだしてきた。近年にない役者揃いのツールがいよいよ始まった。
photo&text:Makoto.AYANO
最後尾近くからスタートする必要があるコンタドールに対して、スタート順の自由度があるアームストロングとライプハイマーは早い時間にスタート時間を設定した。ツールでもっとも注目を集める男、ランスはなんと18番目にスタート。
夕方に雨が降ったとしたら、このテクニカルコースではリスクは非常に大きくなる。天気が崩れる前にスタートした選手たちが有利になることはあり得た。
絞りきれた4年前のような脚、身体で乗り込んできたランス。しかしウォームアップの追い込みながらもリラックスした感じは、4年前のままの王者の風格だ。固定ローラーにセットしたバイクが唸りと異音を発しながらきしむ。取り巻く人垣の多さは以前の再現。レースを走るとき意外はアスタナジャージを着ようとせず、リブストロングのジャージとメロウ・ジョニーのジャージで通す「好き放題」ぶりだ。
その少し後から、別府史之もウォームアップを始める。日本から応援に駆けつけたファンも何人かバスを訪れる。いずれも日の丸の旗持参。フミはリラックスしてそれに応えている。
新城幸也はバスで待ってもなかなか現れてくれなかった。ウォームアップのシーンを撮りたかったが、こちらがチームエリアに居られる時間までにユキヤは姿を見せず、残念。ランスのスタートを撮るためにスタート台へ移動。ものすごい人垣に、スタート台付近になかなか入ることが出来ず、あやうく見逃すところだった。
ランスがスタート。モナコの興奮は早くも18番スタートで最高潮に達した。
ブリュイネール監督は前日の記者会見でこう言っていた「コンタドールはリーダーだが、3週間のレースでは何でも起こりうる。アルベルトが今ままでに勝ったツール、ブエルタ、そしてジロでも、大きな差を持って勝ってはいない。チームにはクレーデンも入れて複数のリーダーになれる選手たちがいる。何でも起こりうるステージレースではリスクを分散させて複数のカードをもっておくことが必要だ」。理論整然としたヨハンらしい「ブレない」コメント。
そしてこうも付け加えた「メディアはランスとアルベルトのライバリティのストーリーをを創りあげようとしているように感じる」。
フミ、ユキヤのスタートをスタート台で見送ってからコースに出ることにしていた。フミのスタートはとくに騒がれることがなかった。マンジャスさんも普段からのアナウンスでおなじみ。フランス2/3テレビジョンのクルーにも新鮮さが足りなかったか。
それでも「このツールには2人の日本人が登場します!」とマンジャスさんが高らかに宣伝してくれていた。
ユキヤは緊張の面持ちでスタート地点にやってきた。メントールに浸した脱脂綿を鼻孔に詰め、念入りなストレッチで身体をほぐす。そしてスタート台にたつと、何に対してでもなく、大きくニッコリ笑ってからハンドルを握り締めた。
春からいい走りを見せた新人 ユキヤの新鮮度はフミよりも大きく、TVクルーもランス並の追いかけようだ。
曇り空が重くなったが、雨はどうやら最終走者まで降らずにもちこたえた。上りで少し抑え目に走り、下りと平坦で猛烈なパワーを発揮して勝利したカンチェラーラ。直前のスイスで見せた走りのまま、ツールで3度目のオープニングウィン&マイヨジョーヌ獲得だ。春のクラシックシーズンを怪我で棒に振ったが、完全復活だ。
カンチェラーラは言う「上りで出し切らないようにしたほうがいいことは分かっていた。ビヤンヌ(リース監督)はカジノ(序盤の数キロ)ですでにいい走りだとインカムで教えてくれた。乳酸が溜まらない様に走って、平坦で差をつけた。レース前から僕は優勝候補の一人で、もしすべてコトが間違いなく運べば、ライバルたちが僕を打倒することは不可能だと思っていた。勝利とマイヨジョーヌで復活することはスペシャル・モチベーションだった」。
カンチェラーラの春は厳しいものだった。ティレーノ・アドリアティコでの落車の怪我、そしてその後の病気で調子が造れず、本来輝くはずのミラノ〜サンレモやパリ〜ルーベといった春のクラシックを見送った。
「春に起こったことは厳しかった。クラッシュと病気のあと体調が見出せず、勝ちたいレースで走れなかった。シーズンの目標を(まだ制覇していないクラシックの)フランドル(フランドル一周レース、ロンド・ファン・フラーンデレン)に設定していたが、ノーと言わざるを得なかった。つらかったが、シーズンは長いから前向いていこうと自分に言い聞かせてきた。」
「そしてトレーニングをかねて長い距離を走るためにジロに出る決意をしたのはすごい決心だったが、それが良かった。スイスでオートバイペーサーでトレーニングを積んだ。多くの犠牲を払ってきた。ここで本当に復活したんだ。」
カンチェラーラに次ぐ2位はコンタドール。最近のタイムトライアル能力の向上を完全に証明した。
「彼(カンチェラーラ)のようなすごい選手に次いで2位は素直に喜べる。この結果には大満足だ。今日の目標は総合成績のうえでライバルたちに差をつけることだった。差は最小限だけど、大事なことは僕がいい調子を感じ取れていること。脚はよく反応する。これからレースを始められるよ!」
「もしや」の期待はあったが、ランスはまずまずの10位。「ハードでテクニカル! リズムを見つけるのが難しかった。長くレースを離れていたんだ。ベストは尽くしたけど...(やや不満げに)。それにしてもなんて美しいコースなんだ。楽しんだよ。調子はすごくいいよ。他の選手がどう走るかが楽しみだね。でもステージ優勝やマイヨジョーヌは期待しないよ!」
ジロではメディアの取材をシャットアウトしたランス。このコメントはチーム広報のフィリップ・マールテンスさんがボイスレコーダーで録音して、プレスセンターに持ってきたものだ。
フェルナンド・アロンソが表彰台に表れ、プレゼンテーターをつとめた。優勝会見が終わる頃に雨が降りだしてきた。近年にない役者揃いのツールがいよいよ始まった。
photo&text:Makoto.AYANO
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