トルコのコンチネンタルチームに所属するトルコ人が「聖母マリアの家」に至る1級山岳で圧倒的な走りを披露した。ムスタファ・サヤル、24歳。無名のトルコ人が総合リーダーの座につくツアー・オブ・ターキー(UCI2.HC)は残り2ステージ。昨年の二の舞にならないことを願うばかりだ。




ボドルムのスタート地点に着く宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)と佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)ボドルムのスタート地点に着く宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)と佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsujiディフェンディングチャンピオン不在のまま開幕した2013年ツアー・オブ・ターキー。2012年大会は34歳のイヴァイロ・ガブロフスキー(ブルガリア、コンヤ・トルク)が頂上ゴールを圧倒的な力で制して総合優勝。しかし3ヶ月後にEPO陽性が発覚し、タイトルが剥奪されている。

北上を開始したプロトンと、空に向かって伸びるモスク北上を開始したプロトンと、空に向かって伸びるモスク photo:Kei Tsujiスポンサーが変わり、コンヤ・トルクは現在トルクセケルスポールとしてツアー・オブ・ターキーに出場。今年からダビ・デラフエンテ(スペイン)やアンドレイ・ミズロフ(カザフスタン)も同チームのジャージを着て走っている。そのトルコチームに所属するトルコ人が、大会最後の頂上ゴールで猛威を振るった。

最大9分50秒のリードを得たアルドイノ・イレシチュ(スロベニア、ユナイテッドヘルスケア)とクリスティアン・デッレステッレ(イタリア、バルディアーニヴァルヴォーレ・CSFイノックス)最大9分50秒のリードを得たアルドイノ・イレシチュ(スロベニア、ユナイテッドヘルスケア)とクリスティアン・デッレステッレ(イタリア、バルディアーニヴァルヴォーレ・CSFイノックス) photo:Kei Tsujiツアー・オブ・ターキー第6ステージは、セルチュク郊外にある「聖母マリアの家」にゴールする。一帯はトルコ有数の観光地として知られており、中でも紀元前に作られたギリシア時代のエフェス古代都市遺跡が最も有名だ。

聖母マリアが晩年を過ごしたと考えられている家に向かう登りは、距離5.3kmで平均勾配7.6%。ゴール前にかけて勾配が10%オーバーを刻む難易度の高いもの。この大会初登場の1級山岳で僅差の総合争いに決着がつけられる。

どこかギリシアにも似た白い街並のボドルムをスタートするとスピードは一気に上がる。幹線道路でのアタック合戦の末に、30km地点でメイン集団から飛び出したのはアルドイノ・イレシチュ(スロベニア、ユナイテッドヘルスケア)とクリスティアン・デッレステッレ(イタリア、バルディアーニヴァルヴォーレ・CSFイノックス)の2人。

ユーロップカーとソジャサンがコントロールするメイン集団は、逃げとのタイム差を図りながらペースを調整。向かい風が吹き付ける真っすぐな平坦路でタイム差はぐんぐんと縮小する。ゴールまで50kmを切るとアスタナとコフィディスがペースアップ。最大10分近くあったタイム差は見る見るうちに縮まり、結局ゴールまで30kmを残して先頭2人は吸収された。

チームメイトに守られて走るリーダージャージのナタナエル・ベルハネ(エリトリア、ユーロップカー)チームメイトに守られて走るリーダージャージのナタナエル・ベルハネ(エリトリア、ユーロップカー) photo:Kei Tsuji
最後の1級山岳に向かうムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)最後の1級山岳に向かうムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) photo:Kei Tsuji2級山岳で飛び出すラファエル・アンドリアート(ブラジル、ヴィーニファンティーニ)ら2級山岳で飛び出すラファエル・アンドリアート(ブラジル、ヴィーニファンティーニ)ら photo:Kei Tsuji

2級山岳でメイン集団のペースを上げるコロンビア2級山岳でメイン集団のペースを上げるコロンビア photo:Kei Tsujiゴール20km手前に位置する2級山岳ではラファエル・アンドリアート(ブラジル、ヴィーニファンティーニ)らがアタック。しかしコロンビアがペースを上げてこれを吸収する。後輪パンクでストップしたリーダージャージのベルハネはチームメイトの力を借りて集団に復帰する。メイン集団は大きな状態まま最後の1級山岳に突入した。

ゴールに向かって1級山岳を独走するムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)ゴールに向かって1級山岳を独走するムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) photo:Kei Tsuji平均勾配7.6%の登りが始まると集団は一気に縦に伸びる。総合上位のローリー・スザーランド(オーストラリア、サクソ・ティンコフ)のために集団前方でポジションをキープした宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)は「最後の登りへのアプローチはGoogle Mapで確認しておいたので、イメージ通りに入れた」と言う。

1級山岳の頂上ゴールを制したムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)1級山岳の頂上ゴールを制したムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) photo:Kei Tsuji山岳賞ジャージを着るセルゲイ・グレチン(ウクライナ、トルクセケルスポール)がハイペースを刻む集団からは、ラスト3kmでニコラ・エデ(フランス、コフィディス)がアタック。するとこの動きに反応する形でサヤルが飛び出す。リーダージャージのベルハネは反応出来ず、サヤルの独走が始まった。

UCIプロチームやUCIプロコンチネンタルチームの選手を振り切り、リードを10秒、20秒、30秒まで広げて走るサヤル。後方ではコフィディスのニコラ・エデとヨアン・バゴが追走。しかしラスト1kmからの急勾配区間でもサヤルのペースは落ちず、トルコ人の大歓声に包まれたゴールに独走でゴールした。

4日前に24歳になったばかりのサヤルがステージ優勝と総合リーダーの座を獲得。UCI2.1に昇格(現在はUCI2.HC)した2008年以降、トルコ人がステージ優勝を飾るのはこれが初めて。

トルコのヒーローとなったサヤルは「自分にはスプリント力がないので、早いタイミングで飛び出そうと決めていた。僕はご覧の通りクライマーで、チームと一緒にトレーニングに取り組むことでステージレースも走れるようになった」と記者会見で話す。

18秒遅れの2位でやってきたのはヨアン・バゴ(フランス、コフィディス)18秒遅れの2位でやってきたのはヨアン・バゴ(フランス、コフィディス) photo:Kei Tsuji5分遅れでゴールした佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)5分遅れでゴールした佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji

コフィディスの2人とともに表彰台に上がるムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)コフィディスの2人とともに表彰台に上がるムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) photo:Kei Tsujiトルコの国内レースではある程度の成績を残しているものの、サヤルはほぼ無名だったと言っていい。サヤルは2012年のツアー・オブ・ターキーを最下位から3番目の総合160位でフィニッシュしている。1年前のスキャンダルがあるだけに、ゴール地点に集まった各国のチームスタッフは苦い表情を浮かべる。

ターコイズブルーのリーダージャージに袖を通したムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)ターコイズブルーのリーダージャージに袖を通したムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) photo:Kei Tsujiもちろん記者会見でも厳しい質問が浴びせられるが、サヤルは「熱意があるばかりに、ガブロフスキーは間違った方法に走ってしまった。でも僕は違う」とかわす。サヤルはライバルたちに対して40秒以上のリードを得ており、現実的にリーダージャージを着てイスタンブールに凱旋することになる。

総合2位以下はフランスのUCIプロコンチネンタルチームに所属する若手4名が続く。宮澤らにサポートされたスザーランドはラスト2kmでアタックしたが、失速してステージ14位。宮澤は「順位をキープする走りよりは良い判断だったと思う。スプリントもそうだが、良い位置をキープすれば5位や6位に入ることは難しいことではない。しかし、1位を狙って走ったが5位だった、とは価値が違うと思う。我々は後者であり、勝つことにこだわって走る」とコメントする。

ツアー・オブ・ターキーは残り2ステージ。いずれもスプリンター向きの平坦ステージだ。




ツアー・オブ・ターキー2013第6ステージ結果
1位 ムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)           4h40'09"
2位 ヨアン・バゴ(フランス、コフィディス)                    +18"
3位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)                    +23"
4位 ダナイル・アンドノフ(ブルガリア、カハルーラル)               +28"
5位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、コロンビア)                +30"
6位 ジョナタン・イヴェール(フランス、ソジャサン)
7位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)
8位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
9位 フロリアン・ギロー(フランス、ブルターニュ・セシェ)             +33"
10位 マルク・デマール(オランダ、ユナイテッドヘルスケア)

69位 佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)                    +5'09"
124位 宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)                      +8'29"

個人総合成績
1位 ムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール)          23h49'24"
2位 ナタナエル・ベルハネ(エリトリア、ユーロップカー)             +41"      
3位 ヨアン・バゴ(フランス、コフィディス)                   +44"
4位 マキリム・メドレル(フランス、ソジャサン)                 +57"
5位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス)                  +1'00"
6位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)      +1'02"
7位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、コロンビア)              +1'08"
8位 フロリアン・ギロー(フランス、ブルターニュ・セシェ)           +1'09"
9位 ダナイル・アンドノフ(ブルガリア、カハルーラル)             +1'13"
10位 ローリー・スザーランド(オーストラリア、サクソ・ティンコフ)      +1'15"

ポイント賞
アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)

山岳賞
セルゲイ・グレチン(ウクライナ、トルクセケルスポール)

ターキッシュビューティースプリント賞
ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)

チーム総合成績
コフィディス

text&photo:Kei Tsuji in Selcuk, Turkey

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