2013/04/20(土) - 19:14
"しなり"という他ブランドにはないテーマのもと、フレームの研究開発を進める国内ブランドがグラファイトデザインだ。しかしその最新モデルであるT800は「剛性を増し、反応性を高めた」とメーカーが謳うピュアレーシングモデルだ。グラファイトデザインが唱える"しなり"は、果たして忘れられてしまったのだろうか?テストライダー両氏が検証する。
埼玉県秩父市に本拠地を構えるグラファイトデザイン社。カーボン製ゴルフシャフト製造ブランドとして名を馳せ、そのカーボン加工に関する技術や知識を応用して自転車業界に参入したというくだりは既に自転車界やサイクリストに浸透して久しい。
「必要以上の剛性は必要ない。それ以上に必要なのは"しなり"であるはず。」という信念のもと、高剛性・軽量化という流れに逆行するかのように、長年を掛けて培ったカーボンに関するノウハウと積層化技術のもと、人間の感性に合った人車一体となれるフレームを追求する。2009年に最初のプロダクトであるメテオシリーズを発表するや、大きな反響を巻き起こした。
2013年初めにいよいよもって発表されたT800は、メーカーの言葉を借りれば、「グラファイトデザインが長年培ってきたカーボンレイアップテクノロジーを惜しげなく投入し、こだわり抜いた最強のレーシングフレーム」。2年間に渡る開発期間・4度のレイアップ(積層方法)見直しと試作を経て生まれたグラファイトデザイン自信の一台だ。
このフレームを説明するにあたっては先ず、使用するカーボン材について触れるべきだろう。その名のごとく航空機にも使用される東レ製のT800カーボンを使用したフレームだが、弾性に富む"M40J"素材もブレンドする。当初はT800を100%使用する予定だったが、乗り味とスペックにこだわるうちT800:M40J=55:45という比率に行き着いたという。
素材は100%東レ製カーボン。日本のものづくり、日本人による開発、日本の材料。日本人ライダーのためのレーシングバイク。トップチューブ後方のTORAYCAロゴや、GDRと日の丸をモチーフにした「JAPAN PRYDE」ロゴは、T800のテーマを象徴するものだ。
T800が得意とするのは、巡航性能と正確かつ切れ味の光るクイックなコーナーリング。そしてパイプのつぶれ率などを工夫して剛性を高めることで実現した、ペダルへの入力へと瞬時に反応する優れた加速性だ。
丸パイプを使用したグラファイトデザインらしいシンプルなルックスだが、それとは裏腹にシャープなライディングを身上とする。
そんなT800は、しかし、グラファイトデザインが唱える"しなり"をも同居させることにこだわったバイクだ。低速域でこそしなりは影を潜めるが、中・高速域では細身のパイプワークによりしなりを発生させ、コシのある加速感を実現している。ツーリングやポタリングでの使用は眼中に無い。あくまでレースの速度域で生きるピュアレーシングマシンである。
シートステーは振動吸収性を高め、振りやスプリントのタイミングを取りやすい「フレックスシートステー」を採用。乗り心地はソフトなフィーリングとし、長距離のレースにも対応。エンド部分をアルミ製としたのは、カーボンエンドよりも高精度かつ剛性を高め、ライディングのキレを求めるための工夫だ。
GDRが"しなり"を活かしつつ、高剛性化という新たなテーマをなげうって誕生したバイクが、T800。純国産ピュアレーシングマシンとして今最も話題性に富むこのバイクを、テストライダー両氏はどのように評価するのか、興味は尽きることが無い。早速インプレッションに移ろう。
―インプレッション
「不思議な感覚、カーボンバイクの違う一面を見ることができた」品川真寛(YOU CAN)
最初の一踏み、二踏みはBB周りが大きくヨレる印象があって、非常に柔らかいフレームだと思いました。しかし、そのまま踏み込んでいくと「返し」があって、踏んだ力をロス無く推進力に変換してくれました。他のカーボンバイクには無い、不思議な乗り味です。
具体的には、カーボンバイクでは無く、昔のクロモリフレームに近い感覚と言えば良いでしょうか。それでいて重量が軽い。今までには無かった感覚です。ダッシュした時のシャープさ、掛りの良さはありません。しかし一度速度にのせると、もたつくこと無く、しっかり推進力に変換される印象があります。他のメーカーのカーボンバイクとは全く異なる印象で、カーボンバイクの違う一面を見た気がしました。GDRならではの「味」と言って良いのでしょうね。
また、特筆すべきは振動吸収性の高さでしょう。石畳のような荒れた路面でも全く衝撃や突き上げを感じませんでした。しかし振動吸収性が良い代わりにダウンヒルで不安になるようなブレは無く、ヘッド回りのスマートさとは裏腹に、しっかりとした剛性が確保されています。むしろ、雨の下りやアンダーステアが出やすい場面でも安心してコーナリングできると思いました。
好みにもよるとは思いますが、私はレースバイクとして十分使えると感じました。上りでの走りも軽快ですし、一般的なロードレースであれば問題なく使えるでしょう。ただ、特有の乗り味から急激なダッシュを掛けた場合にはどうしてもワンテンポ遅れてしまうような印象があります。
各社のトップエンドモデルのような、突出し・際立つ性能こそありませんが、剛性不足や安定性が低いなどの弱点もありません。ペダリングスキルが高く、綺麗に回せるライダーにベストですが、初心者のような方でも、リズムさえ掴めればしっかり乗りこなすことができるでしょう。
ゆっくり走っている分には非常に乗り心地良く、コンフォート寄りのバイクなのかな、ともとれるほど。しかし踏みこんだ瞬間にレースバイクとしての顔を見せてくれ、ロングライドから登録競技系の本格レースまで、どのような使い方でも対応してくれるはずです。
「グラファイトデザインらしさを感じる、万能なフレーム」山添悟志(Squipe)
乗り心地が良く、とてもシルキー。しかし、踏んだ力が逃げるような印象が無いあたりに、グラファイトデザインらしさを感じました。同社のメテオシリーズよりも、T800は幅広いペダリングスキルに対応している印象がありますね。国内で多く開催される比較的短距離なレースに向いているあたり、ザニアを正常進化させたような性格です。
乗り心地が良いバイクですが、ロングライド向けバイクとは異質で、しっかり「レーシングバイク」という印象があります。身体に伝わってくる振動をうまく残しつつロードインフォメーションはしっかり伝えてくれますから、ストレスなく荒れた路面や下りをこなすことができます。乗り心地と他の性能をトレードオフ(犠牲)にしていないあたりに、バランスの良さを感じました。
地形で言うと、上りや下りよりも、平坦の巡行に光るものを感じました。特に加速して、スピードに乗せた後の巡行が良かったですね。上りでは軽いギアでダンシングしながら、リズミカルに登る時にいい感触。しかし、ギアを重くして低回転で登っても腰砕けになるようなこともありません。下りは狙ったラインをしっかりトレースできました。これは、フォークが振動を素早く収束してくれている影響だと思いますね。
しなりを積極的に生かしたフレームですので、ペダリングスキルがあるライダーには特におススメです。やみくもに踏んでみると、推進力に変換されてはいるものの、ロスしているような感触を受けてしまいます。ただ、綺麗に踏めばより進んでくれるフレームではあるので、購入を機にペダリングを見直し、上達させる良い機会にもなると思います。そういった意味でも幅広いレベルのライダーに対応していると言えます。
レースをするのであれば、上りも平坦もこなせて、最後のスプリントにも絡めるようなオールラウンドな脚質の選手に向いているでしょう。足が残せることを考えると、小柄で軽量なスプリンターにもおすすめですね。ロングライドであれば、グランフォンドの先頭集団で走ると面白いと思います。
いずれはレースに参加してみたいとう初心者の方から、レース経験者まで様々な方にお勧めできますし、レースのレベルも非登録系のエンデューロから登録系のレースまで様々なレースを走れる万能なフレームですね。スチールフレームのようなシンプルな見た目に魅力を感じる方にもおすすめです。
グラファイトデザイン T800
素 材:T800、M40J
サイズ:510、530、550mm
重 量:950g(530サイズ)
フォーク:ストレートフォーク、350g
B B:JIS
付属品:FSA Orbit Zヘッドセット、スペアRDハンガー
価 格:420,000円(税込)
インプレライダーのプロフィール
品川真寛(YOU CAN)
2003年に日本鋪道よりプロデビュー。2005年からシマノ・メモリーコープ(現アルゴス・シマノ)に移籍し、ヨーロッパに活躍の舞台を移す。パリ~ルーベをはじめ春のクラシックレースに多数出場し、2008年から愛三工業レーシングに移籍。アジアのレースで入賞歴多数を誇る。2012年限りで引退し、現在はYOU CAN大磯店にて勤務する。愛称は「しなしな」。
YOU CAN
山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
神奈川県厚木市に1996年にオープンしたロード系プロショップ、スポーツバイスクル・スキップの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。
スポーツバイスクル スキップ
ウェア協力:VALETTE(バレット)
text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
埼玉県秩父市に本拠地を構えるグラファイトデザイン社。カーボン製ゴルフシャフト製造ブランドとして名を馳せ、そのカーボン加工に関する技術や知識を応用して自転車業界に参入したというくだりは既に自転車界やサイクリストに浸透して久しい。
「必要以上の剛性は必要ない。それ以上に必要なのは"しなり"であるはず。」という信念のもと、高剛性・軽量化という流れに逆行するかのように、長年を掛けて培ったカーボンに関するノウハウと積層化技術のもと、人間の感性に合った人車一体となれるフレームを追求する。2009年に最初のプロダクトであるメテオシリーズを発表するや、大きな反響を巻き起こした。
2013年初めにいよいよもって発表されたT800は、メーカーの言葉を借りれば、「グラファイトデザインが長年培ってきたカーボンレイアップテクノロジーを惜しげなく投入し、こだわり抜いた最強のレーシングフレーム」。2年間に渡る開発期間・4度のレイアップ(積層方法)見直しと試作を経て生まれたグラファイトデザイン自信の一台だ。
このフレームを説明するにあたっては先ず、使用するカーボン材について触れるべきだろう。その名のごとく航空機にも使用される東レ製のT800カーボンを使用したフレームだが、弾性に富む"M40J"素材もブレンドする。当初はT800を100%使用する予定だったが、乗り味とスペックにこだわるうちT800:M40J=55:45という比率に行き着いたという。
素材は100%東レ製カーボン。日本のものづくり、日本人による開発、日本の材料。日本人ライダーのためのレーシングバイク。トップチューブ後方のTORAYCAロゴや、GDRと日の丸をモチーフにした「JAPAN PRYDE」ロゴは、T800のテーマを象徴するものだ。
T800が得意とするのは、巡航性能と正確かつ切れ味の光るクイックなコーナーリング。そしてパイプのつぶれ率などを工夫して剛性を高めることで実現した、ペダルへの入力へと瞬時に反応する優れた加速性だ。
丸パイプを使用したグラファイトデザインらしいシンプルなルックスだが、それとは裏腹にシャープなライディングを身上とする。
そんなT800は、しかし、グラファイトデザインが唱える"しなり"をも同居させることにこだわったバイクだ。低速域でこそしなりは影を潜めるが、中・高速域では細身のパイプワークによりしなりを発生させ、コシのある加速感を実現している。ツーリングやポタリングでの使用は眼中に無い。あくまでレースの速度域で生きるピュアレーシングマシンである。
シートステーは振動吸収性を高め、振りやスプリントのタイミングを取りやすい「フレックスシートステー」を採用。乗り心地はソフトなフィーリングとし、長距離のレースにも対応。エンド部分をアルミ製としたのは、カーボンエンドよりも高精度かつ剛性を高め、ライディングのキレを求めるための工夫だ。
GDRが"しなり"を活かしつつ、高剛性化という新たなテーマをなげうって誕生したバイクが、T800。純国産ピュアレーシングマシンとして今最も話題性に富むこのバイクを、テストライダー両氏はどのように評価するのか、興味は尽きることが無い。早速インプレッションに移ろう。
―インプレッション
「不思議な感覚、カーボンバイクの違う一面を見ることができた」品川真寛(YOU CAN)
最初の一踏み、二踏みはBB周りが大きくヨレる印象があって、非常に柔らかいフレームだと思いました。しかし、そのまま踏み込んでいくと「返し」があって、踏んだ力をロス無く推進力に変換してくれました。他のカーボンバイクには無い、不思議な乗り味です。
具体的には、カーボンバイクでは無く、昔のクロモリフレームに近い感覚と言えば良いでしょうか。それでいて重量が軽い。今までには無かった感覚です。ダッシュした時のシャープさ、掛りの良さはありません。しかし一度速度にのせると、もたつくこと無く、しっかり推進力に変換される印象があります。他のメーカーのカーボンバイクとは全く異なる印象で、カーボンバイクの違う一面を見た気がしました。GDRならではの「味」と言って良いのでしょうね。
また、特筆すべきは振動吸収性の高さでしょう。石畳のような荒れた路面でも全く衝撃や突き上げを感じませんでした。しかし振動吸収性が良い代わりにダウンヒルで不安になるようなブレは無く、ヘッド回りのスマートさとは裏腹に、しっかりとした剛性が確保されています。むしろ、雨の下りやアンダーステアが出やすい場面でも安心してコーナリングできると思いました。
好みにもよるとは思いますが、私はレースバイクとして十分使えると感じました。上りでの走りも軽快ですし、一般的なロードレースであれば問題なく使えるでしょう。ただ、特有の乗り味から急激なダッシュを掛けた場合にはどうしてもワンテンポ遅れてしまうような印象があります。
各社のトップエンドモデルのような、突出し・際立つ性能こそありませんが、剛性不足や安定性が低いなどの弱点もありません。ペダリングスキルが高く、綺麗に回せるライダーにベストですが、初心者のような方でも、リズムさえ掴めればしっかり乗りこなすことができるでしょう。
ゆっくり走っている分には非常に乗り心地良く、コンフォート寄りのバイクなのかな、ともとれるほど。しかし踏みこんだ瞬間にレースバイクとしての顔を見せてくれ、ロングライドから登録競技系の本格レースまで、どのような使い方でも対応してくれるはずです。
「グラファイトデザインらしさを感じる、万能なフレーム」山添悟志(Squipe)
乗り心地が良く、とてもシルキー。しかし、踏んだ力が逃げるような印象が無いあたりに、グラファイトデザインらしさを感じました。同社のメテオシリーズよりも、T800は幅広いペダリングスキルに対応している印象がありますね。国内で多く開催される比較的短距離なレースに向いているあたり、ザニアを正常進化させたような性格です。
乗り心地が良いバイクですが、ロングライド向けバイクとは異質で、しっかり「レーシングバイク」という印象があります。身体に伝わってくる振動をうまく残しつつロードインフォメーションはしっかり伝えてくれますから、ストレスなく荒れた路面や下りをこなすことができます。乗り心地と他の性能をトレードオフ(犠牲)にしていないあたりに、バランスの良さを感じました。
地形で言うと、上りや下りよりも、平坦の巡行に光るものを感じました。特に加速して、スピードに乗せた後の巡行が良かったですね。上りでは軽いギアでダンシングしながら、リズミカルに登る時にいい感触。しかし、ギアを重くして低回転で登っても腰砕けになるようなこともありません。下りは狙ったラインをしっかりトレースできました。これは、フォークが振動を素早く収束してくれている影響だと思いますね。
しなりを積極的に生かしたフレームですので、ペダリングスキルがあるライダーには特におススメです。やみくもに踏んでみると、推進力に変換されてはいるものの、ロスしているような感触を受けてしまいます。ただ、綺麗に踏めばより進んでくれるフレームではあるので、購入を機にペダリングを見直し、上達させる良い機会にもなると思います。そういった意味でも幅広いレベルのライダーに対応していると言えます。
レースをするのであれば、上りも平坦もこなせて、最後のスプリントにも絡めるようなオールラウンドな脚質の選手に向いているでしょう。足が残せることを考えると、小柄で軽量なスプリンターにもおすすめですね。ロングライドであれば、グランフォンドの先頭集団で走ると面白いと思います。
いずれはレースに参加してみたいとう初心者の方から、レース経験者まで様々な方にお勧めできますし、レースのレベルも非登録系のエンデューロから登録系のレースまで様々なレースを走れる万能なフレームですね。スチールフレームのようなシンプルな見た目に魅力を感じる方にもおすすめです。
グラファイトデザイン T800
素 材:T800、M40J
サイズ:510、530、550mm
重 量:950g(530サイズ)
フォーク:ストレートフォーク、350g
B B:JIS
付属品:FSA Orbit Zヘッドセット、スペアRDハンガー
価 格:420,000円(税込)
インプレライダーのプロフィール
品川真寛(YOU CAN)
2003年に日本鋪道よりプロデビュー。2005年からシマノ・メモリーコープ(現アルゴス・シマノ)に移籍し、ヨーロッパに活躍の舞台を移す。パリ~ルーベをはじめ春のクラシックレースに多数出場し、2008年から愛三工業レーシングに移籍。アジアのレースで入賞歴多数を誇る。2012年限りで引退し、現在はYOU CAN大磯店にて勤務する。愛称は「しなしな」。
YOU CAN
山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
神奈川県厚木市に1996年にオープンしたロード系プロショップ、スポーツバイスクル・スキップの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。
スポーツバイスクル スキップ
ウェア協力:VALETTE(バレット)
text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
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