TCR。それはジャイアントが誇るロードバイクのハイパフォーマンスシリーズ。その頂点に位置するのが今回のテストバイク、TCR ADVANCED SLだ。自転車界に君臨する世界最大のブランドが誇るハイエンドロードバイクの実力とは。

ジャイアント TCR ADVANCED SL 2ジャイアント TCR ADVANCED SL 2 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

台湾を本拠地に置くジャイアント。世界ナンバーワンの規模を維持し、その名のごとく自転車界に名を轟かせる"巨人"ブランドだ。そして同社が誇るのは世界最高の生産量と技術力。ロードバイクからMTB、シクロクロスや街乗り用のフラットバーロード、実用車まで豊富にラインナップし、台湾の一大企業に成長した。

プロレース界に本格参入したは1997年よりオンセチームに機材供給を開始してから。そこから得たフィードバックはブランドの技術力を急速に引き上げ、Tig溶接のアルミフレームやカーボン成形技術は世界トップレベルに到達。現在幾多の有名ブランドのOEM生産を手がけていることは周知の事実だ。

そんなジャイアントのロードパフォーマンスモデル最上位につけるのがTCR ADVANCED SL。スローピングトップチューブを引っさげ衝撃を与えた初代TCRから、幾多のモデルチェンジを経つつ進化するオールラウンドレーシングレーサーである。

OverDrive2を採用したボリュームのあるヘッド周りOverDrive2を採用したボリュームのあるヘッド周り ワイヤーは内臓式を採用し、電動コンポにも対応ワイヤーは内臓式を採用し、電動コンポにも対応 細身ながら高い剛性を実現したフロントフォーク細身ながら高い剛性を実現したフロントフォーク


フレームに使われるのは、最高クラスの性能を持つT-800グレードのカーボン原糸だ。カーボンの積層の間にはナノポリマーをプラスしたレジンを浸透させることで耐衝撃性を稼ぎ、成形後には高温高圧で焼成する「CNT/Carbon Nanotube Technology」を導入したことで、40%という大幅な剛性強化を達成。

カーボンシートの面積を増すことで接合部分を減らす新技術「Continuous Fiber Technology」も投入したことで、従来フレームに対して135g以上軽量化しフレーム重量は880gをマークした。

内臓式ワイヤーによってスムーズなワイヤリングが可能に内臓式ワイヤーによってスムーズなワイヤリングが可能に オリジナルのカーボンステム&ハンドルを採用オリジナルのカーボンステム&ハンドルを採用


長方形断面のダウンチューブによって高い剛性を実現長方形断面のダウンチューブによって高い剛性を実現 BB86の採用によりチェーンステー間の幅を広くし、剛性を高めるBB86の採用によりチェーンステー間の幅を広くし、剛性を高める


エアロや大口径チューブが一般化した現在において、TCR ADVANCED SLのシルエットはスマートささえ感じさせるものだ。しかし専用ステムを使い、上1-1/4インチ径、下1-1/2インチ径の新型「OverDrive2」ヘッドシステムを備えたヘッドチューブ周辺はボリューム感に溢れ、繋がるダウンチューブは幅広の長方形断面とすることでパワーラインの強化に貢献している。

一方でトップチューブは比較的扁平な形状とし、リアバックと合わせて衝撃吸収を狙う意図が見て取ることができる。涙滴断面のVECTORカーボンシートピラーは従来モデルより受け継ぐ部分だ。
ボトムブラケットはフルカーボン製のBB86プレスフィットシェルを採用することで、プロ選手のスプリントにも耐える強度が与えられている。

コンポーネントには新型スラムREDを採用コンポーネントには新型スラムREDを採用 ANT+に対応したRIDESENCEセンサーに対応ANT+に対応したRIDESENCEセンサーに対応


フルモデルチェンジを図った現行TCR ADVANCED SLは、2012年シーズンよりラボバンク(当時)に供給され、グランツールはもちろんのこと、ワンデークラシックまでオールラウンドな活躍を支えた。ブランコプロサイクリングとチーム名を変更した今年も選手から愛用され、山岳レースを中心に世界のトップシーンで活躍を見せてくれることだろう。

VECTORシートピラーによって空気抵抗を軽減VECTORシートピラーによって空気抵抗を軽減 シートステーは2本バックとし、ねじれ剛性を高めるシートステーは2本バックとし、ねじれ剛性を高める スカンジウム製リムを採用したオリジナルホイールを装備スカンジウム製リムを採用したオリジナルホイールを装備


今回のテスト車両は、SRAM RED、P-SLR1ホイールを搭載したTCR ADVANCED SL 2。即実践投入可能なスペックで組まれつつ、630,000円というプライスを実現した1台だ。早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「これぞレーシングバイク、とにかく踏みたくなるような剛性感」澤村健太郎(Nicole EuroCycle)

タメがないダイレクトな踏み心地故の高い加速力から「これぞレーシングバイク」という印象を受けました。この加速感は全体的な剛性の高さによるものと思われますが、特にBBからチェーンステーにかけて剛性の高さを感じました。最近のバイクと比べるとチェーンステーは細身ですが高品質な材料を使っていることと、リアセンターを詰めていることによって高い剛性を確保しているのかな、と。剛性が高い代わりに振動吸収性は必要最低限なレベルで、踏み方次第ではリアが跳ねてしまう印象もあります。

ダンシング、シッティングに関係なく加速していきますが、低回転よりは高回転で回しながら走った時のほうがいいフィーリングを感じました。とにかく剛性が高いので、体重をかけてクランクの下死点まで踏み込むと反力がダイレクトに脚に返ってくるので、長距離になってくるとペダリングスキルが問われるかと思います。しかし、それでも踏む気にさせる剛性感がありますね。誰が乗っても"速くなった"と感じてしまうほどの気持ちいい加速感が魅力です。

「これぞレーシングバイク。とにかく踏みたくなる様な剛性感」澤村健太郎(Nicole EuroCycle)「これぞレーシングバイク。とにかく踏みたくなる様な剛性感」澤村健太郎(Nicole EuroCycle)

ハンドリングはかなりクイック。はやりのレースのためのバイクだと感じました。慣れないうちは怖さを感じる可能性もあり、特に直進性の強いバイクに乗っているライダーはそう感じるかもしれません。フォークも比較的細身ですが、剛性感が高くしっかりしているため、不安を感じることはありませんでした。

私自身は過去にTCRシリーズに乗っていた経験があり、TCRシリーズはレースをしたい人におススメしています。同時に試乗したDEFY ADVANCED SLでも十分な剛性確保されていましたが、TCR ADVANCED SLはさらに剛性が高く、平地や登りに関係なく一歩踏み込んだ瞬間から加速していく。脚力は要しますが、とにかくレーシーなフレームです。

クリテリウムの急加速や短い登りは下ハンを持ってガツンと加速すると気持ちよく走れますし、ゼロ発進や常に加速し続けるヒルクライムでも気持ちいいです。いかなる速度域でも加速してくれますので、アルデンヌクラシックのように短い登り下りが連続するコースでは真価を発揮できるでしょう。
国内のレースでいえば、クリテリウムから中距離のレースに向いています。レベルとしてはE1からJPTのライダーに向いています。

圧入式BB(BB86)と内臓式のワイヤーを採用しているので、メンテナンス際にはショップに持ち込んだほうがいいかも知れません。また、太いフォークコラムに対応した専用規格のステムが採用されている点や、ISP(インテグレーテッド・シートポスト)が採用されている点からも、ポジションが決まっている上級者向けと言えます。

もし、ツール・ド・おきなわの210㎞のような長距離レースやロングライドに使いたい場合は、最近流行している25cなどの太めのチューブラータイヤに50mmハイト程度のカーボンホイールを組み合せると乗り心地も良くなるでしょう。


「最大の持ち味は加速。どんな速度域からでも気持ちよく加速してくれる」江下健太郎(じてんしゃPit)

「最大の持ち味は加速、どんな速度域からでも気持ちよく加速してくれる」江下健太郎(じてんしゃPit)「最大の持ち味は加速、どんな速度域からでも気持ちよく加速してくれる」江下健太郎(じてんしゃPit)
ジャイアント TCR ADVANCED SL 2
フレーム:Advanced SL-Grade Composite ISP OLD130mm
フロントフォーク:Advanced SL-Grade Composite、 Full Composite OverDrive 2
コンポーネント:SRAM RED
チェーン:KMC X10SL
ホイール:ジャイアント P-SLR
サドル:フィジーク ARIONE CX K:ium
ハンドル・ステム:ジャイアント CONTACT SLR
価 格:630,000円(税込)




インプレライダーのプロフィール

澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢) 澤村健太郎(Nicole EuroCycle 駒沢)

東京都世田谷区駒沢に2010年12月にオープンした「Nicole EuroCycle 駒沢」のチーフメカニック。実業団ロードレースチーム「Maidservant Subject」ではキャプテンを務め、シクロクロスレースにも積極的に参戦している。同時にトレイル巡りやツーリングなど楽しく自転車に乗ることも追求しており「誰とでも楽しめるサイクリスト」が目標。愛称は「アルパカ」。

Nicole EuroCycle




江下健太郎(じてんしゃPit)江下健太郎(じてんしゃPit) 江下健太郎(じてんしゃPit)

ロード、MTB、シクロクロスとジャンルを問わず活躍する現役ライダー。かつては愛三工業レーシングに所属し、2005年の実業団チームランキング1位に貢献。1999年MTB&シクロクロスU23世界選手権日本代表。ロードでは2002年ツール・ド・台湾日本代表を経験し、また、ツール・ド・ブルギナファソで敢闘賞を獲得。埼玉県日高市の「じてんしゃPit」店主としてレースの現場から得たノウハウを提供している。愛称は「えしけん」。

じてんしゃPit



ウエア協力:bici

text:So.Isobe&Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
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