2013/04/10(水) - 02:23
国内の注目新興ブランドがBOMA(ボーマ)。そのレーシングラインナップの中核を成すのが今回インプレッションを行うVELNO(ヴェルノ)だ。シャープなスタイリングと乗り味が特徴のピュアロードレーサーにフォーカスを当てていく。シクロワイアードのインプレには今回が初登場。国内レースシーンでお馴染みのブランドの実力とは?
埼玉に拠点を置く国内ブランド、BOMA(ボーマ)。カーボン繊維商社を前身とするASKトレーディングを母体とするこのブランドの強みは、アジア有数のハイテク工場と深い関係を持つこと。
カーボンシートの手配から生産までを安定して管理でき、企画からデザイン、設計、生産管理は自社で行なっている。日本国内のアスリートへと機材供給を行い、選手はじめ専門ショップの細かい意見要望も取り入れ、身近でハイコストパフォーマンスな製品を作り続けているブランドだ。
2013年ラインナップ現在、トラックバイクからMTBまで18種類に及ぶ拡充ぶりを見せるボーマのバイクラインナップ。その豊富なバリエーションの中、「ヴァイド」や「リファール」と並びレーシングロードバイクの中核を成す車両が今回インプレッションを行うヴェルノである。
スローピング角の大きなトップチューブを持つヴェルノ。奇をてらわない、シャープかつ比較的オーソドックスな形状とすることで、高い剛性と踏み出しの軽さ、そして乗り心地という相反する要素の両立を目指したモデルだ。
ヴェルノのフレーム素材として使われているのはT-700グレードのハイモジュラスカーボンだが、成形段階では3つの工夫が加えられる。まず一つ目は、トップチューブのヘッド部からリアブレーキホール下まで一体成型し、センター精度を向上させることで軽量化に繋げる「イークアルパワーチューブ」。
2つ目は、各チューブの接合部分に柔軟性のある3Kカーボンを使用した上、シリコン系の成型パーツで加圧するデュアルモールディングテクノロジー。シート厚を均一にすることで素材量を減らすことができ、強度、剛性はそのままに軽量化を実現しているのだ。
そして3つ目は、全体の低重心化を計る「ローセンターグラビティ」だ。これはカーボンシートの積層数、角度を最適化、ダウンチューブBB周りの剛性を可能な限り上げることで、ダッシュ力を磨くことはもちろん、ダンシングでの振りやすさ・しなやかさに繋げるのだ。
シートステー、チェーンステー共に内側へとベンドさせた小さなリアトライアングルは、積極的にしならせることで乗り心地の向上を目指した造形。また、チェーンステーは複雑なフォルムを描くことで路面追従性とパワー伝達効率の両立を目指した。
ヴェルノの重量はフレームで1030g。決して超軽量では無いものの、フレームセットで189,000円(税込)というプライスを考慮すれば必要にして十分。落車のリスクを考えれば、学連登録選手やホビーレーサーにとっては嬉しい価格設定だ。
高い剛性を持ちながら踏み出しの軽さ、そして乗り心地の両立を目指したカーボンバイクがヴェルノ。テストライダー両氏はどう評価するのだろうか? 早速インプレッションをお届けしよう。なおテストバイクはプロトモデルで、化粧カーボンが3K(製品版は12K)となっていることを承知頂きたい。
―インプレッション
「重量では計れない上り性能の良さがある。JPTレベルにも対応する」品川真寛(YOU CAN)
程よい振動吸収性と掛かり、様々な要素がバランスよくまとまったカーボンレーシングバイクという第一印象を受けました。
当初完成車に組まれていたハンドルとホイールがかなり柔らかく、性能をスポイルしていましたが、アルミのロープロファイルホイールに変更したところ、大きくバイクの印象が変わりました。ギアを掛けると自然と前に進み、ある程度路面が荒れていても良く走ってくれました。さすがに各社のハイエンドバイクと比べてしまうのは酷ですが、価格を踏まえれば必要以上の性能です。
山添さんと共通していますが、掛かりに関して言うと40km/hまでは車体がスッと進む気持ち良いフィーリング。それ以上の高速域だと加速がやや鈍る傾向にあります。どう踏んでも反応性は悪くありませんが、高速域でパワーを掛けるとBBあたりに若干のヨレが生じ、ワンテンポ遅れてスピードが乗ってくる雰囲気があります。
ベストなシチュエーションは上りのあるロードレース。JPTレベルにも十分に対応しますが、重いギアだとやや反応が遅れるため、ペース緩急のあまり無いようなコースで一番活躍してくれるかと思います。実業団で言うと美麻のコースには良いですね。淡々と走るエンデューロ系レースにも向いているでしょう。
また、長い距離のヒルクライムでも戦力になってくれるはず。持った重量以上に走りの軽さがあり、軽量ホイールとのマッチングも良さそうに感じます。
冒頭で振動吸収性については程よく路面状況を伝え、レーサーとしてちょうど良いレベルと言えるでしょう。特にリアバックの突き上げカットはなかなか優秀ですね。
各部を見ても作りに雑な部分はありませんし、ルックスも性能も良くまとまっていると思います。価格も買い求めやすいですし、上りのあるレースやヒルクライムを中心に据えるホビーライダーにベストな一台だと思い増す。
「低中速域での加速に優れる。国内のレースにフィットした性能を感じる」山添悟志(Squipe)
加速の良いピュアレーシングバイクという印象を受けました。ハンドリングもクイック傾向に振られていてキレが良く、低速域から中速域への瞬間的な加速が強いられるクリテリウムのようなレースには最適だと感じました。
それを可能としているのは、具体的に言うと踏み出しの軽さ。それもトルクやギアを掛けた、レース状況下ではキラリと光るものがあると感じます。ギアを掛けずにゆったりと踏む分には良くも悪くも印象に残りませんが、苦しい状態からのひと伸びはかなり優秀ですね。シッティングはもちろんのこと、ダンシングでの加速も良く、フレーム全体でバランスが取れています。50km/h以上の高速域からの加速は、比較してやや劣るでしょうか。
フレーム1090gと決して軽くはありませんが、重量を感じさせない軽い走りをしてくれますね。共通してハンドリングもキビキビとしていて、レーサー好み。切れ込んでいくため、直進安定性を求める方には落ち着きが無いと捉えられるかもしれませんが、慣れの範疇だと感じます。
上りは距離で言うとパワーで押しきれるような短い上りが向いていますが、ロングヒルクライムでも欠点は無いはずです。ただヒルクライムマシンでは無いため、狙った性能では無い、と言ったところ。やはりヴェルノはロードレースに向いたマシンです。快適性に関しては取り立てて良くもなく、さりとて悪くもありません。カーボンバイクのごく標準的な点数ですね。
日本のブランドが、日本のレーサーのために作ったバイク。ですから比較的路面の状況が良く、距離が短くて、アタックが頻発するような日本のレースには適していると感じました。
試乗車のホイールはボーマオリジナルのカーボンディープでしたが、レースで使う場合のオススメはリムハイト30~40mm以下のカッチリとしたアルミホイールです。中低速の加速に優れているため、例えばデュラエースのC24やC35などですと、より性能を引き出すことができるでしょう。修善寺で周回数の多いレースだと少しキツいかもしれませんが、群馬CSCなら全く問題ありません。国内ならばほとんどのロードレースにマッチした一台です。
ボーマ VELNO
フレーム素材:T-700ハイモジュラスカーボン 12K仕上げ
カラー:マットブラック×グレー
重 量:フレーム:1,030g フォーク:365g
サイズ(C-T):S-450 / M-480/ L-510/ XL-540(mm)
フロントディレーラー直付
シートクランプ径:31.mm6
価 格:189,000円(税込、フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
品川真寛(YOU CAN)
2003年に日本鋪道よりプロデビュー。2005年からシマノ・メモリーコープ(現アルゴス・シマノ)に移籍し、ヨーロッパに活躍の舞台を移す。パリ~ルーベをはじめ春のクラシックレースに多数出場し、2008年から愛三工業レーシングに移籍。アジアのレースで入賞歴多数を誇る。2012年限りで引退し、現在はYOU CAN大磯店にて勤務する。愛称は「しなしな」。
YOU CAN
山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
神奈川県厚木市に1996年にオープンしたロード系プロショップ、スポーツバイスクル・スキップの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。
スポーツバイスクル スキップ
ウェア協力:VALETTE(バレット)
text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
埼玉に拠点を置く国内ブランド、BOMA(ボーマ)。カーボン繊維商社を前身とするASKトレーディングを母体とするこのブランドの強みは、アジア有数のハイテク工場と深い関係を持つこと。
カーボンシートの手配から生産までを安定して管理でき、企画からデザイン、設計、生産管理は自社で行なっている。日本国内のアスリートへと機材供給を行い、選手はじめ専門ショップの細かい意見要望も取り入れ、身近でハイコストパフォーマンスな製品を作り続けているブランドだ。
2013年ラインナップ現在、トラックバイクからMTBまで18種類に及ぶ拡充ぶりを見せるボーマのバイクラインナップ。その豊富なバリエーションの中、「ヴァイド」や「リファール」と並びレーシングロードバイクの中核を成す車両が今回インプレッションを行うヴェルノである。
スローピング角の大きなトップチューブを持つヴェルノ。奇をてらわない、シャープかつ比較的オーソドックスな形状とすることで、高い剛性と踏み出しの軽さ、そして乗り心地という相反する要素の両立を目指したモデルだ。
ヴェルノのフレーム素材として使われているのはT-700グレードのハイモジュラスカーボンだが、成形段階では3つの工夫が加えられる。まず一つ目は、トップチューブのヘッド部からリアブレーキホール下まで一体成型し、センター精度を向上させることで軽量化に繋げる「イークアルパワーチューブ」。
2つ目は、各チューブの接合部分に柔軟性のある3Kカーボンを使用した上、シリコン系の成型パーツで加圧するデュアルモールディングテクノロジー。シート厚を均一にすることで素材量を減らすことができ、強度、剛性はそのままに軽量化を実現しているのだ。
そして3つ目は、全体の低重心化を計る「ローセンターグラビティ」だ。これはカーボンシートの積層数、角度を最適化、ダウンチューブBB周りの剛性を可能な限り上げることで、ダッシュ力を磨くことはもちろん、ダンシングでの振りやすさ・しなやかさに繋げるのだ。
シートステー、チェーンステー共に内側へとベンドさせた小さなリアトライアングルは、積極的にしならせることで乗り心地の向上を目指した造形。また、チェーンステーは複雑なフォルムを描くことで路面追従性とパワー伝達効率の両立を目指した。
ヴェルノの重量はフレームで1030g。決して超軽量では無いものの、フレームセットで189,000円(税込)というプライスを考慮すれば必要にして十分。落車のリスクを考えれば、学連登録選手やホビーレーサーにとっては嬉しい価格設定だ。
高い剛性を持ちながら踏み出しの軽さ、そして乗り心地の両立を目指したカーボンバイクがヴェルノ。テストライダー両氏はどう評価するのだろうか? 早速インプレッションをお届けしよう。なおテストバイクはプロトモデルで、化粧カーボンが3K(製品版は12K)となっていることを承知頂きたい。
―インプレッション
「重量では計れない上り性能の良さがある。JPTレベルにも対応する」品川真寛(YOU CAN)
程よい振動吸収性と掛かり、様々な要素がバランスよくまとまったカーボンレーシングバイクという第一印象を受けました。
当初完成車に組まれていたハンドルとホイールがかなり柔らかく、性能をスポイルしていましたが、アルミのロープロファイルホイールに変更したところ、大きくバイクの印象が変わりました。ギアを掛けると自然と前に進み、ある程度路面が荒れていても良く走ってくれました。さすがに各社のハイエンドバイクと比べてしまうのは酷ですが、価格を踏まえれば必要以上の性能です。
山添さんと共通していますが、掛かりに関して言うと40km/hまでは車体がスッと進む気持ち良いフィーリング。それ以上の高速域だと加速がやや鈍る傾向にあります。どう踏んでも反応性は悪くありませんが、高速域でパワーを掛けるとBBあたりに若干のヨレが生じ、ワンテンポ遅れてスピードが乗ってくる雰囲気があります。
ベストなシチュエーションは上りのあるロードレース。JPTレベルにも十分に対応しますが、重いギアだとやや反応が遅れるため、ペース緩急のあまり無いようなコースで一番活躍してくれるかと思います。実業団で言うと美麻のコースには良いですね。淡々と走るエンデューロ系レースにも向いているでしょう。
また、長い距離のヒルクライムでも戦力になってくれるはず。持った重量以上に走りの軽さがあり、軽量ホイールとのマッチングも良さそうに感じます。
冒頭で振動吸収性については程よく路面状況を伝え、レーサーとしてちょうど良いレベルと言えるでしょう。特にリアバックの突き上げカットはなかなか優秀ですね。
各部を見ても作りに雑な部分はありませんし、ルックスも性能も良くまとまっていると思います。価格も買い求めやすいですし、上りのあるレースやヒルクライムを中心に据えるホビーライダーにベストな一台だと思い増す。
「低中速域での加速に優れる。国内のレースにフィットした性能を感じる」山添悟志(Squipe)
加速の良いピュアレーシングバイクという印象を受けました。ハンドリングもクイック傾向に振られていてキレが良く、低速域から中速域への瞬間的な加速が強いられるクリテリウムのようなレースには最適だと感じました。
それを可能としているのは、具体的に言うと踏み出しの軽さ。それもトルクやギアを掛けた、レース状況下ではキラリと光るものがあると感じます。ギアを掛けずにゆったりと踏む分には良くも悪くも印象に残りませんが、苦しい状態からのひと伸びはかなり優秀ですね。シッティングはもちろんのこと、ダンシングでの加速も良く、フレーム全体でバランスが取れています。50km/h以上の高速域からの加速は、比較してやや劣るでしょうか。
フレーム1090gと決して軽くはありませんが、重量を感じさせない軽い走りをしてくれますね。共通してハンドリングもキビキビとしていて、レーサー好み。切れ込んでいくため、直進安定性を求める方には落ち着きが無いと捉えられるかもしれませんが、慣れの範疇だと感じます。
上りは距離で言うとパワーで押しきれるような短い上りが向いていますが、ロングヒルクライムでも欠点は無いはずです。ただヒルクライムマシンでは無いため、狙った性能では無い、と言ったところ。やはりヴェルノはロードレースに向いたマシンです。快適性に関しては取り立てて良くもなく、さりとて悪くもありません。カーボンバイクのごく標準的な点数ですね。
日本のブランドが、日本のレーサーのために作ったバイク。ですから比較的路面の状況が良く、距離が短くて、アタックが頻発するような日本のレースには適していると感じました。
試乗車のホイールはボーマオリジナルのカーボンディープでしたが、レースで使う場合のオススメはリムハイト30~40mm以下のカッチリとしたアルミホイールです。中低速の加速に優れているため、例えばデュラエースのC24やC35などですと、より性能を引き出すことができるでしょう。修善寺で周回数の多いレースだと少しキツいかもしれませんが、群馬CSCなら全く問題ありません。国内ならばほとんどのロードレースにマッチした一台です。
ボーマ VELNO
フレーム素材:T-700ハイモジュラスカーボン 12K仕上げ
カラー:マットブラック×グレー
重 量:フレーム:1,030g フォーク:365g
サイズ(C-T):S-450 / M-480/ L-510/ XL-540(mm)
フロントディレーラー直付
シートクランプ径:31.mm6
価 格:189,000円(税込、フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
品川真寛(YOU CAN)
2003年に日本鋪道よりプロデビュー。2005年からシマノ・メモリーコープ(現アルゴス・シマノ)に移籍し、ヨーロッパに活躍の舞台を移す。パリ~ルーベをはじめ春のクラシックレースに多数出場し、2008年から愛三工業レーシングに移籍。アジアのレースで入賞歴多数を誇る。2012年限りで引退し、現在はYOU CAN大磯店にて勤務する。愛称は「しなしな」。
YOU CAN
山添悟志(スポーツバイスクル・スキップ)
神奈川県厚木市に1996年にオープンしたロード系プロショップ、スポーツバイスクル・スキップの店主。脚質はスプリンターで、過去にいわきクリテリウムBR-2で優勝した経験を持つ。走り系ショップとして有名だが、クラブ員と一緒にグルメツーリングを行うなど、「自転車で走る楽しみ」も同時に追求している。
スポーツバイスクル スキップ
ウェア協力:VALETTE(バレット)
text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO
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