2013/02/11(月) - 05:05
お台場海浜公園の砂浜で、接戦を繰り広げたジェレミー・パワーズ(ラファ・フォーカス)と竹之内悠(コルバ・スペラーノハム)。「勝負を決めたのは、忍耐と経験」と語る前全米チャンピオンが、全日本チャンピオンを力でねじ伏せた。
長い砂浜や舗装路、階段、フライオーバー、林間のシングルトラックが組み合わされたシクロクロス東京のコース。大会2日目の2月10日には、1万人(大会公式発表)が会場に脚を運んだ。
今年来日した海外選手は6名。昨年大会2位のティモシー・ジョンソン(キャノンデールpbシクロクロスワールド.com)と、2011年のシクロクロス全米チャンピオンで、今回初出場のジェレミー・パワーズ(ラファ・フォーカス)という2人のUCIワールドカップレーサーが注目を集める。
J-POWの愛称で呼ばれるパワーズは、自身をフィーチャーした映像シリーズ「Behind THE Barriers」の撮影クルーを引き連れて来日。しかし、アメリカ出国前からウィルス感染によって食事を受け付けない状態が続き、レース当日の朝を含めて3日間ほとんど食事が出来ていないという状況に。それでもレース前後は気丈にファンサービスに応じ、何事もなかったかのようにスタートラインに並んだ。
レースはパワーズとジョンソン、そしてコルバチームデザインの全日本チャンピオンを初披露した竹之内悠の3人を中心に展開された。
合計13周回のうち、2周目までは竹之内が独走。多くの選手にランを強いた長い砂浜を、ほぼ100%乗車してクリアする。出場選手中、最も高い砂浜乗車率を誇った竹之内は、1.0に近い値までタイヤの空気圧を下げていた(高度なテクニックがあっての空気圧であり、簡単に真似出来るものではない)。
竹之内にはジョンソンとパワーズの2人が追いつき、3人の先頭パックを形成してペースを上げる。
負けじと小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)と丸山厚(JPスポーツテストチームMASSA ANDEX)も前半から好ペースを刻んだが、徐々に先頭3名とのタイム差が広がって行く。代わって4番手と5番手にはスペンサー・パクソン(コナシクロクロスチーム)とエリック・トンキン(コナシクロクロスチーム)が上がった。
一時的にジョンソンが先行し、竹之内とパワーズが食い下がる。しかし周回毎にコロコロと先頭の順位は変動。ワンミスで数秒遅れることはあっても、3名のパックは崩れない。パワーズとジョンソンが先行するシーンも見られたが、竹之内が粘る。
昨年も竹之内は前半から先頭でレースを展開したが、最終的に欧米勢に抜かれて4位でゴールするという苦い思いを味わった。しかし今年の竹之内は先頭のポジションを失わない。竹之内の後退を見て一瞬落胆の色が混じった観客の声は、再び熱い歓声へと変わる。パワーズとジョンソンを抜き返す全日本チャンピオンの力走に会場が沸いた。
レースが中盤に差し掛かった頃、ついに砂浜区間でジョンソンが先頭から脱落。竹之内とパワーズの2人旅となる。徐々に険しい表情になりながらも、竹之内はペースを保ったまま自分のラインを走り、パワーズがその轍をトレースする。
このシクロクロス東京では、UCIレースや国内外の選手権で適応される80%ルールではなく、200%ルール(2周回遅れると次の周回に入ることが出来ない)が適応されたため、コース上では周回遅れの選手とトップ選手が入り乱れる状態に。ゴールまで残り2周に入った直後、砂浜区間でラインを譲らない周回遅れの選手と接触し、竹之内が転倒してしまう。
すぐ後ろを走っていたパワーズは「落ち着け、大丈夫だから」と声をかけ、アタックすることなく竹之内とともにレースを再開する。そして残り1周半に差し掛かった砂浜区間で、ついにパワーズが前に出た。
パワーズのペースアップによって、徐々に竹之内との距離が広がって行く。最終周回で独走に持ち込んだパワーズが、歓声に包まれる中フィニッシュラインを駆け抜けた。
「スタートの時点では本当に気分が悪くて、勝つための戦略なんて考えられるような状態ではなかった」というパワーズ。脱水も重なってゴール後は朦朧とした状態が続いた。
「後半は(竹之内)悠の後ろについて、様子を見ながら走った。でも決して彼の後ろで休んでいたわけではない。今日のような砂地のコースでは楽に走れるラインが一本しかなくて、そのラインを外すと三倍は疲労してしまう。だから悠の前に出るのは本当に難しかった。今日は経験で勝ったと言っていいと思う。深くまで追い込んで、思わぬミスが生まれてしまうようなレース終盤に、勝敗を分けるのは経験からくる忍耐。つまりマチュリティー(成熟)だ。それに、最初からエネルギー不足だったので、エネルギーを無駄に出来なかった」。
パワーズから6秒遅れでゴールした竹之内は、ハンドルに沈めた顔を上げ、「嬉しいけど、悔しい」という複雑な心境を語る。
「勝つためにホールショットを取って、前半から(前に)行きました。落ち着いて、本気で、一定ペースで走り続けた。昔だったら、一度(パワーズやジョンソンから)遅れたところで気持ちが切れていたと思います。レースの後半は先頭を走っていたものの、パワーズ選手は常に落ち着いて走っていた。ラスト2周で前に出たパワーズ選手は、それまで遅く走っていたコーナーをめちゃくちゃ速くクリアした(そこで距離が開いてしまった)」。
竹之内は「UCIワールドカップを走る選手たちと闘えたこと」に感謝する。今シーズンは全日本選手権で連覇を達成したものの、長いロードシーズンの疲れもあって、どこか精神的にも身体的にも追い込めずにいた。幾分消化不良のシーズンの締めくくりとして出場したシクロクロス東京で、出し切った。竹之内はレース後すぐ関西に戻り、翌11日に香川県で行なわれるさぬきクロスに出場する予定だ。
優勝したパワーズは、長時間ともに走った竹之内について「まだ若くて目標も高く、走りもスムーズだった。将来あるライダーだと思う」と評価。「ヨーロッパと違って、日本では選手が自分自身で動いて、自分自身から学ばないといけないことが多い。そういう点ではアメリカと日本は似ていると思う」と付け加えた。
周回が短いことに加え、レース先頭が高速化した影響で、トップと同周回でレースを終えたのは僅かに7名(パワーズ、竹之内、ジョンソン、パクソン、トンキン、小坂光、丸山)。その後方にバリー・ウィックス(コナシクロクロスチーム)と小坂正則(スワコレーシング)が続く。後方スタートから追い上げた山本和弘(キャノンデール・チャンピオンシステム)が10位に入った。
レースの模様はフォトギャラリーにて!
シクロクロス東京2013エリート男子
1位 ジェレミー・パワーズ(ラファ・フォーカス) 1h04'44"
2位 竹之内悠(コルバ・スペラーノハム) +06"
3位 ティモシー・ジョンソン(キャノンデールpbシクロクロスワールド.com) +51"
4位 スペンサー・パクソン(コナシクロクロスチーム) +2'59"
5位 エリック・トンキン(コナシクロクロスチーム) +4'01"
6位 小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム) +4'23"
7位 丸山厚(JPスポーツテストチームMASSA ANDEX) +4'57"
8位 バリー・ウィックス(コナシクロクロスチーム) -1Lap
9位 小坂正則(スワコレーシング) -1Lap
10位 山本和弘(キャノンデール・チャンピオンシステム) -1Lap
text&photo:Kei Tsuji
長い砂浜や舗装路、階段、フライオーバー、林間のシングルトラックが組み合わされたシクロクロス東京のコース。大会2日目の2月10日には、1万人(大会公式発表)が会場に脚を運んだ。
今年来日した海外選手は6名。昨年大会2位のティモシー・ジョンソン(キャノンデールpbシクロクロスワールド.com)と、2011年のシクロクロス全米チャンピオンで、今回初出場のジェレミー・パワーズ(ラファ・フォーカス)という2人のUCIワールドカップレーサーが注目を集める。
J-POWの愛称で呼ばれるパワーズは、自身をフィーチャーした映像シリーズ「Behind THE Barriers」の撮影クルーを引き連れて来日。しかし、アメリカ出国前からウィルス感染によって食事を受け付けない状態が続き、レース当日の朝を含めて3日間ほとんど食事が出来ていないという状況に。それでもレース前後は気丈にファンサービスに応じ、何事もなかったかのようにスタートラインに並んだ。
レースはパワーズとジョンソン、そしてコルバチームデザインの全日本チャンピオンを初披露した竹之内悠の3人を中心に展開された。
合計13周回のうち、2周目までは竹之内が独走。多くの選手にランを強いた長い砂浜を、ほぼ100%乗車してクリアする。出場選手中、最も高い砂浜乗車率を誇った竹之内は、1.0に近い値までタイヤの空気圧を下げていた(高度なテクニックがあっての空気圧であり、簡単に真似出来るものではない)。
竹之内にはジョンソンとパワーズの2人が追いつき、3人の先頭パックを形成してペースを上げる。
負けじと小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム)と丸山厚(JPスポーツテストチームMASSA ANDEX)も前半から好ペースを刻んだが、徐々に先頭3名とのタイム差が広がって行く。代わって4番手と5番手にはスペンサー・パクソン(コナシクロクロスチーム)とエリック・トンキン(コナシクロクロスチーム)が上がった。
一時的にジョンソンが先行し、竹之内とパワーズが食い下がる。しかし周回毎にコロコロと先頭の順位は変動。ワンミスで数秒遅れることはあっても、3名のパックは崩れない。パワーズとジョンソンが先行するシーンも見られたが、竹之内が粘る。
昨年も竹之内は前半から先頭でレースを展開したが、最終的に欧米勢に抜かれて4位でゴールするという苦い思いを味わった。しかし今年の竹之内は先頭のポジションを失わない。竹之内の後退を見て一瞬落胆の色が混じった観客の声は、再び熱い歓声へと変わる。パワーズとジョンソンを抜き返す全日本チャンピオンの力走に会場が沸いた。
レースが中盤に差し掛かった頃、ついに砂浜区間でジョンソンが先頭から脱落。竹之内とパワーズの2人旅となる。徐々に険しい表情になりながらも、竹之内はペースを保ったまま自分のラインを走り、パワーズがその轍をトレースする。
このシクロクロス東京では、UCIレースや国内外の選手権で適応される80%ルールではなく、200%ルール(2周回遅れると次の周回に入ることが出来ない)が適応されたため、コース上では周回遅れの選手とトップ選手が入り乱れる状態に。ゴールまで残り2周に入った直後、砂浜区間でラインを譲らない周回遅れの選手と接触し、竹之内が転倒してしまう。
すぐ後ろを走っていたパワーズは「落ち着け、大丈夫だから」と声をかけ、アタックすることなく竹之内とともにレースを再開する。そして残り1周半に差し掛かった砂浜区間で、ついにパワーズが前に出た。
パワーズのペースアップによって、徐々に竹之内との距離が広がって行く。最終周回で独走に持ち込んだパワーズが、歓声に包まれる中フィニッシュラインを駆け抜けた。
「スタートの時点では本当に気分が悪くて、勝つための戦略なんて考えられるような状態ではなかった」というパワーズ。脱水も重なってゴール後は朦朧とした状態が続いた。
「後半は(竹之内)悠の後ろについて、様子を見ながら走った。でも決して彼の後ろで休んでいたわけではない。今日のような砂地のコースでは楽に走れるラインが一本しかなくて、そのラインを外すと三倍は疲労してしまう。だから悠の前に出るのは本当に難しかった。今日は経験で勝ったと言っていいと思う。深くまで追い込んで、思わぬミスが生まれてしまうようなレース終盤に、勝敗を分けるのは経験からくる忍耐。つまりマチュリティー(成熟)だ。それに、最初からエネルギー不足だったので、エネルギーを無駄に出来なかった」。
パワーズから6秒遅れでゴールした竹之内は、ハンドルに沈めた顔を上げ、「嬉しいけど、悔しい」という複雑な心境を語る。
「勝つためにホールショットを取って、前半から(前に)行きました。落ち着いて、本気で、一定ペースで走り続けた。昔だったら、一度(パワーズやジョンソンから)遅れたところで気持ちが切れていたと思います。レースの後半は先頭を走っていたものの、パワーズ選手は常に落ち着いて走っていた。ラスト2周で前に出たパワーズ選手は、それまで遅く走っていたコーナーをめちゃくちゃ速くクリアした(そこで距離が開いてしまった)」。
竹之内は「UCIワールドカップを走る選手たちと闘えたこと」に感謝する。今シーズンは全日本選手権で連覇を達成したものの、長いロードシーズンの疲れもあって、どこか精神的にも身体的にも追い込めずにいた。幾分消化不良のシーズンの締めくくりとして出場したシクロクロス東京で、出し切った。竹之内はレース後すぐ関西に戻り、翌11日に香川県で行なわれるさぬきクロスに出場する予定だ。
優勝したパワーズは、長時間ともに走った竹之内について「まだ若くて目標も高く、走りもスムーズだった。将来あるライダーだと思う」と評価。「ヨーロッパと違って、日本では選手が自分自身で動いて、自分自身から学ばないといけないことが多い。そういう点ではアメリカと日本は似ていると思う」と付け加えた。
周回が短いことに加え、レース先頭が高速化した影響で、トップと同周回でレースを終えたのは僅かに7名(パワーズ、竹之内、ジョンソン、パクソン、トンキン、小坂光、丸山)。その後方にバリー・ウィックス(コナシクロクロスチーム)と小坂正則(スワコレーシング)が続く。後方スタートから追い上げた山本和弘(キャノンデール・チャンピオンシステム)が10位に入った。
レースの模様はフォトギャラリーにて!
シクロクロス東京2013エリート男子
1位 ジェレミー・パワーズ(ラファ・フォーカス) 1h04'44"
2位 竹之内悠(コルバ・スペラーノハム) +06"
3位 ティモシー・ジョンソン(キャノンデールpbシクロクロスワールド.com) +51"
4位 スペンサー・パクソン(コナシクロクロスチーム) +2'59"
5位 エリック・トンキン(コナシクロクロスチーム) +4'01"
6位 小坂光(宇都宮ブリッツェンシクロクロスチーム) +4'23"
7位 丸山厚(JPスポーツテストチームMASSA ANDEX) +4'57"
8位 バリー・ウィックス(コナシクロクロスチーム) -1Lap
9位 小坂正則(スワコレーシング) -1Lap
10位 山本和弘(キャノンデール・チャンピオンシステム) -1Lap
text&photo:Kei Tsuji
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