2012/05/05(土) - 11:39
DOMANEについての製品プレゼンテーションをひと通り受けた後、出席した世界各国からの招待ジャーナリスト約50人とともにテストライドに出かける。プロレースの前日、DOMANEを駆ってロンド・ファン・フラーンデレンのコースを実際に走る機会が用意されたのだ。
走るコースは滞在先のコルトレイクから、ロンドで使用されるパヴェへ。レースのハイライトとも言える地域へと向かう。コース上にはコッペンベルグ、オウデ・クワレモント、パテルベルグなど勝負どころとなっている有名なパヴェの難所が含まれている、約100kmだ。
用意されたバイクは、DOMANEの50サイズにデュラエースフルセット、ボントレガーのAEORUS5カーボンクリンチャーがセットされていた。
まずルックスはシート周辺のIsoSpeedリンク部がアクセントとなり、なかなかシャープだ。フォーク先端部が後方にオフセットしているのも、プレゼン時に受けた違和感ほどのものではない。むしろシートステーの湾曲具合とマッチして、曲線と直線をうまく組み合わせた統一感があるルックスだ。
テスターの私(綾野)は、ロンドの市民レース「RVVシクロ」の265kmと140kmの部、パリ〜ルーべの市民レース「パリ〜ルーベ・チャレンジ」を完走した経験があるので、パヴェの走りは身に覚えがある。だから通常のバイクで走った時との違いは分かる方だという自負はある。
ライディングフィールの印象から先にお伝えしよう。DOMANEの走りはとにかくスムーズだ。路面の振動がまったく気にならない。パヴェでなくても、路面のヒビや小石、硬い路面に浮いた砂利までも、その不快な振動を伝えてこないのだ。
そして悪名高いコッペンベルグの(荒れた石のブロックによる)パヴェでも、もちろん登るのに苦労はするが、振動に関してはうまくいなしてくれる。
この下りや平坦のパヴェは、実は激坂の上りパヴェよりもクセモノだ。スピードが上がる分、衝撃が容赦なく身体を襲う。
舗装路からパヴェに容赦無く突っ込んでいっても、路面からの衝撃とストレスが通常のバイクより明らかに少ない。そしてスピードの落ちが少なく、スピードを保ったまま走り続けられる。そして腕がアガらない(限界にならない)のだ。
舗装路を走っていて遭遇する穴や凹凸。意識せずに突っ込んだとしても、かなりの衝撃を減衰してくれる。そういった突然の大きな入力に対してIsoSpeedはかなり有効に作用する。シートチューブとフォークが程良くしなっているのだろう。
しかし、その作動は一瞬のことなので、しなりそのものを感じるとることは難しい。ただ、凹凸が続く道でフォーク先端の動きを注視してみると、かなりの振幅でしなっているのが見て取れる。
それ以上に驚くのが、そういった振動吸収性の高さがあるにもかかわらず、フレームが「柔らかい」「よくしなる」と感じることがないこと。逆に、フレーム剛性の高さ「がっしりした硬さ」を常に感じながら走れる。それは、相反する要素である「振動吸収性の高さ」と「剛性の高さ」を両立しているということなのだろう。「縦に適度に柔らかく、横には強い」という、ある意味ロードバイクが理想とする性能を実現していると感じた。
私は2011年にはテストを兼ねてあえてクリンチャータイヤでRVVシクロに出場し、このパヴェを走った経験がある。しかし同じクリンチャーでもDOMANEの走りはまったく異次元だった。「6気圧にセットしたチューブラーと同じ走りが、DOMANEなら7気圧のクリンチャーでできる」と感じた。
前者がタイヤのしなやかさで振動を吸収するのに比べ、後者DOMANEはバイク全体で仕事をしている。だからタイヤに頼らなくてもこの振動吸収性が得られることを体感できたのは驚きだった。もし6気圧のクリンチャータイヤでこの走りをすれば、リム打ちパンクは免れない。
舗装路での走りにがっしりした剛性感は感じるものの、脚にくる硬さはない。乾いた軽快感はないが、湿った重さでは決してない。たとえばゴールスプリントのような走りを試しても、まったく不利は感じないほどに良く進む。むしろフレームに変な柔らかさはないから、意図的に大きなペダリング入力を不規則に続けても、それを受け止めて逃がさない高い剛性感がある。フレームに決してヨレは感じない。しかし大小の振動は吸収してくれる。そして荒れた路面のスプリントではどのバイクより有利だろう。
DOMANEはマドン比で約100gの重量増があるという。その走りの重厚なフィーリングから軽量な感じはなおさら受けないが、その重量増ぶんはヒルクライムオンリーで使わない限りは気にならない範囲と言っていいだろうと思う。
テスターのひとりが、急コーナーでペダリングをしていたらペダルを路面に擦ったという。なるほどデータではBB下がりは80mmと、かなり大きめな数値だ。そのテスターはシマノSPD-SLを使用していたが、厚目のペダル+長いクランクを使用する際は気に留めておく必要はありそうだ。筆者はレディオシャック・ニッサン同様スピードプレイを使用しているが、コーナリング・クリアランスが大きいので問題なかった。
それにも関わらず、嫌な筋肉痛も、腕の上がったような痛みも、腰の負担も、格段に少なかった。一緒に走ったパヴェ初体験者たちはあまりそのことを大げさには感じていないはずだ。しかし、このメリットは計り知れないぐらい大きいと思った。
他に感じたメリットとしては、エンデュランスジオメトリーが身体に良くフィットしたこと。
これは個人差があるので一概に言えるものではないが、欧米人と比較してハンドルを高め・近めにセットする傾向のある自分にとっては、フレームそのものの設計がフィットしている。コラムの「首長族化」が防げるし、胴に対する手脚比率の短い典型的日本人体型の人には、もともとより適したジオメトリーだと思った。もっともこれはトレックが意図するものではないが。
カンチェラーラの「北のクラシック」での勝利をデビューに添えたかったDOMANEだが、それは落車事故によって叶わなかった。しかし彼は、その前哨戦たるイタリアの未舗装路区間を走るレース「ストラーデ・ビアンケ」でDOMANEとのファーストウィンを飾っており、その性能に納得したからこそ、再びDOMANEを駆り、続くロンドに臨んだのだ。
そしてもちろんDOMANEはパヴェ専用バイクと言うわけではなく、多くの人にとって、多くの走行ケースでメリットがあるバイクだと感じた。レースバイクを突き詰めればマドンもあるが、わずかな重量増でDOMANEが身につけたものは大きい。
走るコースは滞在先のコルトレイクから、ロンドで使用されるパヴェへ。レースのハイライトとも言える地域へと向かう。コース上にはコッペンベルグ、オウデ・クワレモント、パテルベルグなど勝負どころとなっている有名なパヴェの難所が含まれている、約100kmだ。
用意されたバイクは、DOMANEの50サイズにデュラエースフルセット、ボントレガーのAEORUS5カーボンクリンチャーがセットされていた。
まずルックスはシート周辺のIsoSpeedリンク部がアクセントとなり、なかなかシャープだ。フォーク先端部が後方にオフセットしているのも、プレゼン時に受けた違和感ほどのものではない。むしろシートステーの湾曲具合とマッチして、曲線と直線をうまく組み合わせた統一感があるルックスだ。
「振動を消し去ってしまう快適性」
地元の道を知るクラブチームのリーダー格の方にガイドされながら、フランドル地方特有の細かく入りくんだ細い農道のような道をつないで走っていく。DOMANEのコンセプトを試すにはおあつらえ向きの荒れた路面が続く。しかも脚自慢のライダーが揃っているため、かなりのスピードで飛ばし続ける。テスターの私(綾野)は、ロンドの市民レース「RVVシクロ」の265kmと140kmの部、パリ〜ルーべの市民レース「パリ〜ルーベ・チャレンジ」を完走した経験があるので、パヴェの走りは身に覚えがある。だから通常のバイクで走った時との違いは分かる方だという自負はある。
ライディングフィールの印象から先にお伝えしよう。DOMANEの走りはとにかくスムーズだ。路面の振動がまったく気にならない。パヴェでなくても、路面のヒビや小石、硬い路面に浮いた砂利までも、その不快な振動を伝えてこないのだ。
そして悪名高いコッペンベルグの(荒れた石のブロックによる)パヴェでも、もちろん登るのに苦労はするが、振動に関してはうまくいなしてくれる。
「相反する振動吸収性の高さと高剛性を両立」
とくに大きくその恩恵を感じるのは、速いスピードで荒れた路面に突っ込んだときだ。例えば下り気味のパヴェ。この下りや平坦のパヴェは、実は激坂の上りパヴェよりもクセモノだ。スピードが上がる分、衝撃が容赦なく身体を襲う。
舗装路からパヴェに容赦無く突っ込んでいっても、路面からの衝撃とストレスが通常のバイクより明らかに少ない。そしてスピードの落ちが少なく、スピードを保ったまま走り続けられる。そして腕がアガらない(限界にならない)のだ。
舗装路を走っていて遭遇する穴や凹凸。意識せずに突っ込んだとしても、かなりの衝撃を減衰してくれる。そういった突然の大きな入力に対してIsoSpeedはかなり有効に作用する。シートチューブとフォークが程良くしなっているのだろう。
しかし、その作動は一瞬のことなので、しなりそのものを感じるとることは難しい。ただ、凹凸が続く道でフォーク先端の動きを注視してみると、かなりの振幅でしなっているのが見て取れる。
それ以上に驚くのが、そういった振動吸収性の高さがあるにもかかわらず、フレームが「柔らかい」「よくしなる」と感じることがないこと。逆に、フレーム剛性の高さ「がっしりした硬さ」を常に感じながら走れる。それは、相反する要素である「振動吸収性の高さ」と「剛性の高さ」を両立しているということなのだろう。「縦に適度に柔らかく、横には強い」という、ある意味ロードバイクが理想とする性能を実現していると感じた。
「チューブラー要らずの快適性」
筆者はパヴェ上でのチューブラータイヤのメリットを知っている。しかしこの日使用したホイールはカーボンディープリムのクリンチャーホイールだ。タイヤもノーマルのロードタイヤ。特別太いタイヤも装着されていなかった。私は2011年にはテストを兼ねてあえてクリンチャータイヤでRVVシクロに出場し、このパヴェを走った経験がある。しかし同じクリンチャーでもDOMANEの走りはまったく異次元だった。「6気圧にセットしたチューブラーと同じ走りが、DOMANEなら7気圧のクリンチャーでできる」と感じた。
前者がタイヤのしなやかさで振動を吸収するのに比べ、後者DOMANEはバイク全体で仕事をしている。だからタイヤに頼らなくてもこの振動吸収性が得られることを体感できたのは驚きだった。もし6気圧のクリンチャータイヤでこの走りをすれば、リム打ちパンクは免れない。
舗装路での走りにがっしりした剛性感は感じるものの、脚にくる硬さはない。乾いた軽快感はないが、湿った重さでは決してない。たとえばゴールスプリントのような走りを試しても、まったく不利は感じないほどに良く進む。むしろフレームに変な柔らかさはないから、意図的に大きなペダリング入力を不規則に続けても、それを受け止めて逃がさない高い剛性感がある。フレームに決してヨレは感じない。しかし大小の振動は吸収してくれる。そして荒れた路面のスプリントではどのバイクより有利だろう。
「抜群のダウンヒルでの安定感」
DOMANEはダウンヒルも速い。しかしその速さを感じないほどに安定している。路面に弾かれないので安心してダウンヒルを攻められる。ハンドル周りからフレーム全体の強固な一体感が、コーナリング時の不安をまったく感じさせないのだ。DOMANEをクルマに例えれば、「軽快なロードタイヤを履いた4輪駆動のスポーツRV」といったところだろうか。DOMANEはマドン比で約100gの重量増があるという。その走りの重厚なフィーリングから軽量な感じはなおさら受けないが、その重量増ぶんはヒルクライムオンリーで使わない限りは気にならない範囲と言っていいだろうと思う。
テスターのひとりが、急コーナーでペダリングをしていたらペダルを路面に擦ったという。なるほどデータではBB下がりは80mmと、かなり大きめな数値だ。そのテスターはシマノSPD-SLを使用していたが、厚目のペダル+長いクランクを使用する際は気に留めておく必要はありそうだ。筆者はレディオシャック・ニッサン同様スピードプレイを使用しているが、コーナリング・クリアランスが大きいので問題なかった。
「マドン比100gの重量と引換えにDOMANEが得たもの」
この日走ったコースはロンドの魅力を凝縮したような厳しい約100kmだった。身体への負荷は通常のロードバイクで走ったとしたならかなり高かったはず。それにも関わらず、嫌な筋肉痛も、腕の上がったような痛みも、腰の負担も、格段に少なかった。一緒に走ったパヴェ初体験者たちはあまりそのことを大げさには感じていないはずだ。しかし、このメリットは計り知れないぐらい大きいと思った。
他に感じたメリットとしては、エンデュランスジオメトリーが身体に良くフィットしたこと。
これは個人差があるので一概に言えるものではないが、欧米人と比較してハンドルを高め・近めにセットする傾向のある自分にとっては、フレームそのものの設計がフィットしている。コラムの「首長族化」が防げるし、胴に対する手脚比率の短い典型的日本人体型の人には、もともとより適したジオメトリーだと思った。もっともこれはトレックが意図するものではないが。
カンチェラーラの「北のクラシック」での勝利をデビューに添えたかったDOMANEだが、それは落車事故によって叶わなかった。しかし彼は、その前哨戦たるイタリアの未舗装路区間を走るレース「ストラーデ・ビアンケ」でDOMANEとのファーストウィンを飾っており、その性能に納得したからこそ、再びDOMANEを駆り、続くロンドに臨んだのだ。
そしてもちろんDOMANEはパヴェ専用バイクと言うわけではなく、多くの人にとって、多くの走行ケースでメリットがあるバイクだと感じた。レースバイクを突き詰めればマドンもあるが、わずかな重量増でDOMANEが身につけたものは大きい。
text:綾野 真/シクロワイアード 提供:トレックジャパン