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パワーライダー向けの最新シューズ、RC9PWR(パワー)

今年4月、レースを最重視して作られるシマノのプレミアムライン「S-PHYRE(エスファイア)」シリーズに加わったレーシングシューズが、トラック競技やスプリンター向けに固定力を高めた「RC9PWR(SH-RC903PWR)」だ。

S-PHYRE(エスファイア)シリーズに新しく加わったパワーライダー向けモデル、RC903PWR photo:So Isobe

2世代続いた「RC9T(SH-RC901T(初代)SH-RC902T(第2世代))」の「T(トラック)」を外し、本シリーズの第3世代となる本作では、よりロードレースユーザーにも手に取ってもらえるよう「PWR(パワー)」に名称変更。高いフィット感で安定したペダリングを叶えるサラウンドラップ構造や、軽さを追い求めたシームレスミッドソール構造といったシマノ独自のシステム、1ダイヤル+ベルクロストラップなど先代同様の基本構造を引き継ぎつつ、素材や構造のアップデートによって飛躍的にレーシングシューズとしての完成度を高めている。

ノーマルモデル(RC903)との最大の差は、絶大な固定力を叶えるクロージャーシステムを採用していること。競輪やトラック競技で使われるペダルストラップとの干渉を避けるために1ダイヤル(BOA Li2)は1つだが、ワイヤーの折り返しを増す「パワーブーストガイド」を介すことで強力な締め付けを叶えたほか、本作ではダイヤル自体も先代までの樹脂製からメタル製に変更し、より強固な増し締めができるようになっている。

眩く虹色に光るヒールカップ。花形スプリンターの走りを彩るデザインだ photo:So Isobe

高い固定力を叶えるパワーブーストガイド+1BOAダイヤル。ダイヤルもメタル製となり剛性を上げている (c)シマノ
アウターソールも虹色にラミネート加工。目立ち度は抜群だ (c)シマノ


「競輪やトラック競技では、我々開発陣の想像を遥かに超えるほど強くシューズを締め付けるんです。足先はトゥストラップになっていますから指周辺の自由度は自由に調整できる。パワーブーストガイドを使うか、使わないかでもフィット感は違いますし、高出力ペダリング用ではあるものの、RC903の領域もカバーできるシューズに仕上げました」と言うのは、前章でも登場頂いたシマノのギア製品企画を担当する松井正史さん。さらに先代モデル(SH-RC902T)と比べてアッパー素材を変更して飛躍的に通気性を高めたという。

「アッパーのマイクロファイバーシンセティックレザーは伸びの少ない素材に変更しています。先代のRC902Tはアッパーの強度を出す上で通気口を減らしたことで通気性が良くありませんでした。『(短時間の)トラックだったら我慢するかな...』という声が多く、改善点として捉えていましたが、RC903PWRは素材強度が上がった分、固定力を担保しつつ通気口を空けることができた。普通にロードシューズとして長時間使えるほど通気性は良くなりましたね」と松井さんは説明する。

トラック競技や競輪のストラップと干渉を避ける1ダイヤル方式 photo:Shogo Ichimaru

薄い虹色に輝くヒールカップとアウトソールは、花形スプリンターの強烈な走りを引き立てるためにデザインされたもの。シルバーに輝くメタルダイヤルも性能のみならずルックスを引き上げるポイントだ。

RC903の後追いで2024年4月にデビューしたRC903PWRは、シマノがサポートする一丸尚伍ら競輪選手や、トラック選手から大きく支持されているほか、ロードレースではU23全日本王者に輝いた寺田吉騎(シマノレーシング)や橋本英也(チームブリヂストンサイクル)など、爆発力を武器にする選手たちの走りを支えている。

プロ選手が語るRC903PWR

ここからはRC903PWRを愛用する一丸尚伍、そして寺田吉騎のインプレッションを紹介する。

シリーズを知り尽くした競輪選手、一丸尚伍に聞く

一丸尚伍(S級2班)。ロード/トラック兼業選手から競輪選手に転向したスプリンター。歴代S-PHYREシューズの進化を足で体感してきた photo:Shogo Ichimaru

まず登場頂くのは、ブリヂストンやシマノレーシングでトラックとロードを兼業し、2021年に競輪に転向した一丸尚伍。トラック競技のアジア王者となった爆発力を武器にS級選手として活躍する彼は、実は初代RC901Tの開発にも携わった一人。歴代S-PHYREシューズの進化を体感してきた彼は「シマノシューズの武器はフィット感の高さ」と言い切る。

「思い切り締め込んでもフィット感が良く、痛みが出ません。ストレスの無いレーシングシューズです」 photo:Shogo Ichimaru
「カスタムフィットを前提としていないのに誰の足にも合うのが凄いですね。S-PHYREを履いている競輪選手は増えていますし、他ブランドに移っても出戻りする場合が多いんです。思い返してみると、BOAダイヤルで締めるようになったことでフィット感は大幅に改善したし、独自のサラウンドラップも効いていますよね。僕は短距離選手だからシューズがずれないように思いきり締めるのですが、それでもフィット感は崩れない。これは本当に凄いことだと感じます」とも。

「以前トラックの日本ナショナルチームに所属していた時、シマノさんに『トラック用のシューズを作ってほしい』と希望を伝えたんですが、それで開発して頂いたのが初代のRC901Tの原型だったんです。それからずっとRC901T、RC902T、そしてRC903PWRと同じシリーズを、通常のロードモデルと併せて使っています。1、2、3とモデルチェンジする中で感じるのは、フィット感と締め付け力がどちらも上がっていて、引き足がしやすい。本気で締め上げてもストレスなくレースに集中できるし、まさに自転車と一体になれるイメージですね。前作のRC902Tはちょっと踵がタイトで痛みが出るという選手もいたんですが、RC903PWRはそこが改善されていますね」。

S-PHYREシューズを買おうとした時に、一番気になるのが通常モデルRC903との違いだろう。一丸によれば基本的な履き心地自体に大きな差はないが、やはりダイヤルを締め込んだ時の固定力とストレスの無さがPWRの魅力だという。

「RC903PWRはシュータンがあるので強く締め付けた時に密着感が強く、それでいてクッションの役割があるから足が痛くなりづらいんです。RC903だとシュータンがないので同じくらい締めた時にちょっと痛みは出る。ここが大きな違いですね。実はこれって、僕が一番最初にRC901Tに対して要望を出したポイントなんですが、今でも継続されているのはとても嬉しいし、気に入っているポイントなんです。やはりいくら短時間のトラック競技といえどフィット感、快適性は大事ですから」。

「フィット感が高いから引き足がやりやすい。短時間レースであっても快適性は大切です」 photo:Shogo Ichimaru

「僕はロード練習でもずっとRC903PWRを履いていますし、長時間履いてもストレスが少ないのでロードレースにも全然使えてしまう。性能的にスプリンターやルーラーにはベストですが、ラストが合えばクライマーだって、パンチャーだっていける。すごく懐の広いレーシングシューズだと感じます」。

「シマノのS-PHYREシューズって、あらゆるバランスに長けている優秀なシューズだと思うんです。超ハイエンドのカスタムシューズブランドと比較して、めちゃくちゃ軽かったり、剛性が高かったりするわけではありませんが、フィット感がよく、ストレスがなくて、レーサーが求める機能が全部揃っていて誰でも履きこなせる。この上質な履き心地は、レースに出ないサイクリストにだっておすすめしたいですね」。

「ワイドな足に合う。シューズ選びに困っている方に」U23全日本王者、寺田吉騎

寺田吉騎(シマノレーシング)。欧州経験を積み、パワフルな走りを持ち味に勝利を量産。今年はU23全日本王者に輝いた。チャンピオンカラーのRC903PWR(ワイドサイズ)を愛用する photo:Satoru Kato

「ザ・短距離選手」たる一丸尚伍に続いて紹介するのは、頭抜けたパワーで勝利を量産し、今年のロードU23全日本王者に輝いたシマノレーシングの寺田吉騎のインプレッション。いかにもパワーライダーたる彼だが、RC903PWRを愛用する理由は「固定力というよりは、僕の足にフィットするからRC903PWRを選んでいるんです」と、少し意外なものだった。

「僕は普段からワイドサイズが合う足型で、特に指先が広い。だからBOAダイヤルよりもトゥーストラップで調整できる先代のRC902Tや、現行のRC903PWRを好んで使っています。シューズの締め付けや剛性はあまり気にしていなくて、パワーブーストガイドも使っていません。むしろ履き心地優先ですね。RC903は僕の足にはラストが狭くて痛みが出てしまうので、長時間走り続けるロードレースではパフォーマンスに影響してしまう。だから僕はRC903PWRですね」

「ストラップ方式だからつま先の調整の自由度が高い。ワイドな足にピッタリです」 photo:Satoru Kato

「僕はロードメインなので『トラック』の頭文字がついたRC9Tを最近まで履いたことがなかったんです。値段も通常モデルより少し高価ですしね。でも試しに履いたら、幅広の僕の足にピッタリ合うので驚きました。もっと早く履けば良かったなあ、って(笑)。僕は踏み込むタイプのペダリングなのですが、シマノのシューズは足をピッタリと包んでサポートしてくれるのでストレスがありません。RC903のワイドサイズでもまだ狭いって感じている人は少なくないと思うんですが、そういう悩みを持っているなら、まず一度試してみて欲しいなって思います。」

チャンピオンシューズを履く寺田吉騎(シマノレーシング) photo:Satoru Kato

そんな寺田には、日の丸をあしらった全日本チャンピオンシューズがシマノから供給されている。「すごくカッコいいし、オンリーワンのチャンピオンシューズだから本当に嬉しいです。モチベーションも上がるので、さらに活躍して、勝って、次に繋げていきたいと思います」と満足げ。で意表メンバー入りした世界選手権もこのチャンピオンシューズで走る。日の丸を背負う、若きチャンピオンの走りに注目してほしい。

シマノ S-PHYRE SH-RC903PWR

シマノ S-PHYRE SH-RC903PWR
カラーホワイト
サイズスタンダード:36、37、38、39~ 44(ハーフサイズあり)、45、46、47、48
重量230g(42サイズ)
税込価格63,580円
提供:シマノセールス | text:So Isobe