2024/10/21(月) - 16:09
新GRAVELKINGシリーズの開発にはプロレーサーをはじめとしたサポートライダーたちの協力があった。アメリカを拠点にグラベルレーサーとして活躍する竹下佳映プロ、世界各国のグラベルレースに参戦する高岡亮寛さん、そして自ら走って開発するパナレーサー社員ライダーのアドバイス&フィードバックから新GRAVELKINGの開発の経緯を明らかにしていく。
グラベル黎明期からのライダーでありレーサー。当時、アメリカのパナレーサー・グラベルレースチームに所属していた唯一の日本人で、グラベル本場の米国のメジャーレースで多くの成績を残している。チーム所属後はプライベーターとして活動を数年行い、現在も欧米・西欧・北欧のレースに参戦している。パナレーサー・グラベルキングの長年の愛用者でありアンバサダー。札幌出身。
https://www.instagram.com/kae_tkst/
グラベル人気がじわじわと出だした頃から、グラベル発祥の地アメリカを本拠地として走っています。アメリカのグラベルシーンにいち早く登場したパナレーサーGRAVELKINGシリーズは、長い間多くのグラベルライダーから信頼され愛されています。私もずっと使い続けているので、この春の新製品、GRAVELKING X1が届くのをとても楽しみにしていました。
2022年の帰国時にパナレーサー丹波工場にお伺いする機会があり、その時に新しいタイヤを開発中だと教えて頂きました。膨大な時間と距離をグラベルして過ごしているライダーの一人として、私からもフィードバックとリクエストをさせて頂きました。その中でも特に、これは是非お願いします!というのは以下のリクエストです。
グラベルの種類は地域によってバラエティーに富み、さらに天気によって性格ががらりと変わる。ハードパックで最高なSSは個人的にイチ推しで一番よく使っているが、グリップのあるタイヤが必要。SKはアメリカのグラベルシーンの昔から大人気タイヤだが、改善の余地がありそう。シクロクロストレッドに酷似したEXTは泥道を短距離走るだけなら良いけども、数時間に及ぶグラベルレースでは泥道以外でも速いトレッドが必要です。
あれもこれも欲しいと、ずいぶん欲張りなフィードバックをした気もしますが、出来上がりを心待ちにしていました!
今までならSSを選択していた走り易いハードパックのグラベルも、今後はX1が活躍する頻度が多くなりそうです。実際に去年SSで参戦したレースでも使ってみました。アメリカ、アパラチア山脈地方のブルーリッジマウンテンで開催の「The Appalachian Journey」や、グラベルアースシリーズの最高峰であり西欧最大規模のグラベルレース、スペイン・ジローナで開催の「The TRAKA」でもX1を使い、そのパフォーマンスに大満足です。
とくに急な勾配のグラベル登りや下りがあるコースだと安心感が違いますね。SSだとやや危なっかしくて攻められなかった場所でも、スピードを落とし過ぎずに走れます。軽い走りのフィーリングで、途中に出てくる舗装区間でも気になりません。
完全にリニューアルされたロゴやカラーも目を惹きます。X1のリリース当日には、アメリカの友人・グラベル仲間からも沢山メッセージが届きました。聞くコメントはポジティブなものばかりで、私まで嬉しくなってしまいました!
冒険・遊びから始まったグラベルも、今となっては立派なレース競技の一つとなりつつあります。それに応じて、各メーカー・ブランドが、ありとあらゆる方向から、レースでマージナル・ゲインを得るために開発を重ねています。
USAC(日本でいうJCF)の全米チャンピオンシップ開催も運営がしっかりしていて高評価でした。賞金配分・レース報道・メディアからの注目などへの男女平等にいちばん力をいれているのもグラベルです。アメリカのグラベルの根本・基盤であるコミュニティ重視のイベントもまだまだ衰えることは無さそうですし、イベントに出る・出ないに関わらず、グラベル人口も増えるばかりです。
私を含めた元祖ライダー達は、当時はグラベル専用機材なんてありませんでしたから、あるもので対応するしかありませんでした。最近のフレームはタイヤクリアランスがたっぷりありますし、それに伴いボリュームのあるタイヤの選択肢も増えました。トレッドもチョイスが多い! 最近のタイヤはパンクもしにくいし、本当に走りやすいです。
例を挙げると、アンバウンド・グラベル(旧名ダーティ・カンザ)も10年前くらいから何回も出場し続けましたが、最初の数年は32~35Cで走っていたなんて、今となっては信じられないですね。特にパンデミック後の2023年レースでは、「あれ? こんなにここのグラベル走り易かったかな」と思ってしまうくらいだったので、グラベル機材、特に地面に直にコンタクトするタイヤの改良ぶりは目覚ましいと思います。
タイヤ幅はより太くなる傾向で、以前なら40Cくらいで落ち着くのかと思いきや、これからは45Cが主流になっていくのかな、という感じです。コースによっては50Cや、マウンテンバイクタイヤを使う選手が出てくるグラベルレースもあります。またはテクニカル度の低いマウンテンバイクレースにグラベルバイクをちらほら見かけるようにもなりました(そう言う私もやりました)。
トップ選手が40C未満のタイヤを使うことはもうほぼ無いのでは、と思うほどです。変化し続けるグラベルの成長を、始めの頃から体験し続けているというのは貴重な経験です。
本格的にグラベルを楽しみたいなら、低めの空気圧で走れるので、ボリュームのあるタイヤが良いです。グリップが必要、テクニカルなルート、緩い石グラベルならば、迷わずX1でしょう。迷ったときはX1を選択すれば間違いないと思います。舗装の割合がほとんどで、ごくたまにグラベル、または舗装が劣化しているところばかり、というような場合はスリックやセミスリックを選択するのも良いかと思います。
私たちがよく口にする「Just Ride!」。まずはあまり深く考えず、乗ることが大事だと思います。そして、まだグラベルを体験したことが無い方は、是非試してみてください。
自身が立ち上げたRX BIKE代表にしてレーシングチームRoppongi Express主幹。ツール・ド・おきなわ市民200kmクラスで6度の優勝で最強ホビーレーサーとして知られ、UCIグランフォンド世界選手権で男子45-49歳の部に優勝。グラベルレースにも積極参戦。2023年はUCIグラベルワールドシリーズのセブングラベル(オーストラリア)で優勝、Unbound Gravelでは200マイル年代別男子45-49歳クラスで優勝、総合10位に。
3年前からパナレーサーのサポートを受けて、GRAVELKINGをレースで使用しています。過去3回のUnbound GravelもUCIグラベルレースも、すべてGRAVELKINGで走っています。以前はSSとSKのを使い分けてきましたが、「サイドノブを少し立たせてコーナリンググリップを稼げるようにしたものが欲しい」という要望を出していました。新しく追加されたX1は、そのサイドノブがはっきりと仕事をしてくれて、以来ほとんどのレースでX1を使っています。
グラベルを真っ直ぐ走るぶんにはサイドノブは路面抵抗にも関係なく、ほとんど必要もないんですが、X1では安心してコーナリングできるようになりましたね。とても良くなったと感じています。Unbound Gravelも、セブングラベルで優勝したときもX1。今やコースにかかわらずX1を使えばいい、というようになり、全幅の信頼を置いています。
サイズは40Cです。今年のUnbound Gravelは直前になってコースが酷く荒れているという情報が飛び交い、レース前夜に45Cに交換したんですが、結果的には40Cのままでも良かったんじゃないかと思います。45Cは快適度は増すものの、先頭集団での競り合いの中では少し重量を感じてしまいました。乗ったバイクが前後サスペンション装備のスペシャライズド DIVERGE STRだったので、振動吸収はサスに任せて40Cにしても良かったのではないかと思っています。
サスペンションにもメリット・デメリットはあり、速さや快適さ、身体へのダメージの軽減という面で機材やタイヤ選択はギリギリのせめぎあいですね。プロのようにメカニックサポートが受けられる体制は無いので、ほぼ全天候、全コンディション対応のX1はありがたいタイヤになりました。
サイズに関しては40Cがちょうど良いと感じていて、ケーシングに関しては強化された+(プラス)ケーシングもありますが、今までstd(スタンダード)ケーシングを使ってきてレース中のパンクは3年間で1度も無いので、レースならスタンダードで十分だと感じています。シーラントにこだわりは無いですが、相性の面で安心のパナレーサー純正のSEAL SMARTを使うようにしています。
最近になってリムの内幅32mmという超ワイドリム採用のZIPP 303 XPLR SWホイールが登場したことで、X1の40Cタイヤを取り付けると実測44mmぐらいの太さで使えることがわかりました。タイヤ重量はそのままでエアボリュームを増大させることができるので、そのセッティングに可能性を感じています。取り付けたタイヤ形状もそれほど無理なく拡がっている感じなので、10月のUCIグラベル世界選手権はその組み合わせでいくつもりです。ただしメーカー推奨外の組み合わせになるため、自己責任での使用です。
新GRAVELKING開発にあたり大きな役割を果たしたのが開発を担当する若手社員たちの挑戦だった。アメリカでのテストライドやアンバウンドグラベルのレース実走テストを通じて、若き社員チームが自らの体験から最適解を求め続けた。
アンバウンド200マイルレースの完走も果たした佐藤優人(パナレーサー)が代表して開発の経緯を明かす。
特に海外ではUCIを始めとするグラベルレースが盛んに開催されるようになりました。世界選手権も開催されており、こうした近年高速化するグラベルシーンによってライダーが使用するギアにも速さを求められるようになるようになりました。
またGRAVELKINGが発売された当初はチューブドで使用することが一般的であったため、ホイールに対して嵌めやすさやマウント性能のアップデートがされてきませんでした。そうした中で、近年ではTLR化もメジャーなセットアップの一つになってきているため、最新のホイールに対して嵌めやすさやTLRでセットしたときのマウントのしやすさも大きな改善要素の一つでした。
私たちが販売してきたGRAVELKINGは10年以上の長い歴史を持つタイヤですが、昨今のグラベルレースの高速化に伴う、これまでとは違った層へのアプローチとセットアップの変化など、多様なシーンへの対応が急務となりました。
2023年のUnbound Gravelには、それぞれ性格の異なるトレッドパターンを持ったサンプルタイヤを3種類用意しました。
それは「最も高速でトラクションを高めたパターン」「グリップに大きく性能を振ったパターン」「地面への食いつきを考慮したパターン」の3種類です。事前に国内のグラベルでもテストは行っていましたが、「やはり本場でもテストを行わなければ」ということで持ち込みが決定しました。
エンポリアの会場近隣に拠点を構え、レース当日までの数日の間に付近のグラベルをテスト走行し、今後の開発に向けて各々がフィードバックを残しました。
テスト走行後に各パターンで各々感じたことを話合うことで新鮮な情報を受け取ることができたため、製品に反映させる際に非常に役立つ情報を得られました。
また、Unbound Gravelレース当日も試作タイヤで走りました。この年は我々ライダーにとってはハードな気象条件のなかの厳しい走行となりましたが、タイヤのテストとしてみれば1度の走行で様々な気象条件のなか長距離のテストを行えたため、各試作品の良し悪しがはっきり出たことは非常に大きな収穫でした。
ライダーからのフィードバックを基に開発は進めますが、フィードバックはどうしても主観が入ってしまうため、開発チームも実際に国内やUnbound Gravelで使用し、協力ライダーからのフィードバックとの擦り合わせを行い、多方面から課題に対する解像度を上げていきました。
また、社内の試験機を使用することで、フィードバックからくる感覚的な部分を可能な限り数値化し、開発の精度を高めていきました。
開発という観点では、Unbound Gravelはますます高速化をしていくのではないかと思います。路面状況が良いだけではなく、プロライダーも積極的に参戦しており、そういった選手から得るフィードバックはやはり速さを求める声が大きいからです。今後タイヤは速さをベースとして様々な性能が求められていくように感じました。
Unbound Gravelが開催されるエンポリアのように町から2、3km走ればグラベルを走れるといった環境が少ないため、グラベルへのアプローチに少しストレスを感じてしまうのも事実でした。またグラベル区間を終えて次のグラベルまでアスファルトを走ることも多く、再びグラベルを走るとなっても、急坂が多く、登っては下っての繰り返しでタイヤが空転してしまうようなこともありました。
拠点からのアプローチやリエゾン区間を如何にストレスなくスムーズに走れて、グラベルではしっかりとグリップし、トラクションを稼ぎ、安全に走ることができるか。そういった経験や背景がベースにあり、今回新たに開発を行ったGRAVELKING X1のパターンが考え出されていったのです。
グラベル黎明期から使い続けてきたグラベルキングの着実な進化
竹下佳映(プログラベルライダー)
竹下佳映(たけした・かえ)プロフィール
グラベル黎明期からのライダーでありレーサー。当時、アメリカのパナレーサー・グラベルレースチームに所属していた唯一の日本人で、グラベル本場の米国のメジャーレースで多くの成績を残している。チーム所属後はプライベーターとして活動を数年行い、現在も欧米・西欧・北欧のレースに参戦している。パナレーサー・グラベルキングの長年の愛用者でありアンバサダー。札幌出身。
https://www.instagram.com/kae_tkst/
グラベル人気がじわじわと出だした頃から、グラベル発祥の地アメリカを本拠地として走っています。アメリカのグラベルシーンにいち早く登場したパナレーサーGRAVELKINGシリーズは、長い間多くのグラベルライダーから信頼され愛されています。私もずっと使い続けているので、この春の新製品、GRAVELKING X1が届くのをとても楽しみにしていました。
2022年の帰国時にパナレーサー丹波工場にお伺いする機会があり、その時に新しいタイヤを開発中だと教えて頂きました。膨大な時間と距離をグラベルして過ごしているライダーの一人として、私からもフィードバックとリクエストをさせて頂きました。その中でも特に、これは是非お願いします!というのは以下のリクエストです。
グラベルの種類は地域によってバラエティーに富み、さらに天気によって性格ががらりと変わる。ハードパックで最高なSSは個人的にイチ推しで一番よく使っているが、グリップのあるタイヤが必要。SKはアメリカのグラベルシーンの昔から大人気タイヤだが、改善の余地がありそう。シクロクロストレッドに酷似したEXTは泥道を短距離走るだけなら良いけども、数時間に及ぶグラベルレースでは泥道以外でも速いトレッドが必要です。
「43Cの次のサイズが50Cだと差が大きいため、その間を埋めるサイズが欲しい」
土壌によってはSKでは泥詰まりしやすく、スリックタイヤで走っているようなもの。ベッタベタの濡れた粘土質グラベルでも滑らないタイヤが欲しい。でもドライでもしっかり速く走るトレッドで。2020年にレポートしたザ・ミッドサウスの赤い泥道が懐かしいですね!「ホイールによってはビードがなかなか上がらないので、改善して欲しい」
そして要望以外の単なるコメント。「SKだと四角トレッドがちょうどいい具合に(悪い具合に?)小石を拾って後方に打ち上げるという現象が起き、後方ライダーが嫌がる」。後方ドラフティング防御対策としては都合が良いので、レースには良いのかも(笑)。あれもこれも欲しいと、ずいぶん欲張りなフィードバックをした気もしますが、出来上がりを心待ちにしていました!
仕上がった新X1を使用しての印象
時々トレーニングしに行くATV(四輪バギー)専用トレイルがあり、そこでX1に早速乗ってみました。まず下りのグリップが違う。特に緩いグラベルや滑りやすいコーナーへのアプローチに自信が持てます。これで今まで大きな(=重い)タイヤサイズに変更したり、慎重になっていた場所も楽に走れました。乗り心地も軽い。登ったり下りたりしながら「あー、これは良いわ!」と思わず声が出ました。今までならSSを選択していた走り易いハードパックのグラベルも、今後はX1が活躍する頻度が多くなりそうです。実際に去年SSで参戦したレースでも使ってみました。アメリカ、アパラチア山脈地方のブルーリッジマウンテンで開催の「The Appalachian Journey」や、グラベルアースシリーズの最高峰であり西欧最大規模のグラベルレース、スペイン・ジローナで開催の「The TRAKA」でもX1を使い、そのパフォーマンスに大満足です。
とくに急な勾配のグラベル登りや下りがあるコースだと安心感が違いますね。SSだとやや危なっかしくて攻められなかった場所でも、スピードを落とし過ぎずに走れます。軽い走りのフィーリングで、途中に出てくる舗装区間でも気になりません。
完全にリニューアルされたロゴやカラーも目を惹きます。X1のリリース当日には、アメリカの友人・グラベル仲間からも沢山メッセージが届きました。聞くコメントはポジティブなものばかりで、私まで嬉しくなってしまいました!
最近の欧米でのグラベルレース、それに伴う機材変化
グラベル発祥の地アメリカでは、プロ化する大会がいくつも出てきました。膨大な予算を費やすシリーズがいくつも出てきています。プロとアマチュアのスタートを完全に分けたり、男女のスタート時間を変える、SNSライブでの中継etc、色々変わってきています。賞金額が大きい大会もさらに増え、以前なら現役から退いたロードプロ選手がグラベル界に転身…というのがよくある流れでしたが、ここ数年ではグラベルレースだけに焦点を絞る若い選手も多く出てきましたし、スポンサーサポートや賞金だけで生活が成り立つトップ選手も出てきました。冒険・遊びから始まったグラベルも、今となっては立派なレース競技の一つとなりつつあります。それに応じて、各メーカー・ブランドが、ありとあらゆる方向から、レースでマージナル・ゲインを得るために開発を重ねています。
USAC(日本でいうJCF)の全米チャンピオンシップ開催も運営がしっかりしていて高評価でした。賞金配分・レース報道・メディアからの注目などへの男女平等にいちばん力をいれているのもグラベルです。アメリカのグラベルの根本・基盤であるコミュニティ重視のイベントもまだまだ衰えることは無さそうですし、イベントに出る・出ないに関わらず、グラベル人口も増えるばかりです。
機材と同時に求めるタイヤも変化していった
私を含めた元祖ライダー達は、当時はグラベル専用機材なんてありませんでしたから、あるもので対応するしかありませんでした。最近のフレームはタイヤクリアランスがたっぷりありますし、それに伴いボリュームのあるタイヤの選択肢も増えました。トレッドもチョイスが多い! 最近のタイヤはパンクもしにくいし、本当に走りやすいです。
例を挙げると、アンバウンド・グラベル(旧名ダーティ・カンザ)も10年前くらいから何回も出場し続けましたが、最初の数年は32~35Cで走っていたなんて、今となっては信じられないですね。特にパンデミック後の2023年レースでは、「あれ? こんなにここのグラベル走り易かったかな」と思ってしまうくらいだったので、グラベル機材、特に地面に直にコンタクトするタイヤの改良ぶりは目覚ましいと思います。
タイヤ幅はより太くなる傾向で、以前なら40Cくらいで落ち着くのかと思いきや、これからは45Cが主流になっていくのかな、という感じです。コースによっては50Cや、マウンテンバイクタイヤを使う選手が出てくるグラベルレースもあります。またはテクニカル度の低いマウンテンバイクレースにグラベルバイクをちらほら見かけるようにもなりました(そう言う私もやりました)。
トップ選手が40C未満のタイヤを使うことはもうほぼ無いのでは、と思うほどです。変化し続けるグラベルの成長を、始めの頃から体験し続けているというのは貴重な経験です。
一般ライダーへのアドバイス
本格的にグラベルを楽しみたいなら、低めの空気圧で走れるので、ボリュームのあるタイヤが良いです。グリップが必要、テクニカルなルート、緩い石グラベルならば、迷わずX1でしょう。迷ったときはX1を選択すれば間違いないと思います。舗装の割合がほとんどで、ごくたまにグラベル、または舗装が劣化しているところばかり、というような場合はスリックやセミスリックを選択するのも良いかと思います。
私たちがよく口にする「Just Ride!」。まずはあまり深く考えず、乗ることが大事だと思います。そして、まだグラベルを体験したことが無い方は、是非試してみてください。
「オールラウンドに進化したX1に満足。今後はこの1本で迷い無し」
高岡亮寛(Roppingi Express)
高岡亮寛(Roppongi Express)プロフィール
自身が立ち上げたRX BIKE代表にしてレーシングチームRoppongi Express主幹。ツール・ド・おきなわ市民200kmクラスで6度の優勝で最強ホビーレーサーとして知られ、UCIグランフォンド世界選手権で男子45-49歳の部に優勝。グラベルレースにも積極参戦。2023年はUCIグラベルワールドシリーズのセブングラベル(オーストラリア)で優勝、Unbound Gravelでは200マイル年代別男子45-49歳クラスで優勝、総合10位に。
3年前からパナレーサーのサポートを受けて、GRAVELKINGをレースで使用しています。過去3回のUnbound GravelもUCIグラベルレースも、すべてGRAVELKINGで走っています。以前はSSとSKのを使い分けてきましたが、「サイドノブを少し立たせてコーナリンググリップを稼げるようにしたものが欲しい」という要望を出していました。新しく追加されたX1は、そのサイドノブがはっきりと仕事をしてくれて、以来ほとんどのレースでX1を使っています。
グラベルを真っ直ぐ走るぶんにはサイドノブは路面抵抗にも関係なく、ほとんど必要もないんですが、X1では安心してコーナリングできるようになりましたね。とても良くなったと感じています。Unbound Gravelも、セブングラベルで優勝したときもX1。今やコースにかかわらずX1を使えばいい、というようになり、全幅の信頼を置いています。
サイズは40Cです。今年のUnbound Gravelは直前になってコースが酷く荒れているという情報が飛び交い、レース前夜に45Cに交換したんですが、結果的には40Cのままでも良かったんじゃないかと思います。45Cは快適度は増すものの、先頭集団での競り合いの中では少し重量を感じてしまいました。乗ったバイクが前後サスペンション装備のスペシャライズド DIVERGE STRだったので、振動吸収はサスに任せて40Cにしても良かったのではないかと思っています。
サスペンションにもメリット・デメリットはあり、速さや快適さ、身体へのダメージの軽減という面で機材やタイヤ選択はギリギリのせめぎあいですね。プロのようにメカニックサポートが受けられる体制は無いので、ほぼ全天候、全コンディション対応のX1はありがたいタイヤになりました。
サイズに関しては40Cがちょうど良いと感じていて、ケーシングに関しては強化された+(プラス)ケーシングもありますが、今までstd(スタンダード)ケーシングを使ってきてレース中のパンクは3年間で1度も無いので、レースならスタンダードで十分だと感じています。シーラントにこだわりは無いですが、相性の面で安心のパナレーサー純正のSEAL SMARTを使うようにしています。
最近になってリムの内幅32mmという超ワイドリム採用のZIPP 303 XPLR SWホイールが登場したことで、X1の40Cタイヤを取り付けると実測44mmぐらいの太さで使えることがわかりました。タイヤ重量はそのままでエアボリュームを増大させることができるので、そのセッティングに可能性を感じています。取り付けたタイヤ形状もそれほど無理なく拡がっている感じなので、10月のUCIグラベル世界選手権はその組み合わせでいくつもりです。ただしメーカー推奨外の組み合わせになるため、自己責任での使用です。
パナレーサー社員たちによる挑戦 アメリカ現地での開発ライドと試行錯誤で決めたトレッドパターン
佐藤優人(パナレーサー 技術開発グループ)
新GRAVELKING開発にあたり大きな役割を果たしたのが開発を担当する若手社員たちの挑戦だった。アメリカでのテストライドやアンバウンドグラベルのレース実走テストを通じて、若き社員チームが自らの体験から最適解を求め続けた。
アンバウンド200マイルレースの完走も果たした佐藤優人(パナレーサー)が代表して開発の経緯を明かす。
近年の流れに対応する改良ポイントとは
昨今グラベルシーンは多様な変化をしていると考えています。これまでグラベルはアクティビティとして楽しまれる方が多い印象でしたが、この数年で状況は大きく変化しているように感じています。ロードバイクのようにプロカテゴリーの“グラベルレース”からアクティビティとして楽しまれる“グラベルライド“と、楽しみの幅がとても広くなりました。特に海外ではUCIを始めとするグラベルレースが盛んに開催されるようになりました。世界選手権も開催されており、こうした近年高速化するグラベルシーンによってライダーが使用するギアにも速さを求められるようになるようになりました。
またGRAVELKINGが発売された当初はチューブドで使用することが一般的であったため、ホイールに対して嵌めやすさやマウント性能のアップデートがされてきませんでした。そうした中で、近年ではTLR化もメジャーなセットアップの一つになってきているため、最新のホイールに対して嵌めやすさやTLRでセットしたときのマウントのしやすさも大きな改善要素の一つでした。
私たちが販売してきたGRAVELKINGは10年以上の長い歴史を持つタイヤですが、昨今のグラベルレースの高速化に伴う、これまでとは違った層へのアプローチとセットアップの変化など、多様なシーンへの対応が急務となりました。
カンザス現地で行った開発ライドの試行錯誤で決めたトレッドパターン
2023年のUnbound Gravelには、それぞれ性格の異なるトレッドパターンを持ったサンプルタイヤを3種類用意しました。
それは「最も高速でトラクションを高めたパターン」「グリップに大きく性能を振ったパターン」「地面への食いつきを考慮したパターン」の3種類です。事前に国内のグラベルでもテストは行っていましたが、「やはり本場でもテストを行わなければ」ということで持ち込みが決定しました。
エンポリアの会場近隣に拠点を構え、レース当日までの数日の間に付近のグラベルをテスト走行し、今後の開発に向けて各々がフィードバックを残しました。
テスト走行後に各パターンで各々感じたことを話合うことで新鮮な情報を受け取ることができたため、製品に反映させる際に非常に役立つ情報を得られました。
また、Unbound Gravelレース当日も試作タイヤで走りました。この年は我々ライダーにとってはハードな気象条件のなかの厳しい走行となりましたが、タイヤのテストとしてみれば1度の走行で様々な気象条件のなか長距離のテストを行えたため、各試作品の良し悪しがはっきり出たことは非常に大きな収穫でした。
選手からのフィードバックをどう反映したか
協力していただくライダーは世界各国におり、その中でも数人に我々がUnbound Gravelで使用する試作品を長期間・長距離に渡って使用していただきました。やはり1度や2度だけのライドではわからない部分が多すぎるからです。ライダーからのフィードバックを基に開発は進めますが、フィードバックはどうしても主観が入ってしまうため、開発チームも実際に国内やUnbound Gravelで使用し、協力ライダーからのフィードバックとの擦り合わせを行い、多方面から課題に対する解像度を上げていきました。
また、社内の試験機を使用することで、フィードバックからくる感覚的な部分を可能な限り数値化し、開発の精度を高めていきました。
アメリカのグラベルとレースを走ってわかったこと
当然ですがアメリカのグラベルは国内のそれとは全く様子が違いました。荒れた区間も当然ありましたが、アメリカではグラベルが生活道路として使用されているので、しっかりと踏み固められ整備された道で、想像していた以上に走りやすかったです。開発という観点では、Unbound Gravelはますます高速化をしていくのではないかと思います。路面状況が良いだけではなく、プロライダーも積極的に参戦しており、そういった選手から得るフィードバックはやはり速さを求める声が大きいからです。今後タイヤは速さをベースとして様々な性能が求められていくように感じました。
改めて日本のグラベルを走って
Unbound Gravelが開催されるエンポリアのように町から2、3km走ればグラベルを走れるといった環境が少ないため、グラベルへのアプローチに少しストレスを感じてしまうのも事実でした。またグラベル区間を終えて次のグラベルまでアスファルトを走ることも多く、再びグラベルを走るとなっても、急坂が多く、登っては下っての繰り返しでタイヤが空転してしまうようなこともありました。
拠点からのアプローチやリエゾン区間を如何にストレスなくスムーズに走れて、グラベルではしっかりとグリップし、トラクションを稼ぎ、安全に走ることができるか。そういった経験や背景がベースにあり、今回新たに開発を行ったGRAVELKING X1のパターンが考え出されていったのです。
提供:パナレーサー株式会社