2024/07/01(月) - 16:44
5月下旬に発表されたシマノGRX RX825は、12スピード化とともに無線式Di2を採用した新型グラベルコンポーネントだ。先に12速化を果たしていたメカニカルシフトのGRXに続きラインナップに追加されたフラッグシップモデルを、世界最高峰のグラベルレース、アンバウンド・グラベルにおいてピーター・ステティナ選手やシマノ開発者らとともに、新型GRXについて掘り下げる。
ロード用Di2コンポーネントのデュラエースやアルテグラと同様のワイヤレス化を果たしたGRX RX825。無線式のDi2化によってハンドル周りのシフトケーブルの配線が不要になり、作業性の向上やよりすっきりとしたルックスに貢献。前後のディレイラーはフレームに内蔵された大容量バッテリーに直接接続され、従来必要であったジャンクションが不要に。グラベルライドで遭遇する悪条件においても、フレーム内蔵バッテリーは影響を受けづらく、高い信頼性で動作する。
リアディレイラーのRD-RX825にはSHADOW RD+テクノロジーを採用して転倒や衝撃に強く、オフロードでチェーンのバタつきを抑えるスタビライザーが搭載される。フロントディレイラーのFD-RX825はロード用FDに比べて+2.5mmのチェーンラインによってワイドタイヤの装着を可能とし、クリアランスや泥はけ性を確保。
新型RX825 STIレバーにはフレアハンドルへの装着を前提に設計された形状が与えられ、より最新のグラベルシーンにマッチするデザインへと磨き上げられた。ブラケットフード先端の内側にもDi2ボタンが配置され、ブラケットを握りこんだポジションでも操作が可能。変速スイッチとしてだけでなく、例えばサイクルコンピューターなどを操作できる拡張スイッチとしても割り当てることができる。そしてあらゆる位置に設置可能なサテライトスイッチも使用可能で、あらゆるポジションで無理なく変速できるほか、これにも様々な機能を割り当てることが可能だ。
変速スピードの変更や各スイッチへの機能割当てなどはアプリ「E-TUBE PROJECT Cyclist」で設定する。スマホで自在に変更できるほか、各ギアの使用頻度やバッテリー残量などもチェック可能となるほか、従来2つのボタンで行っていたフロントディレイラーの操作を1つのボタンで操作可能とする"FRONT SHIFT NEXT”も新搭載。全面的に進化を遂げてのデビューとなった。(新製品発表記事はこちら)
本記事ではシマノがサポートするプロレーサーのピーター・ステティナ選手と、シマノ・アメリカ勤務で書籍「GRAVEL CYCLING」著者で全米発のグラベルカルチャーを創ってきたインフルエンサーのニック・レーガン氏、そしてデュラエースやXTRといったシマノのコンポーネント開発者であり新型GRX開発リーダーの原田孝雄氏の3人を一同に集め、新型GRXの注目すべきテクノロジーや開発の裏話、プロ選手にとってのレースバイクのセッティング等をディスカッションした。聞き手は自身でも100マイルレースに出場する綾野真(CW編集部)
ピーター・ステティナ
グラベル界で尊敬を集めるパイオニア的存在のレーサー。かつてBMCレーシング、トレック・セガフレード等に所属しロードレーサーとして活躍した後、グラベル・プライベーターに転身。ベルジャンワッフルライドで5冠を達成。グラベル界のリーダーにして今なおトップクラスで走る現役レジェンド。
ニック・レーガン
サイクリングジャーナリストを経て現在シマノ・ノースアメリカのスタッフ。グラベル黎明期よりインフルエンサーとして活躍。書籍「GRAVEL CYCLING」 (2017年刊)の著者にしてUnbound Gravelには8回出走、200マイルを5度、XL(360マイル)を2度完走。妻クリステンも著名グラベルレーサーだ。
原田孝雄
デュラエースやXTRなど、シマノの旗艦コンポーネントの設計開発に腕をふるってきた製品開発者。オンロード&オフロードのDi2コンポーネント開発にも精通することで今季よりGRXの製品企画担当者となり、グラベルコンポをより進化させる使命を負うことに。自身サイクリストで今回は100マイルレースを走る予定だ。
綾野:ピーター、あなたがアンバウンド・グラベルで乗るレースバイクのセッティングを教えて下さい。Di2化された新型GRXをどう使っていますか? 見たところデュラエースがミックスされているようですね。
ピーター:まず僕はDi2のビッグ・ビリーバー(大信者)なんだ。とくにレースでは絶対だね。そして新GRXのもうひとつ良くなった点は12スピード化されたこと。すべてのライダーそれぞれの使い方が違うといっても、テクニカルでラフなグラベルにおいて変速段数が増えることはメリットでしかない。グラベルバイクはときに、登りではマウンテンバイクのように遅いスピードになり、しかしダウンヒルやスムーズな平坦路ではロードバイクのような速さが求められるからね。幅広いギアレンジが必要なんだ。
そして僕の場合、グラベルレースでは予想されるレース状況によって「Best of the Day」(=その日のベスト)を追求したセットアップのバイクを組むんだ。例えばデュラエースのクランクやスプロケット、ディープリムホイール、ときにMTB系のパーツなど、異なるコンポやパーツ、ホイールを「ブレンド」するんだ。
プロとしてシマノのフルサポートが受けられるから、ほとんどすべてのレースでブレンドしたコンポを使っている。最近はGRX Di2を基本に、デュラエースのパワーメーターつきのロードチェーンホイールセットにGRXのシフターとディレイラー、デュラエースのスプロケットの組み合わせがもっとも標準的な僕のレース仕様だね。Fディレイラーもチェーンラインにあわせデュラエースを使うんだ。
ホイールについても同じで、太いタイヤにはワイドリムのGRXホイール(WH-RX880)を使う。一方で38C以下の細めのタイヤを使うときやエアロが活きる高速レースではデュラエースC50ホイールを使うんだ。GRXが12スピードになって12Sロードコンポとも互換性ができたのはメリットだね。
綾野:さすがプロの速いレースだとロードコンポを取り入れる必要もあるんですね。チェーンホイールの歯数はいくつですか?
ピーター:50×34Tだね。超ハイスピードレースになるなら52×36Tを使うこともある。スプロケットはほぼ11×34Tの一択。ローで1×1のギア比があれば、ほぼその組み合わせで僕らプロはどんな登りも上っていけるんだ。
ニック:僕には無理だね・笑! もっと軽いギアが要るからGRXをそのまま使うよ!
ピーター:まぁそれは僕がプロレーサーで、レースのスピードが速すぎるからだね。
綾野:サテライトスイッチは使いますか?
ピーター:あぁ、別名「スプリンタースイッチ」のことだね。前に使っていたこともあるけど、今やグラベルレースのほとんどの時間はレバーフードを握っている。だからその必要がないんだ。かつてはスプリンタースイッチというよりも、登りのときのクライマースイッチとして使ったことはあるけど、今はほぼ必要ないね。でもそれは僕の場合であって、使っているプロは居るよ。
ピーター:新型GRX Di2は発表前にシマノから早めに供給を受けて、アンバウンドグラベル前に2,000km乗り込むことができた。レースにいきなり新製品を投入するのはリスクだけど、例えそうしても問題は感じなかったと思う。今まで問題は発生していないし、使ってすぐに十分な信頼性を感じることができた。12S Di2の変速の正確さや精度、スピードは十分で、100%完璧だ。
綾野:Di2の前にはメカニカル12SのGRXは使いましたか?
ピーター:いや、ほとんど使わなかった。なぜなら僕はレースではDi2を使いたいから11スピードのGRX Di2をメインに使っていたんだ。メカニカルの12S GRXを使ったのはレースじゃないファンライドや、バイクパッキングでの長期ツーリングでバッテリーの充電に心配があるときだね。レースでは正確で速い変速とストレスの無さから必ずDi2を使うんだ。
綾野:1×(ワンバイ)、つまりフロントシングルは?
ピーター:僕の場合はまったく使わないね。1×(ワンバイ)って僕はマーケティングの要求からできたものだと思っている。グラベルは登りの這うようなゆっくりスピードと、平坦路のロードレースのような速さが共に求められるから、ワイドレンジかつ細かいギアステップを選べることが条件になる。つまりマウンテンバイク的なローギアからロードバイクのようなギアレシオまで、2枚のフロントチェーンリングとリアスプロケットの組み合わせで、細かく変速できることが必要だね。
スピードが速くてサスペンションが無く、バイクが暴れるグラベルではフロントシングルはラフな路面でチェーン外れを起こすことがあるし、チェーンウォッチャーのようなものが必要だね。それに「フロントシングルのほうがパーツが少なくて軽い」と言う人が居るけど、リアスプロケットは大きくなるし、シングルとダブルで実はたいした重量差が無いんだ。
それでも僕がフロントシングルが有効だと思うのは究極のマッド(泥)状況のとき。ギアに絡みつくようなドロドロの条件で、泥が詰まって変速に支障がでるとき。そのときはシングルに分があると思う。正直、僕が考えるフロントシングルの有利なシーンはほぼそこだけだね。僕はフロントダブルが好き。
ニック:僕もロードが経験のベースにあるから小さなギアステップのフロントダブルが好きだね。か弱い脚のパワーをコントロールしなきゃいけないからね。限られた脚力を無駄にしないように細かく変速するんだ。
ピーター:その点はパワーを効率的に使いたいプロレーサーも同じだね。小刻みなギアに小まめな変速でケイデンス(ペダル回転数)をコントロールする。レースではそれが大事で、とくに集団で走っているときには重要なんだ。
僕が思うにフロントシングルは「マウンテンバイクから来た人」のものだと思っている。なぜなら彼らと話していて分かるのは、そもそも細かなギアステップを知らないということ。だからその人にとって問題ではないんだ。大きなギアステップに馴れているんだし、それで必要を感じないんだから。
ニック:シマノにとって重要なのは選択肢を用意すること。シングルとダブルの両方から選ぶことができることなんだ。僕は個人的にダブルを選ぶけど、必要とする人に1×(ワンバイ)も用意する。それが大事なんだ。人々は好きな方を選ぶことができる。
ピーター:フロントシングルとダブルに大きな重量差はないから、レースでは細かいギアステップが選べることがより重要だね。効率的に走ろうとするほどダブルが欲しくなると思う。
綾野:同意します。僕は昨年、フロントシングルのワイドレンジギアのバイクでアンバウンドの100マイルレースを走りましたが、集団内ではハイスピードな流れに合わせるのが大変で、変速のたびにギアが軽すぎる、重すぎるを感じて、ペダリングのギクシャク感に少々くたびれました。集団から遅れて独りになってからはあまり問題を感じなかったのですが、遅れてしまったのはギアの不一致による疲れがあったのは否めません。もっとも、その後のいくつかの登りが厳しい場面で40×52Tのスーパーローギアがあったのは救いでしたが。
原田:それがDi2の12速になってフロントがダブルになれば、今年はもっと速く、効率的に走れるはずですね!
僕が思うに、シングルかダブルかの問題はライダーの「バックグラウンド(経歴)」によるものが大きいと思います。ロードバイクから来た人は「フロントダブルがいい」と言うし、マウンテンバイクから来た人は「シングルがいい」と言う。
一同納得。
原田:それにグラベルバイクは、乗っているエリア、各自のスタイルによってこだわる部分が異なるところが興味深いですね。各ユーザーが走るコースによりタイヤのチョイス、空気圧のセッティング、取り付けるバッグとその中身まで真剣に悩むし、デザインされたヘッドキャップやカラーパーツで個性を出したりしています。その中で、フロントシングルのルックスやシンプルさを好む人もいる。スチールバイクにシンプルな1×(ワンバイ)を合わせていたりしています。またヨーロッパではグラベルレースの流行は大きな潮流で、フロントダブルを好む人が増えている。
綾野:面白いですね。ところで原田さんがメインのGRX開発担当になったんですね。原田さんは過去にデュラエースにもXTRにも開発に携わった人だから、ロードとMTBどちらのノウハウもグラベルコンポに活かせる経験がありますよね。
原田:グラベル黎明期からアメリカに学び「GRXパパ」と呼ばれたヒロシ(シマノの松本裕司氏)に代わり、私が1月からグラベル担当になりました。私は今グラベルカルチャーを学んでいる最中です。明日は100マイルレースを走って、そこで何かを感じ取りたいと思います。それは開発者にとって重要で、今後の開発のインスピレーションになると良いなと思っています。
綾野:まだレース前日ですが、ここまでにアメリカのグラベル界に何を感じましたか?
原田:ロードバイクはシリアスな面がありますが、グラベルはそうでありながらもどこか面白い世界が広がっていそうです。5,000人の参加者のうちほとんどを占めるのはプロでない普通の人々。レースの準備をしてカンザスに乗り込んできつつも、楽しんでいる。ユーザーに何が求められているのかを探りたいです。つまり今回はホリデーじゃなく仕事ですね・笑。
ニック:そう、アンバウンドを走るのは僕らにとってもちろん大切な仕事だよ。そして僕らはイカしたグラベルチームだね!
原田:GRX Di2の11Sモデルを使って、渡米の2週間前には新GRXに組み替えました。レースを走ってその違いを自分でも感じたいと思います。僕もDi2派ですが、以前はロードコンポの開発を担当して、当時はツール・ド・フランスなど海外レースでシマノスポンサードチームの現地サポートもしました。ピーターの所属チームも担当しましたよ。BMCレーシングやEF?ガーミン・シャープだったかな?
ピーター:ワォ、すごいね。つながってる。
綾野:ところでDi2はワンバイには導入されないのですか?
ニック:「Not yet(まだ)」と答えておきます。
綾野:ということは開発中ですか。
原田:それにはお答えできないですが、シマノはユーザーにすべての選択肢を用意することをモットーにしています。今回はダブルのDi2から発表したということですね。
綾野:僕はもともと11SのGRX Di2を気に入って使ってきたので、12スピード化とDi2の登場は待望でした。日本出発の5日前に新バイクが組み上がり、3日で300km走って調整してからカンザスへ来ました。明日のレースで使うのが本格的なグラベルでは初めてのライドになります。それでインプレしますよ。
原田:新GRXはどうしても12速化が話題の中心になるけど、それだけじゃなく細かなディテールやすべての性能がブラッシュアップして進化していますよ。 STIレバーのエルゴノミクスもかなり向上しています。グラベルではフレアハンドルが主流になってきて、下広がりの形状になっていますが、それはドロップ部が広くなることでダウンヒルの際に下ハンドルを握るとマウンテンバイクのように安定します。
綾野:僕も今回のバイクは12°フレアハンドルで組んだのですが、まさにベストマッチです。フードを持っても下ハンドルを握っても使いやすいと感じています。
原田:新しいGRXレバーはフレア部に沿って開いたレバー形状になっています。デュラエースなどノーマルのロードレバーとは形状が違って、とても快適で安定した操作ができます。
STIレバーの全体形状は11Sレバーの形状を大きく引き継いでいますが、デビュー以来のユーザーの要望や声を拾って、ブラケットのシェイプからスイッチの配置まで細かく調整しています。本当に細かいディテールにまでこだわって製品化しました。11SのGRXとの違いは感じ取れましたか?
綾野:フードは少し角ばって太くなった感じはありますね。しっかり握り込めていい感じです。ロードバイクにはデュラエース12Sを使っていますが、シマノのSTIレバーは先端を握り込んだり抱えるような握り方にしたりと、変化をつけることができます。変速操作に中指や薬指、ときに小指まで使うことがありますが、GRXもそれができますね。レバー裏の穴を埋める小物でエッジが丸められて、握りこんだときの当たりが優しいです。レースで使うのが楽しみです。
綾野:スプロケットが11〜34Tと11〜36Tの2つの選択肢となりましたね。
ニック:そう、僕は36Tがギア比が軽くて好きだよ(笑)。
綾野:レース用に34T、登りが多いコースやトレイルを含む普段のライド用の36Tの2つのスプロケットを揃えました。そして明日のレースは軽量化のために普段はロードバイクに使っているデュラエースの34Tを使います。僕の希望としては11〜36Tのアルテグラグレードのカセットが製品に加わることです。
ニック:なるほど、それは製品化できるといいと思う。36Tは今は105グレードのHG710しかなくて、少し重いけどとてもデュラブル(丈夫)なんだ。
綾野:12Sロードコンポと同じように、アウター×ローギアが無理なく可能で、「たすきがけ」状態でもチェーンの抵抗が大きくないのがいいですね。
ピーター:そのあたりはデュラエースとほぼ同じだね。フロントがインナーのときトップ側2枚には入らないようになっているのも同じ。トップ側の2枚は歯が小さすぎてチェーンが少し弛むからね。Di2だと自動制御してその2枚は避けてくれる(注:アルテグラはトップ2段も使用可能)。
綾野:ところでピーターはドロッパーシートポストは使わないんですか? マウンテンバイクレースでは使いますよね。
ピーター:今の時点では使わないね。必要があるのはクレイジーなダウンヒルがあるときだろうね。そんなときは同時にビッグクライミングがあるものだし、そうなるとMTBのほうが機材として適している可能性がある。グラベルレースでは今の時点でそういったコース設定はほぼ無いね。レースコースは機材に適したコースにするのが原則だからね。
綾野:個人的にはドロッパーポストが好きで、グラベル用ドロッパーポストを取り付けています。アンバウンドのレースでは不要ですが、ケーブルを内装する都合で後から取り付けることが難しいので、普段のライドにあわせて取り付けてあります。でもドロッパーがあればダウンヒルは安心・安全だし、スムース路面の長い下りではエアロに優れるので、とても速いです。
原田:それは個人の好みによる選択で、とても理解できます。大阪に住んでいる私も、日本のフィールドはとても急峻でガレているのでドロッパーが欲しい場面が多くあります。ドロッパーを使えば下りや荒れ地でバイクコントロールがしやすくなります。一方でアメリカのグラベルではそうした必要はあまり無いでしょう。地域性によると思います。
ニック:アメリカでも地域によります。そしてドロッパーを使えば乗り降りも楽になり、毎日のライドに便利。信号で停まるのも簡単(笑)。
綾野:軽量でグラベルで使いやすいドロッパーポストが欲しいです。シマノ製でGRXにシステム統合して開発された製品が。
ニック:それはとても興味深い提案だね!
綾野:Di2の無線化によってケーブルが減ったぶん、今回のバイクはドロッパーを組み付けるのに余裕がありました。もしメカニカルシフトのコンポだとハンドル周りのケーブルはブレーキホースあわせて5本になり、内装ケーブル式フレームに組みつける難易度があがります。もし無線化されたDi2コンパチのドロッパーが開発されればとても嬉しいです。
ピーター:問題は最近のグラベルフレームのシートポストが独自形状化していることだね。僕の乗るキャニオンもDポストを採用しているからドロッパーの取り付けには問題がある。マスプロの大手メーカー製フレームの多くがそれぞれ互換性のない形状のシートポストを使うのが主流になっているからね。
綾野:FRONT SHIFT NEXTについて詳しく教えて下さい。左右のレバーの親指部にあたるボタンのワンプッシュでフロントディレイラーが動かせる設定が可能になったとのことですが?
原田:ワンプッシュ操作でFDが動作します。アウターならインナーへ。インナーならアウターへ動きます。アプリ「E-TUBE PROJECT Cyclist」の設定で可能になります。
単に「直感でFDを操作できる」というだけでなく「もう片方のスイッチを別の動作に割り当てられる」とも捉えてもらえれば。フロントディレイラーを操作しながら、もう一方のボタンをサイコンの操作にあてるなど、アプリで自由に設定できます。とくにサイコン操作ではレバーフードを握った状態のままクリックやホールドがしやすいため便利で安全です。例えばRDのシフトアップに割り当ててもいいし、人それぞれで好きに設定してカスタマイズできるので自由度が高い。遊び心を活かして設定してみるのもいいですね。
綾野:なるほど。FRONT SHIFT NEXTは12Sロードコンポでも設定可能なんですよね。
原田:そうです。そしてロードコンポでは使い方をある程度制限しているのに比べ、グラベルはいろんな設定が自由にできるよう設計しています。それが競合ブランドのコンポと違うところ。あえてコンポのシリーズを分けて開発しているシマノならではの機能です。そのうえで確実な動作と精度の高さを追求しているんです。
スマホアプリの使い勝手も向上しているので、色々探求してください。Di2のスイッチが2つ並んでいるのも、それがわかりやすいという人もいれば、混同するという人も居る。しかし自由にカスタマイズすることができます。セッティングの自由度は高いですから。
次回は、このインタビューによってアドバイスを受けた綾野真が新型GRX Di2で組んだバイクを駆り、自身3度目のアンバウンドグラベル100マイルレースに挑戦する。グラベルレース実走で感じたインプレッションをお届けします。
待望の12速Di2グラベルコンポーネント GRX RX825
ロード用Di2コンポーネントのデュラエースやアルテグラと同様のワイヤレス化を果たしたGRX RX825。無線式のDi2化によってハンドル周りのシフトケーブルの配線が不要になり、作業性の向上やよりすっきりとしたルックスに貢献。前後のディレイラーはフレームに内蔵された大容量バッテリーに直接接続され、従来必要であったジャンクションが不要に。グラベルライドで遭遇する悪条件においても、フレーム内蔵バッテリーは影響を受けづらく、高い信頼性で動作する。
リアディレイラーのRD-RX825にはSHADOW RD+テクノロジーを採用して転倒や衝撃に強く、オフロードでチェーンのバタつきを抑えるスタビライザーが搭載される。フロントディレイラーのFD-RX825はロード用FDに比べて+2.5mmのチェーンラインによってワイドタイヤの装着を可能とし、クリアランスや泥はけ性を確保。
新型RX825 STIレバーにはフレアハンドルへの装着を前提に設計された形状が与えられ、より最新のグラベルシーンにマッチするデザインへと磨き上げられた。ブラケットフード先端の内側にもDi2ボタンが配置され、ブラケットを握りこんだポジションでも操作が可能。変速スイッチとしてだけでなく、例えばサイクルコンピューターなどを操作できる拡張スイッチとしても割り当てることができる。そしてあらゆる位置に設置可能なサテライトスイッチも使用可能で、あらゆるポジションで無理なく変速できるほか、これにも様々な機能を割り当てることが可能だ。
変速スピードの変更や各スイッチへの機能割当てなどはアプリ「E-TUBE PROJECT Cyclist」で設定する。スマホで自在に変更できるほか、各ギアの使用頻度やバッテリー残量などもチェック可能となるほか、従来2つのボタンで行っていたフロントディレイラーの操作を1つのボタンで操作可能とする"FRONT SHIFT NEXT”も新搭載。全面的に進化を遂げてのデビューとなった。(新製品発表記事はこちら)
本記事ではシマノがサポートするプロレーサーのピーター・ステティナ選手と、シマノ・アメリカ勤務で書籍「GRAVEL CYCLING」著者で全米発のグラベルカルチャーを創ってきたインフルエンサーのニック・レーガン氏、そしてデュラエースやXTRといったシマノのコンポーネント開発者であり新型GRX開発リーダーの原田孝雄氏の3人を一同に集め、新型GRXの注目すべきテクノロジーや開発の裏話、プロ選手にとってのレースバイクのセッティング等をディスカッションした。聞き手は自身でも100マイルレースに出場する綾野真(CW編集部)
ピーター・ステティナ
グラベル界で尊敬を集めるパイオニア的存在のレーサー。かつてBMCレーシング、トレック・セガフレード等に所属しロードレーサーとして活躍した後、グラベル・プライベーターに転身。ベルジャンワッフルライドで5冠を達成。グラベル界のリーダーにして今なおトップクラスで走る現役レジェンド。
ニック・レーガン
サイクリングジャーナリストを経て現在シマノ・ノースアメリカのスタッフ。グラベル黎明期よりインフルエンサーとして活躍。書籍「GRAVEL CYCLING」 (2017年刊)の著者にしてUnbound Gravelには8回出走、200マイルを5度、XL(360マイル)を2度完走。妻クリステンも著名グラベルレーサーだ。
原田孝雄
デュラエースやXTRなど、シマノの旗艦コンポーネントの設計開発に腕をふるってきた製品開発者。オンロード&オフロードのDi2コンポーネント開発にも精通することで今季よりGRXの製品企画担当者となり、グラベルコンポをより進化させる使命を負うことに。自身サイクリストで今回は100マイルレースを走る予定だ。
ピーター・ステティナのグラベルレース用バイクセッティング
綾野:ピーター、あなたがアンバウンド・グラベルで乗るレースバイクのセッティングを教えて下さい。Di2化された新型GRXをどう使っていますか? 見たところデュラエースがミックスされているようですね。
ピーター:まず僕はDi2のビッグ・ビリーバー(大信者)なんだ。とくにレースでは絶対だね。そして新GRXのもうひとつ良くなった点は12スピード化されたこと。すべてのライダーそれぞれの使い方が違うといっても、テクニカルでラフなグラベルにおいて変速段数が増えることはメリットでしかない。グラベルバイクはときに、登りではマウンテンバイクのように遅いスピードになり、しかしダウンヒルやスムーズな平坦路ではロードバイクのような速さが求められるからね。幅広いギアレンジが必要なんだ。
そして僕の場合、グラベルレースでは予想されるレース状況によって「Best of the Day」(=その日のベスト)を追求したセットアップのバイクを組むんだ。例えばデュラエースのクランクやスプロケット、ディープリムホイール、ときにMTB系のパーツなど、異なるコンポやパーツ、ホイールを「ブレンド」するんだ。
プロとしてシマノのフルサポートが受けられるから、ほとんどすべてのレースでブレンドしたコンポを使っている。最近はGRX Di2を基本に、デュラエースのパワーメーターつきのロードチェーンホイールセットにGRXのシフターとディレイラー、デュラエースのスプロケットの組み合わせがもっとも標準的な僕のレース仕様だね。Fディレイラーもチェーンラインにあわせデュラエースを使うんだ。
ホイールについても同じで、太いタイヤにはワイドリムのGRXホイール(WH-RX880)を使う。一方で38C以下の細めのタイヤを使うときやエアロが活きる高速レースではデュラエースC50ホイールを使うんだ。GRXが12スピードになって12Sロードコンポとも互換性ができたのはメリットだね。
綾野:さすがプロの速いレースだとロードコンポを取り入れる必要もあるんですね。チェーンホイールの歯数はいくつですか?
ピーター:50×34Tだね。超ハイスピードレースになるなら52×36Tを使うこともある。スプロケットはほぼ11×34Tの一択。ローで1×1のギア比があれば、ほぼその組み合わせで僕らプロはどんな登りも上っていけるんだ。
ニック:僕には無理だね・笑! もっと軽いギアが要るからGRXをそのまま使うよ!
ピーター:まぁそれは僕がプロレーサーで、レースのスピードが速すぎるからだね。
綾野:サテライトスイッチは使いますか?
ピーター:あぁ、別名「スプリンタースイッチ」のことだね。前に使っていたこともあるけど、今やグラベルレースのほとんどの時間はレバーフードを握っている。だからその必要がないんだ。かつてはスプリンタースイッチというよりも、登りのときのクライマースイッチとして使ったことはあるけど、今はほぼ必要ないね。でもそれは僕の場合であって、使っているプロは居るよ。
Di2、12スピード&フロントダブルのメリットはどこに?
綾野:GRXは発売されたばかりですが、少し前から使い始めていますね。もう馴れましたか?ピーター:新型GRX Di2は発表前にシマノから早めに供給を受けて、アンバウンドグラベル前に2,000km乗り込むことができた。レースにいきなり新製品を投入するのはリスクだけど、例えそうしても問題は感じなかったと思う。今まで問題は発生していないし、使ってすぐに十分な信頼性を感じることができた。12S Di2の変速の正確さや精度、スピードは十分で、100%完璧だ。
綾野:Di2の前にはメカニカル12SのGRXは使いましたか?
ピーター:いや、ほとんど使わなかった。なぜなら僕はレースではDi2を使いたいから11スピードのGRX Di2をメインに使っていたんだ。メカニカルの12S GRXを使ったのはレースじゃないファンライドや、バイクパッキングでの長期ツーリングでバッテリーの充電に心配があるときだね。レースでは正確で速い変速とストレスの無さから必ずDi2を使うんだ。
綾野:1×(ワンバイ)、つまりフロントシングルは?
ピーター:僕の場合はまったく使わないね。1×(ワンバイ)って僕はマーケティングの要求からできたものだと思っている。グラベルは登りの這うようなゆっくりスピードと、平坦路のロードレースのような速さが共に求められるから、ワイドレンジかつ細かいギアステップを選べることが条件になる。つまりマウンテンバイク的なローギアからロードバイクのようなギアレシオまで、2枚のフロントチェーンリングとリアスプロケットの組み合わせで、細かく変速できることが必要だね。
スピードが速くてサスペンションが無く、バイクが暴れるグラベルではフロントシングルはラフな路面でチェーン外れを起こすことがあるし、チェーンウォッチャーのようなものが必要だね。それに「フロントシングルのほうがパーツが少なくて軽い」と言う人が居るけど、リアスプロケットは大きくなるし、シングルとダブルで実はたいした重量差が無いんだ。
それでも僕がフロントシングルが有効だと思うのは究極のマッド(泥)状況のとき。ギアに絡みつくようなドロドロの条件で、泥が詰まって変速に支障がでるとき。そのときはシングルに分があると思う。正直、僕が考えるフロントシングルの有利なシーンはほぼそこだけだね。僕はフロントダブルが好き。
ニック:僕もロードが経験のベースにあるから小さなギアステップのフロントダブルが好きだね。か弱い脚のパワーをコントロールしなきゃいけないからね。限られた脚力を無駄にしないように細かく変速するんだ。
ピーター:その点はパワーを効率的に使いたいプロレーサーも同じだね。小刻みなギアに小まめな変速でケイデンス(ペダル回転数)をコントロールする。レースではそれが大事で、とくに集団で走っているときには重要なんだ。
僕が思うにフロントシングルは「マウンテンバイクから来た人」のものだと思っている。なぜなら彼らと話していて分かるのは、そもそも細かなギアステップを知らないということ。だからその人にとって問題ではないんだ。大きなギアステップに馴れているんだし、それで必要を感じないんだから。
ニック:シマノにとって重要なのは選択肢を用意すること。シングルとダブルの両方から選ぶことができることなんだ。僕は個人的にダブルを選ぶけど、必要とする人に1×(ワンバイ)も用意する。それが大事なんだ。人々は好きな方を選ぶことができる。
ピーター:フロントシングルとダブルに大きな重量差はないから、レースでは細かいギアステップが選べることがより重要だね。効率的に走ろうとするほどダブルが欲しくなると思う。
綾野:同意します。僕は昨年、フロントシングルのワイドレンジギアのバイクでアンバウンドの100マイルレースを走りましたが、集団内ではハイスピードな流れに合わせるのが大変で、変速のたびにギアが軽すぎる、重すぎるを感じて、ペダリングのギクシャク感に少々くたびれました。集団から遅れて独りになってからはあまり問題を感じなかったのですが、遅れてしまったのはギアの不一致による疲れがあったのは否めません。もっとも、その後のいくつかの登りが厳しい場面で40×52Tのスーパーローギアがあったのは救いでしたが。
原田:それがDi2の12速になってフロントがダブルになれば、今年はもっと速く、効率的に走れるはずですね!
僕が思うに、シングルかダブルかの問題はライダーの「バックグラウンド(経歴)」によるものが大きいと思います。ロードバイクから来た人は「フロントダブルがいい」と言うし、マウンテンバイクから来た人は「シングルがいい」と言う。
一同納得。
原田:それにグラベルバイクは、乗っているエリア、各自のスタイルによってこだわる部分が異なるところが興味深いですね。各ユーザーが走るコースによりタイヤのチョイス、空気圧のセッティング、取り付けるバッグとその中身まで真剣に悩むし、デザインされたヘッドキャップやカラーパーツで個性を出したりしています。その中で、フロントシングルのルックスやシンプルさを好む人もいる。スチールバイクにシンプルな1×(ワンバイ)を合わせていたりしています。またヨーロッパではグラベルレースの流行は大きな潮流で、フロントダブルを好む人が増えている。
綾野:面白いですね。ところで原田さんがメインのGRX開発担当になったんですね。原田さんは過去にデュラエースにもXTRにも開発に携わった人だから、ロードとMTBどちらのノウハウもグラベルコンポに活かせる経験がありますよね。
原田:グラベル黎明期からアメリカに学び「GRXパパ」と呼ばれたヒロシ(シマノの松本裕司氏)に代わり、私が1月からグラベル担当になりました。私は今グラベルカルチャーを学んでいる最中です。明日は100マイルレースを走って、そこで何かを感じ取りたいと思います。それは開発者にとって重要で、今後の開発のインスピレーションになると良いなと思っています。
綾野:まだレース前日ですが、ここまでにアメリカのグラベル界に何を感じましたか?
原田:ロードバイクはシリアスな面がありますが、グラベルはそうでありながらもどこか面白い世界が広がっていそうです。5,000人の参加者のうちほとんどを占めるのはプロでない普通の人々。レースの準備をしてカンザスに乗り込んできつつも、楽しんでいる。ユーザーに何が求められているのかを探りたいです。つまり今回はホリデーじゃなく仕事ですね・笑。
ニック:そう、アンバウンドを走るのは僕らにとってもちろん大切な仕事だよ。そして僕らはイカしたグラベルチームだね!
原田:GRX Di2の11Sモデルを使って、渡米の2週間前には新GRXに組み替えました。レースを走ってその違いを自分でも感じたいと思います。僕もDi2派ですが、以前はロードコンポの開発を担当して、当時はツール・ド・フランスなど海外レースでシマノスポンサードチームの現地サポートもしました。ピーターの所属チームも担当しましたよ。BMCレーシングやEF?ガーミン・シャープだったかな?
ピーター:ワォ、すごいね。つながってる。
綾野:ところでDi2はワンバイには導入されないのですか?
ニック:「Not yet(まだ)」と答えておきます。
綾野:ということは開発中ですか。
原田:それにはお答えできないですが、シマノはユーザーにすべての選択肢を用意することをモットーにしています。今回はダブルのDi2から発表したということですね。
綾野:僕はもともと11SのGRX Di2を気に入って使ってきたので、12スピード化とDi2の登場は待望でした。日本出発の5日前に新バイクが組み上がり、3日で300km走って調整してからカンザスへ来ました。明日のレースで使うのが本格的なグラベルでは初めてのライドになります。それでインプレしますよ。
原田:新GRXはどうしても12速化が話題の中心になるけど、それだけじゃなく細かなディテールやすべての性能がブラッシュアップして進化していますよ。 STIレバーのエルゴノミクスもかなり向上しています。グラベルではフレアハンドルが主流になってきて、下広がりの形状になっていますが、それはドロップ部が広くなることでダウンヒルの際に下ハンドルを握るとマウンテンバイクのように安定します。
綾野:僕も今回のバイクは12°フレアハンドルで組んだのですが、まさにベストマッチです。フードを持っても下ハンドルを握っても使いやすいと感じています。
原田:新しいGRXレバーはフレア部に沿って開いたレバー形状になっています。デュラエースなどノーマルのロードレバーとは形状が違って、とても快適で安定した操作ができます。
STIレバーの全体形状は11Sレバーの形状を大きく引き継いでいますが、デビュー以来のユーザーの要望や声を拾って、ブラケットのシェイプからスイッチの配置まで細かく調整しています。本当に細かいディテールにまでこだわって製品化しました。11SのGRXとの違いは感じ取れましたか?
綾野:フードは少し角ばって太くなった感じはありますね。しっかり握り込めていい感じです。ロードバイクにはデュラエース12Sを使っていますが、シマノのSTIレバーは先端を握り込んだり抱えるような握り方にしたりと、変化をつけることができます。変速操作に中指や薬指、ときに小指まで使うことがありますが、GRXもそれができますね。レバー裏の穴を埋める小物でエッジが丸められて、握りこんだときの当たりが優しいです。レースで使うのが楽しみです。
綾野:スプロケットが11〜34Tと11〜36Tの2つの選択肢となりましたね。
ニック:そう、僕は36Tがギア比が軽くて好きだよ(笑)。
綾野:レース用に34T、登りが多いコースやトレイルを含む普段のライド用の36Tの2つのスプロケットを揃えました。そして明日のレースは軽量化のために普段はロードバイクに使っているデュラエースの34Tを使います。僕の希望としては11〜36Tのアルテグラグレードのカセットが製品に加わることです。
ニック:なるほど、それは製品化できるといいと思う。36Tは今は105グレードのHG710しかなくて、少し重いけどとてもデュラブル(丈夫)なんだ。
綾野:12Sロードコンポと同じように、アウター×ローギアが無理なく可能で、「たすきがけ」状態でもチェーンの抵抗が大きくないのがいいですね。
ピーター:そのあたりはデュラエースとほぼ同じだね。フロントがインナーのときトップ側2枚には入らないようになっているのも同じ。トップ側の2枚は歯が小さすぎてチェーンが少し弛むからね。Di2だと自動制御してその2枚は避けてくれる(注:アルテグラはトップ2段も使用可能)。
綾野:ところでピーターはドロッパーシートポストは使わないんですか? マウンテンバイクレースでは使いますよね。
ピーター:今の時点では使わないね。必要があるのはクレイジーなダウンヒルがあるときだろうね。そんなときは同時にビッグクライミングがあるものだし、そうなるとMTBのほうが機材として適している可能性がある。グラベルレースでは今の時点でそういったコース設定はほぼ無いね。レースコースは機材に適したコースにするのが原則だからね。
綾野:個人的にはドロッパーポストが好きで、グラベル用ドロッパーポストを取り付けています。アンバウンドのレースでは不要ですが、ケーブルを内装する都合で後から取り付けることが難しいので、普段のライドにあわせて取り付けてあります。でもドロッパーがあればダウンヒルは安心・安全だし、スムース路面の長い下りではエアロに優れるので、とても速いです。
原田:それは個人の好みによる選択で、とても理解できます。大阪に住んでいる私も、日本のフィールドはとても急峻でガレているのでドロッパーが欲しい場面が多くあります。ドロッパーを使えば下りや荒れ地でバイクコントロールがしやすくなります。一方でアメリカのグラベルではそうした必要はあまり無いでしょう。地域性によると思います。
ニック:アメリカでも地域によります。そしてドロッパーを使えば乗り降りも楽になり、毎日のライドに便利。信号で停まるのも簡単(笑)。
綾野:軽量でグラベルで使いやすいドロッパーポストが欲しいです。シマノ製でGRXにシステム統合して開発された製品が。
ニック:それはとても興味深い提案だね!
綾野:Di2の無線化によってケーブルが減ったぶん、今回のバイクはドロッパーを組み付けるのに余裕がありました。もしメカニカルシフトのコンポだとハンドル周りのケーブルはブレーキホースあわせて5本になり、内装ケーブル式フレームに組みつける難易度があがります。もし無線化されたDi2コンパチのドロッパーが開発されればとても嬉しいです。
ピーター:問題は最近のグラベルフレームのシートポストが独自形状化していることだね。僕の乗るキャニオンもDポストを採用しているからドロッパーの取り付けには問題がある。マスプロの大手メーカー製フレームの多くがそれぞれ互換性のない形状のシートポストを使うのが主流になっているからね。
綾野:FRONT SHIFT NEXTについて詳しく教えて下さい。左右のレバーの親指部にあたるボタンのワンプッシュでフロントディレイラーが動かせる設定が可能になったとのことですが?
原田:ワンプッシュ操作でFDが動作します。アウターならインナーへ。インナーならアウターへ動きます。アプリ「E-TUBE PROJECT Cyclist」の設定で可能になります。
単に「直感でFDを操作できる」というだけでなく「もう片方のスイッチを別の動作に割り当てられる」とも捉えてもらえれば。フロントディレイラーを操作しながら、もう一方のボタンをサイコンの操作にあてるなど、アプリで自由に設定できます。とくにサイコン操作ではレバーフードを握った状態のままクリックやホールドがしやすいため便利で安全です。例えばRDのシフトアップに割り当ててもいいし、人それぞれで好きに設定してカスタマイズできるので自由度が高い。遊び心を活かして設定してみるのもいいですね。
綾野:なるほど。FRONT SHIFT NEXTは12Sロードコンポでも設定可能なんですよね。
原田:そうです。そしてロードコンポでは使い方をある程度制限しているのに比べ、グラベルはいろんな設定が自由にできるよう設計しています。それが競合ブランドのコンポと違うところ。あえてコンポのシリーズを分けて開発しているシマノならではの機能です。そのうえで確実な動作と精度の高さを追求しているんです。
スマホアプリの使い勝手も向上しているので、色々探求してください。Di2のスイッチが2つ並んでいるのも、それがわかりやすいという人もいれば、混同するという人も居る。しかし自由にカスタマイズすることができます。セッティングの自由度は高いですから。
次回は、このインタビューによってアドバイスを受けた綾野真が新型GRX Di2で組んだバイクを駆り、自身3度目のアンバウンドグラベル100マイルレースに挑戦する。グラベルレース実走で感じたインプレッションをお届けします。
text&photo:Makoto AYANO
photo:Snowy Mountain Photography, Life Time
photo:Snowy Mountain Photography, Life Time