2023/09/01(金) - 14:30
ツール・ド・フランス閉幕から1週間半というタイミングでアメリカはオレゴン州・ベンドに向かったCW編集スタッフ。世界中から集まったジャーナリストの前に現れたのは、待望の12速化を果たしたシマノGRXだった。これから3編に渡り、製品概要や壮大なグラベルフィールドで試したテストの模様、そしてシマノ主要スタッフへのインタビューを通して新型GRXを掘り下げていく。
シマノが誇るグラベルコンポーネント「GRX」がフルモデルチェンジを果たし、12速の機械式コンポーネントがリリースされた。ロード用コンポーネントであるDURA-ACE、ULTEGRA、そして105は既に新型となって久しいが、フロントシングルユーザーが多いGRXの12速化はロード以上に待ち望まれていたもの。まずはイントロダクションとして、シマノが辿ってきたグラベルコンポーネント変遷を紹介していきたい。
その始祖となったのが、シマノが2013年7月に同社初のロードバイク用油圧ディスクブレーキシステムとしてリリースしたR785シリーズだ。MTBコンポーネントで培ってきた油圧システムを落とし込んだDI2専用コンポであり、追って2014年には機械式変速のSTIレバー「ST-RS685」が登場。製品名を見て分かるようにどのロードコンポーネントにも属さない試作的意味合いの強い製品だったものの、ディスクブレーキロードの台頭やシクロクロスユーザーからの圧倒的支持によってシェアを拡大。ディスクブレーキを組み込んだ初のDURA-ACE、R9100シリーズ登場への布石として重要な役目を果たした。
その後、2018年に突如現れたチェーンスタビライザー(クラッチ)搭載リアディレイラー「ULTEGRA RX」を経て、翌年2019年5月には先代となる初代GRXがデビューする。ブランド初のグラベルコンポーネントとしてULTEGRA、シマノ105、TIAGRAに相当する3グレードを揃え、DI2と機械式、さらにフロントダブル/シングルもラインナップ。既に北米を中心に大きなマーケットとなっていたグラベル市場に向けた大きなアピールとしたのだ。
基本的にGRXはロードコンポのテクノロジーを引き継ぎ、ギア構成やブレーキのトルク変動などをグラベル用に整えたものだが、先代GRXのDI2用STIレバーであるST-RX815はグラベルライドでも安定してハンドル操作ができるようヘッド部分を反らせ、かつレバーのピボットポイントを変更してブレーキ性能を高めるといった完全独自設計を採った。先ほど「ST-R785がGRXの始祖」と述べた理由はここにあって、GRX製品企画担当者の松本裕司氏曰く、当初油圧システムの関係上どうしてもSITレバーは大型化を避けられなかったが、意外にも背の高いレバーフードは手の「すっぽ抜け」を防ぎ好評を博したという。この時のノウハウがST-RX815の設計にも活かされ、グラベルのみならず、ディスクブレーキ化の真っ只中にあったロードバイクのユーザーからも評価を得たのだ。
シマノの新型GRXグローバルローンチが開催されたのは、アメリカはオレゴン州、ベンド郊外にあるリゾートコテージだ。ベンド市街地からもほど近く、無数のトレイルやグラベルロードが広がるデシューツナショナルフォレスト(国有林)の入口とも言える場所。あたりには綺麗に整ったファイアロードから、MTBタイヤの跡が刻まれたトレイルが無数に広がっている。グラベル発祥の地であり、カルチャーを力強く牽引するアメリカでGRXのローンチイベントが開催されたことに大きな意味がある。
第二世代となる新型GRXとしてデビューするのは、ULTEGRAグレードの「RX820」と105グレードの「RX610」の2種類。いずれも機械式変速のみであり、DI2は来年以降となる見込み。先に機械式変速をリリースした背景には特にアメリカを中心に「グラベルからスポーツバイクを始める層」が増え、シマノによれば全グラベルバイクの75%が機械式変速という現実がある。そのためハイエンド層中心のDI2ではなく、マスを占めるエントリー〜中級者層にこそ新型の恩恵を届けたいというシマノの思いから、先に機械式コンポを開発・リリースしたという。
新型GRX最大の進化は「UNBEATABLE」「UNSTOPPABLE」、そして「UNDROPPABLE」という3種類のテーマと共に用意される3種類のギアレンジだ。引き続きフロントシングルとフロントダブルの2種類が用意された理由は「様々なライダーにマッチする選択肢を用意しなければならない」というシマノのグラベルモットーによるものだ。以下は上位グレード、RX820シリーズの詳細を見ていきたい。
フロントシングルはMTBで培われてきた「マイクロスプライン」によるリアトップ10Tとなったことが大きな変更点。従来の11Tから10T化し、さらに12速となったことでよりワイドかつクロスレシオ化を実現している。専用クランクセットである「FC-RX820-1」で42Tと40Tのチェーンリングが用意され、さらに2種類のカセット+リアディレイラーを組み合わせてあらゆるニーズへの対応を図った。
「UNBEATABLE=無敵」を掲げる10-45Tリアカセット(CS-M8100-12)とロングプーリーゲージを備えたリアディレイラー「RD-RX822-GS」の組み合わせと、「UNSTOPPABLE=(どんな場所でも)止められない」を掲げる10-51Tリアカセット(CS-M8100-12)とスーパーロングプーリーゲージを備えたリアディレイラー「RD-RX822-SGS」の組み合わせ。なお変速性能を担保するためにGSディレイラーを10-51Tリアカセットに、あるいはSGSリアディレイラーを10-45Tリアカセットに使うことはできないという。
なおカセットとチェーンにはシマノが誇る「HYPERGLIDE+(ハイパーグライドプラス)」が投入されたこともポイント。本来XTR(MTB)用として開発され、現行DURA-ACEとULTEGRAにも波及したテクノロジーであり、チェーンのかみ合わせの改善、リテンションの強化、ペダリングの円滑化などによってシフトスピードの向上が図られた。
フロントダブルはアンバウンドグラベルに代表されるグラベルレース向けのラインナップだ。フロントチェーンリングは先代と同じ48-31T(FC-RX810-2)で、カセットは11-34T(CS-R8101-12)と11-36T(CS-HG710-12)の2種類。リアディレイラーもフロントシングル用と異なる「RD-RX820」となる。「UNDROPPABLE=(集団から)千切れない」というテーマには、ダブルチェーンリングを使うことで集団内の細かなスピードの上げ下げに細やかに対応すること、そして表彰台を逃さないというストーリーが込められているという。
ギアレシオを見比べてみよう。先代の1x11はリア11-42Tカセットを使った際フロント42Tでギア比1.0〜3.81を、フロント40Tでギア比0.95〜3.63をカバーしていたが、新型GRXではリア10-45Tとフロント42Tで最小ギアは0.93〜4.2、フロント40Tでは0.88〜4.0とこの時点で先代を大きく上回るワイドレシオ。リア10-51Tに至ってはフロント40Tで最小0.78とグラベルライドの範疇に収まるあらゆるシーンへの対応をみた。
なおフロントダブルはトップ11Tのまま。しかし新しく11-36Tカセットが追加されたことで最小ギア比は0.86にダウンした(従来は11-34Tで0.91)。フロント40Txリア10-51Tほどのローギアではないものの、これはあくまで現実的に「レースで使えるギア構成」を検討して導き出された答えという。トップギア比は4.36と従来通りでハイアベレージのレースや舗装路の下りにも対応している。
また、リアディレイラーには従来通り荒地でのチェーンスナップを抑制するオンオフ式のクラッチが搭載されるほか、2xのフロントディレイラーは従来よりも2.5mm外側に配置することで泥詰まりを対策。ワイドタイヤを履かせるフレーム設計にもメリットが活かされる部分だ。
サスペンションを前提とせずオフロードを走るグラベルコンポーネントだからこそ「タッチポイント」の重要性は高い。新型GRXのSTIレバーは形状そのものに大きな変更は無いが、フレアハンドルに取り付けた際、手を置くポイントが平らになるようプレッシャーセンサーを使った実験を繰り返した上でマイナーチェンジしている。
シマノ曰く、先代GRX開発の際にあまりフレアハンドルが一般的ではなく、斜めに取り付けると角が立って局所的に圧力がかかっていたことを改善したという。特にフレアハンドルは長距離を走るライダーから愛される傾向にあるため、効果は決して小さくないはず。実際に筆者も1日半のライドでこの部分は強く印象に残ったのだった。
もちろんブラケットフードのラインテクスチャー加工や、シマノのフィッシング部門との共同開発で生まれたレバーのアンチスリップ加工(シマノ社内ではネオラバと呼んでいるそう)も継続。これまでレバーのアンチスリップ加工は最上級である800グレードのみだったが、新型GRXでは全てのグレードに拡大。雨や泥コンディションに対応するようになっている。
ブレーキシステムは12速の新世代ロードコンポ同様にブレーキパッドの間隔を10%広げてシュータッチ/音鳴りを軽減。さらに公式資料には書かれていない部分ではあるものの、松本氏によれば、初期制動力の立ち上がりを若干落とすことでよりグラベル上での扱いやすさを向上しているという。
先述したフロントシングルギアに対応するべく、マイクロスプラインを採用したグラベル用カーボンホイール(WH-RX880-TL)も登場している。32mmハイトのフルカーボンリムは昨年登場したWH-RX870と共通で、リアハブのみが異なる兄弟版といえるもの。ただしフリーボディ自体はロードのHG L2スプライン(12速用)に交換することが可能(WH-RX870はマイクロスプラインボディへの交換不可)というオールマイティさを兼ね備える。シマノ初となるロード規格のマイクロスプラインボディ搭載ホイールという意味でもエポックメイキングといえるかもしれない。
ULTEGRAグレードの「RX820」に次ぎ、105グレードに相当する「RX610」も同時にデビューを飾った。こちらはSTIレバー(ST-RX610)とクランクセットがニューモデルとなり、前後ディレイラーはRX820のみ、カセットとチェーン、ブレーキシステムは従来品で構成されることになる。
変速システムはフロントダブルとフロントシングルが用意され、シングルは40Tと38T、ダブルは46-30TとそれぞれRX820よりも軽いギア比構成を実現する。ローギア比はシングルの38Tx51Tで0.74、ダブルの30x36Tで0.83と、長く体力を残してライドを楽しむのに適した構成となった。RX610にはブラケットフードの加工が新規追加された一方、サーボウェーブアクションと、フレアハンドルに対応するブラケット形状は取り入れられていない。
昨今シマノが発信しているグローバルキーワードが「United in Gravel(グラベルで、一つに)」だ。あらゆるレベルのサイクリストに対してバイクライフを楽しむように呼びかけるメッセージであり、特にグラベルを入り口にスポーツバイクを始めるユーザーが多い北米で「一緒に走って繋がろう」をアピールするものだ。
今回のローンチイベントも日本、ヨーロッパ、オセアニア、そして北米と、世界中から集ったジャーナリストやスタッフが一緒になって走り、学び、そして交流を深めたりと、まさにそのモットーを体現する2日半となった。
ギアレンジを増したことで、より幅広いライドスタイルにマッチするようになった新型GRX。「United in Gravel」を強力に推し進めるその性能は次章でお伝えしたい。
GRXが12速化:レースからアドベンチャーまであらゆるグラベルシーンに対応
シマノが誇るグラベルコンポーネント「GRX」がフルモデルチェンジを果たし、12速の機械式コンポーネントがリリースされた。ロード用コンポーネントであるDURA-ACE、ULTEGRA、そして105は既に新型となって久しいが、フロントシングルユーザーが多いGRXの12速化はロード以上に待ち望まれていたもの。まずはイントロダクションとして、シマノが辿ってきたグラベルコンポーネント変遷を紹介していきたい。
その始祖となったのが、シマノが2013年7月に同社初のロードバイク用油圧ディスクブレーキシステムとしてリリースしたR785シリーズだ。MTBコンポーネントで培ってきた油圧システムを落とし込んだDI2専用コンポであり、追って2014年には機械式変速のSTIレバー「ST-RS685」が登場。製品名を見て分かるようにどのロードコンポーネントにも属さない試作的意味合いの強い製品だったものの、ディスクブレーキロードの台頭やシクロクロスユーザーからの圧倒的支持によってシェアを拡大。ディスクブレーキを組み込んだ初のDURA-ACE、R9100シリーズ登場への布石として重要な役目を果たした。
その後、2018年に突如現れたチェーンスタビライザー(クラッチ)搭載リアディレイラー「ULTEGRA RX」を経て、翌年2019年5月には先代となる初代GRXがデビューする。ブランド初のグラベルコンポーネントとしてULTEGRA、シマノ105、TIAGRAに相当する3グレードを揃え、DI2と機械式、さらにフロントダブル/シングルもラインナップ。既に北米を中心に大きなマーケットとなっていたグラベル市場に向けた大きなアピールとしたのだ。
基本的にGRXはロードコンポのテクノロジーを引き継ぎ、ギア構成やブレーキのトルク変動などをグラベル用に整えたものだが、先代GRXのDI2用STIレバーであるST-RX815はグラベルライドでも安定してハンドル操作ができるようヘッド部分を反らせ、かつレバーのピボットポイントを変更してブレーキ性能を高めるといった完全独自設計を採った。先ほど「ST-R785がGRXの始祖」と述べた理由はここにあって、GRX製品企画担当者の松本裕司氏曰く、当初油圧システムの関係上どうしてもSITレバーは大型化を避けられなかったが、意外にも背の高いレバーフードは手の「すっぽ抜け」を防ぎ好評を博したという。この時のノウハウがST-RX815の設計にも活かされ、グラベルのみならず、ディスクブレーキ化の真っ只中にあったロードバイクのユーザーからも評価を得たのだ。
オレゴン州ベンドで開催されたグローバルローンチ
シマノの新型GRXグローバルローンチが開催されたのは、アメリカはオレゴン州、ベンド郊外にあるリゾートコテージだ。ベンド市街地からもほど近く、無数のトレイルやグラベルロードが広がるデシューツナショナルフォレスト(国有林)の入口とも言える場所。あたりには綺麗に整ったファイアロードから、MTBタイヤの跡が刻まれたトレイルが無数に広がっている。グラベル発祥の地であり、カルチャーを力強く牽引するアメリカでGRXのローンチイベントが開催されたことに大きな意味がある。
機械式を先行リリース:RX820とRX610の2グレード展開
第二世代となる新型GRXとしてデビューするのは、ULTEGRAグレードの「RX820」と105グレードの「RX610」の2種類。いずれも機械式変速のみであり、DI2は来年以降となる見込み。先に機械式変速をリリースした背景には特にアメリカを中心に「グラベルからスポーツバイクを始める層」が増え、シマノによれば全グラベルバイクの75%が機械式変速という現実がある。そのためハイエンド層中心のDI2ではなく、マスを占めるエントリー〜中級者層にこそ新型の恩恵を届けたいというシマノの思いから、先に機械式コンポを開発・リリースしたという。
新型GRX最大の進化は「UNBEATABLE」「UNSTOPPABLE」、そして「UNDROPPABLE」という3種類のテーマと共に用意される3種類のギアレンジだ。引き続きフロントシングルとフロントダブルの2種類が用意された理由は「様々なライダーにマッチする選択肢を用意しなければならない」というシマノのグラベルモットーによるものだ。以下は上位グレード、RX820シリーズの詳細を見ていきたい。
フロントシングルはMTBで培われてきた「マイクロスプライン」によるリアトップ10Tとなったことが大きな変更点。従来の11Tから10T化し、さらに12速となったことでよりワイドかつクロスレシオ化を実現している。専用クランクセットである「FC-RX820-1」で42Tと40Tのチェーンリングが用意され、さらに2種類のカセット+リアディレイラーを組み合わせてあらゆるニーズへの対応を図った。
「UNBEATABLE=無敵」を掲げる10-45Tリアカセット(CS-M8100-12)とロングプーリーゲージを備えたリアディレイラー「RD-RX822-GS」の組み合わせと、「UNSTOPPABLE=(どんな場所でも)止められない」を掲げる10-51Tリアカセット(CS-M8100-12)とスーパーロングプーリーゲージを備えたリアディレイラー「RD-RX822-SGS」の組み合わせ。なお変速性能を担保するためにGSディレイラーを10-51Tリアカセットに、あるいはSGSリアディレイラーを10-45Tリアカセットに使うことはできないという。
なおカセットとチェーンにはシマノが誇る「HYPERGLIDE+(ハイパーグライドプラス)」が投入されたこともポイント。本来XTR(MTB)用として開発され、現行DURA-ACEとULTEGRAにも波及したテクノロジーであり、チェーンのかみ合わせの改善、リテンションの強化、ペダリングの円滑化などによってシフトスピードの向上が図られた。
細かいスピード調整に対応。レース向けのフロントダブル
フロントダブルはアンバウンドグラベルに代表されるグラベルレース向けのラインナップだ。フロントチェーンリングは先代と同じ48-31T(FC-RX810-2)で、カセットは11-34T(CS-R8101-12)と11-36T(CS-HG710-12)の2種類。リアディレイラーもフロントシングル用と異なる「RD-RX820」となる。「UNDROPPABLE=(集団から)千切れない」というテーマには、ダブルチェーンリングを使うことで集団内の細かなスピードの上げ下げに細やかに対応すること、そして表彰台を逃さないというストーリーが込められているという。
ギアレシオを見比べてみよう。先代の1x11はリア11-42Tカセットを使った際フロント42Tでギア比1.0〜3.81を、フロント40Tでギア比0.95〜3.63をカバーしていたが、新型GRXではリア10-45Tとフロント42Tで最小ギアは0.93〜4.2、フロント40Tでは0.88〜4.0とこの時点で先代を大きく上回るワイドレシオ。リア10-51Tに至ってはフロント40Tで最小0.78とグラベルライドの範疇に収まるあらゆるシーンへの対応をみた。
なおフロントダブルはトップ11Tのまま。しかし新しく11-36Tカセットが追加されたことで最小ギア比は0.86にダウンした(従来は11-34Tで0.91)。フロント40Txリア10-51Tほどのローギアではないものの、これはあくまで現実的に「レースで使えるギア構成」を検討して導き出された答えという。トップギア比は4.36と従来通りでハイアベレージのレースや舗装路の下りにも対応している。
また、リアディレイラーには従来通り荒地でのチェーンスナップを抑制するオンオフ式のクラッチが搭載されるほか、2xのフロントディレイラーは従来よりも2.5mm外側に配置することで泥詰まりを対策。ワイドタイヤを履かせるフレーム設計にもメリットが活かされる部分だ。
新ブラケットデザイン、新型ブレーキ、トップ10T対応ホイール
サスペンションを前提とせずオフロードを走るグラベルコンポーネントだからこそ「タッチポイント」の重要性は高い。新型GRXのSTIレバーは形状そのものに大きな変更は無いが、フレアハンドルに取り付けた際、手を置くポイントが平らになるようプレッシャーセンサーを使った実験を繰り返した上でマイナーチェンジしている。
シマノ曰く、先代GRX開発の際にあまりフレアハンドルが一般的ではなく、斜めに取り付けると角が立って局所的に圧力がかかっていたことを改善したという。特にフレアハンドルは長距離を走るライダーから愛される傾向にあるため、効果は決して小さくないはず。実際に筆者も1日半のライドでこの部分は強く印象に残ったのだった。
もちろんブラケットフードのラインテクスチャー加工や、シマノのフィッシング部門との共同開発で生まれたレバーのアンチスリップ加工(シマノ社内ではネオラバと呼んでいるそう)も継続。これまでレバーのアンチスリップ加工は最上級である800グレードのみだったが、新型GRXでは全てのグレードに拡大。雨や泥コンディションに対応するようになっている。
ブレーキシステムは12速の新世代ロードコンポ同様にブレーキパッドの間隔を10%広げてシュータッチ/音鳴りを軽減。さらに公式資料には書かれていない部分ではあるものの、松本氏によれば、初期制動力の立ち上がりを若干落とすことでよりグラベル上での扱いやすさを向上しているという。
先述したフロントシングルギアに対応するべく、マイクロスプラインを採用したグラベル用カーボンホイール(WH-RX880-TL)も登場している。32mmハイトのフルカーボンリムは昨年登場したWH-RX870と共通で、リアハブのみが異なる兄弟版といえるもの。ただしフリーボディ自体はロードのHG L2スプライン(12速用)に交換することが可能(WH-RX870はマイクロスプラインボディへの交換不可)というオールマイティさを兼ね備える。シマノ初となるロード規格のマイクロスプラインボディ搭載ホイールという意味でもエポックメイキングといえるかもしれない。
RX610:エントリー層の受け皿となる弟分
ULTEGRAグレードの「RX820」に次ぎ、105グレードに相当する「RX610」も同時にデビューを飾った。こちらはSTIレバー(ST-RX610)とクランクセットがニューモデルとなり、前後ディレイラーはRX820のみ、カセットとチェーン、ブレーキシステムは従来品で構成されることになる。
変速システムはフロントダブルとフロントシングルが用意され、シングルは40Tと38T、ダブルは46-30TとそれぞれRX820よりも軽いギア比構成を実現する。ローギア比はシングルの38Tx51Tで0.74、ダブルの30x36Tで0.83と、長く体力を残してライドを楽しむのに適した構成となった。RX610にはブラケットフードの加工が新規追加された一方、サーボウェーブアクションと、フレアハンドルに対応するブラケット形状は取り入れられていない。
United in Gravel、グラベルで、一つに
昨今シマノが発信しているグローバルキーワードが「United in Gravel(グラベルで、一つに)」だ。あらゆるレベルのサイクリストに対してバイクライフを楽しむように呼びかけるメッセージであり、特にグラベルを入り口にスポーツバイクを始めるユーザーが多い北米で「一緒に走って繋がろう」をアピールするものだ。
今回のローンチイベントも日本、ヨーロッパ、オセアニア、そして北米と、世界中から集ったジャーナリストやスタッフが一緒になって走り、学び、そして交流を深めたりと、まさにそのモットーを体現する2日半となった。
ギアレンジを増したことで、より幅広いライドスタイルにマッチするようになった新型GRX。「United in Gravel」を強力に推し進めるその性能は次章でお伝えしたい。
シマノ GRX RX820系 価格
タイプ | 品番 | バリエーション | 税込価格 |
リアディレイラー | RD-RX820/フロントダブル用、RX822/フロントシングル用 | - | 15,008円 |
フロントディレイラー | FD-RX820 | - | 7,327円 |
カセットスプロケット | CS-R8101 フロントダブル用 | 11-34T | 13,420円 |
カセットスプロケット | CS-M8100 フロントシングル用 | 10-45T、10-51T | 20,962円 |
STIレバー&ブレーキ | ST-RX820(左),BR-RX820(リア) | - | 47,807円 |
STIレバー&ブレーキ | ST-RX820(右),BR-RX820(フロント) | - | 47,871円 |
STIレバー&ブレーキ | BL-RX820(左),BR-RX820(リア) | - | 47,728円 |
デュアルコントロールレバー | ST-RX820 左右個別 | - | 33,567円 |
デュアルコントロールレバー | ST-RX820 左 アジャスタブルシートポスト対応 | - | 30,562円 |
ブレーキレバー | BL-RX820 左 | - | 27,562円 |
油圧ディスクブレーキ | BR-RX820 フロント用 | - | 9,599円 |
油圧ディスクブレーキ | BR-RX820 リア用 | - | 8,998円 |
クランクセット | FC-RX820-1(40T、42T) | 170、172.5、175mm | 29,410円 |
クランクセット | FC-RX820-2(48X31T) | 170、172.5、175mm | 29,410円 |
ディスクローター | RT-CL800 160mm センターロック | - | 6,788円 |
ディスクローター | SM-RT86 160mm 6本ボルト | - | 6,943円 |
ホイール | WH-RX880-700C | フロント | 114,906円 |
ホイール | WH-RX880-700C リア | リア(HG L2スプライン)、リア(マイクロスプライン) | 140,441円 |
ホイール | WH-RX870 フロント | フロント | 101,310円 |
ホイール | WH-RX870 リア | リア | 106,040円 |
シマノ GRX RX610系 価格
タイプ | 品番 | バリエーション | 税込価格 |
カセットスプロケット | CS-HG710 フロントダブル用 | 11-36T | 10,230円 |
カセットスプロケット | CS-R7101 フロントダブル用 | 11-34T | 7,700円 |
カセットスプロケット | CS-M7100 フロントシングル用 | 10-45T、10-51T | 13,783円 |
STIレバー&ブレーキ | ST-RX610(左),BR-RX400(リア) | - | 36,867円 |
STIレバー&ブレーキ | ST-RX610(右),BR-RX400(フロント) | - | 36,762円 |
STIレバー&ブレーキ | BL-RX610(左),BR-RX400(リア) | - | 36,787円 |
デュアルコントロールレバー | ST-RX610 左右個別 | - | 24,739円 |
ブレーキレバー | BL-RX610 左 | - | 23,088円 |
油圧ディスクブレーキ | BR-RX400 フロント用 | 7,337円 | |
油圧ディスクブレーキ | BR-RX400 リア用 | - | 6,674円 |
クランクセット | FC-RX610-1(38T、40T) | 165、170、172.5、175mm | 19,397円 |
クランクセット | FC-RX610-2(46X30T) | 165、170、172.5、175mm | 19,397円 |
ディスクローター | SM-RT70 160mm センターロック | - | 3,816円 |
ディスクローター | SM-RT64 160mm センターロック | - | 3,407円 |
提供:シマノ text&photo:So Isobe