2024/06/20(木) - 23:00
ドロミテの立体的かつ荘厳な山々が見下ろすコルヴァーラのリゾートホテルに集まった各国の機材系ジャーナリストたち、ピナレロ首脳陣、同開発陣、そしてイネオス・グレナディアーズのルーク・ロウ。ピナレロマークのカバーが取り払われると、新型DOGMA Fが登場した。
名称はDOGMA F。前作から変わらずDOGMA F。
ピナレロがDOGMAの名称を使い始めてから22年の時が経つ。2002年に当時画期的だったマグネシウム合金製ロードとして登場した初代DOGMAは、カーボンフレームのプリンスと双璧を成す存在として進化を続けた。2009年にカーボンを採用したDOGMA60.1が発表され、その2年後の2011年に登場したDOGMA 2は2012年にブラドレー・ウィギンズをツール・ド・フランス総合優勝へと導いている。
さらに2013年登場のDOGMA 65.1Think2は同年クリス・フルームのツール初制覇をサポート。DOGMA F8へと進化してからはフルームのツール総合優勝量産体制を支え、2015年にピナレロはDOGMA F8のディスクブレーキモデルを、2016年に軽量モデルのXlightを世に送り出している。2017年にDOGMA F10をリリースすると、続いてF10 X-light、F10ディスクが登場。2019年登場のF12を経て、2021年に数字を取り払ったFに進化した。名称の変わらない新作DOGMA Fは、2023年発表のエンデュランスロードであるDOGMA Xとともにピナレロラインナップの頂点に君臨する。
DOGMA Fに求められるもの、それは勝つための完全無欠のレーシングバイクとしての性能だ。今回の発表会で繰り返されたのは「パーシュート・オブ・パーフェクション(完璧の追求)」という言葉。細かいブラッシュアップが詰め込まれた正常進化であると言え、遠目からでは前モデルと見分けがつかないかもしれない(だがしかしそのシルエットは確実にピナレロであることを明確に主張している)。「高いパフォーマンスはもちろん、ピナレロだとわかるユニークなデザインを見てほしい。最近はエアロ性能だけを求めたエイリアンのようなプロダクトも散見されるが、スタイルと気品もまた大事」と発表会に同席したファウスト・ピナレロ氏は自信を込める。
「平坦からスプリント、山岳、石畳まで、この一台で全てのレースと全ての脚質をカバーする。コース別や目的別に何台もバイクを揃えているメーカーもあるが、『乗り味の変わらない一台でステージレースを通したい』というイネオス・グレナディアーズからのリクエストもあり、バランスを追求した一台を生み出した」と、プレゼンテーションで進行を担当したマーケティング担当のフェデリコ・ズブリッサ氏。
「エアロ」と「ライトウェイト」というロードレースで求められる二つの要素を満たすために各社が二機種をラインナップし、ここにきてそれらを一本化する流れがある中、ピナレロは近年DOGMA一機体制を貫いてきた。2023年に発表された DOGMA Xを頂点とするXシリーズは非競技志向に振ったもので(十分に戦闘力は高いが)、ロードレースの舞台では一貫してDOGMA Fが投入される。
性格の異なるバイクを乗り換えるとペダリングやハンドリングの感覚が変わり、その都度ライダーはバイクにアジャストしなければならない。特に近年のロードレースでは必ずしも登りで勝負が決まるのではなく、山岳ステージでは下りのパフォーマンスが結果に響くことも多くなってきた。「登りだけでなく平坦でも下りでも勝負がかかる近代ロードレースではオールラウンドに戦えるバイクが必要」と、DOGMAシリーズを駆って2019年にツール・ド・フランスを、2021年にジロ・デ・イタリアを制しているイネオス・グレナディアーズのエガン・ベルナル。
オールラウンドなバイク性能を追求するために、ピナレロはツール・ド・フランスでの各ステージにおける求められる性能を評価。エアロ性能と軽量性のバランスを総合的に追求することで、その最適解を導き出した。
例えば3週間のグランツールにおいて、バイクのエアロ性能を0.2%改善することは175gの軽量化と同じアドバンテージを生み出すというのがピナレロの研究結果。フィリッポ・ガンナが駆ったアワーレコードバイクからのフィードバックも取り入れ、特に新型DOGMA Fは剛性アップとエアロ性能の向上を謳っている。
使用されるカーボンは、X-Lightモデルやチームモデルでテスト済みの東レ「トレカカーボンM40X」。同じ第3世代炭素繊維である高強度タイプの「T1100」から高弾性率タイプの「M40X」に切り替えた。言わずもがな、ハイモジュラスカーボンを使うことでフレームを軽量に仕上げることができる。プレゼンテーションではあくまでも「高いバランス」を全面に押し出し、その軽量性についてほぼ触れられなかったが、フレームキットでは前作比マイナス120gの軽量化がサラリと達成されている。
フレーム形状で最も特徴的な変更点は、前面から見て薄型になったヘッドチューブとダウンチューブ、そしてボリュームアップしたBB周辺だ。細かいインプレは次章に記すが、フレームはより翼状化しつつマッチョになり、さらなる剛性を手にしている。
ピナレロが2014年にDOGMA F8で採用し、他社が追従したヘッドチューブ前方のノーズシェイプは継承。そのヘッドチューブ自体が薄型化(前から見て細身)している。エアロ性能向上につながるこのスリムなチューブ形状を実現するために、ヘッドセットも新しくデザインされた。具体的にはコラム径とベアリングを小型化し、必要な剛性を保ちながら軽量に仕上げられている。
フォークコラムは横に扁平した設計で、コラムの前方をケーブルが通る新しいルーティングに。コラム径の小型化と相まってスペースに余裕が生まれ、整備性が大幅に向上したという。組み合わされる専用一体型ハンドル「タロンファスト」はロードレース界のトレンドに則った少しフレアな形状で、もちろんエアロ性能の向上と軽量化が達成されている。
剛性を保ちながらスリムになったヘッドチューブから流れるようにつながるダウンチューブ上部もまた薄型に。そこからボリュームのある特徴的な「エアロ・キールBB」に向かって緩やかに形を変えていく。本来キールとは船舶の船底を表す言葉。前方に3.5度せり出した形状をもち、ワイドタイヤを受け入れるチェーンステーに向けて緩やかな広がりを見せ、丸みを持たせることでBB周辺のエアロ性能を1.2%向上させている。見た目通りこのBBボックスは横剛性を向上させており、BB自体はスレッド式のイタリアン規格だ。
これらのエアロ性能の改善にはアワーレコードバイクで培ったフィードバックが多く取り入れられているという。よりスリムになった新しいオンダフォークもまた然りだ。なお、新型DOGMA Fは30mm幅タイヤをベースに再設計され、フォークレーク(オフセット)は43mmから47mmに変化しているが、バイク全体に大きなジオメトリーの変更は行われていない。なお、新型DOGMA Fはディスクブレーキ専用設計。そのため現行DOGMA Fのリムブレーキフレームはラインナップに残る予定だ。
「マージナルゲイン」を掲げて進められたフレームの再設計の末に、細かいことだがスルーアクスルの受けの外側にも穴がなくなった。見えないところでは、内蔵シートクランプも小型軽量化されているなど抜かりはない。アシンメトリック(左右非対称)の伝統は継承され、「よりエアロで、より美しく」がキーワード。デッサンで描き出された形状をCFDシミュレーションで解析して最適化されたフレームは「美しさはピナレロのDNA」という言葉を体現している。
前述の通りツール・ド・フランスで勝利を量産してきた伝統のDOGMAは、勝つための武器として進化を続けてきた。アマチュア時代から数えて15年間ピナレロバイクに乗るゲラント・トーマスは「10年前のバイクが古代のバイクにように感じるほど、別次元のバイクに進化している。新型が出るごとに進化してきた結果、凄まじく進化している」と語る。ジロ・デ・イタリア総合3位の38歳は、ベルナルやトム・ピドコックとともに12回目のツールに挑む。
イネオス・グレナディアーズのもう一人のエース、23歳のカルロス・ロドリゲスは直前のクリテリウム・デュ・ドーフィネ最終ステージでこの新馬を駆って勝利している。正式発表前にすでに勝利を収め、前哨戦でDOGMA Fのパフォーマンスを確認したイネオス・グレナディアーズは本戦ツールで全面的に新型を投入する。
次章では開発者マッシモ・ポロニアート氏のインタビュー、そしてドロミテの名コースで行われたテストライドとインプレッションをお届けする。
完璧を追求する伝統のDOGMA
名称はDOGMA F。前作から変わらずDOGMA F。
ピナレロがDOGMAの名称を使い始めてから22年の時が経つ。2002年に当時画期的だったマグネシウム合金製ロードとして登場した初代DOGMAは、カーボンフレームのプリンスと双璧を成す存在として進化を続けた。2009年にカーボンを採用したDOGMA60.1が発表され、その2年後の2011年に登場したDOGMA 2は2012年にブラドレー・ウィギンズをツール・ド・フランス総合優勝へと導いている。
さらに2013年登場のDOGMA 65.1Think2は同年クリス・フルームのツール初制覇をサポート。DOGMA F8へと進化してからはフルームのツール総合優勝量産体制を支え、2015年にピナレロはDOGMA F8のディスクブレーキモデルを、2016年に軽量モデルのXlightを世に送り出している。2017年にDOGMA F10をリリースすると、続いてF10 X-light、F10ディスクが登場。2019年登場のF12を経て、2021年に数字を取り払ったFに進化した。名称の変わらない新作DOGMA Fは、2023年発表のエンデュランスロードであるDOGMA Xとともにピナレロラインナップの頂点に君臨する。
DOGMA Fに求められるもの、それは勝つための完全無欠のレーシングバイクとしての性能だ。今回の発表会で繰り返されたのは「パーシュート・オブ・パーフェクション(完璧の追求)」という言葉。細かいブラッシュアップが詰め込まれた正常進化であると言え、遠目からでは前モデルと見分けがつかないかもしれない(だがしかしそのシルエットは確実にピナレロであることを明確に主張している)。「高いパフォーマンスはもちろん、ピナレロだとわかるユニークなデザインを見てほしい。最近はエアロ性能だけを求めたエイリアンのようなプロダクトも散見されるが、スタイルと気品もまた大事」と発表会に同席したファウスト・ピナレロ氏は自信を込める。
すべてはロードレースを制するために
「平坦からスプリント、山岳、石畳まで、この一台で全てのレースと全ての脚質をカバーする。コース別や目的別に何台もバイクを揃えているメーカーもあるが、『乗り味の変わらない一台でステージレースを通したい』というイネオス・グレナディアーズからのリクエストもあり、バランスを追求した一台を生み出した」と、プレゼンテーションで進行を担当したマーケティング担当のフェデリコ・ズブリッサ氏。
「エアロ」と「ライトウェイト」というロードレースで求められる二つの要素を満たすために各社が二機種をラインナップし、ここにきてそれらを一本化する流れがある中、ピナレロは近年DOGMA一機体制を貫いてきた。2023年に発表された DOGMA Xを頂点とするXシリーズは非競技志向に振ったもので(十分に戦闘力は高いが)、ロードレースの舞台では一貫してDOGMA Fが投入される。
性格の異なるバイクを乗り換えるとペダリングやハンドリングの感覚が変わり、その都度ライダーはバイクにアジャストしなければならない。特に近年のロードレースでは必ずしも登りで勝負が決まるのではなく、山岳ステージでは下りのパフォーマンスが結果に響くことも多くなってきた。「登りだけでなく平坦でも下りでも勝負がかかる近代ロードレースではオールラウンドに戦えるバイクが必要」と、DOGMAシリーズを駆って2019年にツール・ド・フランスを、2021年にジロ・デ・イタリアを制しているイネオス・グレナディアーズのエガン・ベルナル。
オールラウンドなバイク性能を追求するために、ピナレロはツール・ド・フランスでの各ステージにおける求められる性能を評価。エアロ性能と軽量性のバランスを総合的に追求することで、その最適解を導き出した。
例えば3週間のグランツールにおいて、バイクのエアロ性能を0.2%改善することは175gの軽量化と同じアドバンテージを生み出すというのがピナレロの研究結果。フィリッポ・ガンナが駆ったアワーレコードバイクからのフィードバックも取り入れ、特に新型DOGMA Fは剛性アップとエアロ性能の向上を謳っている。
美しさはピナレロのDNA
使用されるカーボンは、X-Lightモデルやチームモデルでテスト済みの東レ「トレカカーボンM40X」。同じ第3世代炭素繊維である高強度タイプの「T1100」から高弾性率タイプの「M40X」に切り替えた。言わずもがな、ハイモジュラスカーボンを使うことでフレームを軽量に仕上げることができる。プレゼンテーションではあくまでも「高いバランス」を全面に押し出し、その軽量性についてほぼ触れられなかったが、フレームキットでは前作比マイナス120gの軽量化がサラリと達成されている。
フレーム形状で最も特徴的な変更点は、前面から見て薄型になったヘッドチューブとダウンチューブ、そしてボリュームアップしたBB周辺だ。細かいインプレは次章に記すが、フレームはより翼状化しつつマッチョになり、さらなる剛性を手にしている。
ピナレロが2014年にDOGMA F8で採用し、他社が追従したヘッドチューブ前方のノーズシェイプは継承。そのヘッドチューブ自体が薄型化(前から見て細身)している。エアロ性能向上につながるこのスリムなチューブ形状を実現するために、ヘッドセットも新しくデザインされた。具体的にはコラム径とベアリングを小型化し、必要な剛性を保ちながら軽量に仕上げられている。
フォークコラムは横に扁平した設計で、コラムの前方をケーブルが通る新しいルーティングに。コラム径の小型化と相まってスペースに余裕が生まれ、整備性が大幅に向上したという。組み合わされる専用一体型ハンドル「タロンファスト」はロードレース界のトレンドに則った少しフレアな形状で、もちろんエアロ性能の向上と軽量化が達成されている。
剛性を保ちながらスリムになったヘッドチューブから流れるようにつながるダウンチューブ上部もまた薄型に。そこからボリュームのある特徴的な「エアロ・キールBB」に向かって緩やかに形を変えていく。本来キールとは船舶の船底を表す言葉。前方に3.5度せり出した形状をもち、ワイドタイヤを受け入れるチェーンステーに向けて緩やかな広がりを見せ、丸みを持たせることでBB周辺のエアロ性能を1.2%向上させている。見た目通りこのBBボックスは横剛性を向上させており、BB自体はスレッド式のイタリアン規格だ。
これらのエアロ性能の改善にはアワーレコードバイクで培ったフィードバックが多く取り入れられているという。よりスリムになった新しいオンダフォークもまた然りだ。なお、新型DOGMA Fは30mm幅タイヤをベースに再設計され、フォークレーク(オフセット)は43mmから47mmに変化しているが、バイク全体に大きなジオメトリーの変更は行われていない。なお、新型DOGMA Fはディスクブレーキ専用設計。そのため現行DOGMA Fのリムブレーキフレームはラインナップに残る予定だ。
「マージナルゲイン」を掲げて進められたフレームの再設計の末に、細かいことだがスルーアクスルの受けの外側にも穴がなくなった。見えないところでは、内蔵シートクランプも小型軽量化されているなど抜かりはない。アシンメトリック(左右非対称)の伝統は継承され、「よりエアロで、より美しく」がキーワード。デッサンで描き出された形状をCFDシミュレーションで解析して最適化されたフレームは「美しさはピナレロのDNA」という言葉を体現している。
イネオスとともにツールの舞台へ
前述の通りツール・ド・フランスで勝利を量産してきた伝統のDOGMAは、勝つための武器として進化を続けてきた。アマチュア時代から数えて15年間ピナレロバイクに乗るゲラント・トーマスは「10年前のバイクが古代のバイクにように感じるほど、別次元のバイクに進化している。新型が出るごとに進化してきた結果、凄まじく進化している」と語る。ジロ・デ・イタリア総合3位の38歳は、ベルナルやトム・ピドコックとともに12回目のツールに挑む。
イネオス・グレナディアーズのもう一人のエース、23歳のカルロス・ロドリゲスは直前のクリテリウム・デュ・ドーフィネ最終ステージでこの新馬を駆って勝利している。正式発表前にすでに勝利を収め、前哨戦でDOGMA Fのパフォーマンスを確認したイネオス・グレナディアーズは本戦ツールで全面的に新型を投入する。
ピナレロ DOGMA F
セット内容 | フレーム、フォーク、シートポスト、ヘッドパーツ等 |
フレームサイズ | 43、46.5、50、51.5、53、54、55、56、 57.5、 59.5、 62 (cm) |
カラー | G110 LUXTER RED GOLD G112 LUXTER BLUE G111 BOB G113 EDGE CRYSTAL WHITE G114 LUXTER VENICE G115 AURIK YELLOW G116 INEOS GRENADIERS |
フレームセット価格 | 1,155,000円(税込) |
TALON ULTRA FAST価格 | 193,600円(税込) |
次章では開発者マッシモ・ポロニアート氏のインタビュー、そしてドロミテの名コースで行われたテストライドとインプレッションをお届けする。
提供:カワシマサイクルサプライ
text:Kei Tsuji
text:Kei Tsuji