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先進のハイパフォーマンスブランド、カデックス

ジャイアントと一線を画すプレミアムコンポーネントブランドがカデックス。発表会ではMAX40ホイールを押し出した展示を行った photo:GIANT

新型TCRを語る上で欠かすことができない存在がカデックス(CADEX:英語ではケイデックス)だ。カデックスはジャイアントによって生を受けたコンポーネントブランドであり、彼らが開発し、リリースされる全ての製品は最高品質のトップエンドモデルばかりという際立った特徴を持つ。

もちろんジャイアントが保有するブランドの一つではあるものの、選び抜かれたカデックス専任の精鋭メンバーが製品企画を行い、開発し、プロモーションを行う。超高性能のハイエンド製品のみを追い求めるプレミアムパーツブランドであり、他ブランドではあり得ないほどに斬新で"攻めた"アイディアを、圧倒的な信頼性を兼ね備えながら具現化しているのだ。

TCRと同時開発されたMAX40ホイール。ペア1249gという恐ろしい軽さを誇る photo:So Isobe

ハブフランジとスポークは一体構造。高い剛性に寄与する photo:So Isobe
パワー伝達性能を極限まで重視して生まれたハブフランジのデザイン photo:So Isobe



新型TCRのテストで体感したキレ味鋭い走りは一体型カーボンスポーク&ハブを投入しペア1249gを実現したMAX 40ホイールに拠る部分も多く、TCRは同時リリースされたRACE GCチューブレスタイヤや、一体型の軽量ハンドルと組み合わせることを前提としている。全てのホイールラインナップに調整式カーボンスポークを投入して話題をさらった2019年のブランドデビューから早5年、度肝をぬくエアロデザインのTriフレームセットのリリースなどを経て、カデックスは今やロードバイクを、そしてトライアスロンを愛する人から一目置かれる存在となりつつある。

カデックスを牽引するジェフ・シュナイダー氏。マーケターとして、そしてエンジニアとして30年以上も自転車業界に身を置く大ベテランだ photo:So Isobe

ジェフ・シュナイダー氏は、そんなカデックスを率いるプロダクトマネージャーだ。マーケターとして、そしてエンジニアとして30年以上も自転車業界に身を置き、かつてはパナレーサーやシマノといった日本ブランドでも辣腕を振るってきた。ジャイアントに移籍して以降はギア主任として経験を重ね、現在に至るまでカデックスブランドを牽引し続けている。

そんなカデックスの中心人物に、筆者はTCR発表会の期間中、主にホイールの独自システムと、昨今話題のフックレスチューブレスを中心にたっぷりと話を聞くことができた。「この1,2年でどのブランドもカーボンスポークを採用する」、「フックレスリムのメリットと解決すべき課題」と言う彼の真意とは、そして、カデックスがこの先目指すものとは。

カデックスのプロダクトマネージャーに話を聞く

「妥協なく、最高品質のプロダクトを追い求めるブランド」

プレゼンテーションを行うシュナイダー氏。誇り高く、最高品質のコンポーネントを作るべく邁進している photo:GIANT

「カデックスとは、妥協なく、最高品質のプロダクトを追い求めるブランドです。

それは私のような開発者にとっての夢と言えるもの。自転車をはじめどの業界でも一緒ですが、開発陣はコストやマーケティングによってある程度、製品の完成度に妥協点を設けなければなりません。でもカデックスはその妥協点を限りなく取り払い性能を追い求める「ブルースカイプロジェクト」であり、我々のCEOはコストを気にせず開発に集中すべしという道を提示してくれています。開発者としてこれ以上幸せなことはありません。

それを表現する良い例がカーボンスポークでしょう。ブランドローンチ前、2018年の段階で我々のホイールは満足に足るものではありませんでした。DTスイスのOEMスポークにOEMハブ、重量、剛性。ブランドを立ち上げる以上、どこにでもあるようなホイールではインパクトを残せない。そこで我々は、以前から可能性を見出していたカーボンスポークを自社開発することに決めました。

MAX 40に新規採用されたテクノロジーたち。リムからスポーク、ハブまで意欲的なシステムが投入されている photo:GIANT

カーボンスポークを使う理由は、軽さはもちろんですが、それ以上にカーボンはステンレスやスチールと違って伸びず、ホイールの剛性を引き上げ、強い構造体を作ることができるからです。

最も効率の良いホイールとはつまり、ペダリングパワーを確実に路面に伝え、その動きを妨げない軽いリムを兼ね備えたものです。もちろんエアロダイナミクスや重量も重要ですが、我々はその2点を重視したからこそダイナミック・バランスド・レーシング(DBL)テクノロジーを開発し、MAX 40ではそれを推し進めたカーボンハブフランジ一体式の調整式カーボンスポークへと進化させました。

カーボンスポークのメリットは計り知れないほどですし、今年、あるいは数年のうちにDTスイス、スペシャライズド(ロヴァール)、ジップなど各社もこの波に乗ってくるはずです。

タフコンディションでの信頼感も非常に高い。チームジェイコでは5シーズンを経て、通常のライド中のスポーク折れはゼロだという

最初にプロチームに供給した際「落車時にスポークが折れるんじゃないのか」という意見は非常に多く、2019年のブランド発表の際にも、これまでカーボンスポークのホイールを試してきたジャーナリストたち、まあ、つまりはR-Sysのスポーク折れを経験してきた人ですが、彼らからも不安視する声があがりました。でも耐久性に不安は一切ありませんし、落車時も、スチールスポークが折れるようなひどい大事故でない限り折れません。実際にCCCからジェイコに供給して合計5シーズンのうち、通常のライド中のスポーク折れはゼロ、落車によるスポーク折れですら片手で数えるほどでした。

個人的にもグラベルライドで使っていますが、結構な勢いで石や木の枝に当てても傷がつくくらいで、交換が必要なほどの曲りや折れは今のところ起きていません。ユーザーからのクレーム対応も全販売数における0.2%と非常に少ない。そのくらい我々のホイールは信頼性が高いのです。

フックレスリムのメリット、解決しなければならないこと

カデックスのもう一つの特徴的な構造はフックレスリムであることです。フックレスリムは文字通りフックを廃したリムですが、構造として強くできることがメリットです。なぜならカーボン製フックドリムを製造する際、フックのコア(核)部分にプラスチック製のパーツを仕込み、モールディングの際にカーボンシートを切ってプラスチックを取り出すという作業が発生しますが、一方でフックレスならカーボンシートを切る必要がない。だから衝撃に強くて軽いリムを作ることができるのです。

カデックスのフックレスリム。フックを成形することで生まれるカーボンシートの分断が無く、対衝撃性に強く軽いリムを作れると言う photo:So Isobe

デメリットとしては高圧に耐えられないということですが、急激にタイヤがワイド化し、低圧化している現代において、もやは常用8気圧に耐えるようなリムを作る必要がありません。プロチームは全員28mmタイヤを使い、一般ユーザーもようやくそのメリットを理解しはじめている。これはフックレスリムに対する強烈な追い風となるでしょう。

昨今フックレスリムの危険性が取り沙汰されていますが、もちろん我々は安全性を最重視して設計し、その上でフックレスが最良であるとして製品開発を進めています。

タイヤが外れてしまう理由はいくつかありますが、第一には、ほとんどのチューブレスタイヤがケブラービードを使っていることです。きっと誰でも新品より一度使ったタイヤの方が脱着が簡単だと思ったことはあるでしょう?あれはケブラービードが伸びるから。常用空気圧では問題ありませんが、我々のテストでは、装着時のビード上げの際などを想定し、超高圧にした時にはケブラービードが伸びて外れてしまうことが確認できています。カデックスのタイヤはケブラーとカーボン混紡の伸びないビードを採用しているため、どんなに空気を入れたとしてもリム外れのリスクは限りなく低い。実際に225psi(15.5Bar)まで入れたとしても大丈夫という結果を得ています。

「チューブレスの規格は、カデックスとしてだけではなく、あらゆるタイヤブランドと共に業界全体として解決していくべき課題だと捉えています」 photo:So Isobe

チューブレスの規格は、カデックスとしてだけではなく、あらゆるタイヤブランドと共に業界全体として解決していくべき課題。ですから我々もヴィットリア、コンチネンタル、ハッチンソン、そしてマキシスなど、実際に工場を所有してタイヤを製造するメーカーと絶えず対話を続けています。特にヴィットリアはジェイコが使用しているため我々と近い存在ですし、レスポンスも、試作品を作るスピードも早く、我々のテストでも極めて安全性が高いことが証明されています。

だからこそ、今年春先のレースで話題となったタイヤ外れ事故がヴィットリアのタイヤだったことに驚きました。これは私個人の推察ですが、事故に遭ったチームはタイヤインサートを使っているためタイヤが取り付けにくい。メカニックがタイヤレバーでむりやりセットした際にビードを傷つけたのではないか、あるいは梱包中や輸送中にタイヤが潰れてビードが傷ついていたか。私は過去にパナレーサーやシマノで働き知見を深めてきましたが、その経験上98%このどちらかの理由によるものだと思います。

ビードにケブラーとカーボン素材を使い、ビード伸びによるタイヤ外れのリスクを限りなく除去している photo:So Isobe

フックレスは危険でしょうか?私の答えはノーです。モーターサイクルも、クルマも、あらゆるチューブレスシステムがフックレスを使っているんですから。リムを強く軽く作れるメリットは、ワイドタイヤが主流となった今でこそ活きるものです。

ただ現時点ではETRTO規格がホイールブランドではなくタイヤブランドが主導していることに問題を感じています。だからこそ、我々ホイールブランドは、タイヤブランド各社と協議して、それぞれがETRTO規格の中で異なるサイズ運用をしている状況を統一しなければなりませんし、その上で正しい認識をユーザーに伝える義務があるのです。

カデックスが作りたいもの、目指すもの

カデックスの由来となった、同名のジャイアント初となる量産カーボンバイク(1985年)。本社併設のミュージアムにて photo:So Isobe

私が思うカデックスのターゲットは、全てのサイクリストに「ジャイアントのパーツブランド」ではなく「独立した、魅力のあるハイパフォーマンスブランド」として認識してもらうこと。

だからこそブランド立ち上げから今まで、プロモーションにはジャイアントやリブのバイクではなく、アルゴノートやモザイク、ムーツといったスモールビルダーのバイクを起用していますが、カデックスとして、私個人としてもそうしたプレミアムなビスポークの世界、つまりエンヴィが得意としている分野に切り込んでいきたいと強く感じています。

これまでカデックスはホイール、ハンドルとステム、サドル、フレームなどをリリースしてきましたが、今いちばん、私が製品化したいのはフロントフォークです。現代の高性能ハンドメイドバイクにはエンヴィのフォークを使うことがスタンダードになっていますが、我々の技術力をフル投入すれば良いモノを作る自信がありますし、確実にチャンスはある。それこそカデックスが歩むべき道だと感じています」。
提供:ジャイアント・ジャパン / text:So Isobe