2023/11/17(金) - 18:00
イタリアロードバイクブランドの雄、ピナレロが発表したDOGMA X(ドグマ・エックス)。本特集では2ページに渡り「一般サイクリストのための最高級モデル」の海外発表会の模様と、独創的なフォルムに秘められたテクノロジー、そして走りのインプレッションを紹介していく。
ピナレロの開発スピードには、ただ驚かされてばかりだ。2023年2月、ピナレロは新型Fシリーズをリリースし、ロードバイクを含めた全ラインナップをレーシングモデルの「Fシリーズ」とエンデュランスモデルの「Xシリーズ」に集約した。その8月には世界選手権優勝を叶えたMTBレーシングモデル「DOGMA XC HT」をデビューさせ、さらにイタリアチーム御用達のトラックレーサー「MAAT」のバリエーションモデルも開発。そんな中、今回新しいエンデュランスロードバイクを多数リリースしたのだから、彼らの製品開発スピードには驚かされてしまう。
そして、ここに名前を挙げたバイク、そして過去に造られたピナレロのバイクには全て、独創的で、ユニークなアイディアが活かされてきた。古くは伝説的なタイムトライアルバイク「エスパーダ」、マグネシウムの初代DOGMA、波打つONDAフォーク、左右非対称設計、電子制御サスペンション採用のパリ〜ルーベ用モデル...。ピナレロはいつの時代も「世界初」のシステムや、美しいデザインを、レース用のハイパフォーマンスに落とし込み、昇華させてきた。それは今回の発表モデルにも受け継がれ、走行性能に秀でたバイクを作るに止まらない、ピナレロのアイデンティティをより一層推し進めている。
ピナレロが拠点を置く北イタリアはヴェネト州、トレヴィーゾの美しい旧市街地で、世界中から集ったジャーナリストの前に姿を現したのは、エンデュランスロードの最高峰モデルである新型DOGMA Xと、その弟分であるX9、X7、そしてX5の合計4モデル。今年2月にはXシリーズのエントリーモデルを発表していたため、これにてXシリーズ全ラインアップが出揃ったことになる。
奇抜で、独創的なダブルシートステー「FLEXI STAYS 2.0」は、「ピナレロのバイクは唯一無二、かつ美しくあるべき」というアイデンティティを体現するものだ。これは「サスペンションや振動吸収素材のような重量が嵩むシステムは現代のロードバイクにマッチしない」という開発姿勢から生み出され、できる限りシートステーを細くしてフレックスを高め、なおかつ重量やボトムブラケット剛性に影響しないというもの。
シートチューブとの交点が増えるにも関わらず振動吸収が高まるという説明に疑問を感じたが、同席したエンジニアに聞いたところ、どちらかと言うと今まで以上にシートステーを細めてしならせているため、フレーム強度を稼ぐ意味合いが強いとのこと。さらには横方向のブレを抑える役割も担い、ソリッド感のあるペダリングを叶えるのに役立っているという。つまり縦に柔らかく、横には強い。
目を引く形状だが、「2.0」という名が示す通り、横から見て緩やかに反るステーの基本形状は今までピナレロがエンデュランスモデルに継続採用してきたものと大きく変わらず、正常進化であることが見てとれる。最高峰モデルであるDOGMA Xにはシリーズ名の「X」を象ったシートステーブリッジを加えた「X-STAYS」となり、これはデザインもさることながら、さらに剛性を引き上げる意味を持つという。
プレゼンターを務めたマウリツィオ・ベリン氏によれば、このステー形状を実現させるためには、ピナレロが積み重ねてきたカーボンレイアップのノウハウと、TORAYCA T1100 1Kをはじめとする東レの高性能カーボン素材が不可欠だった。「エンデュランスモデルに求められる快適性と、ピナレロらしいパフォーマンスを融合させるのは難題で、この部分に関してはDOGMA Fよりも突き詰めた開発を行いました」と同氏は胸を張る。
DOGMA Xではこれらカーボンテクノロジーに加え、35mmまで対応可能なワイドタイヤを組み合わせることで振動吸収性を強化する。レーシングモデルであるDOGMA F(最大28mm)と比較するとその違いは顕著であり、開発陣曰くグラベルも含めたオールロードとしても十分に楽しめるとのこと。フレーム幅が広がったことで僅かな空力効率の損失(-5%)があるというが、相変わらず各部のエアロフォルムは維持されており、ホビーユースではほぼ関係ない範疇と言えるだろう。
基本的にXシリーズはアップライドな「エンデュランス+(プラス)ジオメトリー」を採用しているが、DOGMA XだけはFシリーズのコンペティションジオメトリーとの中間に位置する「エンデュランスジオメトリー」が新規開発されて与えられ、他モデルとの境界線を成している。日本で当てはまるユーザーが多いであろう515サイズ(トップ長535mm)をベースにDOGMA Fと比べると、リーチは6.3mm短く、スタックは16.3mm長い。さらにDOGMA Fで406mm(540以上は408mm)だったリアセンターを全サイズ422mmまで伸ばすことで直進安定性を引き出している。
「Fシリーズのアグレッシブなポジションが合うライダーは一握り。一日中ライドを楽しみつつ、時にレーサーのように走りたいと望む多くのホビーライダーにとってベストなジオメトリーを確立できたと思う。コラムの増し積みは不恰好だし、走行性能的にも良くないんだ」とは先のベリン氏。
プレゼン資料には重量や剛性値について記載されていなかったが、聞くところによればスモールパーツ無しの未塗装フレーム(サイズ53)で955g、コラムカット無しのフォークは400g。DOGMA Fと比較するとシステム全体で100g重たく、決して最軽量と言えるものではないが、 安定性と乗り心地を担保する上ではある程度重量が要るというのがピナレロの考え。サドルの上で長時間過ごすライダーのために剛性も調整され、DOGMA F比較で5〜10%ほど低く設定し、長時間のライドでも脚あがりが少ないよう配慮されている。
驚くべきことにDOGMA XはUCI認定済みのリーガルレースバイクであることだ(X3以下はUCI認証なし)。前身であるDOGMA Kはチームスカイによってパヴェを走った実績を持つため、将来的にパリ〜ルーベへの投入を視野に入れているのかと思ったが、「DOGMA Xだけを所有しているユーザーがレースに出たくなった時でも大丈夫なように」という意味合いだという。
DOGMA Xよりも、もっとアップライトなジオメトリーと穏やかな走りを与えられたのが、X9を筆頭とするXシリーズだ。今回デビューを飾ったX9とX7、そしてX5は先述した通り今年2月にデビューしたX3とX1の上位モデルであり、「FLEXI STAYS 2.0」の採用と東レの高弾性カーボン素材を採用していることが差異である。
X7とX9はT900カーボンを使い、X5はT500カーボン。ジオメトリーはX3&X1と同じく、DOGMA X比でスタックが15mm高く、リーチが9mm短い「エンデュランス+(プラス)ジオメトリー」を採用。よりリラックスしたライドポジションを叶えている。当然DOGMA Xよりもフレーム重量は増えているものの、T900カーボンを使うX9とX7はフレーム960g/フォーク400g、T700カーボンを使うX5はフレーム990g/フォーク400gと最低限の増加で抑えられていることが分かる。
ベリン氏はプレゼンテーションで「短距離走用のランニングシューズではフルマラソンは完走できない」とXシリーズの必要性を訴えた。「イタリアで人気を誇るミラノ〜サンレモの市民レースも、本当に疲れ切ったタイミングでポッジオとチプレッサが登場する。だからこそそれ相応のハイスペックバイクが必要であるはず」と述べている。
DOGMA Xはフレームセットでのみ販売が行われ、税込価格は1,100,000円。いずれも魅力的な4カラー展開となり、XOLAR BLACKにはメタリックロゴがあしらわれる。DOGMA Xの生産が優先されていることからXシリーズのラインナップや価格は今後詳細が発表される予定だという。
トレヴィーゾでの発表会 ピナレロのエンデュランスラインが出揃う
ピナレロの開発スピードには、ただ驚かされてばかりだ。2023年2月、ピナレロは新型Fシリーズをリリースし、ロードバイクを含めた全ラインナップをレーシングモデルの「Fシリーズ」とエンデュランスモデルの「Xシリーズ」に集約した。その8月には世界選手権優勝を叶えたMTBレーシングモデル「DOGMA XC HT」をデビューさせ、さらにイタリアチーム御用達のトラックレーサー「MAAT」のバリエーションモデルも開発。そんな中、今回新しいエンデュランスロードバイクを多数リリースしたのだから、彼らの製品開発スピードには驚かされてしまう。
そして、ここに名前を挙げたバイク、そして過去に造られたピナレロのバイクには全て、独創的で、ユニークなアイディアが活かされてきた。古くは伝説的なタイムトライアルバイク「エスパーダ」、マグネシウムの初代DOGMA、波打つONDAフォーク、左右非対称設計、電子制御サスペンション採用のパリ〜ルーベ用モデル...。ピナレロはいつの時代も「世界初」のシステムや、美しいデザインを、レース用のハイパフォーマンスに落とし込み、昇華させてきた。それは今回の発表モデルにも受け継がれ、走行性能に秀でたバイクを作るに止まらない、ピナレロのアイデンティティをより一層推し進めている。
ピナレロが拠点を置く北イタリアはヴェネト州、トレヴィーゾの美しい旧市街地で、世界中から集ったジャーナリストの前に姿を現したのは、エンデュランスロードの最高峰モデルである新型DOGMA Xと、その弟分であるX9、X7、そしてX5の合計4モデル。今年2月にはXシリーズのエントリーモデルを発表していたため、これにてXシリーズ全ラインアップが出揃ったことになる。
DOGMA X:全力で、ピナレロ。最高峰エンデュランスバイク
奇抜で、独創的なダブルシートステー「FLEXI STAYS 2.0」は、「ピナレロのバイクは唯一無二、かつ美しくあるべき」というアイデンティティを体現するものだ。これは「サスペンションや振動吸収素材のような重量が嵩むシステムは現代のロードバイクにマッチしない」という開発姿勢から生み出され、できる限りシートステーを細くしてフレックスを高め、なおかつ重量やボトムブラケット剛性に影響しないというもの。
シートチューブとの交点が増えるにも関わらず振動吸収が高まるという説明に疑問を感じたが、同席したエンジニアに聞いたところ、どちらかと言うと今まで以上にシートステーを細めてしならせているため、フレーム強度を稼ぐ意味合いが強いとのこと。さらには横方向のブレを抑える役割も担い、ソリッド感のあるペダリングを叶えるのに役立っているという。つまり縦に柔らかく、横には強い。
目を引く形状だが、「2.0」という名が示す通り、横から見て緩やかに反るステーの基本形状は今までピナレロがエンデュランスモデルに継続採用してきたものと大きく変わらず、正常進化であることが見てとれる。最高峰モデルであるDOGMA Xにはシリーズ名の「X」を象ったシートステーブリッジを加えた「X-STAYS」となり、これはデザインもさることながら、さらに剛性を引き上げる意味を持つという。
プレゼンターを務めたマウリツィオ・ベリン氏によれば、このステー形状を実現させるためには、ピナレロが積み重ねてきたカーボンレイアップのノウハウと、TORAYCA T1100 1Kをはじめとする東レの高性能カーボン素材が不可欠だった。「エンデュランスモデルに求められる快適性と、ピナレロらしいパフォーマンスを融合させるのは難題で、この部分に関してはDOGMA Fよりも突き詰めた開発を行いました」と同氏は胸を張る。
DOGMA Xではこれらカーボンテクノロジーに加え、35mmまで対応可能なワイドタイヤを組み合わせることで振動吸収性を強化する。レーシングモデルであるDOGMA F(最大28mm)と比較するとその違いは顕著であり、開発陣曰くグラベルも含めたオールロードとしても十分に楽しめるとのこと。フレーム幅が広がったことで僅かな空力効率の損失(-5%)があるというが、相変わらず各部のエアロフォルムは維持されており、ホビーユースではほぼ関係ない範疇と言えるだろう。
基本的にXシリーズはアップライドな「エンデュランス+(プラス)ジオメトリー」を採用しているが、DOGMA XだけはFシリーズのコンペティションジオメトリーとの中間に位置する「エンデュランスジオメトリー」が新規開発されて与えられ、他モデルとの境界線を成している。日本で当てはまるユーザーが多いであろう515サイズ(トップ長535mm)をベースにDOGMA Fと比べると、リーチは6.3mm短く、スタックは16.3mm長い。さらにDOGMA Fで406mm(540以上は408mm)だったリアセンターを全サイズ422mmまで伸ばすことで直進安定性を引き出している。
「Fシリーズのアグレッシブなポジションが合うライダーは一握り。一日中ライドを楽しみつつ、時にレーサーのように走りたいと望む多くのホビーライダーにとってベストなジオメトリーを確立できたと思う。コラムの増し積みは不恰好だし、走行性能的にも良くないんだ」とは先のベリン氏。
プレゼン資料には重量や剛性値について記載されていなかったが、聞くところによればスモールパーツ無しの未塗装フレーム(サイズ53)で955g、コラムカット無しのフォークは400g。DOGMA Fと比較するとシステム全体で100g重たく、決して最軽量と言えるものではないが、 安定性と乗り心地を担保する上ではある程度重量が要るというのがピナレロの考え。サドルの上で長時間過ごすライダーのために剛性も調整され、DOGMA F比較で5〜10%ほど低く設定し、長時間のライドでも脚あがりが少ないよう配慮されている。
驚くべきことにDOGMA XはUCI認定済みのリーガルレースバイクであることだ(X3以下はUCI認証なし)。前身であるDOGMA Kはチームスカイによってパヴェを走った実績を持つため、将来的にパリ〜ルーベへの投入を視野に入れているのかと思ったが、「DOGMA Xだけを所有しているユーザーがレースに出たくなった時でも大丈夫なように」という意味合いだという。
FLEXI STAYS 2.0を装備する新型X9〜X5 シリーズが出揃う
DOGMA Xよりも、もっとアップライトなジオメトリーと穏やかな走りを与えられたのが、X9を筆頭とするXシリーズだ。今回デビューを飾ったX9とX7、そしてX5は先述した通り今年2月にデビューしたX3とX1の上位モデルであり、「FLEXI STAYS 2.0」の採用と東レの高弾性カーボン素材を採用していることが差異である。
X7とX9はT900カーボンを使い、X5はT500カーボン。ジオメトリーはX3&X1と同じく、DOGMA X比でスタックが15mm高く、リーチが9mm短い「エンデュランス+(プラス)ジオメトリー」を採用。よりリラックスしたライドポジションを叶えている。当然DOGMA Xよりもフレーム重量は増えているものの、T900カーボンを使うX9とX7はフレーム960g/フォーク400g、T700カーボンを使うX5はフレーム990g/フォーク400gと最低限の増加で抑えられていることが分かる。
ベリン氏はプレゼンテーションで「短距離走用のランニングシューズではフルマラソンは完走できない」とXシリーズの必要性を訴えた。「イタリアで人気を誇るミラノ〜サンレモの市民レースも、本当に疲れ切ったタイミングでポッジオとチプレッサが登場する。だからこそそれ相応のハイスペックバイクが必要であるはず」と述べている。
販売ラインナップ:DOGMA Xはフレームセットで、Xシリーズは今後詳細を発表
DOGMA Xはフレームセットでのみ販売が行われ、税込価格は1,100,000円。いずれも魅力的な4カラー展開となり、XOLAR BLACKにはメタリックロゴがあしらわれる。DOGMA Xの生産が優先されていることからXシリーズのラインナップや価格は今後詳細が発表される予定だという。
ピナレロ DOGMA X フレームセット
メインマテリアル | Carbon Torayca T1100 1K |
ボトムブラケット | イタリアンスレッド |
ブレーキシステム | Rad Systemディスクブレーキ(フラットマウント) |
アクスル | フロント/100x12TA、リア/142x12TA |
ローター最大径 | 160mm |
最大タイヤサイズ | 700x35c |
カラー | XOLAR SUN / E200、XOLAR BLUE / E201、XOLAR BLACK / E2012、XOLAR GREEN / E203 |
価格 | 1,100,000円(税込) |
提供:カワシマサイクルサプライ text:So Isobe