2023/08/21(月) - 18:30
「テクニカルスタッフの数と技術面での知識レベルにおいて、ユンボ・ヴィスマは過去に提携したどのチームよりも上を行っています。そしてそのことが、我々のイノヴェーションを加速させ続けるのです」
ヨナス・ヴィンゲゴーがフルイエローに染め上げられた特製「マイヨ・ジョーナス」仕様のS5でパリ・シャンゼリゼに凱旋した数日後、サーヴェロのエンジニアリング・マネージャー、スコット・ロイ氏は興奮冷めやらぬ口調で語った。
今年もツール・ド・フランスの頂点に立ったサーヴェロのバイク。本稿では、大会終了後に急遽敢行したロイ氏へのインタビューを元に、大会2連覇を達成したユンボ・ヴィスマとサーヴェロの協働関係を読み解いていく。なぜユンボ・ヴィスマはツールを勝つための機材にサーヴェロを選んだのか。そしてユンボ・ヴィスマの存在はサーヴェロのバイクづくりにいかなる影響を与えているのか。
2023年のツール・ド・フランスを決定づけたのは、第16ステージの個人タイムトライアル。22.4kmのコースに、距離2.5km平均勾配9.4%の2級山岳が組み込まれたこのステージで圧巻のパフォーマンスを見せたのが、マイヨ・ジョーヌを着るヴィンゲゴーだった。ステージ2位のタデイ・ポガチャルに1分38秒という大差をつけた、後世に語り継がれるであろうステージとなった。
この日の焦点となったのは、終盤に登場する山岳ポイントを前に、TTバイクからロードバイクに乗り換えるかということ。結果としてTTバイクのまま走ることを選んだヴィンゲゴーがステージ優勝を掴んだが、その選択にロイ氏を始めサーヴェロのスタッフたちが大きく関わっていた。
「昨年から今年にかけて、バイク交換をする個人タイムトライアルの機会が数回ありました。ライダーのCdA値や、TTバイクであるP5の空力ドラッグ値、ライダーの体重や各種ホイールの空力特性といったデータが手元にあるため、あとは最後のピースとしてライダーのパワーを計算に組み込む必要がありました。少なくとも空力の面では私達の計算が立つため、ワウトやヨナスの7w/kgという推定パワーを鑑みて、P5で走る方が速いだろうと算出したのです。」
各種データに加えて、コース特性をみて最終的な決断を下したとロイ氏は言う。
「バイク交換をするかしないかは、コースの距離と上りの勾配とのバランスを考慮して決めました。この日のコースは、山岳ポイントを越えたあとも登り基調でしたが、勾配が緩いためバイクの軽量さより空力のメリットをとったのです。バイク交換にかかるタイムロスを30秒と計算し、P5に乗り続けたほうが最終的に速いと私とユンボのテクニカルチームは共に結論づけたのです。」
重要なステージにおいて、チームの技術スタッフだけでなくバイクブランドのエンジニアの意見が重用されるとは、少し意外にも思える。しかし最善のパフォーマンスを追求するトップチームにあっては、バイクと空力を熟知したブランドからアドバイスを受けられるというのは、優れたバイク供給だけに留まらないメリットでもある。実際にユンボ・ヴィスマとサーヴェロは緊密な協調体制を築き上げていた。
「ユンボ・ヴィスマとは2週間に1度オンラインでミーティングを行い、フィードバックをもらったり議論を重ねています。サーヴェロはこれまでにもサンウェブ(現DSM)やディメンションデータといったチームをサポートし、それぞれプロフェッショナルな提携関係を築いてきましたが、ユンボにはより専門化されたスタッフが多く配置されているという印象があります。それはエアロダイナミクスだけでなく、栄養学の専門家であったりと様々ですが、特に機材に関係するテクニカル部門に厚みがあります。チームは風洞施設を備えた大学と提携していて、私やシニアエンジニアのロバートはそこで共同研究を行いながら、より精度が高くコンスタントなフィードバックを得ています。他チームよりそのレベルは高いですね。」
エキスパートたちが揃い、定量的かつ質の高いフィードバックが得られたとしても、それをプロダクト作りに反映できなければ意味はない。その意味で、ユンボ・ヴィスマがサーヴェロを選んだのには理由がある。そのグローバルブランド然としたブランドイメージにも関わらず、サーヴェロには小回りの効いた開発環境が整っているからだ。
「幸いなことに、私達の上に『ボス』はあまりいません。ですのでスモールチームながらに、やりたいことをすぐに形にできる環境があるわけです。中国にサーヴェロとサンタクルズのバイクを専門に手掛ける工場があることも、他ブランドとのスペースを取り合う時間が省けますし、プロトタイプを作るために1000単位で発注しなければならないという事態も避けられるわけです。しばらくコロナ禍で訪問できていませんでしたが、2023年の夏から再び私達も足繁く工場へと通います。こうした自社の工場を所有している、ということが我々が迅速な製品開発を行える理由の一つです。」
このサーヴェロの迅速な開発環境が、ユンボ・ヴィスマの要求に応えた例としてロイ氏はシクロクロスバイクR5-CXの開発秘話を語る。ワウト・ファンアールト、マリアンヌ・フォスという2人のシクロクロストップスターを抱えるチームとの契約に際し、彼らの要求を満たすハイスペックなシクロクロスバイクの開発が急務だった。
「私達は3〜4ヶ月という非常に短い期間で、彼らの要求を満たすR5-CXを作らねばなりませんでした。どんなジオメトリー、どんな剛性、どんなハンドリングのフレームに乗りたいか彼らとオンラインのヒアリングやメールのやり取りを重ねて形にしていったのです。まさしくこの2人が使うためのバイクが完成し、最終的に2人ともこのバイクを気に入ってくれました。今年のワールドカップで、マリアンヌ・フォスが先頭で最終コーナーを抜けてきたときは思わず泣きそうになりましたね。」
シクロクロスバイクの例に限らず、ミラン・ファデルと開発したMTBや以前にマーク・カヴェンディッシュのフィードバックを生かしたS5など、アスリートと協働して生み出していったバイクの話は枚挙にいとまがない。そうしたエピソードの節々に、サーヴェロが選手のフィードバックを形にしてきたという何よりの証がある。
サーヴェロが小回りの効く開発力で応えてくれるがゆえに、ユンボ・ヴィスマからのリクエストがさらにハイレベルな、高い要求となったとしても何の不思議もない。
チームが欲する軽量バイクといえば、6.8kgに収まるS5を想像してしまう。
「プロのレースでは小型カメラやトランスポンダをバイクに積むので、6.8kg以下に仕上げられるフレームが欲しいとは言われます。R5はすでにそれを満たしていますが、S5やP5はまだその域に達してはいません。とはいえ、チームのリクエストを実現させるために我々は日々開発に打ち込んでいるということは今お伝えしたいと思います」
一方で、チームからのフィードバックをいかに形にするか、という点にエンジニアとしての腕の見せどころがあるとロイ氏は言う。必ずしも選手やメカニックの言葉を言葉通りに受け取ると、問題の本質を見失うこともあるのだとか。
「彼らのフィードバックリクエストが、問題の直接的な原因から発したものでないために、別の側面からアプローチすることで解決できることがあります。これを正しく見極めることにこそ、私たちエンジニアチームの優れた部分があると自負しています。あるライダーが『空力が悪い……』と感じたとしても、その問題はバイクの快適性に起因していて、サドル高を変えることで改善することもあるのです。ライダーやメカニックからの改善要求を鵜呑みにしすぎないことも大切なのです。CX-R5で採用したD型のシートポストもいい例でしょうか。発表後メディアでは空力のためと多く書かれましたが、それはメリットの一面で、この機構は実のところ、落車時にサドルの向きが変わる従来の丸シートポストの難点を改善したいというワウトやマリアンヌのリクエストに応えたがゆえの形状でした。」
サーヴェロのバイクと共に、今年ツール・ド・フランスの頂点に輝いたのがリザーブのホイールだ。サーヴェロやサンタクルズを傘下におくPONグループが所有するホイールブランドで、すでにMTBでは定評がある。このブランドにも、サーヴェロの開発陣が関わっているという。
「リザーブのホイールのエアロダイナミクスに関する実験や検証を私たちサーヴェロのエンジニアチームが行っています。年間50本ほどで足りるMTBチームへの供給に比べ、ロードチームでは500〜600本のホイールが必要になるため、昨年は大変でしたが今年はそれも改善しました。ホイールのエアロダイナミクス面にはまだ改良の余地があるので、永遠のテーマである軽量化と合わせて次世代のホイール製作に取り組んでいるところです。」
リザーブのホイール開発に当たってはタイヤメーカーの協力も得ており、タイヤにおける路面抵抗のデータ共有がなされる環境にあるという。それは重ねてタイヤとホイールの相乗効果を考慮に入れたトータルでのサーヴェロのバイク製作を可能にする。そして実地でバイクを走らせるユンボ・ヴィスマの存在がここでも大きな役割を果たす。理想的な開発循環があることを、ロイ氏のインタビューの節々に感じることができた。
最後に、エアロ化も行き着くところまで来た感のある現在、さらなるロードバイクのイノベーションが可能なのかを訪ねてみた。
「巷ではロードバイクのデザインが似通ってきているという指摘がなされていて、一部は真実かもしれませんが、エンジニアの目線で見るとまだマーケットで実現されていない余地は残されているんです。私はサーヴェロの開発に携わって7年ですが、毎年のように『ここがエアロダイナミクスのピークだ』とみんな言っています。けれども、次の年には改善点を見つけ、新たな高みを目指して進んでいくのです。この姿勢はどのバイクブランドでもそう変わらないと思います。
その上で、私たちサーヴェロのエンジニアチームのバイク製作における理想は、まずは革新的なバイクをリリースさせ、その次にそれを進化させたバイクに仕上げること。そしてまたさらなる革新的なバイクを生み出して……と、いうルーティンで開発を続けることです。」
ツール・ド・フランスを2年連続で制した今、なおも速いバイクづくりを志向するサーヴェロの開発姿勢には鬼気迫るものを感じる。しかしそれは、ブランドの根幹にある哲学を体現したものに他ならない。
「サーヴェロの哲学はとてもシンプルです。To Make Riders Faster. 『ライダーをより速くすること』。それを実現するために、モデルラインナップをいたずらに増やすことはしませんし、エンジニアチームは日々惜しみない努力を捧げ、妥協のないバイクを生み出しているのです。」
ライダーをより速くすること。この哲学こそ、世界最高峰のチームがサーヴェロのバイクを選ぶ理由なのだ。
ヨナス・ヴィンゲゴーがフルイエローに染め上げられた特製「マイヨ・ジョーナス」仕様のS5でパリ・シャンゼリゼに凱旋した数日後、サーヴェロのエンジニアリング・マネージャー、スコット・ロイ氏は興奮冷めやらぬ口調で語った。
今年もツール・ド・フランスの頂点に立ったサーヴェロのバイク。本稿では、大会終了後に急遽敢行したロイ氏へのインタビューを元に、大会2連覇を達成したユンボ・ヴィスマとサーヴェロの協働関係を読み解いていく。なぜユンボ・ヴィスマはツールを勝つための機材にサーヴェロを選んだのか。そしてユンボ・ヴィスマの存在はサーヴェロのバイクづくりにいかなる影響を与えているのか。
ツールを決定づけたTTでのバイクチョイスにサーヴェロが関わる
2023年のツール・ド・フランスを決定づけたのは、第16ステージの個人タイムトライアル。22.4kmのコースに、距離2.5km平均勾配9.4%の2級山岳が組み込まれたこのステージで圧巻のパフォーマンスを見せたのが、マイヨ・ジョーヌを着るヴィンゲゴーだった。ステージ2位のタデイ・ポガチャルに1分38秒という大差をつけた、後世に語り継がれるであろうステージとなった。
この日の焦点となったのは、終盤に登場する山岳ポイントを前に、TTバイクからロードバイクに乗り換えるかということ。結果としてTTバイクのまま走ることを選んだヴィンゲゴーがステージ優勝を掴んだが、その選択にロイ氏を始めサーヴェロのスタッフたちが大きく関わっていた。
「昨年から今年にかけて、バイク交換をする個人タイムトライアルの機会が数回ありました。ライダーのCdA値や、TTバイクであるP5の空力ドラッグ値、ライダーの体重や各種ホイールの空力特性といったデータが手元にあるため、あとは最後のピースとしてライダーのパワーを計算に組み込む必要がありました。少なくとも空力の面では私達の計算が立つため、ワウトやヨナスの7w/kgという推定パワーを鑑みて、P5で走る方が速いだろうと算出したのです。」
各種データに加えて、コース特性をみて最終的な決断を下したとロイ氏は言う。
「バイク交換をするかしないかは、コースの距離と上りの勾配とのバランスを考慮して決めました。この日のコースは、山岳ポイントを越えたあとも登り基調でしたが、勾配が緩いためバイクの軽量さより空力のメリットをとったのです。バイク交換にかかるタイムロスを30秒と計算し、P5に乗り続けたほうが最終的に速いと私とユンボのテクニカルチームは共に結論づけたのです。」
サーヴェロとユンボ・ヴィスマの信頼関係
重要なステージにおいて、チームの技術スタッフだけでなくバイクブランドのエンジニアの意見が重用されるとは、少し意外にも思える。しかし最善のパフォーマンスを追求するトップチームにあっては、バイクと空力を熟知したブランドからアドバイスを受けられるというのは、優れたバイク供給だけに留まらないメリットでもある。実際にユンボ・ヴィスマとサーヴェロは緊密な協調体制を築き上げていた。
「ユンボ・ヴィスマとは2週間に1度オンラインでミーティングを行い、フィードバックをもらったり議論を重ねています。サーヴェロはこれまでにもサンウェブ(現DSM)やディメンションデータといったチームをサポートし、それぞれプロフェッショナルな提携関係を築いてきましたが、ユンボにはより専門化されたスタッフが多く配置されているという印象があります。それはエアロダイナミクスだけでなく、栄養学の専門家であったりと様々ですが、特に機材に関係するテクニカル部門に厚みがあります。チームは風洞施設を備えた大学と提携していて、私やシニアエンジニアのロバートはそこで共同研究を行いながら、より精度が高くコンスタントなフィードバックを得ています。他チームよりそのレベルは高いですね。」
エキスパートたちが揃い、定量的かつ質の高いフィードバックが得られたとしても、それをプロダクト作りに反映できなければ意味はない。その意味で、ユンボ・ヴィスマがサーヴェロを選んだのには理由がある。そのグローバルブランド然としたブランドイメージにも関わらず、サーヴェロには小回りの効いた開発環境が整っているからだ。
「幸いなことに、私達の上に『ボス』はあまりいません。ですのでスモールチームながらに、やりたいことをすぐに形にできる環境があるわけです。中国にサーヴェロとサンタクルズのバイクを専門に手掛ける工場があることも、他ブランドとのスペースを取り合う時間が省けますし、プロトタイプを作るために1000単位で発注しなければならないという事態も避けられるわけです。しばらくコロナ禍で訪問できていませんでしたが、2023年の夏から再び私達も足繁く工場へと通います。こうした自社の工場を所有している、ということが我々が迅速な製品開発を行える理由の一つです。」
突貫開発だったシクロクロスバイク
このサーヴェロの迅速な開発環境が、ユンボ・ヴィスマの要求に応えた例としてロイ氏はシクロクロスバイクR5-CXの開発秘話を語る。ワウト・ファンアールト、マリアンヌ・フォスという2人のシクロクロストップスターを抱えるチームとの契約に際し、彼らの要求を満たすハイスペックなシクロクロスバイクの開発が急務だった。
「私達は3〜4ヶ月という非常に短い期間で、彼らの要求を満たすR5-CXを作らねばなりませんでした。どんなジオメトリー、どんな剛性、どんなハンドリングのフレームに乗りたいか彼らとオンラインのヒアリングやメールのやり取りを重ねて形にしていったのです。まさしくこの2人が使うためのバイクが完成し、最終的に2人ともこのバイクを気に入ってくれました。今年のワールドカップで、マリアンヌ・フォスが先頭で最終コーナーを抜けてきたときは思わず泣きそうになりましたね。」
シクロクロスバイクの例に限らず、ミラン・ファデルと開発したMTBや以前にマーク・カヴェンディッシュのフィードバックを生かしたS5など、アスリートと協働して生み出していったバイクの話は枚挙にいとまがない。そうしたエピソードの節々に、サーヴェロが選手のフィードバックを形にしてきたという何よりの証がある。
サーヴェロが小回りの効く開発力で応えてくれるがゆえに、ユンボ・ヴィスマからのリクエストがさらにハイレベルな、高い要求となったとしても何の不思議もない。
6.8kgのS5を作ることは可能なのか
「彼らの私達に対しての期待値は高いと思います。そして彼らが要求してくるものは、『より軽いバイク』です。しかし彼らとて闇雲に軽いバイクを求めているのではなく、信頼性のある軽いバイクを欲しているのです。その意味で無理難題を押し付けてきているのではなく、あくまで対等な関係の中で最良のバイクづくりを探ることができています。これはすごくいいことですよね。」チームが欲する軽量バイクといえば、6.8kgに収まるS5を想像してしまう。
「プロのレースでは小型カメラやトランスポンダをバイクに積むので、6.8kg以下に仕上げられるフレームが欲しいとは言われます。R5はすでにそれを満たしていますが、S5やP5はまだその域に達してはいません。とはいえ、チームのリクエストを実現させるために我々は日々開発に打ち込んでいるということは今お伝えしたいと思います」
一方で、チームからのフィードバックをいかに形にするか、という点にエンジニアとしての腕の見せどころがあるとロイ氏は言う。必ずしも選手やメカニックの言葉を言葉通りに受け取ると、問題の本質を見失うこともあるのだとか。
「彼らのフィードバックリクエストが、問題の直接的な原因から発したものでないために、別の側面からアプローチすることで解決できることがあります。これを正しく見極めることにこそ、私たちエンジニアチームの優れた部分があると自負しています。あるライダーが『空力が悪い……』と感じたとしても、その問題はバイクの快適性に起因していて、サドル高を変えることで改善することもあるのです。ライダーやメカニックからの改善要求を鵜呑みにしすぎないことも大切なのです。CX-R5で採用したD型のシートポストもいい例でしょうか。発表後メディアでは空力のためと多く書かれましたが、それはメリットの一面で、この機構は実のところ、落車時にサドルの向きが変わる従来の丸シートポストの難点を改善したいというワウトやマリアンヌのリクエストに応えたがゆえの形状でした。」
ユンボ・ヴィスマと共にトータルでのバイクを考慮できる開発環境
サーヴェロのバイクと共に、今年ツール・ド・フランスの頂点に輝いたのがリザーブのホイールだ。サーヴェロやサンタクルズを傘下におくPONグループが所有するホイールブランドで、すでにMTBでは定評がある。このブランドにも、サーヴェロの開発陣が関わっているという。
「リザーブのホイールのエアロダイナミクスに関する実験や検証を私たちサーヴェロのエンジニアチームが行っています。年間50本ほどで足りるMTBチームへの供給に比べ、ロードチームでは500〜600本のホイールが必要になるため、昨年は大変でしたが今年はそれも改善しました。ホイールのエアロダイナミクス面にはまだ改良の余地があるので、永遠のテーマである軽量化と合わせて次世代のホイール製作に取り組んでいるところです。」
リザーブのホイール開発に当たってはタイヤメーカーの協力も得ており、タイヤにおける路面抵抗のデータ共有がなされる環境にあるという。それは重ねてタイヤとホイールの相乗効果を考慮に入れたトータルでのサーヴェロのバイク製作を可能にする。そして実地でバイクを走らせるユンボ・ヴィスマの存在がここでも大きな役割を果たす。理想的な開発循環があることを、ロイ氏のインタビューの節々に感じることができた。
最後に、エアロ化も行き着くところまで来た感のある現在、さらなるロードバイクのイノベーションが可能なのかを訪ねてみた。
「巷ではロードバイクのデザインが似通ってきているという指摘がなされていて、一部は真実かもしれませんが、エンジニアの目線で見るとまだマーケットで実現されていない余地は残されているんです。私はサーヴェロの開発に携わって7年ですが、毎年のように『ここがエアロダイナミクスのピークだ』とみんな言っています。けれども、次の年には改善点を見つけ、新たな高みを目指して進んでいくのです。この姿勢はどのバイクブランドでもそう変わらないと思います。
その上で、私たちサーヴェロのエンジニアチームのバイク製作における理想は、まずは革新的なバイクをリリースさせ、その次にそれを進化させたバイクに仕上げること。そしてまたさらなる革新的なバイクを生み出して……と、いうルーティンで開発を続けることです。」
ツール・ド・フランスを2年連続で制した今、なおも速いバイクづくりを志向するサーヴェロの開発姿勢には鬼気迫るものを感じる。しかしそれは、ブランドの根幹にある哲学を体現したものに他ならない。
「サーヴェロの哲学はとてもシンプルです。To Make Riders Faster. 『ライダーをより速くすること』。それを実現するために、モデルラインナップをいたずらに増やすことはしませんし、エンジニアチームは日々惜しみない努力を捧げ、妥協のないバイクを生み出しているのです。」
ライダーをより速くすること。この哲学こそ、世界最高峰のチームがサーヴェロのバイクを選ぶ理由なのだ。
提供:東商会 text:Yufta Omata