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シマノ第2世代のパワーメーターを掘り下げる特集の後編。パワーメーター黎明期からあらゆる製品を使い、データ活用ノウハウと分析力を自身の成績に結びつけてきた高岡亮寛さんへのインタビューと、ペダリング研究を行うハムスタースピン代表福田昌弘さんのコラムで、シマノパワーメーターがいかに優れ、コネクトラボをどう活用すべきなのかを紹介したい。

RX BIKE 高岡亮寛さんに聞くFC-R9200-P

FC-R9200-Pについて語る高岡亮寛さんFC-R9200-Pについて語る高岡亮寛さん photo:So Isobe
この特集記事制作が決まったとき、CW編集部が真っ先にインプレッションを聞きたい人として挙げたのが高岡亮寛さんだった。最強ホビーレーサーとして知られ、2020年4月に自身のバイクショップ「RX BIKE」を立ち上げて以降もなおストイックにトレーニングを続け、ツール・ド・おきなわ7勝、オフロードやエンデュランスライドにも活躍の場を広げる氏は2000年代後半の黎明期よりパワーメーターを使い、そのデータと経験を膨大に積み上げ成績に繋げてきた。

そんな高岡さんに、FC-R9200-Pを使い、1000kmを走ったタイミングで話を聞き手応えや実用感をについて聞いてみた。サラリーマンレーサー時代はもちろん、今も会社経営という多忙の合間を縫って厳しい自己管理を行う高岡さんが「欠かすことができない存在」と言うパワーメーターだが、FC-R9200-Pはこれまで自身が使ってきたあらゆるパワーメーターと比較しても「すごく精度が高い」と評価する。

「2007年のSRMに始まり、これまで15年ほどあらゆるメーカーのパワーメーターを使ってきました。ですから体感的に表示出力が高かったり低かったりするのも分かるのですが、92(FC-R9200-P)はきっちり(正しい)数字が出ている。実際に他と比べても正確だし、狂いやすい左右バランス表示も誤差がない。信頼できるパワーメーターだと思います」と高岡さんは言う。

FC-R9200-Pを使いヒルクライムを走る高岡さん。今季はロードレースからグラベルまで、積極的にレース参戦を行ったFC-R9200-Pを使いヒルクライムを走る高岡さん。今季はロードレースからグラベルまで、積極的にレース参戦を行った
第2世代となったシマノパワーメーターが高い計測精度を得て、SHIMANO CONNECT Labでフォースベクトルのペダリング分析機能を追加した背景には、2020年2月にパイオニアのサイクルスポーツ事業(の一部)がシマノに譲渡されたという経緯がある。日本で高い普及率を誇った同社のペダリングモニターは高岡さん自身も過去に使っていたが、そのノウハウがシマノに加わったことはいちユーザーとして歓迎だったという。

そして何よりも、高岡さんが評価するのはシマノコンポーネントの一角をなすトータルパッケージとしての安心感だ。シマノクランクを使った社外品とは全く異なる精度はもちろん、ビルトイン設計ならではのルックスの一体感も秀逸。変速性能やブレーキ性能など、妥協なく作られたシマノの、それもデュラエースの性能は、当然高岡さん自身も以前から身をもって感じ、讃じてきたことだ。

「たとえば、チェーンリングやカセットの歯を見ると、角が丸まっているものや、尖っているもの、段差がつけられているものなど、ものすごく緻密に設計されていることが見て取れますよね。だからこそ私自身チェーンリングだけはデュラエースにこだわって使っています。シマノのチェーンリング対応のBB型パワーメーターもありますが、やはり各部精度を考えると純正品に勝るものはありません」。

「機材として見たとき、デュラエースはやはり良い」と高岡さんは言う「機材として見たとき、デュラエースはやはり良い」と高岡さんは言う
パワーメーターの精度の重要度は、15年前や10年前よりも飛躍的に上がっていると高岡さんは言う。なぜかといえば、パワーメーターを使用するユーザーがここ5年ほどで飛躍的に増えたから。パワーメーターユーザー同士でトレーニングライドをしてデータを比べたときや、STRAVA上でセグメントデータを見比べたとき、精度の悪いパワーメーターが弾き出した数字では比べようがないからだ。

「例えば、初めてツール・ド・おきなわを勝った2007年は、自分のパワーデータを見ても、それがすごいのかどうかさっぱりわからなかった。それが毎年蓄積するごとに、去年はこう、今年はこう、それなら来年はこういきたい、とか、自分の中でもデータが蓄積されていくわけです。それが今はSTRAVAで他の人と比べられるから、よりパワーメーターはなくてはならないものになっていて、そして精度の重要度は確実に増しています」。

「パフォーマンスを使うことで包括的なコンディショニングができる」「パフォーマンスを使うことで包括的なコンディショニングができる」 高岡さんは続ける。「勝負をかけたレースはできるだけの事前準備をしたいですよね。パワーメーターを使って自分のパフォーマンスを数値化すれば、経験値だけではなく、データベースから自分のパフォーマンスを判断できるわけです。そしてそれは、そのレースで勝つためにはどんなインターバルをどのくらいこなせば良いのかという数値目標にもなるんですから」。

走行データを分析・解析するシマノのwebサービスが「SHIMANO CONNECT Lab」だが、2022年5月25日のアップデートによってフォースベクトルのペダリング分析機能が追加されたのは前章で紹介した通り。トレーニングデータを他社製ソフトに入れて管理しているという高岡さんだが、フォースベクトルを含むセグメントの細かい分析を行う場合はCONNECT Labを使っている。「CONNECT Labはパワーや数値の表示の仕方も細かく、かなりマニアックな領域まで分析できるのがいいところですね。他社に比べても、ここはやはり大きなアドバンテージと言えるでしょう」と評価する。

「私がトレーニングを行う方や、これからパワーメーターを活用する方にアドバイスするとしたら、"とにかくデータを蓄積すること"に尽きますね。データ量を貯めれば貯めるほど平均値が正確になるし、シーズンを通したコンディショニングや、疲労蓄積を見るのにも役立ちます。タイムやパワーデータ自体を見るのはもちろんですが、それだけではなく、パワーメーターを活用することで包括的なコンディション管理ができるわけです」。

高岡亮寛さん(RX BIKE)。FC-R9200-Pを取り付けた愛車と共に高岡亮寛さん(RX BIKE)。FC-R9200-Pを取り付けた愛車と共に photo:So Isobe
高岡さんが今後シマノのパワーメーターに求めるのは、今後CONNECT Labが、高岡さん自身のようなコアユーザーではなく、スマホアプリ表示が可能となるなど、もっとエントリー層のユーザーが使いやすいインターフェイスになることだ。「細かいデータ分析はこれまで通りPCで確認することになるはずですが、例えばライドデータの概要を分かりやすく表示するアプリがあれば、もっとパワーメーターを気軽に使えて、そしてその恩恵をより受けられるユーザーが増えるはず。ハード(パワーメーター本体)は文句のつけようがありませんから、今後はそういう部分に期待したいですね。」

コラム:ハムスタースピン福田昌弘さんがシマノ新型パワーメーターを紐解く

ハムスタースピン福田昌弘さん。シマノのパワーメーター発表セミナーにてハムスタースピン福田昌弘さん。シマノのパワーメーター発表セミナーにて
「どんなペダリングをしていますか?」という問いに対して、自分の動きを正確に答えられる人は少ないと思います。

クランク長からクリートのセッティングまで様々あり、それぞれのライダーの動きに合わせて調整されていることが多いです。これによって動きが決まってしまいがちで、ライダー毎の感覚も様々なものになっています。それゆえに、ペダリングを数値化するのは難しいのですが、ケイデンスにはじまり、近年ではパワーでもペダリングが評価されるようになってきました。

そこからもう一歩踏み込んでペダリングの中身を解析する試みも増えてきました。シマノのパワーメーターの「フォースベクトル」機能もそのうちの一つです。

「シマノのパワーメーターの最大の特徴は、接線方向と法線方向の力の大きさを、別々に測定できる点」「シマノのパワーメーターの最大の特徴は、接線方向と法線方向の力の大きさを、別々に測定できる点」
この機能は、パイオニアから買収したパワーメーターにも搭載されていました。ペダリング中、12分割された箇所でベクトルが見られる画面はキャッチーだったので、印象に残っている方も多いのではないでしょうか?

ちなみにクランクを回転させる方向を接線方向、それから90度に直交する方向を法線方向と言います。ベクトルは大きさと方向を持った量と数学的に定義されていて、ベクトルの方向は、クランクに加わる接線方向と法線方向の力の量から計算されます。

ずばり、シマノのパワーメーターの最大の特徴は、接線方向と法線方向の力の大きさを、別々に測定できる点です。これを使って、独自にペダリング効率も計算されます。計算式は、接線方向の力の和 ÷ (接線方向の力の和+法線方向の力の和) です。

接線方向の力は分かりやすいと思いますが、そうではない力とはどんなものでしょう? 例えば、ペダルが一番下(下死点)にある状態でペダルの上に乗るような状態をイメージしてください。これは接線方向にのみ力を加えているので、接線方向の力はゼロです。そのためクランクは回転しません。ペダリング動作の難しさは、ここにあります。クランクを回転させるためには、常に力を加える方向を変化させ続ける必要があるのです。

プロ選手のペダリング効率は高く、アマチュア選手とは確実な差が存在しているプロ選手のペダリング効率は高く、アマチュア選手とは確実な差が存在している photo:CorVos
たまに「人間の脚は回転運動に向いていない」といった意見も聞こえてきますが、実際にプロ選手のデータでは、接線方向以外に加える力は少なく、全体的にペダリング効率は高いですし、アマチュア選手では低めであることが多いです。プロとアマチュアの間にはペダリングスキルに差があると言って差し支えないでしょう。

とはいえプロ選手でも人間ですから、どんな選手でも常に同じように動いているわけではありません。レースの後半で疲れてきた時、強度が高い時、寒さやアップ不足などで身体が思うように動かない時もあります。実際のレースのデータでそれを紹介します。

レースデータをもとにCONNECT Labを活用する、の例

高岡選手の乗鞍HCデータ。こちらは前半戦高岡選手の乗鞍HCデータ。こちらは前半戦
これは乗鞍ヒルクライムに参加した高岡選手のものです。

レースはスタート時から小雨で気温が低かったようです。前半は高岡選手にとって苦手な緩斜面が続き、ずるずると順位を下げて、集団から千切れたそうです。本人のレポートによれば「寒さのせいだと思うけど心拍が上がらない。この区間で千切れる前が最大心拍だったが155bpm。固定ローラーのウォーミングアップで163bpmまで上がったので悪くないと思っていたが、やはり雨の中走り出すと寒くてダメだったか。」とあります。

レース中のデータで見るとボリュームゾーンである280W付近でペダリング効率は53.8〜68.0%とバラツキがあります。ペダリング効率とパワーの相関図で見ても縦にバラついているのが見て取れます。

こちらは後半のデータ。後半になって持ち直していることが分かるこちらは後半のデータ。後半になって持ち直していることが分かる
後半になって「ペダリングとケイデンスに意識を集中しながら、シッティングメインで。速くないのはなんとなくわかっていたけど、ペダリングの感触としては悪くなかったと思う。」とあります。同じく280W付近のペダリング効率を見ると62.0〜71.4%と、バラツキも少なくなり値自体も改善していました。

少し解説をしますと、ペダリング効率はパワーとの相関関係があり、パワーが上がるほどにペダリング効率も上がる傾向がありますが、負荷に負けてペダリングが変わってしまうと相関関係が崩れます。また動きが安定しているほどペダリング効率は一定の範囲におさまりますし、不安定な動きをしていると、同じパワー値であってもペダリング効率のバラツキが大きくなる傾向もあります。

高岡選手のデータでは、前半はバラツキが多くて相関関係が崩れがちですが、後半になって持ち直していることが見て取れます。

そもそもペダリングパワーは、接線方向に加える力(トルク)xケイデンスです。クランク型のパワーメーターは、計測されたこの2つの値からパワーを計算しています。例えばハイケイデンスでグルグル回している割に進まない人は、トルクが足りないわけですが、パワーデータからはそれが分かりづらいということですね。しかしながら、何故かトルクの表示に対応したパワーメーターは限られています。

福田昌弘さん:ペダリングの改善は何らかのテーマを持って取り組むべき福田昌弘さん:ペダリングの改善は何らかのテーマを持って取り組むべき
今回紹介したシマノのパワーメーターでは、トルク値自体を保存しているので、ライド中やライド後に確認が出来ます。さらに無料で使えるShimano Connect Labでは、トルクカーブの表示やベクトル表示にも対応していますし、各種データ間の相関関係などで解析も出来ます。

まさにパワーだけではなく、パワーの中身が分かるパワーメーターといった感じでしょうか? 解析するときには、全体での評価だけではなく、ライドの前半/後半、似たような坂などでの比較を行うのがオススメです。

値を改善していくには、やみくもにパワーをあげるペダリングだけでは難しいです。高岡選手のレポートにもあったように「ペダリングとケイデンスに意識を集中しながら」とか、何らかのテーマを決めて取り組んでみてください。

福田昌弘プロフィール:自転車のトレーニングを提供するハムスタースピン代表、関西医科大学大学院に在学中でペダリングの研究を行う。海外の自転車学会での発表や著書発行など実績多数。
制作:シクロワイアード編集部/提供:シマノセールス