2022/02/04(金) - 18:16
気鋭のハイパフォーマンスブランド、ファクターが手がける最新最高峰の2機種を3編に渡って総力特集。まずは2020年のツール・ド・フランスで正式デビューを飾った軽量エアロロード、OSTRO VAMを掘り下げる。エアロロードでありながら、塗装済みフレーム780gという驚くべき軽さの秘密とは?
高性能ロードバイクを愛するエンスージアストの琴線を、今最も刺激してやまない新興メーカーがファクターだ。最新鋭の技術を扱うエンジニアリングカンパニーの下で2007年に誕生するやいなや、独創的なアプローチや最先端技術を惜しみなく投入することで、僅か15年のうちに飛躍的な進化を果たし、関心を集めるに至った。
ブランド自体は、F1やル・マン、モトGPなど世界最高峰モータースポーツの電子ソリューションやカーボンコンポジットを手がけるbf1systems社の一部門に端を発する。2014年には元プロ選手のバーデン・クック氏と台湾の自転車産業でカーボンバイク開発に深く携わるロブ・ギティス氏の出資で独立し、そこから量産マニファクチャラーへと舵を切ったのだ。
そこから僅か2年でイギリスのUCIプロコンチネンタルチーム(当時)に供給され、翌年にはAG2Rラモンディアルと契約を結ぶことで一気に世界最高峰の舞台へと飛躍。その年のツール・ド・フランスでは軽量モデル「O2」を駆るロマン・バルデ(フランス)がピレネーの頂上フィニッシュを制すなど、名実ともにトップブランドの仲間入りを果たした。
その後、ファクターはブランドを代表するエアロロード「ONE」のフルモデルチェンジや、ハイエンド軽量モデル「O2 V.A.M.」、グラベルモデル「VISTA」や「LS」の登場、ブランド初のミドルグレードモデル「O2(第2世代化)」などラインナップ強化を図りつつ、2020年からイスラエル・スタートアップネイションとパートナーシップを締結している。
クリストファー・フルーム(イギリス)やダニエル・マーティン(アイルランド)の活躍を支えると共に、ONEをベースにした「OSTRO VAM」や新型TTバイク「HANZO」がデビュー。アジアでのPRを高めるべく、チーム右京相模原とも機材供給を行うことで日本国内での注目度もより一層強まっている。
今回紹介するOSTRO VAMは、上で触れたように、ブランドの代名詞でもあるエアロロード「ONE」から分派・進化させた意欲作だ。
写真を見ても分かる(実車を目の当たりにするとそれ以上に)通り、カムテールデザインを基本としたエアロロード然としたフォルムを持つOSTRO VAMだが、そのフレーム重量は塗装済み・サイズ54で780gというから驚かされる。近年は特に北米ブランドで軽量モデルとエアロモデル統合の機運が高まっているが、ファクターもOSTRO VAMを空力と軽さ、そして快適性を兼ね備えた超・現代レーサーへと進化させている。
OSTRO VAMは、軽量化のためにONEに採用されている双胴ダウンチューブとエアロヒンジフォークを廃しつつ、徹底的なR&DによってONEに匹敵する空力性能を手に入れた。ワイドスタンスのフロントフォークや、さらにフロントホイールの回転によって生まれる乱流をフォークやダウンチューブの周辺形状で整える試みも投入されている。可能な限りホリゾンタルデザインを採用していることも空気抵抗と重量を抑えるためだという。
当然これらエアロシェイプは風洞内のような100%真正面からの風だけでなく、現実世界でおおよそ考えられる横風への対応も取られている。「ボトルが取り付けられた状態をベースに、特にダウンチューブからシートチューブ、フォークとヘッドチューブからダウンチューブなど、各チューブ間の風の流れを徹底的に研究した」とファクターは胸を張る。
ONEの時点で既に達成されていることではあるものの、ブラックインクのステム一体型ハンドルを組み合わせることでブレーキホース類は完全フル内装(電動変速専用)に。現在多くのブランドが内装スペースを確保するために上側ヘッドベアリングを1.5インチ化しているが、OSTRO VAMではルーティングを工夫し、1-1/8ベアリングを維持して前方投影面積を抑えたこともエアロロードとして小さくないポイントだ。
空力性能を意識した前三角に対し、驚くほど細いシートステーはもちろん快適性を高めるための工夫だ。グラベルバイクの「ViSTA」と同じ形状を採用し、カーボン積層を工夫することでロードノイズと大きな衝撃を吸収するように配慮された。突き上げに対してシートチューブ〜シートポストをしならせ、そしてサドルを適切量動かす。これによってレースバイクとして際立った快適性を維持しているという。
サイズ54で780g(塗装込み)という軽さは、ファクター自慢のカーボンテクノロジーの結晶だ。ブランドオーナーのギティス氏は台湾でカーボンバイクファクトリーを所有し、有名ブランドのOEM生産を手がけてきた人物ゆえ、その知見の深さは言わずもがな。自社で満足いくまでトライアンドエラーを繰り返せるというメリットを活かし、素材自体はもちろん、積層や成形技術まで、他ブランドが踏み込めない範疇まで突き詰めている。
例えば成形段階においては「一般的なフレームよりはるかに高い圧力を掛けることでカーボン素材同士の密着性を高め、かつ不要なレジンを排出することで強く軽く仕上げる」という、O2 VAMで採用された特殊な(同社においては通常だが)成形プロセスが用いられている。このカーボンに関するノウハウの深さこそ、ファクターをファクターたらしめる大きな要素なのだ。
ファクターはOSTRO VAMを「パリ〜ルーベ対応エアロロード」と位置付けているが、それは快適性だけをアピールしているのではない。
ルーベのパヴェ(石畳)は、その過酷さは知られるところである一方、平均45km/hに達する超スピードレースであることは見過ごされがちだ。しかも距離は260kmで、最後はベロドロームの小集団スプリントで決着する。
つまり、強烈な振動に耐えていなす快適性を備え、プロの脚力をスピードに換え、空力性能に優れ、かつスプリントで武器になる俊敏さがファクターが指す「パリ〜ルーベバイク」。OSTRO VAMを真のオールランダーと称する理由はここにあるのだ。
もちろん高価ではあるものの、セラミックスピード製のヘッドセットとボトムブラケット(T47a)や、ステム長とハンドル幅の組み合わせが自由に選べるブラックインクの一体型ハンドル、ガーミン用のコンピュータマウント、バーテープが付属するため、実質的なフレーム価格は40万円代前半に収まるといっても過言ではない。実はリーズナブルな価格設定であることも、ファクターの強みと言えるだろう。
次章のO2 VAMの紹介を挟み、Vol.3ではチーム右京相模原に所属する小石祐馬によるOSTRO VAMのインプレッションを紹介する。約半シーズンをレースで共に戦ったマシンと共に登場頂いた。
進化・拡充を遂げるハイパフォーマンスブランド
高性能ロードバイクを愛するエンスージアストの琴線を、今最も刺激してやまない新興メーカーがファクターだ。最新鋭の技術を扱うエンジニアリングカンパニーの下で2007年に誕生するやいなや、独創的なアプローチや最先端技術を惜しみなく投入することで、僅か15年のうちに飛躍的な進化を果たし、関心を集めるに至った。
ブランド自体は、F1やル・マン、モトGPなど世界最高峰モータースポーツの電子ソリューションやカーボンコンポジットを手がけるbf1systems社の一部門に端を発する。2014年には元プロ選手のバーデン・クック氏と台湾の自転車産業でカーボンバイク開発に深く携わるロブ・ギティス氏の出資で独立し、そこから量産マニファクチャラーへと舵を切ったのだ。
そこから僅か2年でイギリスのUCIプロコンチネンタルチーム(当時)に供給され、翌年にはAG2Rラモンディアルと契約を結ぶことで一気に世界最高峰の舞台へと飛躍。その年のツール・ド・フランスでは軽量モデル「O2」を駆るロマン・バルデ(フランス)がピレネーの頂上フィニッシュを制すなど、名実ともにトップブランドの仲間入りを果たした。
その後、ファクターはブランドを代表するエアロロード「ONE」のフルモデルチェンジや、ハイエンド軽量モデル「O2 V.A.M.」、グラベルモデル「VISTA」や「LS」の登場、ブランド初のミドルグレードモデル「O2(第2世代化)」などラインナップ強化を図りつつ、2020年からイスラエル・スタートアップネイションとパートナーシップを締結している。
クリストファー・フルーム(イギリス)やダニエル・マーティン(アイルランド)の活躍を支えると共に、ONEをベースにした「OSTRO VAM」や新型TTバイク「HANZO」がデビュー。アジアでのPRを高めるべく、チーム右京相模原とも機材供給を行うことで日本国内での注目度もより一層強まっている。
OSTRO VAM:トップ選手が駆る超・現代レーサー
今回紹介するOSTRO VAMは、上で触れたように、ブランドの代名詞でもあるエアロロード「ONE」から分派・進化させた意欲作だ。
写真を見ても分かる(実車を目の当たりにするとそれ以上に)通り、カムテールデザインを基本としたエアロロード然としたフォルムを持つOSTRO VAMだが、そのフレーム重量は塗装済み・サイズ54で780gというから驚かされる。近年は特に北米ブランドで軽量モデルとエアロモデル統合の機運が高まっているが、ファクターもOSTRO VAMを空力と軽さ、そして快適性を兼ね備えた超・現代レーサーへと進化させている。
スピードと軽さの両立を目指して
OSTRO VAMは、軽量化のためにONEに採用されている双胴ダウンチューブとエアロヒンジフォークを廃しつつ、徹底的なR&DによってONEに匹敵する空力性能を手に入れた。ワイドスタンスのフロントフォークや、さらにフロントホイールの回転によって生まれる乱流をフォークやダウンチューブの周辺形状で整える試みも投入されている。可能な限りホリゾンタルデザインを採用していることも空気抵抗と重量を抑えるためだという。
当然これらエアロシェイプは風洞内のような100%真正面からの風だけでなく、現実世界でおおよそ考えられる横風への対応も取られている。「ボトルが取り付けられた状態をベースに、特にダウンチューブからシートチューブ、フォークとヘッドチューブからダウンチューブなど、各チューブ間の風の流れを徹底的に研究した」とファクターは胸を張る。
ONEの時点で既に達成されていることではあるものの、ブラックインクのステム一体型ハンドルを組み合わせることでブレーキホース類は完全フル内装(電動変速専用)に。現在多くのブランドが内装スペースを確保するために上側ヘッドベアリングを1.5インチ化しているが、OSTRO VAMではルーティングを工夫し、1-1/8ベアリングを維持して前方投影面積を抑えたこともエアロロードとして小さくないポイントだ。
空力性能を意識した前三角に対し、驚くほど細いシートステーはもちろん快適性を高めるための工夫だ。グラベルバイクの「ViSTA」と同じ形状を採用し、カーボン積層を工夫することでロードノイズと大きな衝撃を吸収するように配慮された。突き上げに対してシートチューブ〜シートポストをしならせ、そしてサドルを適切量動かす。これによってレースバイクとして際立った快適性を維持しているという。
その軽さは、カーボンスペシャリストとしての矜持
サイズ54で780g(塗装込み)という軽さは、ファクター自慢のカーボンテクノロジーの結晶だ。ブランドオーナーのギティス氏は台湾でカーボンバイクファクトリーを所有し、有名ブランドのOEM生産を手がけてきた人物ゆえ、その知見の深さは言わずもがな。自社で満足いくまでトライアンドエラーを繰り返せるというメリットを活かし、素材自体はもちろん、積層や成形技術まで、他ブランドが踏み込めない範疇まで突き詰めている。
例えば成形段階においては「一般的なフレームよりはるかに高い圧力を掛けることでカーボン素材同士の密着性を高め、かつ不要なレジンを排出することで強く軽く仕上げる」という、O2 VAMで採用された特殊な(同社においては通常だが)成形プロセスが用いられている。このカーボンに関するノウハウの深さこそ、ファクターをファクターたらしめる大きな要素なのだ。
真のパリ〜ルーベバイクとは
ファクターはOSTRO VAMを「パリ〜ルーベ対応エアロロード」と位置付けているが、それは快適性だけをアピールしているのではない。
ルーベのパヴェ(石畳)は、その過酷さは知られるところである一方、平均45km/hに達する超スピードレースであることは見過ごされがちだ。しかも距離は260kmで、最後はベロドロームの小集団スプリントで決着する。
つまり、強烈な振動に耐えていなす快適性を備え、プロの脚力をスピードに換え、空力性能に優れ、かつスプリントで武器になる俊敏さがファクターが指す「パリ〜ルーベバイク」。OSTRO VAMを真のオールランダーと称する理由はここにあるのだ。
ハイエンドでありながら、リーズナブルプライス
OSTRO VAMはトライスポーツからフレームセットで販売(完成車はスラムコンポーネントの納期延びにつき停止中)され、価格は税抜きで590,000円。もちろん高価ではあるものの、セラミックスピード製のヘッドセットとボトムブラケット(T47a)や、ステム長とハンドル幅の組み合わせが自由に選べるブラックインクの一体型ハンドル、ガーミン用のコンピュータマウント、バーテープが付属するため、実質的なフレーム価格は40万円代前半に収まるといっても過言ではない。実はリーズナブルな価格設定であることも、ファクターの強みと言えるだろう。
次章のO2 VAMの紹介を挟み、Vol.3ではチーム右京相模原に所属する小石祐馬によるOSTRO VAMのインプレッションを紹介する。約半シーズンをレースで共に戦ったマシンと共に登場頂いた。
ファクター OSTRO VAM スペック
使用素材 | TeXtreme, Toray, Nippon Graphite Pitch-Based Fiber |
フレーム重量 | 780g(サイズ54 塗装込み) |
フレームサイズ | 49、52、54、56、58、61 |
ハンドルバーステムサイズ | ハンドルバー:380/400/420/440 ステム:90/100/110/120/130mm ドロップ:125mm、リーチ:80mm |
シートポスト | オフセット 0mm / 25mm |
BB規格 | T47a |
カラー | Flicker, Chrome, Soho Mix |
付属品 | CeramicSpeedヘッドセット&BB、専用GARMIN用コンピュータマウント、バーテープ |
最大タイヤ幅 | 32mm |
税抜価格 | 590,000円 |
提供:トライスポーツ、制作:シクロワイアード編集部