2021/08/02(月) - 16:15
グランツール常勝マシン、究極のオールラウンダー、ピナレロ DOGMA。その最新作としてツール・ド・フランスにてデビューした"DOGMA F"の性能、ストーリー、そして真価に迫るフィーチャーコンテンツをお届けしよう。
ピナレロ DOGMA。その歩みは近代ロードレースと共にあり、中でもグランツールには欠かせない存在だ。2012年のブラドレー・ウィギンスによるツール・ド・フランス制覇を皮切りに、ここ10年でDOGMAが掴んだ勝利は数えきれないほど。ウィギンス、フルーム、トーマス、ベルナル……、幾度も鞍上が変わろうとも、栄光に満ちた道を走り続けてきた実績は、DOGMAの卓越した性能を示すのに十分だろう。
そのシリーズ最新作として満を持して登場したのが"DOGMA F"。抜本的なデザイン変更を行いピナレロの新世代を象徴する1台となったDOGMA F8から、F10、F12と続いてきたナンバリングを廃止し、ただ"F"とのみ付けられたシンプルなネーミングがなされている。
「唯一無二のアイコンであり、数字や表面的な分類を超えた」とピナレロはDOGMAを定義づける。そこに付与される"F"の一文字は、「過去とのつながりを持ち、現在のシンボルであると同時に未来のアイデンティティを生み出す」ものだとピナレロは語る。
命名規則を更新するほど、このバイクにピナレロが託した想いは大きい。新世代のピュアオールラウンダーとして、ピナレロがDOGMA Fに込めたコンセプトはシンプルだ。
エアロロードとクライミングバイクを別々にラインアップするブランドが主流を占める中で、ピナレロがDOGMAのみをレーシングバイクの頂きに置き続けてきたのは、レースではありとあらゆる状況が存在するから。そして、レースに合わせて異なるバイクに乗り換えることは、ペダリングやハンドリングの感覚に違和感を与えることに繋がり、結果としてライダーのストレスになるからだ。
そう、グランツールで勝利を目指すバイクとして、DOGMAは常に完全無欠であることを求められてきた。空力特性、剛性、重量、快適性、そしてデザイン。それら全てを満たし、あらゆる局面で最適解であり続けるピュアオールラウンダーを象徴するのが、"The Art of Balance"というキーワードだ。
具体的な話をしよう。DOGMA Fは前作であるF12からシステム全体で265gの軽量化と12%のBB剛性強化、4.8%の空力特性向上を果たしている。何か一つのパラメータを伸ばすのではなく、バランスを保ちつつ全体的な性能改善を行ったことが、この数字からも窺える。
更に言えば、ディスクブレーキ仕様だけでなく、リムブレーキモデルを引き続きラインアップするのもDOGMAらしさだろう。イネオスの要望、そしてリムブレーキを愛するエンドユーザーの期待に応えるため。最新のスペックだけを追うのでなく、ユーザビリティも重視する。それもまたピナレロの持つバランス感覚だ。
先に挙げた要素のうち、最も他のものと両立しがたいのが重量だろう。それはピナレロ自身が最もよく理解している。性能バランスと安全性を担保できる数値として、DOGMA F8の時点で掲げられた開発指標重量は850g(53サイズ)。この目標はDOGMA Fにおいても変わらず、フレーム単体で見ればディスクモデルで865g、リムモデルで860gと軽量であるものの、最新のレースバイクとしては常識的な数値に収まっている。
それではどうやって265gもの軽量化に成功したのか。その秘密はライドフィールに与える影響の少ないパーツ類の徹底した軽量化にあった。例えば、ベルギーのマテリアライズ社とパートナーシップを組んで生まれた3Dチタンプリントによるシートクランプのヤグラは-35g。空力を意識して薄型になったシートポストは-27g、ヘッドセットで-25g、フロントフォークで-58g、スルーアクスルで-20g、そして前作と同じ剛性と強度を持つ"TALON ULTRAFAST"ハンドルバーが-40g。
これらの血のにじむような努力によって達成したのが、走行性能へ悪影響を及ぼさない-265gの減量だ。結果として、シマノデュラエースDi2とDTスイスのARC1400ホイールで組み上げたディスクブレーキの完成車で6.8kgとUCIルールの下限に、同じスペックのリムブレーキ仕様であればそれを下回る重量をマークする。
なお、F12とFのTALONハンドルをセットした場合の未塗装フレームキット(ディスクブレーキ版)の重量は、DOGMA F12 DISC(talon ultraハンドル)が2362g、DOGMA F DISC (talon ultra fastハンドル)で2095gだ。
高速化するレースシーンにおいてエアロダイナミクスは、勝利のために欠かせない要素だ。前作よりもシャープな印象を受けるフォルムへと洗練されたフレームワークは、そのイメージ通りの空力特性を発揮する。
より薄くなったフォークは軽量化と同時にエアロダイナミクスの向上を狙ったデザイン。当代きってのTTスペシャリスト、フィリッポ・ガンナの愛機でもあるBOLIDEで実証済みのブレード形状は、横風によって推進力を生み出すという。正面から見れば、ディスクキャリパーがほぼ見えないほど、左フォークレッグにはボリュームが与えられているのも大きな特徴だ。さらに、シートポストの薄型化とシートチューブ幅のスリム化によって、更なる空力向上を果たしている。
F12と比較すれば、フォーク単体ではリムブレーキフレームで-8%、ディスクブレーキでは-12%の抗力削減に成功しており、フレーム全体ではリムブレーキで3.2%の、ディスクブレーキでは4.8%もの空力特性向上を叶えているという。これは40km/h時に1.3W、50km/h時には2.6Wの出力を節約することと同義だ。この価値は、シリアスにトレーニングに取り組むサイクリストであれば実感できるはずだ。
一般的に、軽量化と空力向上によって、影響が出やすいのがライディングフィールだろう。しかしピナレロが掲げるThe Art of Balanceというコンセプトは、もちろんそれを良しとはしない。フレームに用いられるT1100 1Kナノアロイ、そして綿密に計算され尽くした左右非対称のThink Asymmetric設計を更に深化することで、より高い走行性能がDOGMA Fには与えられた。
シートチューブのスリム化によって、BB剛性が低下するというシミュレーション結果が出る一方、シートステーの取り付け角を調整することによってその損失を補填して余りある剛性向上を実現したという。結果として、12%の剛性向上を実現、よりレーシーな走りを実現している。
そして細やかな仕様についても手抜かりなく整えられているのがDOGMAらしさだ。ピナレロスピリットを映し出す11種類のフレームサイズ展開、整備性に優れたITAスレッド式BB、上下2ポジションから選択できるボトルケージ台座、固定力に優れたTwin Forceシートクランプなど、ストレスなくバイクと付き合っていける心配りが隅々まで行き届いている。
あらゆる要素を改善し、全てを一台でこなすピュアレーシングバイクとして王道を往く進化を遂げたDOGMA F。次のページでは、歴代DOGMAを知り尽くす二人のライダーによるインプレッションをお届けしよう。
過去・現在・未来 DOGMA Fが示すレーシングバイクの理想
ピナレロ DOGMA。その歩みは近代ロードレースと共にあり、中でもグランツールには欠かせない存在だ。2012年のブラドレー・ウィギンスによるツール・ド・フランス制覇を皮切りに、ここ10年でDOGMAが掴んだ勝利は数えきれないほど。ウィギンス、フルーム、トーマス、ベルナル……、幾度も鞍上が変わろうとも、栄光に満ちた道を走り続けてきた実績は、DOGMAの卓越した性能を示すのに十分だろう。
そのシリーズ最新作として満を持して登場したのが"DOGMA F"。抜本的なデザイン変更を行いピナレロの新世代を象徴する1台となったDOGMA F8から、F10、F12と続いてきたナンバリングを廃止し、ただ"F"とのみ付けられたシンプルなネーミングがなされている。
「唯一無二のアイコンであり、数字や表面的な分類を超えた」とピナレロはDOGMAを定義づける。そこに付与される"F"の一文字は、「過去とのつながりを持ち、現在のシンボルであると同時に未来のアイデンティティを生み出す」ものだとピナレロは語る。
命名規則を更新するほど、このバイクにピナレロが託した想いは大きい。新世代のピュアオールラウンダーとして、ピナレロがDOGMA Fに込めたコンセプトはシンプルだ。
"The Art of Balance".
エアロロードとクライミングバイクを別々にラインアップするブランドが主流を占める中で、ピナレロがDOGMAのみをレーシングバイクの頂きに置き続けてきたのは、レースではありとあらゆる状況が存在するから。そして、レースに合わせて異なるバイクに乗り換えることは、ペダリングやハンドリングの感覚に違和感を与えることに繋がり、結果としてライダーのストレスになるからだ。
そう、グランツールで勝利を目指すバイクとして、DOGMAは常に完全無欠であることを求められてきた。空力特性、剛性、重量、快適性、そしてデザイン。それら全てを満たし、あらゆる局面で最適解であり続けるピュアオールラウンダーを象徴するのが、"The Art of Balance"というキーワードだ。
具体的な話をしよう。DOGMA Fは前作であるF12からシステム全体で265gの軽量化と12%のBB剛性強化、4.8%の空力特性向上を果たしている。何か一つのパラメータを伸ばすのではなく、バランスを保ちつつ全体的な性能改善を行ったことが、この数字からも窺える。
更に言えば、ディスクブレーキ仕様だけでなく、リムブレーキモデルを引き続きラインアップするのもDOGMAらしさだろう。イネオスの要望、そしてリムブレーキを愛するエンドユーザーの期待に応えるため。最新のスペックだけを追うのでなく、ユーザビリティも重視する。それもまたピナレロの持つバランス感覚だ。
フレーム重量はそのままに、果たした265gの減量
先に挙げた要素のうち、最も他のものと両立しがたいのが重量だろう。それはピナレロ自身が最もよく理解している。性能バランスと安全性を担保できる数値として、DOGMA F8の時点で掲げられた開発指標重量は850g(53サイズ)。この目標はDOGMA Fにおいても変わらず、フレーム単体で見ればディスクモデルで865g、リムモデルで860gと軽量であるものの、最新のレースバイクとしては常識的な数値に収まっている。
それではどうやって265gもの軽量化に成功したのか。その秘密はライドフィールに与える影響の少ないパーツ類の徹底した軽量化にあった。例えば、ベルギーのマテリアライズ社とパートナーシップを組んで生まれた3Dチタンプリントによるシートクランプのヤグラは-35g。空力を意識して薄型になったシートポストは-27g、ヘッドセットで-25g、フロントフォークで-58g、スルーアクスルで-20g、そして前作と同じ剛性と強度を持つ"TALON ULTRAFAST"ハンドルバーが-40g。
これらの血のにじむような努力によって達成したのが、走行性能へ悪影響を及ぼさない-265gの減量だ。結果として、シマノデュラエースDi2とDTスイスのARC1400ホイールで組み上げたディスクブレーキの完成車で6.8kgとUCIルールの下限に、同じスペックのリムブレーキ仕様であればそれを下回る重量をマークする。
なお、F12とFのTALONハンドルをセットした場合の未塗装フレームキット(ディスクブレーキ版)の重量は、DOGMA F12 DISC(talon ultraハンドル)が2362g、DOGMA F DISC (talon ultra fastハンドル)で2095gだ。
BOLIDEのDNAを受け継ぐエアロダイナミクス
高速化するレースシーンにおいてエアロダイナミクスは、勝利のために欠かせない要素だ。前作よりもシャープな印象を受けるフォルムへと洗練されたフレームワークは、そのイメージ通りの空力特性を発揮する。
より薄くなったフォークは軽量化と同時にエアロダイナミクスの向上を狙ったデザイン。当代きってのTTスペシャリスト、フィリッポ・ガンナの愛機でもあるBOLIDEで実証済みのブレード形状は、横風によって推進力を生み出すという。正面から見れば、ディスクキャリパーがほぼ見えないほど、左フォークレッグにはボリュームが与えられているのも大きな特徴だ。さらに、シートポストの薄型化とシートチューブ幅のスリム化によって、更なる空力向上を果たしている。
F12と比較すれば、フォーク単体ではリムブレーキフレームで-8%、ディスクブレーキでは-12%の抗力削減に成功しており、フレーム全体ではリムブレーキで3.2%の、ディスクブレーキでは4.8%もの空力特性向上を叶えているという。これは40km/h時に1.3W、50km/h時には2.6Wの出力を節約することと同義だ。この価値は、シリアスにトレーニングに取り組むサイクリストであれば実感できるはずだ。
ライドフィール、そしてユーザビリティはそのままに
一般的に、軽量化と空力向上によって、影響が出やすいのがライディングフィールだろう。しかしピナレロが掲げるThe Art of Balanceというコンセプトは、もちろんそれを良しとはしない。フレームに用いられるT1100 1Kナノアロイ、そして綿密に計算され尽くした左右非対称のThink Asymmetric設計を更に深化することで、より高い走行性能がDOGMA Fには与えられた。
シートチューブのスリム化によって、BB剛性が低下するというシミュレーション結果が出る一方、シートステーの取り付け角を調整することによってその損失を補填して余りある剛性向上を実現したという。結果として、12%の剛性向上を実現、よりレーシーな走りを実現している。
そして細やかな仕様についても手抜かりなく整えられているのがDOGMAらしさだ。ピナレロスピリットを映し出す11種類のフレームサイズ展開、整備性に優れたITAスレッド式BB、上下2ポジションから選択できるボトルケージ台座、固定力に優れたTwin Forceシートクランプなど、ストレスなくバイクと付き合っていける心配りが隅々まで行き届いている。
あらゆる要素を改善し、全てを一台でこなすピュアレーシングバイクとして王道を往く進化を遂げたDOGMA F。次のページでは、歴代DOGMAを知り尽くす二人のライダーによるインプレッションをお届けしよう。
ピナレロ DOGMA F
素材 | Carbon Torayca T1100 1K Dream Carbon with Nanoalloy Technology |
フレーム | Asymmetric frame |
フォーク | Onda Fork Dogma F with ForkFlap |
ステアリングコラム径 | 1.5 upper and lower steerer |
ボトムブラケット規格 | Italian thread BB |
シートクランプ | Seatclamp Twin Force |
シートやぐら | 3D printed titanium |
リムブレーキ規格 | Direct mount rim brake |
最大タイヤサイズ | 622x28c |
サイズ | 430、465、500、515、530、540、550、560、575、595、620(CC) |
カラー | PLUTONIUM FLASH、ERUPTION RED、BLACK ON BLACK |
ディスクブレーキ仕様
ブレーキ規格 | Disc flat mount、最大160mm、リア-TA142 |
重量 | 865g ※サイズ530:塗装前 |
価格 | 935,000円(税込) |
リムブレーキ仕様
ブレーキ規格 | Direct mount rim brake |
重量 | 860g ※サイズ530:塗装前 |
価格 | 935,000円(税込) |
提供:ピナレロジャパン 制作:シクロワイアード編集部