2020/07/03(金) - 17:15
トレックの新型Émonda SLRと同時に登場したセカンドグレード「Émonda SL」にフォーカス。上位モデルと全く同じセミエアロフレーム形状によって優れた空力性能を獲得。コストパフォーマンスにも優れ、多くのユーザーにとって大本命となるであろうバリューモデルをインプレッションとともに紹介していく。
SLRと同形状、カーボングレードのみを変更したセカンドモデル「Émonda SL」 photo:Makoto.AYANO
2014年に初代Émondaが登場した際、ラインアップはSLR、SL、Sという3グレード展開だったことを覚えているだろうか。そこから2017年にSLRが刷新されると同時にSグレードは廃盤に。以来、Émondaのカーボンモデルにおけるボトムラインを担ってきたのが今回フィーチャーする「Émonda SL」だ。
2018年モデルでブレーキがダイレクトマウント化(リムモデル)するマイナーチェンジが加わったが、一貫して初代Émondaのフレーム形状を維持してきたSL。上位モデル譲りの軽快な走りを見せるオールラウンドな性能と優れたコストパフォーマンスによって、SLRに負けず劣らずの高い人気を獲得してきた1台である。
Émonda SLはOCLV 500カーボンを採用 photo:Makoto.AYANO
フレーム形状はSLRと全く同じ、優れたエアロダイナミクスを獲得している photo:Makoto.AYANO
シートステーの接合位置を下げない従来モデル同様のデザインを維持 photo:Makoto.AYANO
今回、Émondaのカーボンモデル全面刷新により、SLグレードが2014年の登場以来となる6年ぶりのフルモデルチェンジを果たした。やはり注目はエアロシェイプへと進化したフレーム形状だろう。SLRと見比べても全く同じフレーム形状であり、空力性能が発揮されるカムテールデザインを各所に取り入れることでエアロダイナミクスを強化している。
見た目にもすぐに分かるエアロ形状のダウンチューブが最たる例だが、翼断面形状の後端を切り落としたようなデザインを、前方から風が当たるフォークやシートチューブ、シートステーにも採用しており、空力性能の向上を狙う。一方で、重量や剛性、快適性のバランスを熟考した結果、昨今のエアロロードに標準的なコンパクトなリア三角、つまりドロップドシートステーの採用は見送り、従来モデルと同様の形状を維持している。
シートマストは従来モデルと同じラウンドタイプ photo:Makoto.AYANO
ブレードの後端が切り落とされたようなカムテール形状を纏ったフォーク photo:Makoto.AYANO
同じくシートマストも従来と同じラウンド形状を維持。バイクの快適性や軽量性とのバランスを考えると、現状ではエアロ形状にするよりもこのタイプの方がメリットが大きいとのこと。サドル高の微調整もしやすくユーザーの使い勝手にも優れた構造だ。タイヤクリアランスは最大28Cと、オンロードに最適化された設定となっている。
唯一SLRと異なるのがリアシフトケーブル用のホールの位置だ。SLRはケーブルがリアディレイラーへ最短で接続するようリアエンドの末端にホールが設けられたが、機械式シフトをメインに据えたSLは、ワイヤーの取り回しを考えチェーンステー側にホールが空けられている。
ケーブルはステム下部を沿い専用のコラムスペーサーに導かれフレームに内装される photo:Makoto.AYANO
SLは汎用的なハンドルバーとステムを搭載している photo:Makoto.AYANO
ハンドルを切るとそこには隠された「GO」の文字が photo:Makoto.AYANO
また、ディスクブレーキ専用フレームへ進化したことで、ケーブルルーティングもよりエアロなセミ内装方式へとアップデートされた。ケーブルがステム下部を沿って専用のコラムスペーサー内部へとアクセスする形となり、外部への露出を最小限とすることで空気抵抗の低減を実現している。コラムスペーサーは2ピースに分かれるパズル式のため、配線後もステムの高さは容易に調整可能。
新型Émonda SLRでは新開発されたOCLV 800カーボンが使用されたが、SLでは前作同様にOCLV 500カーボンを採用。トレック独自の超高密度圧縮&低空隙製法で作られるのがOCLVカーボンであり、数字が大きくなるほどグレードも高くなる。その中でも軽さと強度、剛性のバランスに優れたOCLV 500を用いることで、高いパフォーマンスを維持しつつより多くのユーザーが手に取りやすい価格帯を実現している。
シートチューブをまたぐように接続されたシートステー photo:Makoto.AYANO
中央がくびれたデザインのトップチューブ photo:Makoto.AYANO
ディスクブレーキはフラットマウント、リアのスルーアクスルはSLRと異なり工具不要のレバータイプだ photo:Makoto.AYANO
機械式変速に配慮し、リアシフトケーブル用のホール位置がSLRとは異なる photo:Makoto.AYANO
コックピットパーツに関してもステム一体型ハンドルを採用したSLRに対して、SLは汎用的なステム/ハンドルバーで組み上げられる。ボントレガーのステムは独自のマウントシステム「Blendr(ブレンダー)」に対応しており、サイクルコンピューターやライトをスマートに装着させることが可能だ。もちろん、好みのパーツでポジション調整もしやすく、ビギナーでも扱いやすい仕様と言えるだろう。
従来のÉmonda SLは幅広いユーザー向けのジオメトリーを採用したH2フィットだったが、今作からはH1.5フィットへと変更されたこともポイントだ。プロライダー向けのH1とH2のちょうど中間となるフィットスタイルで、H2よりもヘッドチューブ長が若干短くなり、よりアグレッシブなポジションが取りやすくなっている。
ワイドなシェル幅を確保するねじ切り式のBB「T47」規格を採用する photo:Makoto.AYANO
チェーンステーに内蔵できるDuoTrap Sセンサーにも対応している photo:Makoto.AYANO
ボントレガーの「Aeolus」ショートノーズサドルをアセンブル photo:Makoto.AYANO
BBはSLRと同じく「T47」規格を採用。スレッド式BBながらベアリングがシェル内側に配置された構造で、トレック伝統のBB90に近いワイドなシェル幅(85.5mm)を確保しつつ整備性を高めている。また、BB90ではシェル内径が37mmだったが、T47規格は文字通り内径47mmに広がっており、スラムのDUBスピンドルやローターなどの30mm径スピンドルともマッチするよう考えられている。
新型Émonda SLは4種類の完成車がラインアップ。シマノULTEGRA DI2と最新のAeolus Pro 37カーボンホイールを搭載した「SL 7」、シマノ機械式ULTEGRAとAeolus Elite 35カーボンホイールを搭載した「SL 6 Pro」の2つは、始めから高性能ホイールがアセンブルされたお買い得仕様だ。さらに、シマノULTEGRA完成車の「SL 6」、シマノ105完成車の「SL 5」というグレード順に展開される。
上位グレードであるÉmonda SLR同様に中村俊介(Route365)が椿ラインで乗り込んだ
初のフルモデルチェンジとなり、大幅に進化を果たしたÉmonda SL。SLRと同様のテクノロジーを余すところ無く詰め込みつつ、手の届きやすい価格を実現した注目度抜群のミドルグレードバイクを乗鞍王者・中村俊介がインプレッション。SLRと同様に箱根・椿ラインの大観山ヒルクライムでその真価を問う。
「一日中走るようなロングライドで、SLという選択肢は非常に魅力的」中村俊介(Route365)
良くも悪くもディスクロードっぽい嫌な硬さは全くなくて、とても乗りやすいバイクですね。ヒルクライムレースや峠でのTTといった速さやタイムを一番の目標にするのでなくて、快適に山岳を含むロングライドを楽しみたい、という人にとっては非常に良い選択肢だと思います。
忌憚のない感想を言わせてもらえれば、Émonda SLRとは別物です。様々なケイデンス、シッティングやダンシングと色々な乗り方を試してみましたが、SLRと同じライドフィールではありません。でも、それは決してネガティブな意味では無いです。
「SLRと比べると、『タメ感』があるのでトルクを掛けて踏む人にぴったり」中村俊介(Route365)
両者の違いを一言で表すと、レーシングバイクであるSLRに対して、より穏やかで扱いやすくなったのがÉmonda SLです。踏み込みに対して即座に「パンッ」と跳ね返ってくるのがSLRだとすれば、SLは若干タメてから反応するようなイメージですね。
少し低めのケイデンスでトルクを掛けながら踏んでいくのが好きな人であれば、SLRよりもSLのほうがマッチする可能性は高いでしょう。ヒルクライムレースやロードレースで上位を狙うなら、より軽量なOCLV 800フレームに各種カーボンパーツが装備されているSLRがいいと思いますが、一日中走るロングライドがメインであればSLという選択肢は非常に魅力的です。
しっかりと安定した下り性能で安心してダウンヒルが楽しめる、と中村は語った
価格的には上位グレードと下位グレード、という位置付けになってはいますが、人それぞれの自転車の楽しみ方やペダリングの癖といった好みによって、SLを選んだ方が幸せになれるという場合も十分あると思います。
フレームは十分なポテンシャルを持っているので、ライダーの好みに合わせたタイヤやホイール、そしてハンドルバーといったパーツを交換しながら長い間楽しめるモデルだと思います。特に、今回のテストバイクのように、軽量なカーボンホイールへと換装すれば、かなりハイレベルな走りを楽しむことが出来るはず。
「とても完成度の高いパッケージング。長い間付き合っていける一台」中村俊介(Route365)
初めてのロードバイクとして、もしくはディスクロードへの乗り換えを考えている人にとって、Émonda SLはとても完成度の高いパッケージだと思います。アルテグラ完成車で36万円と聞いた時には、正直驚きました(笑)
最近はドロップドシートステーを採用するバイクのほうが多いくらいですから、むしろトラディショナルなシルエットのÉmondaが際立ちますよね。正直、最新世代のオールラウンドディスクロードの中で、このルックスが気に入ったのであればそのまま決めちゃってもアリだと思います。性能的に後悔することは無いでしょうから。
次回4編目は、新型Émondaと同時開発された新しいAeolusホイールの詳細を解説していく。
6年ぶりのフルモデルチェンジとなったセカンドグレードÉmonda SL
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2014年に初代Émondaが登場した際、ラインアップはSLR、SL、Sという3グレード展開だったことを覚えているだろうか。そこから2017年にSLRが刷新されると同時にSグレードは廃盤に。以来、Émondaのカーボンモデルにおけるボトムラインを担ってきたのが今回フィーチャーする「Émonda SL」だ。
2018年モデルでブレーキがダイレクトマウント化(リムモデル)するマイナーチェンジが加わったが、一貫して初代Émondaのフレーム形状を維持してきたSL。上位モデル譲りの軽快な走りを見せるオールラウンドな性能と優れたコストパフォーマンスによって、SLRに負けず劣らずの高い人気を獲得してきた1台である。
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今回、Émondaのカーボンモデル全面刷新により、SLグレードが2014年の登場以来となる6年ぶりのフルモデルチェンジを果たした。やはり注目はエアロシェイプへと進化したフレーム形状だろう。SLRと見比べても全く同じフレーム形状であり、空力性能が発揮されるカムテールデザインを各所に取り入れることでエアロダイナミクスを強化している。
見た目にもすぐに分かるエアロ形状のダウンチューブが最たる例だが、翼断面形状の後端を切り落としたようなデザインを、前方から風が当たるフォークやシートチューブ、シートステーにも採用しており、空力性能の向上を狙う。一方で、重量や剛性、快適性のバランスを熟考した結果、昨今のエアロロードに標準的なコンパクトなリア三角、つまりドロップドシートステーの採用は見送り、従来モデルと同様の形状を維持している。
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唯一SLRと異なるのがリアシフトケーブル用のホールの位置だ。SLRはケーブルがリアディレイラーへ最短で接続するようリアエンドの末端にホールが設けられたが、機械式シフトをメインに据えたSLは、ワイヤーの取り回しを考えチェーンステー側にホールが空けられている。
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新型Émonda SLRでは新開発されたOCLV 800カーボンが使用されたが、SLでは前作同様にOCLV 500カーボンを採用。トレック独自の超高密度圧縮&低空隙製法で作られるのがOCLVカーボンであり、数字が大きくなるほどグレードも高くなる。その中でも軽さと強度、剛性のバランスに優れたOCLV 500を用いることで、高いパフォーマンスを維持しつつより多くのユーザーが手に取りやすい価格帯を実現している。
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コックピットパーツに関してもステム一体型ハンドルを採用したSLRに対して、SLは汎用的なステム/ハンドルバーで組み上げられる。ボントレガーのステムは独自のマウントシステム「Blendr(ブレンダー)」に対応しており、サイクルコンピューターやライトをスマートに装着させることが可能だ。もちろん、好みのパーツでポジション調整もしやすく、ビギナーでも扱いやすい仕様と言えるだろう。
従来のÉmonda SLは幅広いユーザー向けのジオメトリーを採用したH2フィットだったが、今作からはH1.5フィットへと変更されたこともポイントだ。プロライダー向けのH1とH2のちょうど中間となるフィットスタイルで、H2よりもヘッドチューブ長が若干短くなり、よりアグレッシブなポジションが取りやすくなっている。
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新型Émonda SLは4種類の完成車がラインアップ。シマノULTEGRA DI2と最新のAeolus Pro 37カーボンホイールを搭載した「SL 7」、シマノ機械式ULTEGRAとAeolus Elite 35カーボンホイールを搭載した「SL 6 Pro」の2つは、始めから高性能ホイールがアセンブルされたお買い得仕様だ。さらに、シマノULTEGRA完成車の「SL 6」、シマノ105完成車の「SL 5」というグレード順に展開される。
新型Émonda SLインプレッション
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初のフルモデルチェンジとなり、大幅に進化を果たしたÉmonda SL。SLRと同様のテクノロジーを余すところ無く詰め込みつつ、手の届きやすい価格を実現した注目度抜群のミドルグレードバイクを乗鞍王者・中村俊介がインプレッション。SLRと同様に箱根・椿ラインの大観山ヒルクライムでその真価を問う。
「SLRより扱いやすくオールラウンドな用途に向くミドルグレード」中村俊介(Route365)
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良くも悪くもディスクロードっぽい嫌な硬さは全くなくて、とても乗りやすいバイクですね。ヒルクライムレースや峠でのTTといった速さやタイムを一番の目標にするのでなくて、快適に山岳を含むロングライドを楽しみたい、という人にとっては非常に良い選択肢だと思います。
忌憚のない感想を言わせてもらえれば、Émonda SLRとは別物です。様々なケイデンス、シッティングやダンシングと色々な乗り方を試してみましたが、SLRと同じライドフィールではありません。でも、それは決してネガティブな意味では無いです。
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少し低めのケイデンスでトルクを掛けながら踏んでいくのが好きな人であれば、SLRよりもSLのほうがマッチする可能性は高いでしょう。ヒルクライムレースやロードレースで上位を狙うなら、より軽量なOCLV 800フレームに各種カーボンパーツが装備されているSLRがいいと思いますが、一日中走るロングライドがメインであればSLという選択肢は非常に魅力的です。
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初めてのロードバイクとして、もしくはディスクロードへの乗り換えを考えている人にとって、Émonda SLはとても完成度の高いパッケージだと思います。アルテグラ完成車で36万円と聞いた時には、正直驚きました(笑)
最近はドロップドシートステーを採用するバイクのほうが多いくらいですから、むしろトラディショナルなシルエットのÉmondaが際立ちますよね。正直、最新世代のオールラウンドディスクロードの中で、このルックスが気に入ったのであればそのまま決めちゃってもアリだと思います。性能的に後悔することは無いでしょうから。
次回4編目は、新型Émondaと同時開発された新しいAeolusホイールの詳細を解説していく。
提供:トレック・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部