2019/11/22(金) - 17:32
シマノが開発したグラベルアドベンチャー向け新コンポーネンツがSHIMANO GRXシリーズだ。ロードコンポよりチェーンラインを拡大し、チェーンスタビライザー機能を備えたリヤディレーラーを用意するなどグラベルバイクに最適化される。
変速方式はDI2あるいは機械式、シングルまたはダブルのフロントチェーンホイールから選択。ロードコンポならアルテグラ、シマノ105、TIAGRAに相当する3グレードを用意し、リアも11/10スピードから選べるラインナップ。そしてGRXホイールは700Cと650Bの2種の径を用意するなど、ライダーの目的や走り方によって組み合わせることでグラベルライドやツーリングなどマルチな楽しみ方に対応するコンポーネンツに仕上がる。製品詳細記事はこちら。
シマノGRX RX810シリーズ DI2 コンポーネント photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
新カテゴリーのスポーツバイクとして注目を集めるグラベルバイクのスタンダードとは、ディスクブレーキが前提で、ロードバイクをベースにしたジオメトリーをとりつつ40Cといった太いタイヤが履ける設計。高い走破性と反応性を両立しつつ、オン/オフ問わず走れるというマルチロードバイクは、普段使いにも便利な乗りやすさと汎用性の高さをもつ。さらにフレームにバッグ類を取り付けるバイクパッキングスタイルの楽しみも広がる。
日本でも今年ついにグラベルレースの世界的人気イベント「グラインデューロ」が開催された。 (c)grinduro
北米に発したグラベルライドのムーブメント。背景としては、近年クルマの多い舗装路を避けて、未舗装のオフロードやマイナーなルートを楽しく快適に走ろうという流れが生まれたことが挙げられる。アメリカ中西部では舗装路でも砂利が撒かれていることがあり、そういったところをロードバイクで走るには、まずタイヤを太くすることが走りやすさやパンクしないための解決策になった。
ときに砂利の深い林道を走ったグラインデューロジャパン photo:Makoto.AYANO
「太めのタイヤを使うためにクリアランスの大きなフレームが欲しい」「リムブレーキでは限界があるからディスクブレーキを選ぶ」。人々がオフロードを走る楽しみに気づくと同時に、そうした要望を満たすバイクやパーツが求められるようになった。ロードバイクのディスクブレーキ化のタイミングがその流れに拍車をかけた。
自然豊かな日本の林道を走る。身近なフィールドを探索しよう photo:Makoto.AYANO
舗装路のマイナールートもグラベルライドのメインフィールドだ
妙高・信越高原のグラインデューロジャパンのコースを走る photo:Makoto.AYANO
シマノがグラベルコンポーネンツ開発に着手するきっかけとなったのは、2014年にアメリカ・コロラドで行った市場リサーチ。当時ロードバイクに比べてシクロクロスバイクの売上が増える不思議な現象があったという。しかしCXレースが増えているワケではなかったが、実はグラベルライドが熱を帯びつつあったのだ。
グラインデューロジャパンを走ったバリー・ウィックス(KONA)とカール・デッカー(GIANT)もシマノGRXコンポをフルセットで使う photo:Makoto.AYANO
そこではロードバイクで行けなかったフィールドを走ることが面白いと感じる人々が増えていたのだ。走る環境が変わることでの面白さ、走ってみれば単純に面白く、どんどんとオフロードへと入って行きたくなる。そこで楽しんでいるのは、MTBにオリジンを持たないロードサイクリストたち。そんなグラベルライドが流行りだした現場で、シマノの開発者自身がバイクに乗ってライドを体感したという。
かつてMTBという乗り物が生まれたときがそうだったように、ロードバイクをカスタムして工夫する人々がそこには居た。そのライドはロードコンポでもできるが、不満もあった。もし専用のグラベルコンポがあったなら、もっと面白くできるだろう。ライドエクスペリエンスから生まれたそうした想いがGRXコンポとして結実したのだ。そして今やグラインデューロやダーティカンザなど、グラベルレースやイベントも人気急上昇。グラベルは一躍ホットなジャンルとなった。
アメリカで人気のグラベルレース「ダーティカンザ」
シマノのロード&MTBコンポーネンツのノウハウを掛け合わせ生み出された世界初、ブランド初のグラベルコンポーネンツ「SHIMANO GRX」は、ドロップハンドルでグラベルやアドベンチャーライドを楽しむために最適化されたデザインを持ち、オフロード走行での操作性や変速性能を突き詰めたものに。雨でもドライでも確実なブレーキングが可能なディスクブレーキを標準とし、シマノのロードタイプコンポーネンツでもフロントシングルが公式に使用可能に。
ロードコンポではULTEGRAに相当する「RX810」、シマノ105に相当する「RX600」、TIAGRAに相当する「RX400」という3つのグレードで展開され、RX810とRX600はリア11速で、RX400は10速。電動変速のDI2モデルもラインアップされる。フロントシングルの場合はMTB用のスプロケットを、フロントダブルの場合はロード用のスプロケットを合わせて使用するよう設計されている。
そしてGRXの名を冠したホイールセットも700Cと650Bの2サイズが登場、タイヤの太さと径をフィールドによって選べるグラベル専用ホイールだ。シマノのコンポらしく、すべての選択肢を揃えたGRXコンポ群。ここからは最高グレードのRX810、DI2コンポーネンツを中心に徹底的に紹介する。
三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI) アドバイザー 三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。エンデューロのENSシリーズにも参戦中。グラインデューロでは年代別優勝も飾る。シクロクロスではC1で優勝も多数。ロードバイクでのロングツーリングも頻繁に行い、各種スクールを開催、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど実走派のライダーに定評が高い。
シマノGRXを実際に組み付けていただき、話を伺った
GRXはシマノのMTBコンポーネンツとロードコンポーネンツの中間のような存在であり、両方のコンポーネンツの取り扱いに慣れていたので組付けには特に苦労しませんでした。「ロード寄りコンポ」と見れば、新しい機構はMTB用にもあるリアディレイラーのON/OFFクラッチ、油圧式のサブレバー、特徴的なDI2のレバー形状でしょうか。シマノのコンポとして、従来の製品特徴を引き継ぎながらオフロードやグラベルライドに進化したコンポと言えます。RX810 DI2はとくにグラベルでの使い勝手を追求したコンポーネンツです。ここからはパーツそれぞれの細部を見ていきましょう。
本企画用にシマノGRX RX810、DI2を組み付けたコルナゴPrestige GRV photo:Makoto.AYANO
シマノGRX STIレバー ST-RX815
独特の形状が特徴のDI2 STIレバーは、油圧機構を内蔵するが変速機構は不要となるので、その形状を比較的自由に設計しやすいのでしょう。このDI2レバーの方は握りやすい大きさ、形状を第一に設計されていることが伺えます。対してケーブル引きのST-RX810ブラケットはDI2より少し太めです。
外側に向けてオフセットしたレバー形状。マットな表面処理は滑り防止のため
ブラケット下部もフラットで握り締めやすいデザイン
先端部の突起が独特なブラケット形状だ
上部に突起のある形状で、オフロードの振動にも手がすっぽ抜けにくい。手に収まりやすく、レバーのブラケットを強く握らなくてもホールドできるので、グラベルでの安心感が高く、荒れた舗装路でも有効そうです。舗装路であってもひび割れたアスファルトや段差の多い街中、グレーチングだらけの林道を走る際にも安心で、これはマイナールートを走るロードバイクツーリングにおいても有効だと思いました。
レバー軸がロードレバーより18mm上部に設定されたことでブラケット上からブレーキがかけやすい
ブラケット上部にDI2の変速等に割り当てられるスイッチが備わる
ストレートドロップ形状のハンドルバーにもあう形状です。ブラケット上からの操作やドロップ部を持った際の指のかかりやレバーの近さを重視するなら、ロードバイクにおいても選択肢になると思います(11Sロードコンポとは互換性あり)。フードのラインテクスチャーは滑りにくさを考えているんでしょう。これからはロードバイクの方であっても、走るルートの嗜好や形状の好みによってこのレバーを勧めることがあると思います。シクロクロスにはもちろん良さそうです。
ハンドル上部を持った際にもブレーキ操作が可能なサブブレーキレバー BL-RX812
GRXの特徴的な製品です。従来にもケーブル式のサブレバーは各種ありましたが、油圧式では初めての製品。460mmといった幅の広いハンドルを使用するグラベルロードでは、ハンドル上部を積極的に持つことが多くなる。その際にもブレーキが操作できるのは安全で安心感があります。
シマノGRX サブブレーキレバー BL-RX812
荒れた路面を走る際にも、ハンドル上部を持つと腕に余裕ができ、それをサスペンション代わりにすることができるんです。ワンフィンガー用の短いレバーはコックピット上を握るにあたっても邪魔にならないコンパクトさ。短くても十分なブレーキ力を発揮させられるのは油圧ならでは。ケーブル引きでは引きが重くなるなど影響が出ますが、それが無いのもいいですね。
バンドの形状もコンパクトで、サイクルコンピューターを取り付けたりする際にもユーティリティ性をキープしているのが好感が持てます。MTBレバーのI-SPEC EVに通じる設計で、レバーの位置調整が可能で、かつ強度を保つ固定方法です。
ハンドル上部でのブレーキ操作が可能だ
このサブレバーをロードバイクに標準装備したいという方も多いようです。周りの景色を楽しみながらのんびり走るとき、上ハンドル部を持ちながら上体を起こして乗るポタリングにも良いでしょう。ドロップバー上部をクロスバイクのフラットバー的に使えるということで、これに変速のためのDI2サテライトスイッチを付ければすべての操作ができます。
オイルラインの出入り口はレバー下部に備わる
I-SPEC EVに似た取り付け構造で高剛性と省スペースを実現している
また、レバーは片方だけ使用することもできます。片レバーはシクロクロスではすでに使用されてきた方法で、ハンドル上部とトップチューブに手を添えながら降車姿勢に入り、シケイン(障害物)に突入、その体勢のままスピードコントロールができるという使い方。グラベルに最適化させた、自分好みのコックピットが完成させられるレバーです。ただし取り付け・外しはオイルホースも交換となります。
シマノGRX ブレーキ BR-RX810
グラベルバイクは太いタイヤ、重量のあるバイクですので、ブレーキの制動力の強さと安定感に大きく影響されます。リムブレーキの選択はありえず、GRXはディスクブレーキのみのラインアップ。これは正解です。どんなにタイヤが太くなっても制動力が変わらず発揮できるため不安なく使用できます。Vブレーキではスピードが出てくると制動力が弱すぎて止まらない。ディスクならそれがなくなる。グラベルロードはスピードが出るんです。
ULTEGRAとほぼ同形状のブレーキキャリパー
標準装備されるのは放熱フィン付きのレジンパッド
BR-RX810キャリパー本体はULTEGRAに似ているので、同等の性能でしょう。アイステクノロジーの放熱フィンつきパッドがセットされています。パッドの素材はレジンとメタルから選ぶことができます。コントロールしやすいのは標準装備のレジン。スピードを出してキビキビ走りたい場合はメタルパッドに、ゆったり目に走るならレジン、という風に選択するといいでしょう。
ローターはロード/MTB用から選んで使用する。高速ライドが想定されるなら放熱フィン付きがベスト
下側プレート台座の向きを変えることで140/160mmローターに対応させることができる
ディスクローターはGRXシリーズとしてラインアップされず、既存のロード/MTBモデルのものが使用できます。スピードが遅く平坦路中心なら140mmでもいいでしょうが、高低差のあるダイナミックなライドには160mmの放熱フィン付きがいいでしょう。140mmか160mmか、パッドの素材もあわせ、自分がどんなところを走るか、どんな走り方なのかに合わせて選べます。例えば160mmローターにメタルパッドの組み合わせは制動力が高い反面、緩い土面ならロックしやすくコントロールがシビアになるなど、強力にすれば良いというものでもありません。
ディスクロードでも天候問わずアグレッシブに走る人はパッドが減るのが意外に早いことに気づいていると思います。そのぶん効きが良いのがディスクのメリットですが、オフロードでも雨の中スピードを出して走るケースがある人などはパッドの減りの点検をマメに行うようにしてください。
リアディレイラー RD-RX815 シャドータイプで外への出っ張りが少ない
シャドータイプで外への出っ張りが少なく、バイクを倒したときに影響を受けない、岩などにヒットしにくいデザインです。オフロードを走るとチェーンが暴れて外れやすくなるけれど、クラッチによるスタビライザー機構を装備することで外れにくくなります。クラッチのON/OFFはケーブルなら引きの抵抗を左右するけれど、DI2の場合は関係がなくなるので常時ONでもいいでしょう。ホイール脱着の際にのみOFFにすれば作業はしやすい。
シマノGRX リアディレイラー RD-RX815
横への張り出し量が少ないシャドーデザイン
クラッチの操作によりチェーンのバタつきを抑えることができる
シマノGRX フロントディレイラー FD-RX815
ロードコンポーネントとほぼ同等のルックスのフロントディレイラーは、チェーンラインをロードモデルと比較して2.5mm外側へ移動させており、リアタイヤとの広いクリアランスを確保。700Cで42mm幅のワイドタイヤでも干渉しないよう設計されています。専用のチェーンラインを実現するためGRXのクランクと合わせて使用するよう作られています。
チェーンラインはロードモデルとは異なる
チェーンラインがロードモデルと比較して2.5mm外側になっているため太いタイヤも干渉しない
シマノGRX クランクセット FC-RX810
フロントダブルのFC-RX810-2(48/31T)は、ロードコンポーネント同様に4アームデザインを採用。クランクのアーム部とアウターチェーンリングが専用の組み合わせとなる形状。チェーンリング固定のアーレンキー固定ボルトは裏側から締める構造です。ギア歯数は48/31Tで、ロードスプロケットを組み合わせて使用。フロントシングルモデルは40Tまたは42Tで、スプロケットはMTB用を使用します。
フロントシングルとダブルの選択については「好みや用途に応じて」となりますが、フロントをダブルにしてワイドに、スプロケットで微調整するというのがオススメ。フロントシングルはシクロクロスなどの限られた状況で使うには良いと思いますが、ギア比がワイドにできてもギア間の「飛び」が気になります。走るスピードが遅いなら許せる部分もあるけれど、そのストレスはやはりあります。
4アームとアウターリングが専用の組み合わせ形状となるクランクセット
厚みのあるアウターギアは剛性の高さが伺える
急峻な地形が想定される日本のグラベルなら、登り勾配の激しい地形にも対応できるようフロントをダブルで、かつリアをなるべくクロスしたものにする。スプロケットは地形に合わせて交換して使い、欲しいギアが常に選べるようにすれば、よりダイナミックに遠くまで走ることができます。フロントシングルにするとリアスプロケットが大きくなりますが、FDが無いことで全体重量が軽くなり、「ダイナミックエンゲージメント+」採用のチェーンリングでチェーン脱落が無いというメリットはあります。
グラベルホイールとして同時デビューした シマノGRX WH-RX570
グラベルコンポーネントに合わせたローハイトのアルミホイール。シマノ105レベル相当のグレードで、リム内幅21.6mmとワイドなプロファイルを採用、幅40mm以上のワイドタイヤにも対応した設計です。リムハイトは22mmで、700Cと650Bの2種類のサイズ。いずれもチューブレスで、初期段階からチューブレスバルブがセットされます。泥が載りにくい山型&オフセットしたリム形状で、フロント100×12mm、リア142×12mmのスルーアクスル仕様。
「40Cのチューブレスタイヤも装着がしやすかった」(IRC BOKENを使用)
実測値でフロント:703g
実測値でリア:865g
実測値でフロント:703g、リア:865gと、セットで5万円程度のホイールとしては比較的軽く仕上がっています。リムはETRTOどおりの数値のためかチューブレスタイヤは嵌めやすかった。ハブのシール性能はシマノハブならではの高い防水性なので、苛酷な状況で使っても長持ちするでしょう。GRXのロゴ入りで精悍なデザイン。グラベルホイールのトレンドをすべて抑えたホイールです。
ハブはセンターロック方式。シール性能も高いことが伺える
泥の載りにくい山型&オフセット形状リム
バルブ部のスペーサー小物もリム形状に合わせたものがセットされる
初期状態でチューブレス対応リムテープが貼り付けられている
650Bサイズはより太めのタイヤでガレた道を走るのに有効で、太さのぶん外径が700Cに近づくため転がりも同様にできます。しかしフレームを選びます。内幅21.6mmのワイドリムはシクロクロスレースに使いたいといった場合はタイヤの数値表示以上に太くなってしまうため、タイヤの太さ規定がある公式レースではノギスで実測する必要があります。
変速方式はDI2あるいは機械式、シングルまたはダブルのフロントチェーンホイールから選択。ロードコンポならアルテグラ、シマノ105、TIAGRAに相当する3グレードを用意し、リアも11/10スピードから選べるラインナップ。そしてGRXホイールは700Cと650Bの2種の径を用意するなど、ライダーの目的や走り方によって組み合わせることでグラベルライドやツーリングなどマルチな楽しみ方に対応するコンポーネンツに仕上がる。製品詳細記事はこちら。

新カテゴリーのスポーツバイクとして注目を集めるグラベルバイクのスタンダードとは、ディスクブレーキが前提で、ロードバイクをベースにしたジオメトリーをとりつつ40Cといった太いタイヤが履ける設計。高い走破性と反応性を両立しつつ、オン/オフ問わず走れるというマルチロードバイクは、普段使いにも便利な乗りやすさと汎用性の高さをもつ。さらにフレームにバッグ類を取り付けるバイクパッキングスタイルの楽しみも広がる。

北米に発したグラベルライドのムーブメント。背景としては、近年クルマの多い舗装路を避けて、未舗装のオフロードやマイナーなルートを楽しく快適に走ろうという流れが生まれたことが挙げられる。アメリカ中西部では舗装路でも砂利が撒かれていることがあり、そういったところをロードバイクで走るには、まずタイヤを太くすることが走りやすさやパンクしないための解決策になった。

「太めのタイヤを使うためにクリアランスの大きなフレームが欲しい」「リムブレーキでは限界があるからディスクブレーキを選ぶ」。人々がオフロードを走る楽しみに気づくと同時に、そうした要望を満たすバイクやパーツが求められるようになった。ロードバイクのディスクブレーキ化のタイミングがその流れに拍車をかけた。



シマノがグラベルコンポーネンツ開発に着手するきっかけとなったのは、2014年にアメリカ・コロラドで行った市場リサーチ。当時ロードバイクに比べてシクロクロスバイクの売上が増える不思議な現象があったという。しかしCXレースが増えているワケではなかったが、実はグラベルライドが熱を帯びつつあったのだ。

そこではロードバイクで行けなかったフィールドを走ることが面白いと感じる人々が増えていたのだ。走る環境が変わることでの面白さ、走ってみれば単純に面白く、どんどんとオフロードへと入って行きたくなる。そこで楽しんでいるのは、MTBにオリジンを持たないロードサイクリストたち。そんなグラベルライドが流行りだした現場で、シマノの開発者自身がバイクに乗ってライドを体感したという。
かつてMTBという乗り物が生まれたときがそうだったように、ロードバイクをカスタムして工夫する人々がそこには居た。そのライドはロードコンポでもできるが、不満もあった。もし専用のグラベルコンポがあったなら、もっと面白くできるだろう。ライドエクスペリエンスから生まれたそうした想いがGRXコンポとして結実したのだ。そして今やグラインデューロやダーティカンザなど、グラベルレースやイベントも人気急上昇。グラベルは一躍ホットなジャンルとなった。
アメリカで人気のグラベルレース「ダーティカンザ」
シマノのロード&MTBコンポーネンツのノウハウを掛け合わせ生み出された世界初、ブランド初のグラベルコンポーネンツ「SHIMANO GRX」は、ドロップハンドルでグラベルやアドベンチャーライドを楽しむために最適化されたデザインを持ち、オフロード走行での操作性や変速性能を突き詰めたものに。雨でもドライでも確実なブレーキングが可能なディスクブレーキを標準とし、シマノのロードタイプコンポーネンツでもフロントシングルが公式に使用可能に。
ロードコンポではULTEGRAに相当する「RX810」、シマノ105に相当する「RX600」、TIAGRAに相当する「RX400」という3つのグレードで展開され、RX810とRX600はリア11速で、RX400は10速。電動変速のDI2モデルもラインアップされる。フロントシングルの場合はMTB用のスプロケットを、フロントダブルの場合はロード用のスプロケットを合わせて使用するよう設計されている。
そしてGRXの名を冠したホイールセットも700Cと650Bの2サイズが登場、タイヤの太さと径をフィールドによって選べるグラベル専用ホイールだ。シマノのコンポらしく、すべての選択肢を揃えたGRXコンポ群。ここからは最高グレードのRX810、DI2コンポーネンツを中心に徹底的に紹介する。
シマノGRX 「どのスペックを選ぶ?」
新グラベルコンポGRXをメカニックはこう見る「GRX RX810、DI2コンポを組みつけてみて」
ここからはRX810、DI2コンポーネンツ一式を実際にバイクに組み込んでグラベルバイクを仕立て、フィールドでインプレッションしていく。まずはメカニックが組みながら感じた率直な印象やハードウェアから読み取れる特徴を語ってもらおう。組付けを担当してくれたのはロード、MTB、シクロクロスの3つのジャンルに精通した三上和志さん(サイクルハウスミカミ)。
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。エンデューロのENSシリーズにも参戦中。グラインデューロでは年代別優勝も飾る。シクロクロスではC1で優勝も多数。ロードバイクでのロングツーリングも頻繁に行い、各種スクールを開催、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど実走派のライダーに定評が高い。

GRXはシマノのMTBコンポーネンツとロードコンポーネンツの中間のような存在であり、両方のコンポーネンツの取り扱いに慣れていたので組付けには特に苦労しませんでした。「ロード寄りコンポ」と見れば、新しい機構はMTB用にもあるリアディレイラーのON/OFFクラッチ、油圧式のサブレバー、特徴的なDI2のレバー形状でしょうか。シマノのコンポとして、従来の製品特徴を引き継ぎながらオフロードやグラベルライドに進化したコンポと言えます。RX810 DI2はとくにグラベルでの使い勝手を追求したコンポーネンツです。ここからはパーツそれぞれの細部を見ていきましょう。

STIレバー ST-RX815

独特の形状が特徴のDI2 STIレバーは、油圧機構を内蔵するが変速機構は不要となるので、その形状を比較的自由に設計しやすいのでしょう。このDI2レバーの方は握りやすい大きさ、形状を第一に設計されていることが伺えます。対してケーブル引きのST-RX810ブラケットはDI2より少し太めです。



上部に突起のある形状で、オフロードの振動にも手がすっぽ抜けにくい。手に収まりやすく、レバーのブラケットを強く握らなくてもホールドできるので、グラベルでの安心感が高く、荒れた舗装路でも有効そうです。舗装路であってもひび割れたアスファルトや段差の多い街中、グレーチングだらけの林道を走る際にも安心で、これはマイナールートを走るロードバイクツーリングにおいても有効だと思いました。


ストレートドロップ形状のハンドルバーにもあう形状です。ブラケット上からの操作やドロップ部を持った際の指のかかりやレバーの近さを重視するなら、ロードバイクにおいても選択肢になると思います(11Sロードコンポとは互換性あり)。フードのラインテクスチャーは滑りにくさを考えているんでしょう。これからはロードバイクの方であっても、走るルートの嗜好や形状の好みによってこのレバーを勧めることがあると思います。シクロクロスにはもちろん良さそうです。
サブブレーキレバー BL-RX812

GRXの特徴的な製品です。従来にもケーブル式のサブレバーは各種ありましたが、油圧式では初めての製品。460mmといった幅の広いハンドルを使用するグラベルロードでは、ハンドル上部を積極的に持つことが多くなる。その際にもブレーキが操作できるのは安全で安心感があります。

荒れた路面を走る際にも、ハンドル上部を持つと腕に余裕ができ、それをサスペンション代わりにすることができるんです。ワンフィンガー用の短いレバーはコックピット上を握るにあたっても邪魔にならないコンパクトさ。短くても十分なブレーキ力を発揮させられるのは油圧ならでは。ケーブル引きでは引きが重くなるなど影響が出ますが、それが無いのもいいですね。
バンドの形状もコンパクトで、サイクルコンピューターを取り付けたりする際にもユーティリティ性をキープしているのが好感が持てます。MTBレバーのI-SPEC EVに通じる設計で、レバーの位置調整が可能で、かつ強度を保つ固定方法です。

このサブレバーをロードバイクに標準装備したいという方も多いようです。周りの景色を楽しみながらのんびり走るとき、上ハンドル部を持ちながら上体を起こして乗るポタリングにも良いでしょう。ドロップバー上部をクロスバイクのフラットバー的に使えるということで、これに変速のためのDI2サテライトスイッチを付ければすべての操作ができます。


また、レバーは片方だけ使用することもできます。片レバーはシクロクロスではすでに使用されてきた方法で、ハンドル上部とトップチューブに手を添えながら降車姿勢に入り、シケイン(障害物)に突入、その体勢のままスピードコントロールができるという使い方。グラベルに最適化させた、自分好みのコックピットが完成させられるレバーです。ただし取り付け・外しはオイルホースも交換となります。
ブレーキ BR-RX810

グラベルバイクは太いタイヤ、重量のあるバイクですので、ブレーキの制動力の強さと安定感に大きく影響されます。リムブレーキの選択はありえず、GRXはディスクブレーキのみのラインアップ。これは正解です。どんなにタイヤが太くなっても制動力が変わらず発揮できるため不安なく使用できます。Vブレーキではスピードが出てくると制動力が弱すぎて止まらない。ディスクならそれがなくなる。グラベルロードはスピードが出るんです。


BR-RX810キャリパー本体はULTEGRAに似ているので、同等の性能でしょう。アイステクノロジーの放熱フィンつきパッドがセットされています。パッドの素材はレジンとメタルから選ぶことができます。コントロールしやすいのは標準装備のレジン。スピードを出してキビキビ走りたい場合はメタルパッドに、ゆったり目に走るならレジン、という風に選択するといいでしょう。


ディスクローターはGRXシリーズとしてラインアップされず、既存のロード/MTBモデルのものが使用できます。スピードが遅く平坦路中心なら140mmでもいいでしょうが、高低差のあるダイナミックなライドには160mmの放熱フィン付きがいいでしょう。140mmか160mmか、パッドの素材もあわせ、自分がどんなところを走るか、どんな走り方なのかに合わせて選べます。例えば160mmローターにメタルパッドの組み合わせは制動力が高い反面、緩い土面ならロックしやすくコントロールがシビアになるなど、強力にすれば良いというものでもありません。
ディスクロードでも天候問わずアグレッシブに走る人はパッドが減るのが意外に早いことに気づいていると思います。そのぶん効きが良いのがディスクのメリットですが、オフロードでも雨の中スピードを出して走るケースがある人などはパッドの減りの点検をマメに行うようにしてください。
リアディレイラー RD-RX815

シャドータイプで外への出っ張りが少なく、バイクを倒したときに影響を受けない、岩などにヒットしにくいデザインです。オフロードを走るとチェーンが暴れて外れやすくなるけれど、クラッチによるスタビライザー機構を装備することで外れにくくなります。クラッチのON/OFFはケーブルなら引きの抵抗を左右するけれど、DI2の場合は関係がなくなるので常時ONでもいいでしょう。ホイール脱着の際にのみOFFにすれば作業はしやすい。



フロントディレイラー FD-RX815

ロードコンポーネントとほぼ同等のルックスのフロントディレイラーは、チェーンラインをロードモデルと比較して2.5mm外側へ移動させており、リアタイヤとの広いクリアランスを確保。700Cで42mm幅のワイドタイヤでも干渉しないよう設計されています。専用のチェーンラインを実現するためGRXのクランクと合わせて使用するよう作られています。


クランクセット FC-RX810

フロントダブルのFC-RX810-2(48/31T)は、ロードコンポーネント同様に4アームデザインを採用。クランクのアーム部とアウターチェーンリングが専用の組み合わせとなる形状。チェーンリング固定のアーレンキー固定ボルトは裏側から締める構造です。ギア歯数は48/31Tで、ロードスプロケットを組み合わせて使用。フロントシングルモデルは40Tまたは42Tで、スプロケットはMTB用を使用します。
フロントシングルとダブルの選択については「好みや用途に応じて」となりますが、フロントをダブルにしてワイドに、スプロケットで微調整するというのがオススメ。フロントシングルはシクロクロスなどの限られた状況で使うには良いと思いますが、ギア比がワイドにできてもギア間の「飛び」が気になります。走るスピードが遅いなら許せる部分もあるけれど、そのストレスはやはりあります。


急峻な地形が想定される日本のグラベルなら、登り勾配の激しい地形にも対応できるようフロントをダブルで、かつリアをなるべくクロスしたものにする。スプロケットは地形に合わせて交換して使い、欲しいギアが常に選べるようにすれば、よりダイナミックに遠くまで走ることができます。フロントシングルにするとリアスプロケットが大きくなりますが、FDが無いことで全体重量が軽くなり、「ダイナミックエンゲージメント+」採用のチェーンリングでチェーン脱落が無いというメリットはあります。
グラベルホイール WH-RX570

グラベルコンポーネントに合わせたローハイトのアルミホイール。シマノ105レベル相当のグレードで、リム内幅21.6mmとワイドなプロファイルを採用、幅40mm以上のワイドタイヤにも対応した設計です。リムハイトは22mmで、700Cと650Bの2種類のサイズ。いずれもチューブレスで、初期段階からチューブレスバルブがセットされます。泥が載りにくい山型&オフセットしたリム形状で、フロント100×12mm、リア142×12mmのスルーアクスル仕様。



実測値でフロント:703g、リア:865gと、セットで5万円程度のホイールとしては比較的軽く仕上がっています。リムはETRTOどおりの数値のためかチューブレスタイヤは嵌めやすかった。ハブのシール性能はシマノハブならではの高い防水性なので、苛酷な状況で使っても長持ちするでしょう。GRXのロゴ入りで精悍なデザイン。グラベルホイールのトレンドをすべて抑えたホイールです。




650Bサイズはより太めのタイヤでガレた道を走るのに有効で、太さのぶん外径が700Cに近づくため転がりも同様にできます。しかしフレームを選びます。内幅21.6mmのワイドリムはシクロクロスレースに使いたいといった場合はタイヤの数値表示以上に太くなってしまうため、タイヤの太さ規定がある公式レースではノギスで実測する必要があります。
提供:シマノセールス 写真/文:綾野 真