2019/07/01(月) - 12:30
本章ではZero SLRに投入された、ウィリエールらしい意欲的なテクノロジーの数々を紹介していく。独自ブレンドによるHUS-MODカーボンや、液晶ポリマーが担う役割とは?ブランド初のディスクブレーキ専用モデルが持つ意味とは。
「開発目標はディスクブレーキとケーブルフル内装を実現した世界最軽量のバイクを生み出すこと。それでいて"よりダイレクト感のあるバイクを"というプロの要望に応えるよう過去最高の重量剛性比を目指した」とは、ウィリエール本社でのプレゼンテーション内で語られた言葉だ。
そのためにウィリエールはZero.7、Zero.6と2世代に渡り維持されてきたデザインと決別し、無駄を削ぎ落とした直線基調のフレーム形状に、ウィリエール独自のブレンドによる「HUS-MOD(ハスモッド)カーボン」と「液晶ポリマー(LCP/Liquid Crystal Polymer=リキッドクリスタルポリマー)」という2つの新素材を組み合わせた。前章で記した通り、今回のZero SLRに関してはこれら新素材の投入が白眉だ。
カーボンの詳細については企業秘密として語られなかったが、後にインタビューを行ったところ、HUS-MODは三菱レイヨン(65Tダイアリードカーボン)や東レを中心に日本企業3社の超高品質カーボンをブレンドしたものという。可能な限りレジンの含有量を抑え、かつ各方向への剛性を高める繊維メッシュを組み合わせることで軽量化と大幅な剛性強化を両立したことがポイントだ。
しかし、軽量化と剛性を追い求めるほど乗りづらさや耐衝撃性低下を招くのもまた事実。これに関してウィリエールはZero.7からカーボンレイヤーの間に挟み込むS.E.I.フィルム(Special Elastic Infiltrated/特殊弾性繊維)の採用によって対処してきたが、Zero SLRではスーパーエンジニアリング・プラスチック(非常に強度に優れ特定要素の性能に特化したプラスチック)の1種である「液晶ポリマー」に置き換えられた。
電子部品として急速に採用範囲を広げる液晶ポリマーは、高い弾性を持つことが最たる特徴。開発陣はフィルム状に織った液晶ポリマーをフレーム内部に効果的に配置することで路面からの衝撃を和らげ、かつ落車や輸送中の衝撃にも耐えられるよう工夫を凝らした。高耐熱性という特徴も持つため、例えばバイクが夏場の車内など高温状態に晒されても性能低下が起こらないという。更にフレームの成型に関してもZero.6で用いられたEPSプロセス製法から、Zero SLRではアドバンスドVaBM-EPSプロセス製法にアップデートされ、内部をより滑らかに仕上げる(写真参照)ことで軽量化と剛性アップに役立っているのだという。
開発者のインタビュー中で強調されたのは、企業向けの市販素材を使いつつ、各素材を効果的に組み合わせ110%の性能を発揮させるウィリエール独自のノウハウと、液晶ポリマーのような特殊素材を意欲的に採用する柔軟な姿勢。「同じ素材を使おうとも技術レベルの差で性能を引き出すことも、あるいは殺すこともできるのだから」と開発者の一人は胸を張る。
軽量化を追い求めてきたZeroシリーズだが、先述したようにZero SLRの主眼とされたのが重量剛性比の向上だ。フレーム重量に関して言えば780g(Mサイズ)と最軽量とは言えないが、フレーム剛性値は120Nm/°(Zero.7は99Nm/°、Zero.6は90Nm/°)にまで向上し、重量剛性比の値は153.9Nm/°/kgとZero.7に対して24%もの強化を達成。ここに軽量フォークや軽量ハンドルを組み合わせるため、トータルで見れば6.8kgの完成車を組み上げることは十分に現実的だ。
ブレーキホースをフル内蔵するフロントフォークの重量は340gと、同社のディスクブレーキフォークとしては最も軽く、現在マスプロ系ディスクブレーキロードとして最軽量を誇るトレックのEmonda SLR比でも僅か27g増(Emondaはブレーキホース外出し)。ブレーキング時のねじれに対応するべく左側レッグを大口径化しており、例えばコーナリング中のブレーキ操作に対してもアクスル軸が捻れないよう工夫が凝らされている。左右のチェーンステーが大胆な非対称形状となっている点も同様の理由によるものだ。
インターナルルーティングの肝であるステム一体式ハンドルバー「INTEGRATED ZERO」は、昨今のロードバイク界において数少ない軽さに特化した専用開発品。「伝統的な丸ハンドルと流行のエアロデザインの中間点」と言うミニマルなデザインを採用しつつ、重量は100x420サイズで330gに収められている。
ウィリエールは2016年時点でCento10 AIRで内装ハンドルを実装済みであり、例えばオイルラインを引き抜かずとも高さ調整可能な分割式スペーサーの採用は、そのノウハウが生かされた部分と言えよう。なおブレーキホースの通り道を確保するために上下ベアリングは1-1/4インチ化され、ホースはステアリングコラムの外側を通す(このため上下ベアリング共に特別品が必要)設計だ。
フレームセットにはINTEGRATED ZEROハンドルバーが標準装備(計5種類のサイズの中から選ぶことができる)されるが、他にもエアロハンドルのALABARDAや2ピース式のSTEMMAステム/BARRAハンドルを組み合わせることも可能。ただし社外品ハンドル/ステムは不適合で、徹底的な軽量化を図るべく電動コンポーネント専用という縛りもある。シートポストは重量増を防ぎつつ最大限空力性能にも配慮した断面形状を持ち、オフセットは0mmと15mmの2種類。負担の掛かりやすいシートポストクランプはリッチー製とアフターマーケット的にも心配ない。
ホイールの固定はフロント100mm/リア142mm幅+フラットマウントブレーキ対応というディスクブレーキロードのスタンダードだが、ユニークなのはマヴィックが開発したスピードリリースシステムを採用したこと。プロユースのフレームである(しかも総合争いに重要な山岳決戦用である)以上、なるべくホイール交換の時間を短縮する上では最良の策だった、とはプレゼンテーションで語られた言葉。過剰トルクを逃すラチェット機構も備えつつ、片側85gと軽量であることも採用の大きな理由となったそうだ。
Zero SLRのキーワードは、「フルインターナル化を果たした初のディスクブレーキ軽量バイク」。「もし外出しルーティングを採用していれば、もっと重量を抑えることはできただろう。それでもこれからのロードバイクにとってクリーンなルックスやディスクブレーキは必要不可欠。我々はそれら条件の中で最良解を導き出したんだ」と開発者は言う。
これまでのZeroシリーズが維持してきたデザインからの脱却や、コストを要する新素材の投入、あるいは電動コンポーネント縛り、自社ハンドル縛り、リムブレーキ版無しといった条件を付けてまで、愚直に軽量化を追い求めたのがZero SLRだ。ウィリエールにとって初となるディスクブレーキ専用ロードバイクの誕生は、次世代に向けての狼煙。ツール・ド・フランスの超級山岳を、Zero SLRに乗ったトタル・ディレクトエネルジーの選手たちが駆け上がるシーンまで、あと僅かだ。
次章では現地発表会のテストライドで試したZero SLRの走りをレポート。トタル・ディレクトエネルジーの山岳エースを担うリリアン・カルメジャーヌ(フランス)へのインタビューも紹介します。
軽さと剛性、そして快適性 独自のノウハウがフレームに宿る
「開発目標はディスクブレーキとケーブルフル内装を実現した世界最軽量のバイクを生み出すこと。それでいて"よりダイレクト感のあるバイクを"というプロの要望に応えるよう過去最高の重量剛性比を目指した」とは、ウィリエール本社でのプレゼンテーション内で語られた言葉だ。
そのためにウィリエールはZero.7、Zero.6と2世代に渡り維持されてきたデザインと決別し、無駄を削ぎ落とした直線基調のフレーム形状に、ウィリエール独自のブレンドによる「HUS-MOD(ハスモッド)カーボン」と「液晶ポリマー(LCP/Liquid Crystal Polymer=リキッドクリスタルポリマー)」という2つの新素材を組み合わせた。前章で記した通り、今回のZero SLRに関してはこれら新素材の投入が白眉だ。
カーボンの詳細については企業秘密として語られなかったが、後にインタビューを行ったところ、HUS-MODは三菱レイヨン(65Tダイアリードカーボン)や東レを中心に日本企業3社の超高品質カーボンをブレンドしたものという。可能な限りレジンの含有量を抑え、かつ各方向への剛性を高める繊維メッシュを組み合わせることで軽量化と大幅な剛性強化を両立したことがポイントだ。
しかし、軽量化と剛性を追い求めるほど乗りづらさや耐衝撃性低下を招くのもまた事実。これに関してウィリエールはZero.7からカーボンレイヤーの間に挟み込むS.E.I.フィルム(Special Elastic Infiltrated/特殊弾性繊維)の採用によって対処してきたが、Zero SLRではスーパーエンジニアリング・プラスチック(非常に強度に優れ特定要素の性能に特化したプラスチック)の1種である「液晶ポリマー」に置き換えられた。
電子部品として急速に採用範囲を広げる液晶ポリマーは、高い弾性を持つことが最たる特徴。開発陣はフィルム状に織った液晶ポリマーをフレーム内部に効果的に配置することで路面からの衝撃を和らげ、かつ落車や輸送中の衝撃にも耐えられるよう工夫を凝らした。高耐熱性という特徴も持つため、例えばバイクが夏場の車内など高温状態に晒されても性能低下が起こらないという。更にフレームの成型に関してもZero.6で用いられたEPSプロセス製法から、Zero SLRではアドバンスドVaBM-EPSプロセス製法にアップデートされ、内部をより滑らかに仕上げる(写真参照)ことで軽量化と剛性アップに役立っているのだという。
開発者のインタビュー中で強調されたのは、企業向けの市販素材を使いつつ、各素材を効果的に組み合わせ110%の性能を発揮させるウィリエール独自のノウハウと、液晶ポリマーのような特殊素材を意欲的に採用する柔軟な姿勢。「同じ素材を使おうとも技術レベルの差で性能を引き出すことも、あるいは殺すこともできるのだから」と開発者の一人は胸を張る。
軽量化を追い求めてきたZeroシリーズだが、先述したようにZero SLRの主眼とされたのが重量剛性比の向上だ。フレーム重量に関して言えば780g(Mサイズ)と最軽量とは言えないが、フレーム剛性値は120Nm/°(Zero.7は99Nm/°、Zero.6は90Nm/°)にまで向上し、重量剛性比の値は153.9Nm/°/kgとZero.7に対して24%もの強化を達成。ここに軽量フォークや軽量ハンドルを組み合わせるため、トータルで見れば6.8kgの完成車を組み上げることは十分に現実的だ。
ブレーキホースをフル内蔵するフロントフォークの重量は340gと、同社のディスクブレーキフォークとしては最も軽く、現在マスプロ系ディスクブレーキロードとして最軽量を誇るトレックのEmonda SLR比でも僅か27g増(Emondaはブレーキホース外出し)。ブレーキング時のねじれに対応するべく左側レッグを大口径化しており、例えばコーナリング中のブレーキ操作に対してもアクスル軸が捻れないよう工夫が凝らされている。左右のチェーンステーが大胆な非対称形状となっている点も同様の理由によるものだ。
軽さを追求した専用ハンドル、素早いホイール交換のためのスピードリリース
インターナルルーティングの肝であるステム一体式ハンドルバー「INTEGRATED ZERO」は、昨今のロードバイク界において数少ない軽さに特化した専用開発品。「伝統的な丸ハンドルと流行のエアロデザインの中間点」と言うミニマルなデザインを採用しつつ、重量は100x420サイズで330gに収められている。
ウィリエールは2016年時点でCento10 AIRで内装ハンドルを実装済みであり、例えばオイルラインを引き抜かずとも高さ調整可能な分割式スペーサーの採用は、そのノウハウが生かされた部分と言えよう。なおブレーキホースの通り道を確保するために上下ベアリングは1-1/4インチ化され、ホースはステアリングコラムの外側を通す(このため上下ベアリング共に特別品が必要)設計だ。
フレームセットにはINTEGRATED ZEROハンドルバーが標準装備(計5種類のサイズの中から選ぶことができる)されるが、他にもエアロハンドルのALABARDAや2ピース式のSTEMMAステム/BARRAハンドルを組み合わせることも可能。ただし社外品ハンドル/ステムは不適合で、徹底的な軽量化を図るべく電動コンポーネント専用という縛りもある。シートポストは重量増を防ぎつつ最大限空力性能にも配慮した断面形状を持ち、オフセットは0mmと15mmの2種類。負担の掛かりやすいシートポストクランプはリッチー製とアフターマーケット的にも心配ない。
ホイールの固定はフロント100mm/リア142mm幅+フラットマウントブレーキ対応というディスクブレーキロードのスタンダードだが、ユニークなのはマヴィックが開発したスピードリリースシステムを採用したこと。プロユースのフレームである(しかも総合争いに重要な山岳決戦用である)以上、なるべくホイール交換の時間を短縮する上では最良の策だった、とはプレゼンテーションで語られた言葉。過剰トルクを逃すラチェット機構も備えつつ、片側85gと軽量であることも採用の大きな理由となったそうだ。
Zero SLRのキーワードは、「フルインターナル化を果たした初のディスクブレーキ軽量バイク」。「もし外出しルーティングを採用していれば、もっと重量を抑えることはできただろう。それでもこれからのロードバイクにとってクリーンなルックスやディスクブレーキは必要不可欠。我々はそれら条件の中で最良解を導き出したんだ」と開発者は言う。
これまでのZeroシリーズが維持してきたデザインからの脱却や、コストを要する新素材の投入、あるいは電動コンポーネント縛り、自社ハンドル縛り、リムブレーキ版無しといった条件を付けてまで、愚直に軽量化を追い求めたのがZero SLRだ。ウィリエールにとって初となるディスクブレーキ専用ロードバイクの誕生は、次世代に向けての狼煙。ツール・ド・フランスの超級山岳を、Zero SLRに乗ったトタル・ディレクトエネルジーの選手たちが駆け上がるシーンまで、あと僅かだ。
次章では現地発表会のテストライドで試したZero SLRの走りをレポート。トタル・ディレクトエネルジーの山岳エースを担うリリアン・カルメジャーヌ(フランス)へのインタビューも紹介します。
提供:服部産業 text&photo:So.Isobe